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スヤッピーは留守番

知られざるヴォルガー家にいた存在

 子供…じゃなかった、ドワーフ神官ロリエから脅迫じみた出頭命令を受けた翌日。

俺は旅立つ準備をしていた、大陸西部を占有するリンデン王国に次ぐ大国、オーキッドに行くためだ。

昨日軽くロリエからオーキッドについて説明をうけたところ、かの国は別に王政では無いので王国ではないようだ。

大神官、技術局長、剣豪、という三人を頂点としたそれぞれの機関がお互いを監視し合うような感じで政治を行っていて権力が一極集中していない。

日本で言う三権分立みたいなもんだろうか、大神官は最高裁のような立場かもしれないとしても他二つはよくわからなかった、特に剣豪、これはもう言葉の響き的に脳筋としか思えない、政治に関わっていいポジションなのかどうか甚だ疑わしい。


 ロリエは当然、大神官を頂点としたイルザ教を中心とするグループに属する立場だった。

まあ司祭なのに剣豪グループですとか言われなくてよかった、もしそんなことがあったらその政治体制見直した方がいいよ頭おかしいから、と言ってしまうところだ。


 そして現在首都機能がある街がオーキッドというので国名もオーキッドのようだ。

まあこれはリンデン王国も首都のことをリンデンって言ってるからややこしくなくてよい。


「引っ越しは当分先になりそうですなあ」


 またしばらく離れなくてはいけない我が家を眺めていたらタックスさんにそう声をかけられた。


「そうですね…たぶん行ってすぐ帰ってきたとしても一か月以上はかかるかと…」


 もうすぐロリエたちが馬車で迎えに来る予定だ。

彼女と神官四名は馬車でコムラードまで来たからそれに俺も乗って行くことになる。

オーキッド国内に入るまで片道で約10日だと言われた、そこから首都を目指して、さらに帰ってくることを考えるとそれくらいは過ぎるんじゃないだろうか。


「ヴォルガーさんが留守の間は、メルーアたちに貸し出してよろしいんですかな?」

「ええ、お願いします、管理を任せるようで申し訳ないですけど」

「いえいえ彼らも喜ぶでしょう、それに家は人が住んでいないと朽ちていくものですからな」


 メルーアとモレグに家を任せる必要があるのは、他に頼める人がいないからである。


「ヴォルさん、私たちも準備できました」

「あー待ってアイラちゃん!私のスヤッピーってどこいったか知らない?」

「知りませんよ!!というかスヤッピーは持っていく必要ないでしょう!」


 家からアイラとディーナが出てきた、彼女らも俺に同行してオーキッドまで行くのだ。

だからメルーアたちに家を頼むしかない。


 昨日俺がオーキッドに大人しく行く条件として同行者の存在をロリエに認めてもらった。

それでディーナとアイラが一緒に行くと言い張るので同行させることにした。

個人的にはあと護衛としてマーくんがいれば心強かったんだが…


 マーくんは間が悪く、俺がナクト村に行っている間にコムラードを離れていた。

ジグルドたちのパーティーにくっついて神隠しの森へ行ってしまったのだ。


 ナインスたちでも狩れない魔物が森にいるという話があって、ジグルドたちがそれを調べに行った。

マーくんも興味があったようで臨時パーティー組んで一緒に出かけちゃったのだ。

でも、もしかしたら最初は俺と組んで行くつもりだったのかもしれない。

昨日、俺の家まで来て留守なことを知ると、やや悲しそうに帰って行ったとトニーから聞かされたから。


「あああスヤッピー、スヤッピーはどこ」

「いやあのさ、そもそもスヤッピーってなんだよ?」

「あ!私の荷物に入ってます!勝手に入れないでくださいよ!家に戻しときますからね!」


 ディーナが主張するスヤッピーという存在がなんなのかアイラが袋から引っ張り出したものを見ると、草を編んで作られた単なる枕だった。

枕に名前つけてたのか…


「スヤッピィィィィィ!!」


 ディーナの叫びもむなしくスヤッピーは家のドアを開けたアイラによって中へ投げ込まれた。

取りに戻ろうとしたので「スヤッピーが必要ならもう留守番しといていいよ」と告げると、ディーナは諦めてドアから手を離した。


「旅の途中でちゃんと寝れるかしら」


 他に心配する要素はないのか、つうかお前はどこでも寝れるだろ枕関係なしに。

レックスさんのとこでも爆睡してたし、歩いてる最中にだって寝てたことがある。

そんなことより俺なんてなんで呼ばれたかすらよくわからんから心配だらけなんだぞ。


 これならいっそもう神様御用達の転移というなの拉致でパッと俺だけ連れて行ってパッと帰してほしかった。

それができないから呼ばれているんだろうけども。


 イルザはアイシャや創造神のように人を無理やり転移させることはできないようだ。

出来たらたぶんもうやってるだろうし、それに…あの時、通信クリスタルで会話した相手もイルザだったとしたらになるが「今すぐ行く」と言って結局こなかったのでやっぱり転移はできないんだろうと思われる。

 

「寝る心配以前に、オーキッドに行くということは私たちはアバランシュを通らなきゃならないんですよ」


 心配事その二、アイラの言う通りアバランシュを通らねばオーキッドには入国できない。

色々と危ない噂が多いアバランシュにはなるべく近づかないで過ごしたかったのにもはやそうもいかなくなった。

何事もなく通り過ぎられればいいが…


「ディーナは変装でもするか?領主がそこら辺をうろついてるわけはないだろうからまず見つからないとは思うけど、他にお前の顔を知ってるやつがいるかもしれない」

「アバランシュを通るときはさすがにその変なTシャツはやめたほうがいいですね」

「あ、そっか、ブラウン公爵は私のこと知ってるのよね」

「やっぱり留守番…」

「もう置いていかれるのは絶対嫌だからね!えーっと変装は、服を変えてこうしてみてはどうかしら!」


 ディーナは長い金髪を後ろでまとめてポニーテールにした。

普段見ない髪型なのでちょっと新鮮だな。


「その髪型も結構似合うな」

「えっ、本当?やったあ、ヴォルるんに褒められた!」


 ははは可愛い奴め、などと考えていたら


「は?」


 アイラさんがスキル<威圧>を発動あそばされたので俺とディーナは「すいません」と思わず謝った。


「ディーナには私が旅の時に使う大きいマントを貸しましょう、あとは馬車内からむやみに顔を出したりしなければわからんでしょう」


 タックスさんがそう言って店からマントを持ってきてくれたので事なきを得た。

そしてその頃ちょうど、二頭の馬によってひかれた大き目の馬車が、俺たちの元へやってきた。


「よし、逃げずにちゃんと準備しておったようじゃな」


 馬車からはちびっこ司祭ロリエが降りてきて俺たちの前へ来た。


「逃げても面倒なだけなんで」

「うむうむ、では馬車に乗るのじゃ、そっちの二人も…やっぱり来るのか?特にその、アイラという子供には長旅は辛かろう、ここで待っててはどうじゃ?絶対そうしたほうが良いのじゃ」

「お構いなく、なにがなんでも着いてきますので心配いりません」

「うう、こやつと一緒の馬車は嫌なのじゃ…怖いのじゃ…」


 ロリエは本音がだだ漏れだった。

しかし妙だな、あっちは五人いると聞いていたのにロリエの他は御者をやっている、ロリエよりは大人しめの赤色のラインが入ったローブを着た男しか姿が見えない。

あとの三人は馬車の中か?

ロリエより身分が低いのにこの場に出てこないのはおかしい気もする。


「そっちは二人しかいないのか?」


 念のために聞いてみた。


「二人はその…まだ怪我が治らんので治療中じゃ、もう一人をそやつらの傍につけて面倒をみさせておる、怪我が治ったら国へ戻るように言ってあるのじゃ」


 アイラのことを若干気にしながらロリエがそう教えてくれた。

どうもこの街にいるアイシャ教の神官には俺の魔法のように一瞬で怪我を治すのは難しいみたいだな…

俺が治せば旅に同行させることも可能だがそんなことはしない。

悪いが人の家に不法侵入した罰としてしばらくコムラードで大人しくしていてもらおう。


「ロリエ様、少々よろしいですかな」

「うん?なんじゃ、ここにある店の者か?」


 はあじゃあ馬車に乗るかあという時になってタックスさんがロリエに声をかけた、なんだろうか。


「はい、この店をやっている商人のタックスと申します、私から提案があるのですがお耳に入れてもらってもよろしいですかな」

「提案?言っておくが旅の食糧やらはもう積んであるからお主からは買わないのじゃ」

「食料ではなく馬車の代わりの乗り物があるのでそちらを使ってオーキッドへ向かわれてはどうかと思いましてな、それを使えばスタベンを経由せずザミールまで行けますので、早ければ明日にでもアバランシュには着くでしょう」

「…ふむ、その乗り物はどこじゃ?あるならわちしに見せてみるのじゃ」

「どうぞどうぞ、こちらでございます」


 タックスさんは倉庫のほうへロリエを案内して歩いて行った。

いや、いいのか?魔動車を貸すつもりだよなこれ。

俺は慌ててタックスさんの傍へ行き、小声で尋ねた。


「あのいいんですか?最近借りてばっかりですけど、それに今回はかなり遠くまで行きますよ」

「なあにいいんですよ、倉庫で眠らすよりはヴォルガーさんに使って欲しいのです」

「は、はあ、タックスさんがいいなら遠慮なく借りますけど…」

「お主らは何をぶつぶつ言っておるのじゃ、それよりこの中か?早く扉を開けるのじゃ」


 タックスさんが倉庫の扉を開け、ロリエと中に入る。

俺とディーナにアイラも続いて行く。

ロリエの馬車を預かっていた男は、馬を厩舎のある小屋の柱へつないで来ると慌ててこっちへ駆けてきていた。


「これは…」

「魔動車という乗り物です、どういう物か説明しますと…」

「いらぬ、知っておるのじゃ」


 なんだって?ロリエは魔動車を知ってるのか、タックスさん以外にも持ってるやつがいるのか!


「なっ、なぜ魔動車がここにあるのだ!?これは国外には持ち出し禁止のはずだぞ!」


 慌てて追いかけてきたロリエの部下が魔動車を見て驚いていた。

が、この驚き方は知らないものを見て驚いたってわけじゃなさそうだ。


「おい、お前は黙っておるのじゃ、まったく余計なことを…」


 男はロリエに叱られて、ハッとすると口を閉ざした。


「タックスよ、これはどこで手に入れたのじゃ?」

「今から…そうですなあ、20年ほど前にリンデンの近くにある遺跡型のダンジョン内で見つけましてな、それをなんとか修理して動かせるようにしたのです」

「ふむ、そうか、ならばこれを借りて行くとするのじゃ」

「ロリエ様は魔動車を見たことがおありなんですな?」

「あまり知られておらんがオーキッドにも何台かあるのじゃ、実のところオーキッドに入った後で馬車から魔動車に乗り換えて行くつもりだったから手間がはぶけたのじゃ」

「なんと、さすが大陸一の技術を誇るといわれておる国ですなあ、私も機会があれば勉強に行きたいものです」

「ふふん、それほどでも…あるのじゃ!」


 オーキッドは魔動車を複数所有して、しかもちゃんと修理して使ってるのか…

俺が読んだアホみたいな説明書があったのかどうかは不明だが、あったなら漢字に強いやつもいるってことだよな、ドワーフ族ってもしかしてインテリ?

俺はてっきり酒好きのヒゲ親父が鍛冶屋で剣をカンカンしてるくらいに思ってたんだが。


 ともかく魔動車を使って旅する許可が出たので、だいぶ楽になった。

俺たちは各自の荷物を魔動車に積み込んだ後、ロリエたちの分も馬車から持ってきて載せた。

食料はまあ予定より日数はかからんだろということで少しだけ移した。

あんまり載せると人が乗るスペースが狭くなる。


 運転は俺が申し出た、そして助手席にはディーナが乗ろうとすると…


「まてっ!そこはわちしが乗るのじゃ!!お前は後ろじゃ!!」

「え、ええー…わかりました、じゃあ後ろに乗ります…」


 他教とはいえ、さすがに司祭に口答えする気にはなれないのかディーナは大人しく引き下がると、アイラを連れて後ろから乗り込んだ。


「ロ、ロリエ様!自分が前に乗りましょう!!魔動車は前のほうが危険と聞いておりますゆえ!」


 怒られて黙っていた男が助手席に乗り込もうとするロリエを引きずり下ろした、いいのかおい。


「何をするのじゃ!お前は後ろに乗ればいいのじゃ!」

「いえいえロリエ様はどうぞ後ろの席でおくつろぎください!」

「そんなこと言ってあの子供の横に座るのが嫌なだけじゃろ!!」

「ロリエ様だってそうでしょう!私はもうあの黒い腕に摑まれるのはゴメンです!あの時に聞いた、仲間の骨が折れる音が耳にこびりついて離れないのです!!」

「やめよやめよ!思い出してしまうのじゃ!!」


 こいつらはアイラの傍に乗るのが嫌なのか…前も後ろもそうかわらんだろ…

しかし骨が折れる音って何か思ったよりえげつないことをアイラはしたのかもしれない。


 ロリエと部下の男はぎゃあぎゃあとしばらくどっちが前に乗るかで揉めていたが


「わかった!ならばお前は他の三人と一緒に戻ってこい!わちしだけ先に帰るのじゃ!」

「ではそうします!護衛としてお傍を離れるのは心苦しいですがロリエ様の命令なら仕方ありません!ロリエ様の命令なら!」


 二回言ったな、よほど重要なことらしい。

男は急いで自分の荷物だけ魔動車から降ろした。

というかディーナに「すいませんその袋取って下さい」と頼んでアイラに近づかないようにしていた。

この間ずっとアイラは黙ったままである、それが逆に不気味で恐怖だったようだ。


「ふう、では行くとするのじゃ」


 助手席にロリエが乗り込んだので俺は魔動車を発進させた。


「ロリエ様、どうかお気をつけて!」


 アイラの隣に座らなくて済んだ男は、タックスさんと並んで手を振って俺たちを見送っていた。 


 その顔は笑顔で、大変嬉しそうだった。

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