表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/273

壊れて…ないです

ヴォルガーのほうは修理代が払えません

・追記 9/8に書いた分の後半部分に、おかしいところがあったので9/9に修正しました。

ラルフォイとの会話シーンです、気づいてた人はそっと心にしまっておいてください。

荒野を爆走する魔動車。

20分くらい走っただろうか、どうやら誰も俺たちを追いかけて来る様子はない。


 フッ、まあ時速120キロに追いついてくるようなやつはまずいまい。

馬が主な乗り物であるこの世界において魔動車は圧倒的スピードを誇る。


「しかしなんだか結構揺れるな、助手席に乗ってるときはそんなでもなかったのに」


 やたらさっきからガタガタガタガタ俺の座る運転席が揺れる。

この席だけサスペンションついてないの?ディーナはよく平気だったな。


「ヴォルるん後ろ見て」

「後ろ?」


 バックミラーには何も映っていない、脅かすんじゃない。


「何もないけど、俺たちの後ろには雄大な大地があるだけだ」

「外じゃなくてすぐ後ろ、アイラちゃん」


 アイラがどうしたと思ってやや速度を落としてチラっと後ろを見た。

…アイラが後ろから運転席にしがみつくようにして痙攣していた。


「うおわっ何してんの!?つーかガタガタ揺らすのやめてくれ!」

「あああ、わたしも、そそそ、そうしたいんですがなぜか体が勝手にあああ」

「あっ」


 俺はブレーキを踏んで時速60キロくらいまで落とした。

アイラの痙攣はとまった、やはりこれは…恐怖を体が覚えているのか…

そういえば安全運転で帰るんだった。


「安全運転、忘れてないぞ?」


 シートベルトを握りしめ、こっちを黙ってみていたディーナに俺はそう言ってやった。


………………


………


 途中、休憩を挟みながら運転して昼過ぎにはコムラードに着いた。

マーくんは街はいってすぐのところで先に降りて一旦自分の泊ってる宿へ向かった。

残った俺たちはタックスさんの店に向かい、倉庫の中へ魔動車を駐車する。


「あ!兄貴!おつとめご苦労様です!」


 魔動車を降りて倉庫を出ると、そこにいたモレグに声をかけられた。

倉庫に入る前にもなんかこっちに気づくと手を振ってごちゃごちゃいってたが窓も開けられないのでスルーしてとりあえず先に魔動車を倉庫に入れたのだ。


「なんかそんな言い方されると刑務所帰りみたいなんだけど俺…」

「ケイムショ?」

「いや気にするな…それよりモレグがこれ直したのか?」


 俺たちが出発前はまだ壊れていた倉庫の出入り口の壁が修復されている。


「へい、色んな建設現場で仕事手伝ったことがあるんで、代わりにやらせてもらいました」

「すごいわ!モレグ君!その調子で今後もしっかり頼んだわよ!」


 ディーナは偉そうにそんなことを言っていた、元はお前がどうにかしなきゃいけなかったはずだろ。


「あ、でも代金はディーナさんから貰うように言われてますんで」

「ええええ!タダで直してくれたんじゃないの!?」

「いえ、いつまでもあのままだと見栄えが悪くてみっともないんで先に治しただけです、代金はごまかさずにディーナさんから貰わないと俺が怒られちまいますんで…」


 まあ当然だな、どうしたってタダは無理だろタダは。

修理に使う材料費もあるのに、それに俺たちがザミールへ行ってる間モレグは一人頑張って直してくれたんだぞ…俺たちが貴族の家で飯くったり風呂はいってる頃モレグは壁をぬりぬりしてたんだぞ。


「ところで兄貴、アイラの嬢ちゃんはどっか悪いんですか?」


 モレグは俺が背中におぶったアイラの様子が気になるようだった。


「疲れて寝てるだけだよ、もし病気や怪我なら俺が治してるから」

「それもそうすね!いやさすが兄貴!リンデンイチの男!」

「ははは、まあまあそれほどでも、とりあえず俺はアイラを家に寝かせて来るんで…ディーナは代金をちゃんといくらになるか聞いて用意しとけよ!!」

「うっ…今の私のお金でなんとかなるかしら…」


 我が家という名の借家に入ってベッドにアイラを寝かせる。

ふう…いやしかし、これ起きたらまた記憶飛んでるかもしれねえな。


 アイラが寝ているのにはわけがある。

安全運転で帰っていたら途中、でかいミミズが地面からぼこぼこ出てきた。

ザミールへ行くときにも見たやつだ。


 進行方向にいっぱいいたんで、うわっ、気持ち悪、と思ってついスピードをあげて迂回して逃げるように魔動車を飛ばした。

マーくんは「なぜ轢き殺さん」と運転免許センターで言ったら一発で不合格になりそうな発言をしていた、不合格どころか警察を呼ばれるかもしれない。


 まあそれで気づいたら160キロ出してた。

アイラはその時点で意識を失ったようだ、防衛本能が働いて脳のスイッチをオフにしたのかもしれない。

もうこのままのほうがアイラのためにいいか、と思ってそのまま寝かせて帰ってきた。


 ベッドに横たわるアイラを見るとやすらかな寝息をたてていた。

大丈夫そうだな、うん大丈夫に決まってるさ、念のため後で甘いもの用意しとこう。


「ギルド行ってラルフォイに報告して来るから、アイラのこと見といてくれ」


 家の外でモレグから修理代を聞かされ、どうやら今まで冒険者として稼いだ金の9割近くを失ったらしいディーナが遠い目をして立っていたので、伝言して俺は冒険者ギルドへ向かった。


………


 冒険者ギルドに入り受付コンビに挨拶され、ザミールから戻ったんでラルフォイに報告したいことを伝えると、いつもの二階のラルフォイがいる部屋へ向かった。

もう案内が必要かどうかすら聞いてこない、勝手にどうぞみたいな感じ。

数名、たぶん俺のことを知らないんだろう冒険者があいつ何者?とニーアに尋ねていた。

ニーアは「お菓子職人でたまに冒険者の仕事もする人」と説明していた。


 そんなやついるかよ!!冒険者のほうがついでみたいになってるじゃん!


「俺ってそんなに冒険者っぽく見えないかな?」

「来るなりなんですか、僕からはそうですね、見えませんとしか言いようがありませんが」


 部屋に入ってラルフォイにそう尋ねるとそうかぁやっぱ見えないのかあと再確認させられた。


「何でだと思う?」

「武器なし、防具もなし、一見するとそこらへんで屋台を出してるおじさんとあまり変わらないように見えるからじゃないですか?」

「やはり装備か…バジリスク討伐の時に使った盾ならあるんだが」


 メルーアがあの時回収しておいてくれた盾は今は我が家の壁に立てかけられて盛大に邪魔くさい存在となっている。

普段まず使わない、一度もしかしてホットプレートとして使えるんじゃ、と思って試してみたが熱を通さない素材だったので使い物にならなかった。

盾としては優秀なんだろうが。


「あんなバカでかい盾だけ持ってたっておかしいでしょう、それよりザミールから戻ってきたならそっちの話をしてくださいよ、ヴォルガーさんの装備についてはどうでもいいですから」

「どうでもいいって…まあはい、じゃ話すよ…」


 釈然としないものを胸に抱えながらも俺はザミールでの出来事をラルフォイに報告した。


「あちらでもアバランシュの異変に気が付いてはいたんですね、ナインスさんたちのことも伝わったならば彼女らを使ってザミールにいるリディオン男爵とも連絡がとりやすくなりました」

「ナインスたちは今はもう森に?」

「ええ、でも常時連絡員として彼女の部下が数名コムラードに滞在しているので、馬を飛ばせば翌日には街へ呼べます」


 それでも一日内で呼ぶのは無理か。

通信クリスタルがナインスたちにもあれば…あ、そうだ。


「あとさあこの借りてた通信クリスタルだけど」


 俺は通信クリスタルを使おうとしたらどこかの知らない女につながったときのことを話した。


「二日しかたっていないのに使えるのもおかしいですが、そんな現象は聞いたことがありません、私が持ってたものは何も反応ありませんでしたよ」


 ラルフォイが言うには通信クリスタルとは元は精神クリスタル、俺が知ってる白露水晶の加工品で、一つの石を二つに割って加工すると、破片同士で通信できるようになるというシロモノらしい。

電話というよりトランシーバーの方が近いか。


 このコムラード冒険者ギルドには全部で4つの通信クリスタルが現在あって、一つはザミールの冒険者ギルドに、一つはスタベンという街の冒険者ギルドにそれぞれつながっている。

残り二つの内一つは今俺が持ってるやつの片割れ。

そして最後の一つがラルフォイが個人的に、王都にあるアイシャ教の神殿と通信するための物。


 めちゃ金かかってんなこれだけで。

ワンセット100万コルだろ?盗まれたらどうするんだ。


「片方だけ盗んでも使い道がない上に、市場に出すと高価すぎてすぐバレるので 盗人からすれば扱いづらい品物ですよ」


 盗難の心配をしたらそんな答えが返ってきた。


「その知らない女性につながったというのはどういう状況なんです?再現できますか?」

「狂暴な女だったので出来れば再現したくないが、まあやるだけやってみよう」


 俺は自分の荷物から通信クリスタルを取り出し、手にとって、はぁぁぁぁ!と気合をいれた。


「それは何の意味が?」

「前回はこうしたらちょっと光ったんだよ!!あ、ほら!ちょっと光ってきてるだろ!」

「確かに…ぼんやり光ってますね、はじめてみる現象です」

「こうなった瞬間に<コール>!」


 ピカッ!


「…何も聞こえませんね」

「「あれ、前は変な女に…いや、待て、おかしいな、俺の声が聞こえる」」


 なぜか自分の声がどこかから聞こえた。

この部屋のどこかだ、俺が喋るとほとんど同時に。


 ラルフォイも気づいたようで、つかつかと部屋においてある戸棚の前へいくと、鍵をつかって棚を開け、中から通信クリスタルを取り出した。


「「これがヴォルガーさんとの通信用なんですが、どういうことですかね?」」

「「あの、目の前で二重に喋るのやめてください、ちょっと気持ち悪いです」」


 ラルフォイの声が俺が持ってるクリスタルから、俺の声がラルフォイの持ってるクリスタルからそれぞれ聞こえる。


「「誰のせいでこうなってるんですか??」」

「「故障しているのではなかろうか」」

「「ヴォルガーさんが壊したんですか??では弁償…」」

「「正常でした、どこも壊れていません、俺の勘違いです」」


 うん、通信できてはいるのだから何も問題はない。

断じて壊れてはいない。


「「…<カット>」」


 ラルフォイがそう言うと光が消えて二重現象は収まった。


「…どういうわけかはわかりませんが、ヴォルガーさんは自由にいつでも発信できるようですね」

「なるほど、でもこれ一応返しておこうかと」

「それはヴォルガーさんが持っていてください」

「ええ…」


 俺としてはあまり持っていたくないのに。


「いや僕も意味もなくそう言ってるわけじゃないんですよ、その理由はマリンダにヴォルガーさんとメンディーナさんの二人を監視させるのはもうやめるからです」

「え、とうとう?」

「はい、実はつい先日、王都の神殿にいる巫女にアイシャ様から神託がありまして」


 巫女…聖女とは別にそういうポジションの人もいるのか。


「神託の内容までは僕は聞かされてないんですが、今後はその巫女にのみ神託を告げるとアイシャ様から言われたそうなのでメンディーナさんにはもう今後神託がくることは無いと判断されました」

「はあ、それはよかった、あ、でもそうするとラルフォイはどうなる?まだこの街にいられるのか?」

「僕は現状維持です、コムラードでの領主との関係がうまくいってアイシャ教への寄付が安定しているのでそれが続く限りはまあここから動かされることはないでしょう」


 どことなくラルフォイが嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。

なんにせよマリンダさんもこれで一安心というところだろう。


「ただ、メンディーナさんはともかくヴォルガーさんは僕としては放置できないんです」

「なんでだっ」

「石化病の冒険者を全員治療したでしょう、あの件は放置していたらコムラードにあるアイシャ教の教会から王都の神殿に報告がいってるところですよ、今は僕がこの街の教会を買収しているので大丈夫ですが」

「そ、そうだったんだ、ええと…お世話になっております」

「…ただそれでも完璧とは言えません、どこかから情報が伝わってヴォルガーさんのことを調べに来る者がいるかもしれない、その時にいち早く貴方に伝えるためにも通信クリスタルがあったほうがいいんです…まあ僕からはなかなか通信できそうにありませんが」


 今使ったからラルフォイの持ってるほうはまたバッテリー切れってことか。

ま、いいか、俺からいつでもかけられるし。


「俺のために持っておけということだな」

「そういうことです」

「心配してくれてんのか」

「…ええ、そうです、もう少し貴方は危機感を持つべきですよ、いいですか?そもそも石化病を治せる魔法などというものは…」


 そこからラルフォイのお小言がはじまってしまった。

うわ、めんどくせえなと思ったがこいつなりに俺のことを心配してくれているのはわかった。


 なので俺は大人しく、ラルフォイのお小言を聞いておくことにした。


 今日だけな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ