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日帰り旅行

クラクションがよくわからない人は6連ホーンで調べて参考にして下さい

 そうこうしてるうちにナクト村に着いた俺は、このまま魔動車でココアの宿まで突っ込んでいったら村人たちに驚かれるだろうか、いやかまやしねえ!ナクト村なら別にいいだろ!とほぼ考えることなく村の中へ魔動車ごと突入した。


「うわあああっなんだっこりゃあ!」


 畑仕事をしていた村人がこっちを見て驚いていた。

驚いた拍子に持っていたクワを放り投げて、飛んで行ったクワが別の村人の目の前にザクっと落ち、今度はそれに驚いた村人が慌てて走って近くの家にあった水桶に片足をつっこんでバランスを崩して変な方向に走った。


 片足を水桶につっこんだ村人は近くの民家の扉にぶつかり派手な音をたてた。

その音に驚いた家の中の奥様が何事かと思って外に出てきて、目の前で頭から血を流して倒れている村人を見て悲鳴をあげた。


 悲鳴を聞いてさらに村人が集まってきて倒れている男に気づき、その中の一人が必死の形相でどこかに走って行くと、武装したキッツを連れて戻ってきたので俺はそろそろ説明にいったほうがいいかもしれない。


「とりあえず、あの頭ぶつけて倒れた人を治療してきます」

「あ、はあ…いやしかし一瞬で大惨事になりましたな…」


 これはやっぱあれかなあ、最初に驚いてクワを投げたやつが悪いよなあ。

俺はなにも猛スピードで村にはいってきたわけではない、ちゃんと徐行していた。

道路交通法には違反してない、この世界でそれがある気はしないが。


 俺とタックスさんは魔動車を降りて、とことこ騒ぎの場所まで歩いて行った。


「あのー大丈夫ですか」

「大丈夫じゃない!早く怪我人を家の中へ…え、ヴォルガーさん?」

「やあ、どうも、とりあえず<ヒール>」


 俺の<ヒール>を受けて、頭から流血していた男は意識不明の重体から回復し、目が覚めて起き上がった。

つうかこいつサムじゃねえか。

俺が村にいたころ、いつも健康で一度も治療することのなかった男だ。


「サムまだ頭以外にどこか痛い?」

「あ?え?ああいや、大丈夫だ、どこも痛くない、なんでヴォルガーがいるんだ?」

「今ちょうど村に来たところなんだよ、あれに乗って」


 俺があれ、と言って指さした方向にはタックスさんがいて、そのもっと後ろのほうに魔動車がどーんと存在感を放っていた。


「何から聞いたらいいかわからないんですが、とりあえずお久しぶりですヴォルガーさん」

「いやー久しぶりだな!キッツも元気で…うおい、なんで短剣抜いてんの?危なくない?」

「これはサムが魔物にやられたかもしれないと聞いてここに来たので…」


 どういう伝わり方をしたんだ。


「サムは水桶に足つっこんでフラついて家の扉にぶつかっただけだぞ」


 俺がそう言ってやると皆が一斉にサムを見た。


「た、確かにそうだが、それは俺の目の前にいきなりクワが飛んできて驚いたせいだ!誰だクワを投げたやつは!!」

「投げたのはオラだけど、だって仕方ねえべ!?あの鉄の箱が村に急に入ってきてビックリしたからだべ!」


 クワを投げたおっさんが魔動車を指さすので皆がまたそっちを見た。

それからなぜか俺を見た。


「…まあ、魔物はいなかったということで、めでたしめでたし」

「さっきヴォルガーさん、あれに乗ってやってきたって言いませんでした?」

「ケリーとはどう?仲良くやってる?」

「ええおかげさまで…じゃなくて、あれはなんなんですか?」

「サムさあ、ボケっとこっち見てないで、血まみれで怖いからまず顔洗ってきたほうがいいよ」

「ヴォルガーさん!!」

「ああはいはい!俺だよ!俺があれを動かしてコムラードからはるばるタックスさんと二人やってきました!」


 皆が黙って俺を見る、つらいな。

せめてなんか言って欲しい。


「…えー…すいませんでした…」


 一応謝っておいた。


「…まあ、宿に行きましょうか、そこで話をしましょう」


 キッツがそう言ったのをきっかけに、その場に集まった村人たちは解散した。

タックスさんは歩いてこのままキッツと一緒に宿に行くようだ。


 俺は魔動車を宿まで持っていくために再び乗り込んでエンジンをかけた。

なんでさっき俺だけ謝罪させられたの?というむかつきが若干あったので、腹いせに前の方を歩いて行くキッツを脅かしてやろうとハンドルの中心を叩いた。


 パラーラーリーラーリラーラリラー。


 ププーっというクラクションが鳴るかと思ったら全然違う凄い音がした。

これゴッ〇ファーザーのテーマじゃねえか!!なんでだよ!?


 キッツとタックスさんがビクっ!っとして後ろを振り返った。

さらに畑仕事にもどっていたおっさんがまた驚いてクワを投げた。


 俺は二人に怒られた。


………………


………


「よくわかんないけどすごいねあれ、魔動車っていうんだっけ?今朝コムラードを出て、もうここまで着いちゃったんでしょ?」


 ケリーがそんなことを言いながらお茶を出してくれた。

魔動車は宿の裏にとめてある、厩舎にはでかすぎて入らなかった。

キーが無いので不用心な気もしたが、タックスさんはわかってる人じゃないと魔動車のドア自体開けられないから大丈夫だと言ってたのでそれもそうだなと思って放置してきた。


「そうだよ、ところで他にお客さんいないの?」

「今朝まで商人の人たちがいたんがいたんだけどね、ヨーンのほうへ行っちゃったよ」


 ヨーンというのはナクト村よりさらに南、俺がこの世界に降り立ったところからもっと海のほうへ近づくとある漁村のことだ。

俺はマーくんからコムラード近辺の地図をみせてもらうまでナクト村が最南端かと思っていた。

でもこの村は漁業はやってないし、やるにしてはちょっと海から遠い。

なので普通に漁業をやってるところは他にあって当然だった。


 俺はヨーンと聞いて、新鮮な海産物食べてないなあ、とか考えていた。

コムラードで売っていた海の魚は干物か塩漬けだったんだよなあ。


「魔動車でヨーンへ行けばその日のうちにとれた魚をコムラードまで持って帰れますぞ」


 顔に出てたかな、タックスさんに心の内を悟られてしまった。


「村人が驚くんでナクト村を通るときはもうあの凄い音を出さないでくださいよ」

「わかってるって、俺も知らなかったんだって」


 キッツにクラクションのことを注意された。

宿についてからこれまでの経緯を説明したときも謝ったのに!


「凄い音?えー私も聞きたかったなー」

「おかみさんが怒ったときの声より凄い音だよ、やめといたほうがいい」

「うわっ、そんなにうるさいんだ」

「私も魔動車からあんな音が出るのは初めて聞きましたな、あれは何をしたらあんな音が出るんです?」


 タックスさんにクラクションについて説明した。

あれはハンドルの真ん中を強く押すと出る音で、前を歩いてる人を轢かないように警告するためのものだと。


 それからキッツとケリーに、色々な話をした。

主にタックスさんが俺のことについて話をしてくれた。

俺がナクト村を出て、コムラードについてからどういう生活をしていたか。

頼んでないのに。


 俺は話を聞きながら、たまに適当に相槌をうったりつっこみをいれたりしながら、キッツとケリーを眺めていた。

この二人変わってねえなあ、いやちょっと距離感が近いか、さりげなくお互いボディタッチしてやがるし、かーっ、なんだよまったくお子さんはまだですか?とか聞いてやろうか。


 時間がたつのも忘れ話に興じていたんだが、俺は唐突に腹減ったなと思い、ケリーに「なんか食べるものない?」と聞いた。


「まだ夕飯には早いけど何か作って持ってこようか、あ、勿論お金は貰うよ?」

「頼むわ、ここ夕飯は出してないのに悪いな」

「ああそれね、最近は出すようになったから平気よ」


 どうやらキッツと一緒になったので男手が増え、夕飯も提供するようになったようだ。

タックスさんは部屋も後で借りましょうと言っててもう完全に泊まる気である。

それを聞いたキッツはカイムも呼んでくるといって、宿を出て行ってしまった。

カイムもそうだな、あいつ独身で寂しいだろうし呼ばないと可哀想だな。


 ケリーが食事を作って持ってきたころ、キッツもカイムを連れて戻ってきた。

あとケリーの母親、ココアも一緒に食事を持ってきて同じテーブルについた。

なんだか賑やかな感じになっちゃったな。


「ちょっと聞いたかいカイム!ヴォルガーさん女の子二人と暮らしてるって」

「おかみさん、何で俺にいうんだよ」

「だってあんただけまだ一人身じゃないの!いつになったら結婚するんだい!」

「そんなの俺の勝手だろ!!大体ヴォルガーんとこにいるって女の片方は子供だろーが!?」


 カイムはココアに独身であることをいじられていた。

おばちゃんてなんで人の結婚を気にするんだろうなあ。


「でもディーナさんって人は大人なんでしょ?ねえねえ、どこまでいったの?結婚はする予定?」


 そんなおばちゃんの血を引くケリーが俺に怒涛の質問を浴びせて来る。


「小さい女の子を預かってるんだからお前らと違って子作りもできないよ」


 そう言ってやったらケリーは顔を真っ赤にして質問攻撃を中止した。

まあ今はな、と発言に付け足すのを忘れたけど、意図的に。


「そ、それより僕はヴォルガーさんが冒険者になってバジリスクとかってとんでもない魔物を討伐してることに驚きましたよ…」

「ああそれは本当そうだな、しかもその後盗賊に攫われたんだろ?何でそんなことになるんだ?」

「俺は光魔法が使えるだろ、それを知った盗賊が街に来れないお頭の怪我を治すために無理やり俺を連れてったんだよ、バジリスク討伐に行く馬車の後をずっとつけてたらしい」

「あんたよくそれで無事だったねえ、ひどい目にあわされなかったかい?」

「んー、ちゃんとお頭の怪我治しからそれなりにそこで楽しく暮らしてたよ」


 ナインスたちのことはあまり言うわけには行かないので適当に答えておいた。

ケリーに「盗賊に捕まってて楽しく暮らせるって頭おかしくない?」とか言ってきたが、俺が「別段おかしくはない、美人の女もいたしな」と返すと「やっぱおかしいだろ」とカイムにも言われた。


 それから今度はナクト村のことを色々聞いた。

せっかく来たから誰か病気になって治療を必要としていないか聞いたが、特に大した怪我や病気をした村人もいないらしい。

強いて言うなら村長が近所のばあさんにフラれたショックでヤケ酒をして二日酔いで寝込んでいるくらいのようだ。

治したほうがいいか聞いたら元気になるとうっとおしいからしばらく大人しくさせた方が村のためだと言われた。


 哀れな村長だ、まあ今回で通算20回目の玉砕&ヤケ酒ということなのでほっといていいだろう。

毎回告白されるばあさんもいい迷惑だな。


 で、ナクト村に病人がいると思って来てくれたのか、と勘違いしてたので


「私を元気づけようとヴォルガーさんが魔動車で連れ出してくれたんですよ」


 タックスさんがそう言ってナクト村にはたまたま来ただけと説明してくれた。

魔動車の話を出したので話はまたそれについて聞かれることになった。

カイムが「裏にあるの見たが、あれって俺でも動かせるのか?」と興味を持っていたので、素人が迂闊なことをすると体グッチャグチャのバキバキになって死ぬ可能性があると教えてやった。


「おいおいそんなこと言って冗談だろ、俺を脅かそうとしてるな」

「ああ冗談ではないですよ、私は実際そうなりましたからね、たははは、あの時はヴォルガーさんがいなければ確実にあの世行でしたなあ」

「…冗談じゃないのかよ、やっぱいいわ俺乗らなくて」


 しばらく食事を楽しんでいると、日も暮れて、俺はふとディーナとアイラのことを思い出した。


「あいつらちゃんと飯食ってるかなあ…」

「どうしたんです?何か心配ごとがあるんですか?」


 つい口にだしてしまったのをキッツに聞かれた。


「いやちょっと、コムラードにいるディーナとアイラが今日ご飯どうしたかなと」

「そのアイラちゃんて子はともかく、ディーナさんってそこそこ年いってるんじゃなかったんですか?」

「そうなんだけど、馬鹿なんだよ、ものすごい馬鹿なんだ」

「ばっ…そ、そうなんですか」

「ああ、アイラのほうがしっかりしてる、そうだな、アイラがいるからきっと大丈夫だな」

「しかし食事はヴォルガーさんが毎日作ってるんですよね?…それってもう恋人っていうか…いや、なんでもないです…」


 何が言いたいキッツよ。

俺から目を背けるな。

ははっ、お前の嫁さんは料理が上手で大変よろしいですね。


「あれ、ヴォルガーさんの荷物、なんか光ってるよ」


 横にいるキッツの顔をじろじろ見ながらスープをすするという攻撃をしていた俺はケリーにそう言われて攻撃を一時中断し、自分の荷物を見た。

確かに光っている、袋の口からピカピカ光が漏れている。


「これは…通信クリスタルかな、ラルフォイから連絡か?初めてだな、何事だろ」


 俺は荷物から通信クリスタルを取り出した。


「わっ、それなに?」

「えー、まあ後で説明してやる、ちょっと静かにして」


 なんとなく通信クリスタルを携帯電話を耳にあてるように顔の横へ持っていき「はいもしもし、ヴォルガーです」と喋った。

別に顔の横に持っていく必要はない、ついそうしてしまうだけ。


『ああよかった、ようやく気づいてくれましたか』


 顔の横だとうるせえな、ハンズフリーで聞けるくらい音量はあるから近づける必要はないな、俺は少し耳から通信クリスタルを離す。


「ラルフォイか、どしたの、なんか急用?」

『急用じゃなきゃわざわざ使いませんよ!!今どこにいるんです!』

「え、ナクト村にいるけど…タックスさんと二人で遊びにきてる」


 俺が通信クリスタルでラルフォイとやりとりしているのをキッツたちは、うわまた何かヴォルガーさんが変なことしてるって顔で見ていたつうか口にだしてるから確実にそう思ってる。

お前元冒険者のくせに知らんのかこれ!


『ナクト村!?なんでまたそんなところに』

「魔動車で来た、それで用件はなんだよ?」

『ああはい、手短に言いますが、教会からヴォルガーさんの事を探して神官たちがギルドに来ました、恐らく街を探しても見つからなかったのでギルドに来たのでしょう、今も受付ですぐ身柄を引き渡せなどと騒いでいます』

「えっ、なんで!?アイシャ教はラルフォイが抑えてるんじゃないのか!」

『来ているのはアイシャ教の神官ではありません、イルザ教、火の女神イルザを信仰している教会の神官です、貴方一体今度は何をやったんですか!?』


 えっ…いや…知らんし…

イルザ教…イルザ?

そんなのと接点ないような…あ、いや、ほわオンでメールしたことはあるな、それが確かイルザだった。


 でもそれってずっと前の話だぞ?


「…あのよくわからんけどそれって、すぐ帰った方がいいかな?」

『すぐ帰ってきて下さい!!』

「あ、はい、じゃこれから帰るので一旦切りまーす<カット>」


 …静かになった。


「今の声、コムラード冒険者ギルドのマスターだろ」

「そう、カイムは会ったことあるのか?」

「あるが…あんな剣幕で怒ってるところは見たこと、あ、いや聞いたことないな」

「早く帰らんともっと怒られそうだから帰るわ」


 俺はタックスさんにそういうわけなんですいませんがこれから帰りましょうと告げ、ケリーとおかみさんには部屋用意してくれたのにごめんと謝っておいた。

キッツには別に謝らなくていいやと思ったので謝らなかった。


「次は一緒に暮らしてるディーナちゃんとアイラちゃんも連れておいでよ!」


 ココアにそう言われながら俺とタックスさんは、魔動車に乗り込み、すぐナクト村を発った。


 しかしなんでイルザ教の神官が…?

運転しながらほわオンのメールでやり取りしたイルザという女神のことを思い出してみる。

確か結構短気で、文字数制限があるっつってんのに馬鹿だから毎回長文メール出そうとして肝心なことが言えず途中で文が途切れ


 ん、なんか最近そんな相手と話をしたな。

 

 あっ、ザミールから帰る前に通信クリスタルに出てきた女!

あいつも同じくらい短気で馬鹿っぽかった!


 え、まさかあの時、女神とつながっちゃったの?

しかもそれ根に持ってる?


 万が一、いや億が一、俺の考えることが正しかった場合、ひょっとして住所特定されたのか。


 俺はなんとなく腹に分厚い雑誌を仕込んでいかなければいけない気がしたが、この世界のどこにもそんなものはないと気づくと、額から変な汗が出て来るのを感じた。

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