なんなのじゃ
最近すぐ更新できなくてすまんのじゃ
「ここがアバランシュか…峠から眺めたときも思ったが、凄い大きさだな」
俺は目の前に広がるアバランシュの外壁を眺めつつそう言った。
フロウの家を出て、雨あがりの山道を超え、なんか道行く人が増えてきたなと魔動車を注意しながら運転すること数時間。
リンデン王国で一番西にある交易都市、アバランシュに到着することができた。
今、俺たちがいるのはアバランシュの東門、このまま魔動車で街中入ってええんかなと思っていた矢先にロリエが「話をつけてくるから待っておるのじゃ!」と助手席から降りて、てけてけ門番のところへ走って行った。
俺たちの中で恐らく一番身分が上だろうと思われるロリエが使いっぱしりのような感じになってるがいいのだろうか。
まあいいか、本人が勝手に行ったんだし。
魔動車の中からロリエの様子を眺めていると、門番に敬礼され、ほんの数分話した後すぐこちらへ戻ってきた。
「では街中へと参ろうなのじゃ」
「門番の人たちが見事な敬礼をしてたが、ロリエはそんなに有名なのか?」
「リンデンではそう知られては無いと思うのじゃ、あやつらはわちしがここを出て行ったときにも顔を合わせたので、それでわちしを覚えていただけなのじゃ」
「たくさん人が通るというのに顔を覚えてるもんなんだなあ」
「要人の顔も覚えられんようでは門番はつとまらんのじゃ」
一理あるな、誰でもできるような仕事みたいに思っていたが、実は門番という仕事は高い能力が要求されていたのかもしれない。
俺には向いてなさそうだ、人の顔と名前、結構忘れちゃうんだよな。
もっともロリエくらいインパクトがあれば一度見れば大抵の人が覚えていそうな気はするけど。
門をくぐって街中に入るとまた驚かされた。
道幅が広いなあ、コムラードもザミールもこんなに広くなかった。
4車線くらいはあるんじゃないかこれ。
石畳で舗装された道の上をのろのろ魔動車を走らせて進む。
荷馬車とも結構すれ違う、歩行者は道の端の方を歩いている、日本というか地球っぽいな…
「この道はずっと西門まで同じように続いておるのじゃ」
アバランシュのメインストリートということか。
道の両脇はたくさんの店が並んでいて賑わっている。
そうした店を行き交う人々も今までの街以上に多い。
ただ、なんか人族が多いのとは別に小さい女の子が多いように見える。
あれらの中にはロリエと同じドワーフ族の女が混ざっているのだろう。
なぜなら隣に小さいおっさんが並んで歩いていたりするからだ。
「なんだか思ったよりこちらに注目する人は少ないようですね」
後部座席にいるアイラが街中を眺めつつ言った。
確かに、何人かはこっちをみてギョッとしていたが、それ以上にこちらに気づいてもスルーしている人が多い。
「フェールでは物資の輸送のために割と頻繁に魔動車を使っておるのじゃ、向こうに行ったことがある者にとってはさほど珍しい物でもないのじゃ」
フェールというのはアバランシュの西門を出て、国境であるレスペ川を超えた先にある街の名だ。
アバランシュを出てオーキッドに入国する場合、まずそのフェールで入国審査を受ける必要がある。
ロリエがそう教えてくれた。
「ねえあんまり目立ってないなら、少し買い物して行かない?ほら、あそこ見て、たくさん並んでる人がいるわ、きっと美味しいものを売ってるのよ」
金髪をポニーテールにして、民族衣装みたいな服装になったディーナは魔動車の窓に顔をはりつけて美味しいものがあると勝手に思い込んでいる店を凝視していた。
まあディーナほどではないが俺も気になるんだよなあ。
せっかくこんな大きな街に来たので見てみたい店がたくさんだ。
とりあえず市場行きたい。
「だめなのじゃ!今日はこのままフェールまで行くと決めたではないか!お主らもその意見に従うと言ったはずなのじゃ!」
「えーそうだけどぉ、ちょっとくらい、いいじゃない、ヴォルるんもそう思うでしょ?」
おい俺にふるなよ。
行きたいけどさ、とりあえず魔動車をどこにとめていいのかわかんねえよ。
コインパーキングなさそうだから。
「諦めろディーナ、俺たちはアバランシュに入る前にフェールまで行けるならそっちのほうがいい、ということでアバランシュではなにもせず、通り過ぎるだけと決めたはずだ」
フェールまで行くと最初に言いだしたのはロリエだ。
フェールの街であれば、自分の顔が利いて宿も優遇できると言うので、んーじゃあ日が暮れる前にフェールに入れるなら行っといたほうがいいかなあということになった。
アバランシュの事前情報でいい話がなかったことも関係している。
黒い噂のあるアバランシュには長い事いたくなかったのだ。
しかし実際街に入ると人々は活気があって店は賑わってるのでなんか楽しそうという空気が俺やディーナのハートを刺激してしまった。
「オーキッドでの用事がすんだら帰りがけにどうせまた通ることになりますし、その時見ればいいんじゃないですか?」
「あ、そっかーそれもそうねー、アイラちゃんの言う通り今は我慢して帰りの楽しみにとっておこうっと、その時に二泊くらいしてじっくり見ればいいわよね」
楽しみか…お前もう完全にブラウン公爵がどうこうって件忘れてない?
なんで余裕の宿泊計画立ててんの?
そこまで気を緩められても困るよ?
なんで変装しているのかすら忘れているのだろうディーナはさておき、俺たちはアバランシュのメインストリートをずっとひたすら進んだ。
そしてそのかいあってかどうか無事何事もなく、本当に何事もする暇がなかったともいうが、ともかく西門を出ることができた。
そしてザミールの北から流れて来る雄大なレスペ川まで行き…おいまじででかいな、これふざけて川に入ったら死ぬタイプの川やん。
その大きな川にこれまた立派な橋がかけられていた。
全部石なのかなあれ、どうやって作ったんだろう。
「うわー大きい橋!あれを渡ったらもうオーキッドなの?」
「そうなのじゃ!あの橋はほとんどオーキッドの職人たちが造ったのじゃ!」
「へえ、そうですか、すごいですね」
アイラもうちょい感情こめて言ってやれよ!
今のたぶん本当ならロリエは「ふふん、それほどでも…」と続けて言うつもりだったに違いないぞ。
しかしアイラのリアクションがおざなりだったので言えなくてプルプル身を震わせている。
おいまさか泣きそうなの?
「い、いや本当にすごいな、どうすればこんな立派な橋が作れるのか俺にはさっぱりわからないよ、きっとドワーフ族には腕のいい職人がいるんだろうな、そんなドワーフ族をたくさん国民として抱えているオーキッドはとてもいい国なんだろうな」
「…!ふ、ふふん!それほどでも…あるのじゃ!!」
ロリエは満面の笑みでお決まりの台詞を言った。
ふうなんで俺が気をつかわなきゃならん。
26歳かもしれんが見た目が子供なので泣きそうな顔されると焦るじゃないか。
ご機嫌になったロリエは橋を渡る直前にもあった関所みたいなところでも率先して魔動車を降り、そこにいた兵士に何事か話しかけにいった。
ただ、これは街の中に入るときより戻ってくるのが遅かった。
「時間かかってたけどなんかあったの?」
「いやたいしたことはないのじゃ、わちしの帰りが予定より早かったので慌てた兵士どもがフェールの街へ連絡を入れるから少々待てと言ってきたのじゃ」
「連絡?ああここには通信クリスタルがあるのか?」
「うむ、わちしもついでにあっちにいる部下と通信してきたのじゃ!フェールの入り口に迎えをよこしてくれることになったのじゃ」
それは助かるな、なんだかんだロリエに色々やらせて、俺はどうしていいか全然わからんことだらけだったし。
聞けば宿の手配などもしてくれるみたいでいやあこの旅も思ったよりは快適に進めますな。
橋を警備してた兵士が魔動車まで来て、どうぞお通りくださいというので遠慮なく俺は魔動車を橋の上へ乗りあげた。
この橋も結構幅があるので、向こうから時折くる馬車も難なくかわすことができた。
あっさりアバランシュを抜け、すいすい国境である川も渡り、フェールの街まで着いた俺は少々気が抜けていた。
なのでフェールの入り口で、たくさんの兵士に魔動車を囲まれても、うわあこんなに迎えに来てくれたの?ロリエの権力すげえな、お世話になります、とか考えていた。
一応やっぱり魔動車を降りて挨拶すべきだよなと思い、俺は普通に魔動車を降りた。
ディーナたちも降ろしてちゃんと挨拶させよう、第一印象が大切だ。
だからバックドアも普通に開けてディーナとアイラを魔動車から降ろした。
「ま、魔動車から降りてきたぞ…全員、気を抜くな!」
一人の兵士がそう言って剣を手にしていたのを見て、あれ、これは変だなと初めて気が付いた。
「ロリエ様を救出しました!!」
「え?え?なんなのじゃ?わちしをどこに連れて行くのじゃ?」
ロリエは別の兵士に抱っこされてすごい勢いでどっか連れていかれた。
あいつにもこの事態が把握できていないのか?
「ね、ねえアイラちゃん、私これってお迎えの人たちが歓迎してくれてるのとは違うと思うんだけど…」
「奇遇ですね、私も同じ意見です」
ふむ、なるほど二人ともそういう意見か、俺もそんな気がする。
とりあえず話を聞いたほうがよさそうだ。
「あのーすいません、俺はヴォルガーと言ってロリエ…様に言われて…」
「貴様がヴォルガーか!ということはそちらの少女がアイラだな」
「え?ああはい、そうですけど、あとついでにこっちの女はメンディーナと言います」
「そっちの女は…報告にないが…まあ連れていくしかなさそうだ」
なんだ、結局案内はしてくれるのか?
「よくわからないんですがロリエ様はどこに連れていかれたんですか?」
「それは勿論、安全な場所にだ」
「はあ?まあ俺たちもそこに行けばいいんですよね?」
「そうはいかん、貴様らは我々国境警備隊がなんとしてもここで捕らえる!!」
そういって兵士たちは一斉に剣やら槍を構えた。
いやまじなんなん?
「全員行くぞおおおお!」
「おおおおおおお!」
叫び声と共に兵士たちが一斉に俺に向かってきた。
えっ?えっ?
「よくわかりませんがそっちがそういうつもりなら黙って見てるつもりはありませんよ!<イロウション>!」
アイラが闇の腕を生み出し、兵士たちに向かって振り回す。
「ぎゃああああ!」
「うわああああ!やっぱり本物だあああ!」
ゴミのように吹き飛ばされていく兵士たち。
俺とディーナは事態が把握できず、狼狽えていた。
が、やばい、アイラが人を殺しかねない勢いだ。
「ちょ、ちょっとだめだってアイラ!やりすぎ!死んじゃうよ!」
「あ、な、なにするんですか!離してください!!」
俺はアイラを抱きしめて魔法を止めさせた。
するとそれを好機と判断したのか、兵士たちが一斉に俺とアイラを地面に倒すように覆いかぶさってきた。
「魔族二名を確保おおおお!早く魔封じの縄を持ってこい!!」
魔族…って俺たちのこと!?
俺はアイラをかばいながら地面に倒れ、兵士がそう叫ぶのを聞いた。
「ついでに驚いて失神した女も捕縛完了しましたぁ!」
あ…ディーナは驚きと混乱のあまり失神したのね…
ある意味安定感のあるディーナの様子に若干力が抜け、冷静になり、俺は背中に乗っかる兵士たちの重みが増えていくのを感じながらこれからどうしたものかと考えていた。




