ろりりつ
ひらがなで書くと意味はよくわからなくなる!
俺とタックスさんがナクト村からトンボ帰りして、コムラードに着いた時には辺りはすっかり暗くなっていた。
魔動車を倉庫に入れて、家の中をのぞくとそこにディーナとアイラの姿はなかった。
二人ともまだ帰ってきてないのか?と俺が疑問に思っていたところにマリンダさんが現れ、二人は今、冒険者ギルドにいると教えてくれた。
そう聞いてすぐに俺もギルドへ向かおうとしたがマリンダさんが案内するというので、彼女と一緒にギルドへ行くこととなった。
別に案内はなくてもいいし、一人で走った方が早いんだが…
「裏口から入るように言われておりますので私と行かねばわからないと思います」
マリンダさんにそう言われた。
ギルドの裏口、ふむ、確かに知らん。
イルザ教の神官と顔を合わせる前にラルフォイにまず説明をしに行けということだな。
何を説明すればいいのかわからんけども。
まあなんにせよ急いだほうがいいだろうということで、タックスさんに「いつ頃帰ってくるかわかりませんがとりあえず行ってきます」と告げ、俺はマリンダさんと共にギルドに向かって走り出した。
マリンダさんは家政婦の仕事をするときに着ているメイド服っぽいものを着ている割に足は速かった。
というか絶対これは普通のおばさんの体力じゃない、この夜道で仮に暴漢に襲われているご婦人がいたとしてもここまでスピードだして逃げ出さないだろうというくらい速い。
が、それでも俺に比べれば遅い。
少し息も切らしているようだ、もしかして結構無理して走ってくれてるのか。
なんか女の人に全速力を強いるって男としてどうだろうと思ったので「足が速くなる魔法をかけます、かなり速くなるんで注意してください」と一言告げてマリンダさんが頷いたのを見てから<ウェイク・スピード>をかけた。
ドヒュン、て感じでマリンダさんは走り出し俺の遥か前にいってしまった。
やべ、今度は俺が遅い、追いつかなきゃと自分にも<ウェイク・スピード>をかけて走る。
「便利な魔法ですね、次は買い物に行く際にかけてもらいましょう」
「ははは…でも昼間に走ると人がたくさんいるから結構危ないと思いますよ」
「確かにそうですね、ヴォルガーさんのように変な噂を立てられても困りますし、買い物は歩いて行くことにしましょう」
あれあれ、変な噂ってなんだろなー。
俺はこんな速さで普段街をダッシュしてないんだけどなー。
銭湯行くときくらいしか。
昼間に走るときは今度から気を付けよう、と思いつつ走っているとすぐ冒険者ギルドについた。
正面入り口には行かず、隣の家との間にある細い路地を抜けて行く。
その道の半ばで急にマリンダさんは立ち止まり、ギルド側の壁を押した。
よく見たらそこにドアがついていた。
そこだけ壁がくぼんでドアが取り付けられていたので、表の通りのほうからこの路地を見ても、そこにドアがあるとは全くわからない。
たぶん一人だと気づかずに行き過ぎてた可能性はある、それくらい地味にひっそりとしたドアだった。
ギルド内に入っても、真っ暗で普段まず通らないような通路に出たので、どっちに行けばいいのやらさっぱりといった感じ。
マリンダさんの先導で歩いているうちに、あ、ここの階段上がればラルフォイのいる二階の部屋か、とようやく俺にもわかる場所へでてこれた。
「上のラルフォイが普段いる部屋に行けばいいのかな?」
「はい、では私はここで失礼いたします」
「あれ、マリンダさんは行かないんですか?」
「ただの家政婦が冒険者ギルドをうろうろしているところを誰かに見られたくありませんので」
ラルフォイとは関係ないように見せるため、徹底してるんだなあ。
俺は二人が親子だと知っているのでなんとなく切ない気持ちになった。
マリンダさんと別れ、ラルフォイの部屋へ行く。
あ、ディーナたちがどこの部屋にいるか先に聞いとけばよかった。
まあいいか、ラルフォイに呼んでもらえば。
「ヴォルガーです、ナクト村から帰ってきました、急いでたのでお土産はありません」
そう言ってドアをノックすると中からガタガタっと複数の人の気配がした。
俺が開けるまえに中からドアは開いた。
「ヴォルるん!よ、よかったあああ!」
「あれなんだここにいたのか」
ドアを開けたのはディーナだった、アイラも中にいて、こちらを見ていた。
「ふうようやく本人がきましたか、さあどうぞ、急いで下さい」
奥にいたラルフォイにうながされ、部屋に入った。
そしてお互いにどういう状況か説明をはじめたのだが…
俺からはあまりいう事がない、タックスさんとナクト村に遊びに行ってただけなのだから。
「その例のイルザ教の神官というのは今どこに?」
「ヴォルガーさんが来るまで受付で待たせてもらうとしつこかったんですが、先ほど部屋をひとつ貸し出したので今はそこで大人しくしています」
ニーアがこれじゃあいつまでたっても家に帰れない!と我慢の限界に達して部屋を貸したようだ。
今日はもうそこに泊めて、俺が来たらラルフォイが伝えにいくことになっている、とのこと。
面倒事はラルフォイに投げて自分は帰るあたりがニーアらしい。
そしてあえて何も言わず、ニーアの影に隠れてミーナもひっそり帰っている。
「一人だけなのか?」
「いえ、最初は三名ほどいました、そのうち二人はここにいても無駄と思ったのか引き下がってギルドを出て行ったのですが一人だけしつこく居座っている方がいまして、その方が下の部屋にいます」
「その前に家のほうにもきて、その時は五人いたの!勝手に押し入ってきて家の中を調べて!それで私たち怖くなってギルドまで逃げて来たのよ」
ディーナとアイラは、突然家に来て俺のことを探し出した神官たちから逃げてここで隠れていたようだ。
俺の家、勝手に調べられたのか…金庫無事かな…
「二人とも何もされてないのか?酷い事はされてない?」
「それは大丈夫、なんだけど、アイラちゃんが…」
「何かされたのか!子供に手をあげるとはなんてやつらだ!アイラ、どこか怪我したのか?魔法で治すぞ?」
「あ、手をあげたのはあっちじゃなくてこっちで…」
「え?」
「あのほら、魔法で生み出す黒い手で、ばーんって薙ぎ払って…それで逃げたから私たち…」
酷い事をされたのは神官たち側だった。
「勝手に家に入ってくる方が悪いんですよ、だからまとめてつまみ出してあげたんです」
アイラは涼しい顔をしてソファーに座りグラス片手に水を飲んでいた。
「あー…なんというかまあ…よかったようなよくないような」
「良くはないですね、その件でもかなり神官たちは怒っていました、骨が折れるほどの大怪我をしたのでアイシャ教の教会へ行って治療してもらったようです、全部で五人いた神官の内二人は今もそこで治療中ですね」
「正当防衛です、悪いのはあっちです」
アイラが無事ならそれでいいや、と思うことにした。
そうだ、誰も殺してないからセーフだよ!
ただ今後の教育方針に手加減するというカリキュラムを取り入れる必要がありそうだ。
「それでヴォルガーさんは本当に何も心当たりがないんですか?」
「ない、むしろ俺を捜す理由を知りたくて来た」
「そうですか…ヴォルガーさんから直接相手に聞いてもらうしかなさそうですね」
神官たちが俺を捜しにきた理由は、ラルフォイもディーナもアイラも知らなかった。
聞いても答えてくれなかったようだ、ただ俺を出せというだけ。
様子からたぶん良い用件ではないんだろうなあ、と想像できたが、逃げ続けるわけにもいかないので、下の階にある部屋で待機しているという一人の神官に会いに行くことにした。
アイラとディーナにはここで待っててと言ったんだけど着いて行くといって聞かないのでもう全員で行くことにした。
………
「お前がヴォルガーかっ!!」
どんなやつだろうとドキドキしつつ、ラルフォイに連れられ下の部屋へ行き、いざ対面したイルザ教の神官は女だった。
しかも子供、小さい。
赤を基調とした派手なローブみたいなのを着ていた。
「あ、はいそうですけど…」
「ふむふむ、確かに聞いた容姿に間違いな…ひぎゃあ!!なな、なんでそこにそやつがおるのじゃ!!」
急にじじくさい喋り方で驚いたのでどうしたのかと思うと、どうやら着いてきたアイラを見て驚いた様子。
「もしかしてアイラ、この子に<イロウション>使ったの?」
「そうですよ?」
茶髪の二つのおさげをぷるぷる揺らしながら、子供神官は部屋の隅にいって震えていた。
「やりすぎだよ…ああもう、あーこわくないよーあの子は少し口が悪くて、危険な思想を持ってるけどこれから優しい子に育つ予定だから怖がらなくても大丈夫だよー」
「それは結局今は危ないやつということじゃろ!!それとわちしを子供扱いするなっ!」
わちしってなんだ、わたしとわしの中間みたいな、なんか面白い子だな。
子供扱いを嫌がるということは背伸びしたい年頃なのかな。
「まあまあ、とりあえず俺がいる限り大丈夫だから…」
そうやってなだめてなんとか落ち着かせ、ようやく話ができそうな状態になった。
ただしまだアイラからは一番遠い位置をキープしているが。
「わちしの名前はロリエ!火の女神イルザ様を信仰するイルザ教の司祭じゃ!」
えへん、といった感じに薄い胸を張るロリエ。
最近ロリ遭遇率高いなぁ。
「司祭って神官より偉いんだろ、まだ小さいのにすごいねぇ」
「ふふん、それほどでも…あるのじゃ!」
「うんうん、それでロリエちゃんは他の街から来たんでしょ?コムラードには誰かのおつかいできたのかな?」
「お主を捜しに来たと言っておるじゃろ!それになんでわちしを子供扱いするのじゃ!!」
いやだって子供だもん。
アイラとほぼ一緒じゃん、サイズ的に。
アイラは子供らしさに欠けるからあまりこういう扱いをしないけど。
「彼女は人族じゃありませんよ、ドワーフ族ですから見た目より年齢は上だと思います」
ラルフォイにそう耳打ちされて改めてロリエを見る。
え、ドワーフ?これがドワーフなの?
「えーと…ロリエちゃん年いくつ?」
「26じゃ!女の年をいきなり聞くとはなんて失礼なやつじゃ!」
また年齢詐欺かよ!わかるかそんなもん!
「わ、私より年上なのね…」
これでディーナより年上か…身長と体の特定部位の発育具合に大きな差があるな…
種族的な身体的特徴なんだろうけども…
そこでひとつ疑問が湧いた、セクハラになるかもしれんがどうしても聞いてみたい。
「ドワーフ族の女性に巨乳はいるのか?」
「乳が大きい女か?そんな恥ずかしいやつはおらんのじゃ!」
なるほど…ドワーフ族の中で巨乳は恥ずかしい存在なのか…
じゃあモモはやっぱり人族なのか…
「何を聞いてるんですか?そんなに胸の大きさが重要なんですか?」
「まあ待て落ち着けアイラ、君はまだこれから成長する、何も焦る必要はない」
「は?」
「はい、じゃあええと本題に入ろうか、ロリエはなんで俺のことを捜しに来たんだ?」
最近アイラの『は?』が何を意味するか大体わかるようになったので俺は話を進めることにした。
今のは『焦っていません、私が毎日牛乳を飲むから気にしているとでも?あれは好きで飲んでいるのです、ええそうです、だから胸とは関係ありません、いいですね?』という意味が込められているたぶん。
「わちしに神託があったのじゃ、ヴォルガーという男を捜せとな、それであちこちで調べた結果この街に黒髪の冒険者でヴォルガーという男がいると聞いてやってきたのじゃ」
「神託って、イルザから?」
「イルザ様とよぶのじゃ!呼び捨てにするなど許さんのじゃ!」
「ああはいはい、それで火の女神であるイルザ様からお告げがあって俺を捜しにこられたんですかねえ」
「そうじゃ!」
やっぱりあのメールでやりとりしたイルザか…
「イルザ様はなんのためにヴォルガーさんを捜させているんですか?」
一番の疑問であるところをラルフォイが尋ねた。
「そんなこと知らんのじゃ、とにかくヴォルガーを連れて来るように言われたのじゃ、イルザ様は気が短いから早く連れて行かないと大変なのじゃ」
「ヴォルガーさんをどこへ連れて行く気なんです?」
「それは勿論、イルザ教の大神殿があるオーキッドの首都に決まっておるのじゃ」
オーキッド、つまりリンデン王国ではない他国。
「ちなみに断るとどうなるんです?」
「だめだめ!断るなど絶対だめじゃ!前にイルザ様が怒ったときは空から火の玉が降ってきて街が火の海なったのじゃ!またあんなことがあっては困るのじゃ!断るときっとここにも火の玉が落ちて来るのじゃ!」
これもう拒否権無いに等しいですよね?
この世界の神様はろくなのがいない。
ロリエの言葉を聞いて、俺は忘れていた大事なことを思い出すのであった。