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安全運転

するとはいってな…いや言ってるか

 一夜明けて翌日、俺たちはすっかりお世話になったリディオン家を後にしコムラードに戻るべくザミールの外へ隠しておいた魔動車まで戻ってきていた。


「ルルちゃん泣いてたわねぇ…もうちょっと一緒にいてあげたほうがよかったかしら」


 ディーナが言う通りルルイエは、俺たちとの別れ際「帰っちゃやだー」と言ってしがみついて泣いていた。

俺にではない、マーくんにしがみついてだ。

マーくんもさすがにどうしていいかわからず硬直していた。


 俺のほうにはラライアが…しがみついてきてはいないが、丁寧に別れの挨拶をしてくれた。

避けられてる気がしていたが最後には「また来てください」って言われたので俺はなんだ嫌われてはないのか良かったと安堵した。


「あんまりいても迷惑になりますよ、ほら、お風呂のこともありますし…」


 気になっていたお風呂は無事に入れた。

日本の普通の家庭にあるようなものよりは広めの、石で作られた浴槽があった。

俺は最後に入って、ゆっくり、30分以上はお湯につかっていた。

コムラードの銭湯とは違う、静かな空間で限りなくリラックスしたのだ。


 風呂の湯は、同室にあった貯水タンクみたいな、魔法の道具で沸かしたものを浴槽に手押しポンプで移すようにできていて、俺はそれの使い方をヤングさんから聞いて遠慮なくお湯をなみなみ浴槽に注いだ。

そしてざぶざぶやって満喫していたら、俺が風呂から出てこないことを心配したレックスさんが様子を見に訪れ、溢れかえるお湯をみるとひきつった顔をして「もう少し湯量を加減してくれると…」と言った。


 燃料に赤鉄セキテツを使うらしい。

赤鉄は俺が料理に使う赤鉄板や、魔動車の燃料としても使われてる赤い鉄の延べ棒だ。

買うと高い、一本金貨1枚する。

風呂にあるマシーンはそれを同時に3本使うので、あんまり派手に使われると買い替え時期が早くなって節約生活をしているリディオン家では無視できない問題となるのだ。


 説明された後、もっと早く言ってくれと思った、ていうかあの物体やっぱエネルギー切れを起こすのか。

魔動車は10本くらいブチ込んでるんだけど…やべえないつ切れるか目安がまったくわからん。

ガソリンメーターがないんだよ。


「お風呂がどうしたの?」

「私たちはさっさと体を洗って出ましたけど、ヴォルさんは王族のごとく湯水を垂れ流してお風呂に入ったんですよ、よく貴族の家でそこまで遠慮なくできますねと私は感心しました」

「いやだってごゆっくりどうぞって言われたからそうしたまでだぞ俺は」


 魔動車の心配をしてたらアイラが褒めているようで全く褒めていない言葉を発していたので反論した。

そしたら俺を見て、はあ、とため息をついていた、俺は悪くないぞ。


「まあいいや…それより皆、魔動車に乗るのはちょっと待って、特にマーくん運転席のドアに触らないで」

「む…み、見ていただけだ、開けて、ましてやここに座ろうとは思ってないぞ?」


 不審なマーくんを止めた俺は、荷物の中から通信クリスタルを取り出した。


「<コール>」


 通信クリスタルは無反応、あれ、コールじゃなかったっけ?


「何をしている」

「いやこれから帰りますと連絡をいれとこうかと」

「いらんだろうそんな連絡は、どうせすぐに着くのだぞ」

「今日は俺が安全運転をして帰るからそんなに早くは着かないよ」

「ヴォルるん運転できるの?したことないんじゃ?」

「できるできる、お前らよりよっぽどできる」


 それに飛ばしたらアイラの記憶がよみがえるかもしれない。

マーくんの運転という忌まわしき封印された記憶が。


「あとまぁーナインスのことバラしちゃったし、先に言っとこうかなと<コール>」

「それは元よりラルフォイも想定していたことだ、リディオン男爵を味方につけるなら必要なことだったからな」

「まあね、つか全然つながらねえなこれ、<コール>であってるよな?」


 俺はうんともすんともいわない通信クリスタルにコールコールコール!と連呼してみた。

意味はなかった。


「ヴォルさんそれ使えるようになるのは明日ですよ?」

「え?三日に一回使えるんじゃ?」

「一度使うと三日使えないんです、前に使ったのがコムラードの出発前日、そこから数えて一日目はザミールの宿に泊った日、二日目はリディオン男爵の家、それで三日目が今日です」


 あー…充電に完全に三日かかるってことか…勘違いしてたな。


「自然にある魔力を吸収して蓄えるのにそれくらいかかるらしいぞ」


 魔力という謎エネルギーで動いてるのかこれも…俺も魔力あるらしいからなんとかならんのか。


 俺は通信クリスタルを握りしめて、はぁぁぁぁぁ!と気合をいれてみた。


「意味不明な行動はいいですから…」

「あれ、でもちょっとさっきより光ってない?」


 なにっ?自分でもできると思わなかったが、ディーナに言われて改めて通信クリスタルをみると確かにぼんやり光っている。


「今ならいける!たぶん!<コール>!」


 ピカッ、と通信クリスタルが光った。

アイラたちも驚いて様子を黙ってみている。


『ん…?おお!これは姉上からの通信か!珍しいこともあるものだ!』


 …あれ、誰だろこれ…ラルフォイじゃないな。

通信クリスタルからは知らない女の声が聞こえてきた。


『それで姉上!今日はどうしたのです?』


 姉上って俺のことを誰と勘違いしてるんだろうこの人は。


「そ、それ誰と話してるのヴォルるん」

「いやあ、俺にもわからないかなあ、これってラルフォイが持ってるのにしかつながらないんじゃないの?」

『む、何を言って、いや誰だお前、姉上ではないな!』


 いかん、通話中だった、聞いた仕様では手に持ってると声が伝わっちゃうんだったか。

俺は通信クリスタルを一旦地面に置いた。


「わ、私もそう聞いてますが、これはどこの誰と通信しているのです?」

『こらーっ!おい!答えろ!お前ぇ!』


 地面においた通信クリスタルから怒鳴るような声が聞こえてくる。

短気な人っぽい、そんなキレなくていいだろ、間違い電話なだけだぞ。


「相手に聞いてみる?どちら様ですかって」

「だが向こうはなぜか怒りくるっているようだぞ」


 腕組みしてマーくんと一緒に足元の通信クリスタルを観察。


『無視するな!聞いてるんだろう!!私を無視すると許さないぞ!頭に来た!今すぐ行って叩きのめしてやる!!』


 あぶねえなこいつ、勝手にどんどん一人でヒートアップしてやがる。

しかも今すぐって…冗談だよな?GPSとかついてないよな?


「これ話やめたいときどうすればいいんだ?」

「確か手に持って…<カット>と言えば良かったと思いますが…」


 ふうよかった、アイラがちゃんと操作方法を覚えてくれてて。

俺は地面の通信クリスタルを拾って手にとる。


「すいません、間違えました」

『はぁ!?間違えたってなんだ!…いやお前!その声、聞いたことあるぞ!確か…ヴォ』

「<カット>」


 ブツッ、とそこで唐突に会話は切れた。


「…今の相手、ヴォルさんのことを知ってるような感じじゃありませんでしたか」

「いや俺は全然知らないぞ、聞き覚えもない、だからきっと向こうの勘違いだ」


 本当に知らない、初めて聞く声だ。

こわー…まさか俺のストーカーかな?

これやっぱり不良品じゃないか?帰ったらラルフォイにさっさと返そう。


「でも最後にヴォルるんの名前言いかけてなかった?」

「怖い事言うなよ、あんな狂暴な女知らないって本当に」


 とりあえず狂暴な女から返信が来る様子はなかったので、俺はもう通信クリスタルを荷物の袋にしまった。

そして魔動車の運転席のドアを開け、乗り込む。


「もう早くコムラードに帰ろう」

「今すぐ行くと言われたから怖がってるんですか?」

「そうだ!本当に来たらどうする!あの手のやつは刃物とか持ち出してくるようなやつだぞ!おまけに一度顔を合わせたら最後、こっちの住所とか調べて家まで押しかけて来た挙句、家の合鍵を勝手に作って不法侵入してくるぞ!!」

「な、なんでそんなことまでわかるんですか」

「そういうのを見たことがあるからだ!」


 ただし地球のネット上での話になるが!!

だからこそ俺はほわオンでは慎重に、地雷を避けて女の子を探していたのだ!

…結局異世界に拉致されているので避けられてないともいえるがそれはさておき!


「グズグズするなっ!早く乗るんだっ!」


 俺の言葉でアイラとマーくんが後ろから乗り込むと、ディーナは急いでバックドアを閉め、助手席に飛び込んできた。

そして俺はスピードメーター横に並んだみっつのボタンのうち真ん中を押す。

魔動車がドドドドドとエンジン音をならしはじめた。


「よしっ!行くぞ!しっかりつかまっていろ!」


 俺はフルスロットルで魔動車を発進させた。


 安全運転のことはもう忘れていた。

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