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技術局ツアー

申し込んでない

 魔動車AI、もう名付けてしまったのでティアナと呼ぶことにするが、ティアナは無駄話をして俺にストレスを与える以外にも役に立つ機能があることがわかった。


『燃料は残り12%です、赤鉄の交換を提案します』


 これもう動かして持って帰れるかどうかブロンに聞いていたら横からそんなことを言い出したのだ。

今までわからなかった燃料に関する情報だ。

言われなきゃ近いうち燃料切れで立ち往生するところだった。


 ブロンに赤鉄の交換について相談したら金貨10枚はかかると言われた。

確か10本入れてるからな、結構かかる。

燃料補充が地球と比べてコストがやばい、100万相当だぞ。


 しかも今金貨10枚も使ったら俺の貯金はほとんどなくなる。

途方に暮れていたらブロンがタダで交換してやってもいいと言ってきた。

その代わりにこの魔動車を調べるのと、俺がブロンたちの仕事をなんか手伝うことを条件に出されてしまったが…


 車を直す技術なんか持ってないんだが、どうもアドバイザー的な立場で意見が欲しいらしい。

俺がティアナと会話する様を見て魔動車に詳しいと思われたようだ。

まあそれくらいで金貨払わなくて済むなら、とブロンの出した条件を承諾した。


 タックスさんに無断で魔動車を調べさせたら怒られる可能性はある、しかし、もうすでに喋るなどという機能を付けてしまっている事を考えると、どのみち謝らなければならないと思うので深く考えないことにした。

それにこのままじゃコムラードに帰ろうと思ってもきっと燃料不足で帰れない。


 話をまとめた後、俺はガレージ、正確にはここが「魔動技術局」という場所だったんだが、ともかくそこを出た。

今すぐはブロンを手伝えない、ティアナと喋ったりしていたせいで結構時間を使ってしまった。

ディーナたちも待ってるだろうし特にイルザはあんまり待たせると激怒しそうな気がする。


「あいつらどこ行ったんだよ…」


 時間をくったせいか、外に出ても誰も待っていなかった。

まわりを見渡してもそれらしい人物がいない。


 他の局が入っているのだろう学校の校舎みたいな建物の前に、一人若い人族の男がいたので、赤い髪と金髪のでかい女二人と少女二名を見なかったか尋ねてみると、この校舎内にある食堂で見かけたと教えてくれた。


 俺は男に礼を言って校舎内に入った。

あいつら俺をほっておいてティータイムかよ。

こっちは蒸し暑い中、得体のしれないAIに魔力吸われたりしてたのによお!


 校舎内はなんだか本当に学校みたいだった。

廊下があって、教室があるみたいに部屋が点々とある。


 そこでふと気づいたんだが食堂がどこだかわからない。

さっきの男に食堂の場所を聞くべきだった。

もしかして俺が迷子…いや、帰り道はわかる、よって迷子ではない。


 誰かにまた聞こうにも廊下に人は見当たらない。

だが問題ない、ちょうど今とある部屋のドアの前に立っている。

中から結構騒がしい声がするのでもしかしてここが食堂なのかも知れないぞ!


「失礼しまーす」


 とりあえずそんなことを言いながら引き戸をガラっと開けた。


「いてええええ!いてええよおお!」

「そんなに騒ぐな!そこまで酷い怪我じゃないわ!」

「先生!こっちの患者さんが手に負えません!」

「わかった!すぐに行くから!」


 おっと、なんだろう、少なくとも食事風景ではないな。

血まみれの人が何人かベッドの上で呻いている、どっちかというと地獄かな?


「あ、おい君!そんなところでぼーっとしてないでこっちの患者をちょっと見ててくれ!」


 え、俺かな?

白衣をきた人族の女がこっちに向かって声を上げている。


「早く!」

「あ、はい、すいません」


 怒られた、反射的に謝って部屋の中へ入る。

入ったのはいいけど俺は部外者やぞ。


「見ない顔ね、まあいいわ、今は人手が足りないから、とりあえずこの患者には止血した後クリギ草と通常のポーションを合わせたものを与えておいて!」

「あの、そう言われても」

「クリギ草は3番の棚!ポーションは1番!」


 少々キツイ感じのツリ目でショートの黒髪をした女医らしき人物は怒鳴るようにそう言うと別の患者を診るために違うベッドの方へ行ってしまった。

残された俺の前には、右足のふともも辺りからどくどくと血を流して呻いている冒険者風の男が一人。

何かに噛まれたのか…?等間隔にふとももに穴が開いていて、見てて痛々しい。


「早くなんとかしてくれ…」


 男は苦しそうに俺にそう告げる。

いや、そう言われてもな…草も知らんし、どれが3番の棚かもわからん。

というか俺の場合別にそんな薬を持ってくる必要はない。

まあなんであれ治しとけばとりあえず文句は言われないだろう。


「<ヒール>」


 足に回復魔法をかけてやった。

出血は止まって傷口もふさがっていく、


「あ、え?え?」

「他に痛い場所は?体調はどうですか?」

「ああ、もう大丈夫だ…問題ない」

「ではお大事に」


 これでさっきの女医さんに叱られることはないだろう。

しかし部外者がいてはまずい気がする、今のうちにそっと出て行ったほうがいいかな。

でも怪我人まだいるみたいだしなあ…


「ちょっとー!そこにある解毒薬こっちに持ってきてー!」


 また女医さんがこっちみて叫んだ、人使い荒すぎ。

それどこの薬だよ?近くの机には瓶が並んでるけどどれが解毒薬かわかんねえよ。


「何してんの!」

「はい、ただいま」


 たぶんこれ、と思って青い液体が入った瓶を持っていく。


「誰が耐火ポーション持って来いって言ったのよ!」


 はい違うー、まああてずっぽうだったからね仕方ないね。


「初級の知識でしょ!?アンタ何をここで学んでんの!」

「いやあの俺は」

「これ終わったらアンタは補習!」

「だから違うって」

「口答えするな!ああもう!とにかく薬は私が持ってくるから、ちょっとこの人が暴れないように抑えてて!」


 ガシっと手を掴まれて、ベッドの上の患者の胸板にそのまま押し付けられた。

患者はむさいおっさんで上半身裸なうえに胸毛がぼうぼうである。

汗がべっちょりしていて大層気持ち悪い。


「うおおおお!んんがああああ!」


 しかも両腕、両足をベッドに縛られているくせに物凄い力で暴れる。

なんだこいつは、気が触れてんのか?

目が真っ赤に血走っていてひたすら怖い。

なんかやばい系の状態異常かな。


「<キュア・オール>」


 ずっと胸毛を触っているのが嫌だったので魔法をかけた。

真っ赤だった目はすーっと色が引いて、茶色い瞳になった。

髪も茶色いしこれが元の色かな。

とりあえず暴れなくなって、落ち着いたので魔法は効いた様子だ。


「どいてっ!後は私がやる!」


 女医さんが戻ってきて俺を押しのけて患者の横に立つ。

手には緑の液体の入った瓶を持っている、これが解毒薬か。


「ええい、さっきまで口を開けて騒いでたのに今度は閉じてるし!アナタちょっとこの人の口をこじ開けて!」

「ま、待ってくれ先生!俺はもう正気だ!大丈夫だ!」

「ん、あれ、目は?ちゃんと見えてる?私が誰かわかる?」

「医局のサジェス先生だろ!魔物の幻覚はもう見えてねえ!」


 ああこのおっさんは魔物の幻覚が見えていたのか、それで暴れてたんだな。

んでこのきつい先生はサジェスというのか。


「何で治ってるの」

「先生が治したんじゃないのか?」

「私はこれからこの薬をアンタの口に流し込もうとしてたところよ」


 もうこの場から去った方がいいような気がしてきた。

このままいるとあれこれ追及されるのは目に見えてる。

俺は黙ってその場を静かに離れ「先生!こいつ凄いな!光魔法が使えるやつが医局にもいたんだな!」さっき足を治してやった男に捕まった。


「は?何でアンタ歩けるの?」

「こいつが治してくれた」


 サジェスの目がキッと俺を見据える。


「光魔法が使えるの?」

「あ、はい、少々…」

「二人を魔法で治したの?」

「治しました」

「ちょっと来て!!」


 言うやいなやサジェスは俺の腕を掴んで引っ張っていく。

着いた先にはこれまたベッドの上に横たわる幼女が一名。


「このドワーフ族の子が一番重症なの、どう、なんとかできる?」


 ドワーフ族ということはどうやら幼女に見えて幼女ではないかもしれない。

いや幼女かどうかはともかくとして顔は血の気が引いて真っ青、意識がないのか目は閉じている。

さらに右腕に包帯が巻かれていて血がかなり滲んでいる。


「腕を魔物に噛まれてそこから毒が入ったみたいなの、運ばれてくるまでに時間がたっててかなりまずい状態」

「じゃあ先に毒から治します<キュア・オール>」


 毒なら別に<キュアポイズン>でも良かったな、と魔法を使ってから思った。

<キュア・オール>が便利すぎて他のキュア系は存在意義がなくなっている。

まあこれはほわオン時代でもそうだった。

ゲームでも結局、<キュア・オール>覚えたら他どうでもいいってなってたからな。


「じゃ次に傷を治すので<ヒール>」


 ぴかぴかと光るこの一画は他から見たら派手かもしれないな。

案の定というかなんというか、女医のサジェス以外にも看護師っぽい人たちが数名こっちを見てるし…


「これで大丈夫かと思います」


 ベッドの上の幼女は、まだ意識はないものの顔色は良くなって、今は眠っているだけのようだ。

腕の包帯を外して一応確認してみると血はべっとりしていたが傷跡はなかった。


「いやおかしいでしょ」

「えぇ」

「無詠唱でしかも魔法二回だけって」

「おかしいですか?」

「おかしいわ、だからもう少し見させてもらうわ」


 その後、有無を言わさず怪我人を魔法で治療させられた。

大小さまざまな怪我をした人が計12人もいた。

全員特に問題はなく、完治させることができた。


 それから別の部屋に連れ込まれた、今は女医と二人きりである。


「医局の者じゃないわね?私は医療技術局のサジェス、アンタ誰よ」

「今聞くのそれ…最初に聞いて欲しかったが」

「この状況であの部屋に入ってくるのは怪我人か医療技術局の者だけよ」


 知らずに入った場所が悪かったようだ。

俺は名を名乗って勘違いで入ったことを説明した、あと食堂に行きたいのだ。


「食堂は逆よ、表から入ってきてアンタ左に進んだでしょ、食堂は右」


 全然見当違いの方向に来ていたとは…


「まあでも勘違いで来てくれたおかげで助かったわ」

「ここには光魔法使えるやつが一人もいないのか?」

「あの重症だったドワーフ族の子が光魔法を使えたのよ、他にもいるんだけど魔局のほうに出払ってるわ」 

「まきょく?」

「魔法技術局のこと、魔動技術局のほうはちなみに技術局って呼ばれるから」

  

 そうなのか、いやそんな豆知識はともかく。


「というかこの悲惨な事態は何事なんだ」

「…まあどうせすぐバレるから教えるけど、生物局が研究中の魔物が脱走して暴れたらしいの、だから怪我人は全員生物調査局のやつらよ」

「え、やばくない?」

「魔法技術局が鎮圧に向かったからなんとかなるでしょう、まったく、脱走をすぐ知らせればこんなに怪我人がでずに済んだのに…」


 サジェスはぶつぶつと何か文句を言っていた。

この惨状に結構頭に来てるみたいだ、刺激しないほうがいいかもしれない。


「魔物は今どこに?」

「たぶんどこか広い場所におびき出して、魔法で処分すると思うから…」


 広い場所?外かな。

部屋の窓からグラウンドらしき場所が見えたので、窓に近づいて外を眺めようとした。


 ドオオオオオオオオオオオオオオン!!


 グラウンドで物凄い火柱があがっていた。

この校舎を軽く超えて空高く炎の竜巻があがっていく。


「あれがもしかして戦闘中の場所か?かなり凄い魔法を使うんだな」

「かっ…」


 サジェスは信じられない物を見たように硬直していた。


「サジェス?」

「いつからここは一瞬で怪我を治す化け物や、あんな恐ろしい炎を操る化け物の巣窟になったのよ…」


 俺も化け物カテゴリなのはどうかと思うぞ。


 サジェスが固まってしまったので、俺は彼女をおいて窓からグラウンドに飛び出した。

まだ見つかってないディーナたちがあの爆炎が渦巻く地獄のような場所にいたらまずいと思ったのだ。


 炎が吹き上げる場所目指して走る。

道中、サジェスみたいに炎を見つめて固まった者たちが何人かいた、用はないのでほおっておく。


 目的地の付近まで近づくと、あの炎を操っているのが誰かわかった。


「わははは!どうだ!これが<フレイム・フィールド>だ!私が使ってこそ、この威力になるけどな!」


 イルザだった、何をしてるんだあいつ。

というか元気いっぱいに魔法の解説をしてる所を見ると自分で出した炎はさすがに熱くないんだな。


 イルザから少し離れた場所に白衣を着たり、魔法使いっぽいローブを着た者たちがいて「すごい!」「魔物が跡形もないぞ!」「ルイ殿!どうか他の魔法も見せてください!」などとイルザをもてはやしている。


 イルザもそれにご満悦なのか次々と違う魔法を繰り出しては拍手喝采を受け、ふんぞり返っている。


「ヴォルるん!どこにいたの!」


 後ろから声をかけられて振り返るとディーナがいた、アイラとロリエも一緒だ。


「いやちょっと色々あって…皆を探しに食堂に行くところだったんだが」

「入れ違いになっていたのか、まあよいそれより早くここを立ち去るのじゃ!」

「イルザはどうすんの?なんかやってるけど」

「あれはイルザ様があえて人目を引いておるのじゃ、だから今のうちに我々はここを出るのじゃ」


 置いてっていいのか、後で怒られないだろうか。

よく分からんがロリエが、はようはようと急かすので、俺は三人と共にブロウのとこまで戻って、魔動車に乗り込んだ。


『ハイ!ヴォルガー!お出かけですか?』

「ひゃっ!?だ、誰です!?」


 助手席でアイラが超ビックリしてた、うんまあ驚くよね。

これも説明せねばならんなあ。


「ええと…まあこれも後で言うわ、ティアナ、ここを出るぞ、魔動車に何か問題はあるか」

『ノープロブレム、燃料は交換済み、残量100%です』

「よしじゃあ行こう」


 俺たちは魔動車を発進させて、技術局を出た、イルザは置いて。

去り際にブロンに「明日来てくれるな?」と言われたので思わず「いいとも」と返事をしつつな。

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