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魔王とかいう

ロリエ視点です

『アイラという少女は魔族の疑いがある、そしてそのアイラを従えているヴォルガーも同様の存在と推測される。ゆえに捕獲、抵抗が激しいようなら殺害もやむなし』


 わちしが通信クリスタルでイルザ教の本山から聞かされた言葉がそれだった。


「納得いかんのじゃ!!」


 バン!とテーブルを叩いてわちしは怒鳴った。

向かいに座る、少し痩せて神経質そうな顔をした人族の男は、わちしのそんな様子を見ても何も感じないのか顔色一つ変えなかった。


「そう言われましても、そういう指令が出てる以上あの二人、いや三人でしたか、その三人を解放はできません」

「別にリンデンへ帰せとは言っておらんのじゃ!わちしがオーキッドまで連れていくと約束したのじゃ!」

「あの魔動車でですか?あれはあのヴォルガーという男が操っていたのでしょう、ならばあの男が道に迷ったなどといって行先を故意に変えた場合、ロリエ様はあっという間に連れ去られてしまうことになるのですよ?」

「あやつはそんなことはせんのじゃ!!話もできるし魔族などではないのじゃ!」

「…まあ、ロリエ様の言う通りヴォルガーという男は暴れる様子もなく、大人しくこちらの指示に従って牢に入っておりますので温厚な人物のようにも見えました」


 ヴォルガーたちは今、フェールの街中にある牢にいれられている。

わちしがそれを知ったのは兵士に抱えられてあの場から連れ去られ、しばらくたった後だった。


………


 わちしはまずフェール国境警備隊の本部がある建物の、中でも上等な部屋に通された。

来る途中、何度か兵士たちに声をかけようかと思ったがあまりに真剣な顔でわちしを守るように丁寧に案内するので、気が引けてあれこれ尋ねるのがためらわれた。

わちしがイルザ教の大神官の孫だと聞かされていて緊張しておるのかもしれんな、とも思っていた。


 フェールに連絡をいれたのは失敗だったかもしれない、こんな扱いをされるなら何も言わずフェールに入って、ヴォルガーたちと適当な酒場に入って名物料理を食べたり、街の普通の宿に泊まってお喋りしていたほうが楽しかったに違いない。

はー、せっかく神殿を離れて羽目を外せると思ったのに、真面目に連絡などするのではなかった。


 部屋にあるベッドの上をごろごろ転がったり、そこでじたばた手足を動かして後悔したりして過ごしていたが、そう言えばヴォルガーたちはどこの部屋に案内されたのかと気になり、部屋の外にいた兵士に「わちしと共にいた者たちはどの部屋におるのじゃ?」と尋ねた。


「はっ、あの者らは捕らえて現在は牢だと聞いております、ご安心ください」


 そんな答えが返ってきた。

捕らえて牢に入れたという意味がよくわからず、「とりあえず会いたいのじゃ」と伝えて出かけようとすると、兵士は慌てて「こ、困ります!ロリエ様の身に何かあれば我々は首が飛びます!!」と必死にわちしが出かけようとするのを止めに来た。


「こりゃ!離さんか!わちしはそこまで厳重な警護なぞ頼んでおらんのじゃ!!外出くらい自由にさせるのじゃ!」

「勘弁してください!お腹がすいたならお菓子を部屋へ持ってこさせますから!」

「むむ、お菓子…いや、わちしを子供扱いするのはやめるのじゃ!!」


 兵士とそのような問答を繰り広げていると、やがてわちしの部屋へ一人の男がやってきた。

男の名はクリザリッド、このフェールにあるイルザ教の教会で神官を務める男だった。


「失礼、ロリエ様をお迎えに来ました、あとはこちらにお任せください」

「おおクリザリッドか!」


 クリザリッドはわちしがフェールに入る前に通信クリスタルで連絡を入れた相手でもある。

わちしはクリザリッドの用意してきた馬車に乗ってフェールの教会まで行った。

そこで予定とは違う現在の状況について説明をしてもらった。


 するとなんとイルザ教の大神官から直接、ヴォルガーたちを捕らえよと命令があったというのだ。

その理由が、彼らが魔族だから。


 魔族、というのは海の向こう、ルグニカ大陸で遥か昔に突如として現れた少数種族のことだ。

私たちの祖先はその魔族から逃れるためにこちらのルフェン大陸に移ってきたと言われている。

伝承ではわずか100名にも満たない魔族がある時突然、ルグニカ大陸全土に散らばって各地にあった国を支配すると魔王を名乗り、他の魔王と戦争をはじめたとある。

それがきっかけで、こちらの大陸に一部の種族は避難したのだ。


 ちなみにドワーフ族を支配しようとした魔族は、魔王ロリコニアと言われ今でもイルザ教の文献に記録が残っている。

その名を初めて知った時は自分といささか名前が似ていることに対して衝撃を受けた。

なんでわちしにこんな名を?と両親を恨んだこともあった。


 わちしの疑問には大神官であるおばあ様が答えてくれた。

両親は魔王ロリコニアのことなど知らなかったのだ。

わちしに比べて魔力が低く、イルザ教の神官にはなれなかったから。


 そして古来より『ロリ』という言葉はドワーフ族にとって高貴なとか、素晴らしいとかいう意味があるのだと教えてくれた。

魔王はきっとそれを知って、ロリコニアなどと勝手に名乗りはじめたのだ、だからお前が気に病む必要はないんだよと慰めてくれた。


 おばあ様は他にも獣人族を支配しようとした魔王ケモニスト、エルフ族を支配しようとした魔王ナガミミスキーなども記録にはあると教えてくれた。

それらの名についての意味はおばあ様は知らなかったが、もしかしたらそれぞれの種族には何か特別な意味が伝わっているのかもしれない。

でもエルフ族のはどうでもいい。


 それより魔王、魔族の特徴として伝わっているのは、恐ろしく強く、神の領域だと言われる三節の魔法を操り、そして黒髪だということ。

ただ魔王は自称だが、魔族という呼び名はわちしらの祖先がつけたのであって、そう呼ばれる以前はニホジン族と名乗っていた、なんて話もあるようだ。


 なんにせよ危険な種族にあることは変わりない。


「しかしなんでヴォルガーとアイラが魔族になるのじゃ?髪は確かに黒いが、そのような者、他にもたくさんおるのじゃ、もしやイルザ様からまた神託があったのか?」

「イルザ様の神託は今のところロリエ様以外で告げられた者はおりません、彼らを魔族と判断したのはロリエ様が共に連れて行った神官たちからの報告があったためです」


 コムラードに残して来た者には通信クリスタルをひとつもたせていた。

オーキッドにあるイルザ教の神殿につながるものだ。

もし自力で帰れないようであらば、それで連絡せよと言っておいたのだが…


 どうやらあやつらはアイラの使った黒い腕の魔法に怯えるあまり、アイラを魔族として報告してしまったようだ。


「アイラは確かにちょっと怖いところはあるが、見境なく誰もかれも襲うような子供ではないのじゃ、わちしと共にいた神官たちが襲われたのは、わちしのいう事を聞かずに勝手に家に押し入ってヴォルガーを探したからなのじゃ」

「それはこちらに非があるので仕方ないとは思います。ですが地面から黒い腕を生やす魔法など聞いたことがありますか?」

「いや、これまで見たことも聞いたこともなかったが…ヴォルガーとアイラは闇魔法の一種と言っておったのじゃ」

「闇魔法にそんなものはありませんよ!オーキッドにいる闇魔法が使える1級冒険者ですら知らないそうです」


 もうそこまで確認がとれたのか。

仕事の早いやつだな、と感心する。


「そうは言っても闇魔法自体、他の属性魔法に比べるとあまり調べられておらぬ、わちしらが知らぬ魔法があってもおかしくはないのじゃ」


 わちしが火の女神イルザ様から加護を授かって火魔法を使うのと違い、闇魔法は特別な部分がある。

闇魔法が使える者は皆、生まれつき加護を持っているのだ。

闇の女神の加護というものが、闇魔法が使える以上存在しているのは確かだが、この大陸で誰一人としてその加護を授けているはずの女神の姿を見たことがない。

神託として、声を聴いた者もいない。

故にルフェン大陸には闇の女神を祭る教会も神殿もない。


 数百年前に闇の女神についてアイシャ教の大神官がアイシャ様に尋ねられたことがあった。

アイシャ様は闇の女神の名はレイコ様だとおっしゃり、ルグニカ大陸で魔族が大陸外に出て行かないようにたった一人、あちらの大陸で魔族を封じていると答えられたそうだ。

しかしこれは、アイシャ教の権威を高めるための作り話だと考える者もいて各教会で賛否が分かれ、話題にすると必ず揉めるので闇の女神に関する話は神に仕える者の間では禁句とされている。


「しかしですね…」

「ともかく!まずおばあ様に話が聞きたいのじゃ!使える通信クリスタルはまだあるな?すぐに貸すのじゃ!!」


 そうしてわちしはオーキッドにいる大神官、わちしのおばあ様に連絡をとった。


………


「まったく!おばあ様は頭が硬いのじゃ!実際見たわけでもないのになんでわかるのじゃ!」


 通信クリスタルでおばあ様とは直接話はできなかったが、その意志はわちしに伝えられた。

結局おばあ様もヴォルガーたちをほぼ魔族と判断しているのだ。


「大体あやつらはわちしが直接、イルザ様に捜して連れてこいと言われたのじゃ!勝手なことをしてイルザ様がお怒りになったらどうするつもりなのじゃ!!」

「大神官様はロリエ様のことを心配されてるのですよ、それに…」

「それになんじゃ!?」

「その、イルザ様が直接呼び出すほどの者ということは只者ではないのでしょう、ひょっとしたら魔族かどうかイルザ様ご自身で見極めるために呼んだのではと大神官様はお考えなのではないでしょうか」


 イルザ様がご自身で?

うーむ…そう言われるとそうかもしれないと思えてきた。


 …そうじゃな、イルザ様も直接ご自身でヴォルガーたちを見れば、魔族などではないと断言してくれるだろう。

おばあ様もイルザ様が判断したとなれば、もう文句はつけられないはず。


 その後は、詫びとしてわちしがオーキッドをいろいろ案内すると申し出よう。

そうすればまたしばらく、神殿の外でいろいろ遊んでいても怒られない!


「となるとやはりヴォルガーたちを一刻も早くオーキッドの神殿へ連れていくのが最善だと思うのじゃ」

「結局はそうですね…私もさっさと連れて行って欲しいのが本音です、魔族が来ると聞かされて一番肝が冷えたのはこの街にいる私ですよ」

「わははは、そう心配せずともきっとすぐに勘違いだったとわかるのじゃ!」


 うむうむ、では早速牢からヴォルガーたちを連れだしてやらんとな。


「あ、わちしらが乗ってきた魔動車は今どこにあるのじゃ?警備隊のところか?」


 また旅立つならあれがいる。

助手席で飴を食べながら景色を眺めるのもなかなか悪くないと知った。


「はて、それについては聞かされておりませんが、なんにせよロリエ様があれにのってあの者らと共に行くのは不可能です」

「なんでなのじゃ!あれでここまで来たのじゃ!」

「お、落ち着いて下さい、叩かないで、一応魔族の疑惑がかかってる者たちですよ?いくらなんでも一緒の魔動車で行くのは無理です」

「じゃあどうしろというのじゃ!!」

「別の魔動車が来ると思います、たぶん、物資輸送型の」

「大きい箱が後ろにくっついてるやつじゃな、あれは後ろの箱の中は窓も何もないから牢屋と変わらんのじゃ、乗っても退屈なのじゃ」

「だからそこに乗るのは彼らだけですよ!ロリエ様は一緒には乗れないんですって!」

「ええええ、いやなのじゃ~~!」


 わちしはしばらくじたばたと駄々をこねてみたが…クリザリッドには通用しなかった。

逆に20も超えてまだそのようなことを…と冷めた目で見られた。


 おのれぇ、何も知らない人族の男ならこれで大抵いう事を聞くのに。

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