ヴォルガーですが車内の空気が最悪です
国変わったから章変えとこう!
「えー…孤児院で暮らす男の子がある時、お金持ちの商人から靴を貰った。だけどその男の子は喜ばなかった、なぜだと思う?」
俺の問いかけに対し、ディーナはうーんと数秒考えた後
「欲しい靴じゃなかったから!」
そう答えた、至って普通の答えだ。
「違いますね、きっとその男の子は足が無かったんです、だから靴なんて貰っても意味がないので喜べなかったんですよ」
そしてこちらがアイラの答え、聞かなかったことにしたい答えだ。
「こわっ、何で足が無いの!?」
「さあ、そこまでは考えてませんよ、魔物に食べられたりしたんじゃないですか」
「…あのさあ、もうやめない?心理テスト」
「えー!もうちょっとやろうよー!だって他にすることないじゃない」
「そうですよ、早く次の問題を出してください」
調子こいてこんなに心理テストなんかやるんじゃなかった…
俺は薄暗いトラックの荷台の中で、<ライトボール>の明かりが照らすディーナとアイラの顔を見ながらこれまでの経緯を思い出していた。
………
三日前、俺たちはお隣の国オーキッドにあるフェールの街へとたどり着いた。
ロリエの話じゃお迎えが来るということだったので、俺はフェールへと入る門の前に並んでいた兵士っぽい人たちがてっきりそのお迎え係だと思っていた。
が、実際は180度違った。
わけの分からんうちに俺たちはその兵士に捕らえられ、即座に牢屋にぶち込まれた。
逃げようと思えば逃げることは可能だった。
ただ…その場合、攻撃手段のない俺はアイラ頼みで兵士を追い払ってもらうことになる。
ディーナは気絶していたので役に立つ見込みはゼロだった。
しかしアイラに任せてはいけないと本能的に思った。
アイラは初手でいきなり全力<イロウション>で殺す気まんまんの攻撃をしていたので。
アイラに人殺しをさせるわけにはいかない、だってまだ子供だぞ。
いやまあ大人でもどうかとは思うが。
兵士たちは俺たちのことを「捕まえる」と言っていたので俺はとりあえずアイラを抑えて大人しく捕まることを選んだ。
抵抗しなければ暴力を使って俺たちをどうこうしようとは思わないだろうと判断したのだ。
まあもっともそれでも殺す気で相手が来ていたらその時は全力で抵抗したが。
アイラが万が一、死人を出していたら相手も本気になって、何をしてくるかわからなかった可能性はある。
見知らぬ土地で味方が他にいない中、できればそれは避けたかった。
そして兵士たちに連行されて街に入り、大きくて頑丈そうな石造りの建物に入ると地下にあった牢屋に俺とアイラ、ついでに気絶していたディーナも放り込まれた。
道中、俺が抵抗しないことにプリプリ腹を立ててアイラがこっちを睨んできたが「ディーナが気絶して運ばれてるんだからちょっと様子を見てここは我慢してくださいお願いします」となんとか説得した。
俺を連行していた兵士から「そうだ、頑張れ!頑張って説得しろ!」と小声で応援された。
うるせえばかやろうお前らのせいだろうが、と思った。
牢屋の中でディーナがビクッと痙攣して気絶から目覚めた頃、俺たちを訪ねてイルザ教の神官がやってきた。
それはロリエではなく、人族の男だった。
そいつはクリザリッドと名乗ると、俺たちにいくつか質問してきた。
何の目的でここまで来たのか、なぜロリエだけが一緒の魔動車に乗っていたのか。
なんで今更そんな質問を?はあ?と思いつつも、これまでの経緯をちゃんと答えてやった。
ロリエに言われたからこうして来てる、ロリエの連れはコムラードで治療中なのが二人とそれの面倒を見るようにとロリエが命じて残して来たのが二人、だからロリエ一人だけ一緒に来たのだと、まあ大体そんな感じのことを言った。
クリザリッドは黙って俺の話を聞いた後、最後に「貴方とそっちの少女は魔族ですか?」と尋ねてきた。
そう言えば兵士たちも魔族を捕らえたとか言っていた。
まったく心当たりがなかった。
魔族について良く知らないのに魔族ですかと聞かれても意味不明すぎる。
当然「人…人族に決まってるだろ、何がどうなってそんなよく分からん種族に俺たちは決めつけられたんだ」と聞き返すと、クリザリッドはじっとこちらを見た後「また後で来ます」と牢屋を去って行った。
俺とグリザリッドのやり取りを聞いていた、ディーナとアイラもまるで理解できてなかった。
「魔族ってなに?」とかディーナに聞かれた、知らんとしか言えなかった。
アイラも「何か勘違いで捕らえられたみたいですね」と怒りをようやく少し収めてくれた。
それからディーナが「勘違いで捕まるのはこれで二度目ね…」と、お前逮捕歴があんのかよ!と驚かされる爆弾発言をしたので、その前科について聞くと、ザミールでマーくんが何かやらかしたおかげで、宿屋で寝てたところを叩き起こされて巻き添えで捕まえられたことを話してくれた。
…今回もどうも俺とアイラが原因っぽいのでディーナはまた巻き込まれて捕まっただけかもしれない。
可哀想なやつ、だが今回も巻き添えだよとは伝えなかった。
「きっと勘違いだからまたすぐ出してくれるよ、うん、元気だせ?」とか言って適当に励ましておいた。
ディーナはしばらく虚ろな目をしながら半笑いで鋼鉄製の檻の中から通路を眺めていたが、何かに気づいて「ロリエ様!ここから出して!私は…あ、私たち何も悪い事してないよ!」と叫び出したのでロリエが来たことに気づいた。
さりげなくディーナが自分だけ無罪を主張しようとしたことにも気づいた、言い直したので許す。
ロリエはグリザリッドと共にやってきた。
俺たちに申し訳なさそうに「すまんのじゃ…」と謝ると今がどういう事態なのか説明してくれた。
それで大体事情がわかった。
簡潔にいって俺とアイラは魔族とかいう危ないやつかもしれないので、ロリエを傍には置いておけない、他の者が俺たちをオーキッドの神殿まで連れて行く、そういうことらしい。
どの道オーキッドまでは行く予定だったのでまあいいか、と思った。
それより気になったのは俺たちが乗ってきた魔動車の扱いだ。
俺たちは別の魔動車で運ばれることになると聞かされた。
そうなるとタックスさんの魔動車がここに置き去りになる、それは困る。
つうか荷物も返して欲しい、あれには通信クリスタルとか入ってるので没収されると非常に不味い。
魔動車と荷物に関して俺がごねると、それはロリエが責任を持って一緒に持っていくと約束してくれた。
運転するのは兵士の一人らしい、ロリエはアクセルペダルに足が届かないので…
俺たちはロリエを信じて魔動車と荷物を預けることにした。
というか他にいい方法も無かったともいう。
約束守らなかったら俺よりもアイラがめちゃ怒るぞ、と念を押しておいた。
ロリエは「絶対何があってもちゃんと運ぶのじゃ!」と涙目になって約束した。
アイラから「脅しに私を使わないでくれますか?」と言われたが実際そうなったら確実に怒るだろう君。
その後、俺たちは予定通り牢屋を出されオーキッドの技術局とやらが保有する魔動車に乗せられた。
まあ乗せられたっていうか…果たしてこれは車に乗っていると言っていいのかわからないが…
輸送型魔動車、と言われて見せられたのはトラックだった。
あの、運送業者が荷物運ぶような、後ろがコンテナになってるやつ。
日本でよく見るやつよりは若干小さめかな。
そのコンテナの中に入れられて外から鍵をかけられた。
俺たちはさながら引っ越しの荷物か、はたまたネットショッピングで注文された商品のような扱いだ。
人扱いしてくれ。
扉を閉められたら中はほとんど光の入ってこない暗闇になった。
これ、明らかに人用ではないよね?こんな暗闇に長時間閉じ込められるとか気が狂うよね。
ここにきてまた俺の監禁レベルが上がってない?
空に浮かぶ島、森の洋館、牢屋ときてトラックの荷台、次に監禁されることがあったら一体どんなところになるのか想像がつかない、いやもう監禁自体お断りなんだが。
暗闇は俺の<ライトボール>でとりあえず解消された。
魔法は普通に使えるようだな、と思っていたんだがアイラは「え、この中魔力を封じていませんか?」としきりに俺が魔法を使えることを疑問に思っていた。
封じられていなければ怒りにまかせてコンテナを魔法でぶち破るつもりだったらしい。
気持ちはわかる。
俺たちが乗ると魔動車はすぐ動きだした。
まさかこれ目的地に着くまでこのままか?腹へったりトイレ行きたくなったら地獄になるんだがと不安もあったが、それはそれでちゃんと考慮してくれていたようで、途中止まる度に外に出され、休憩させてくれた。
一人ずつではあったけど…たぶん俺たちを一斉に外に出したら逃げるかもと警戒してのことだろう。
あと必ずどこかよくわからない何もない道沿いやら森の近くで休憩だったのも現在地を把握させないためだなと推測できた。
まあ適度に休憩がとれて食事も普通に貰え、コンテナの中は息苦しさも感じず、それどころか暑くも寒くもないしなんか魔法で調整されてんのかな?と思うほどに快適ではあったので、移動開始二日目でその状況に慣れた。
ディーナなんか俺が<ライトボール>消すとすぐに寝るほど適応していた。
慣れると緊張感がなくなるわけで、そうなると必然的に暇だな、と思うようになる。
俺は<ライトボール>の他、何ができるんだろうといろいろ意味なく魔法をつかってみたが一通りなんでも使えた。
なので逃げようと思えばいつでも逃げられるわ、と二人に教えたところディーナはもう完全にリラックス状態になって食事のときにくすねた干し肉を横になってごろごろしながらかじるというだらけぶりを発揮していた。
アイラは自分が魔法を使えないことが悔しかったのか、うんうん唸って瞑想したりしていたが、効果はなかった。
トラックの荷台ではアイラの魔法は完全に封じられるようだ。
魔封じのトラックの荷台、というフレーズがなんとなくツボに入って俺は「はっはは!」と声を上げて笑ってしまった。
それを必死に魔法を使おうとしてあれこれもがいていたアイラが、自分の行動を馬鹿にされたと勘違いしてすさまじく不機嫌になった。
アイラのことを笑ったんじゃないと何度説明しても滅茶苦茶機嫌が悪かった。
頭をなでれば機嫌がよくなるのではないか、と思って手を出したら噛みつかれた。
痛くはなかったが…その日はもうアイラをそっとしておくことにした。
そして移動開始してから三日目。
寝て起きてまだ若干機嫌が悪いアイラを何とかしようと思って、俺は心理テストを暇つぶしに始めた。
ディーナにまず心理テストって何か聞かれたので、俺が心理テストの概要を教えてやった。
「貴方は無人島…あー無人島っていうのは他に誰もいない海に浮かぶ島のことで、ともかくそこにディーナはいて、大きな木の実がなってる木を一本見つけた。その木の下には実が落ちていたんだけど、いくつ落ちていたと思う?」
といった感じでディーナに心理テストをやらせてみた。
ディーナは「たくさん落ちてたわ!私の日頃の行いがいいから!」と答えた。
俺がそれは「過去の恋愛経験の数を表す」と言うと「良く見たらそんなにはなかったわ」と言い直した。
アイラはこっちを無視しているように見せかけ俺たちのやり取りを聞くと「ふっ」と鼻で笑っていた。
続けていくつか簡単な心理テストをしていると
「貴方がパンを買おうとしていたら急に横取りされた、さて取ったのは何歳くらいの相手だと思う?」
「んー10歳くらいじゃない?子供ってそういういたずらをするし」
「子供がやるとは限りませんよ、私は20代半ばくらいの大人がやったと思いますね、大人でも平気でそういうことをする者はいます」
アイラが会話に乗ってきた、ふふふ、やはり気になって全部聞いていたようだな。
これを機に機嫌を治してもらいたい。
密かにそう画策して心理テストを始めた俺は、パンの話の意味を二人に教えてやった。
「今のは自分の精神年齢、外見ではない心の年齢かな、それを表しているんだ」
「………アイラちゃん心は老けてるんだ」
「………そっちこそ中身は子供のようですが?まあわかってましたけども」
多少二人がギスってる感じがしないこともないが、まあまあとなだめて俺は心理テストを続けた。
それでアイラが会話に参加してくれたと調子に乗ってあれこれやってたんだが…
………
「えー…っと…じゃあ、ある兄弟の母親の葬儀に、すごく魅力的な女性が参加していた。それを見た兄弟は二人とも一目で彼女を好きになってしまった。数日後、その兄弟の弟が兄を殺してしまった。何のためにそんなことをしたと思う?」
「え、ええ…うーん…お兄さんに好きな人を取られると思ったから?」
心理テストを初めて数時間、まだ俺は問題を出していた。
そろそろネタがない。
「いいえ、弟はこう思ったんです、兄を殺してまた葬儀をすれば再び彼女に会えるに違いない」
「こわっ、なんかさっきからアイラちゃんの答え怖くない!?もうー次に行こ!」
今やっているテストは何問かまとめて答えてもらった後に判断すると事前に言ってある。
仕方なく俺は次の問題を出した。
「貴方は山奥にいる、目の前に休憩できそうな場所を見つけたが、その後ろをざっと何かが過ぎ去った。それは一体何だと思う?」
二人の答えがこちら。
「葉っぱじゃない?それか鳥かなあ」
「…きっと休憩する旅人を狙った野盗ですね、もしくは魔物」
次。
「貴方は友人からお金を借りた、だが貴方はいつまでたってもお金を返さない、なぜだと思う?」
「え、お金がないからでしょ?あったら返すわよ」
「そもそも借りてないかもしれません、私がそんな失礼なことをするはずありませんので、相手の言いがかりでしょう」
………おおもう、質問をやめたら答えを言わなくてはいけないのか。
「あ、貴方は魔動車を運転していて、旅人に出会った。家まで乗せて行って欲しいと言われたので乗せたのだがその旅人はとても無礼で不愉快な人物だった。貴方はその旅人を懲らしめてやりたくなったが何もせず、家まで送り届けてその場を去った、何もしなかったのはなぜだと思う」
「我慢したとか…もう関わりたくなかったんだと思うわ」
ディーナの答えは正直どうでもよかった。
たぶんそう言うだろうなと予想される答えを確実に言うからだ。
「一旦家まで送り届ければ、家の場所が分かるじゃないですか?」
アイラの答えが…ちょっと…
「なんで!?家の場所を知ってどうするの!?」
「それはまあ…場所さえわかれば色々とやりようがありますし…」
「色々!?こわっ!」
怖いな、その発想にたどり着くところが。
そしてもう次の問題が思い浮かばない。
どうしよう…何で俺はこんなテストを選んだんだ…
もう他のはやりつくしたからだった。
「ヴォルるん、次は?今ので最後?」
「あ、えーと…次は…」
「いやもう十分ですよ、そろそろこの質問の意味が何だったのか教えてください」
俺は意を決して、今のはまあ大した意味はなくてーえーと、あれっ、ど忘れしちゃった!いやーなんだったかなー、いつか思い出したら言うわーとか言ってごまかそうと決意した。
ギイイイイ。
俺の決意とは関係なく、コンテナの扉が開いた。
「オーキッドの神殿に着いたぞ、降りろ」
兵士に言われていつの間にか魔動車が停止していたことにようやく気付いた。
「あ、なんだぁ着いちゃったのね」
「そうみたいですね、ならば行きましょうか」
「あ、ああさっさと出よう、いつまでもこんなところにいては不健康だからな」
オーキッドに入って旅をすること三日間。
一般人二名と、サイコパス一名を乗せたトラックはようやく目的地に着いたのだった。