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リディオン家4

ちょっとややこしいかも

 リディオン家での夕食を終えた後、俺たちは再び応接室に集まった。

しかし今度はリアナさんと子供二人がいない。

風呂に入ってるからだ、そのまま風呂を出た後は子供らと共に寝る様子。

ヤングさんにも席を外してもらっている。

恐らく近くの部屋にはいるだろうけど。


 ていうか風呂があるって、さすが貴族の家。

後ほどどうぞお使いくださいとヤングさんに言われた時は、心の中でかなり喜んだ。

そしてご家庭用の風呂がどんなもんかじっくり観察するつもりだった。

貴族の物件なので一般のご家庭用ではないかもしれないが、それでも風呂がある家という存在に出会えたことはこの世界において記念すべき日となるであろうことは間違いない。


「それで、私に相談したいこととは?」

「ええ、風呂付の家を買うにはどれくらいの金があればいいのかなと思いまして」

「え?まあ…私の屋敷は金貨400枚といったところですが」


 40万コルか…さすがにそれくらいはするか…

この前、大型青鉄庫と金庫買って、ついでに赤鉄板ももう一つ買ったから俺の全財産3万コルくらいしかないな。

いやでも、この家は風呂があるから高いんではなくて貴族の家として広さもあるから高いのであって。


「普通の家ではどれくらいでしょう、風呂さえついてればいいんですが」

「それは私にはわかりかねます…家を扱う商人に聞いた方がいいかと…」


 くっ、それもそうか。

でもタックスさんはコムラードに来てまだそんな経ってないから物件にはあまり詳しくないんだよなあ。


「おい」

「ヴォルさん?」


 マーくんとアイラが俺の方を見て、何の話をしている、と目で訴えてきた。

いやまあはい、わかってますよ、でも聞きたかったんだ。

ちなみにディーナは何を考えているかわからない虚ろな目をしている、たぶん半分寝ている。

腹いっぱいになっておねむなのだ。


「家のことはさておき、わざわざ娘さんたちがいないところでレックスさんに相談したかったことは別にあります」

「そ、そうですか、なぜ急に家の話なのかと思いましたよ」


 俺の中では風呂付の家>アバランシュのことなんだけどな、怒られちゃうからな、話をするよ。


「実はアバランシュのことなんですが、少々気になる噂を聞きまして」

「噂ですか?それはどのような?」

「…なんでも違法な奴隷売買が行われているとか」

「それは…人族が奴隷として売られている、ということですか?」


 俺はゆっくり頷いた。

これはナインスたちのもたらした情報だ。


「ありえません、リンデン王国では人族の奴隷は禁止されています。その法を破った場合の罪は重く、誰であろうと死刑になります」

「その割にはなんですぐ人族の奴隷に関することだと思ったんです?」

「…ヴォルガーさんが違法と言いましたので」

「違法と言っても色々あるでしょう、人族はだめでも獣人族の奴隷は認められているんですよね?でしたら不正な値段での取引だとか、奴隷に対する扱い、元となる奴隷の入手方法、こういうのは法で決められてないんですか?」

「いえ、決められています…」

「…レックスさんって、交渉とか向いてないって言われたことありませんか?」

「うっ」


 いて、なんか急にチクっと尻に痛みを感じた。


「(言い方ってものがあるでしょう!)」


 アイラに小声で注意された、おまけに尻をつねられていたようだ。

俺的に普段のアイラよりはマイルドな言い方してるとは思うんですが。  


「申し訳ありません、失礼が過ぎました、謝罪させてください」

「…ふぅー、やっぱり私はこういう話は向いてないんだよなぁ、ああ謝罪は受け取りました、許します」


 あら、なんだかすっかり力が抜けてしまったようなレックスさん。


「私がこの街で防衛隊の隊長などをやっているのもそういうところから来てるんですよ、特に政治的な駆け引きなんかには弱くて、それで友人のネッツィ…ザミール子爵のことですが、彼を頼ってこの街で暮らしているのです」

「はあ、領地経営などには口出しせず、街の防衛に関することだけに専念しているということですか」

「そうです、大体私は剣の腕を王に買われて貴族になったようなものですから、リアナの家に婿入りして男爵にはなったものの…元は単なる騎士伯ですよ、領地経営などサッパリです」


 …婿養子ってやつかな…リアナさんのほうが男爵家だったのか。


「私はつまり嘘をつくのが下手なのです、ですからはっきり申し上げましょう、アバランシュで人族の行方不明者が出ているとは聞いております、それが奴隷としてオーキッドに売られている可能性がある、ヴォルガーさんはそこまで知っているのではないのですか?」

「はい、その件でザミールではどう考えているのかなと思いまして」

「…答える前に聞かせてもらえませんか?ヴォルガーさんは私の娘たちを保護してくれた方と共にいたんですよね?貴方は…彼らの仲間ではないのですか?」

「それはですね…」


 ここで聞かれるかー、まあ呼ばれた時から聞かれる覚悟はしてたんだよなぁ。

娘たちを治療した、ということはナインスたちと共にいたということなわけだし。


 俺はマーくんとアイラの顔を見た。

二人は特に動揺などは見られない、話すなら話せば?と言わんばかりの態度で紅茶を飲んでる。

ディーナは目を閉じていた、こいつはもう様子をうかがう必要はないな。


 俺はナインスたちが神隠しの森に住む盗賊だったとレックスさんにバラした。

レックスさんはナインスに直接会っていないので、ナインスという盗賊を率いる女は何者で何でそんなとこに住んでそんなことやってんのか、という理由から説明した。

で、俺は無理やりあの森に連れてこられた一般市民だとも。


「バジリスクの群れを討伐するような人物は一般市民とは言いませんが」


 レックスさんに突っ込まれた、攫われた経緯まで言わなきゃよかった。


「しかし、なるほど、ようやく疑問が解けましたよ。商人というには変だなとはずっと思っていたのです。ただ娘たちの恩人ですから無暗に探るのはやめようと思っていたんですが…ヴォルガーさんは『攫われて来た』と娘たちが言っていたのでどうすべきか迷っていたのです」


 俺があの子らに余計なことを言ったせいで、アバランシュで人族を攫って売っている一味にナインスたちが該当するのでは?とレックスさんは疑問に思ったようだ。

ラライアとルルイエは単に、奴隷として売るよりもレックスさんと取引したほうが儲かると判断して返してくれたのではないか、そう考えたんだな。


「で、問題の俺が見つかったんで話を聞こうと思って呼んだんですね」

「それもありますが、第一は娘の治療について礼を言うためですよ」


 レックスさんは笑顔でそう言った。


「あのー…それでお願いなんですが…ナインスたちを見逃しちゃくれませんかね?」

「…盗賊なんですよね、私はザミールと街の近辺の治安を維持するのが仕事です。盗賊を見逃すわけには行かない立場なんです」

「そこをなんとか、もう盗賊じゃないんで!本人たちも反省してますんで!」


 だめかな?ダメだったらどうしよかな、ナインスたちを遠くに逃がすくらいはできるかな。


「ですが、そのような盗賊がいるという報告は受けていません」

「お?」

「ナインスさんたちがアバランシュの、不審な商人しか襲っていないのは確かなのでしょう。私の耳にザミールの住人に関する被害の報告が入ってこないということは、そういうことです」

「…どうも、ありがとうございます」


 見逃してくれたかぁ!よかったぁ、いや正直ラライアたちからいずれナインスにたどり着くんじゃないかと心配だったんだよなぁ。


「貴方も変わった人ですね、そのナインスという女の治療のために無理やり神隠しの森へ連れてこられたんでしょう?なぜかばうんです?」

「うーんまあしばらく一緒にいたらそんなに悪いやつらじゃなかったというか…」

「女です、この人は女に甘いんです」


 アイラは唐突にそれだけ言って、紅茶のカップを手に取りずずっと飲んで、何事もなかったようにまたテーブルにカップを置いた。


「………」

「………」


 レックスさんはリアクションに困ったように無言。

俺もちょっとどうしていいかわかんないな。


「そろそろお風呂が空いてるかもしれませんね、私は先にこのヨダレをたらして寝ている女を連れてお風呂にはいってきます」


 アイラは寝ていたディーナに迷いのないビンタをして、目を覚まさせるとそのまま連れて部屋を出て行った。

ディーナは「ふぇ?」とか言いつつぶたれたことに気が付いていない様子だった。


「…彼女は何か…幼いのに有無を言わせぬ気迫のようなものがありますね」

「でしょう?何か時々怖いんですよ」

「まるで怒った妻を見ている時のようでした」

「娘さんたちの教育には是非気をつかって優しい子に育ててあげてください」

「ええ…肝に命じておきましょう…」


 今この瞬間、レックスさんとは真にわかりあえた気がする。

彼は信用できる、同じ男として、子を持つ親と…いや…この共感はだめだ、まずい、俺は独身だ。


「それで、結局のところアバランシュはどうするのだ」


 マーくんの言葉で俺とレックスさんは我に返った。


「そうですね…まだコムラードでは伯爵に報告はしてないんですよね?」

「はい、まあ証拠も何もないんで…証人はナインスたちだけですから出すわけにもいかず」

「では私はネッツィ子爵と相談して、アバランシュに調査員を送り込みましょう、ただ表向きは奴隷売買とは関係ない件で人を送ります」

「関係ない件?」

「ええ、これは…地図を見せて説明したほうがいいか。少々お待ちください地図を用意しますので」

「地図なら我が持っている、部屋から持ってこよう」


 マーくんはそう言ってすぐさま部屋を出て、自分の部屋の荷物から地図をもって戻ってきた。

それを机の上に広げ、三人で眺める。


「綺麗な地図ですね、ではこれを見ながら説明しましょう」


 レックスはまず、アバランシュ、ザミール、コムラードの位置関係について説明した。

この三つはルートを線で結ぶと、ちょうどひらがなの『へ』みたいな感じになる。

一番左がアバランシュ、右下がコムラードだ。


 そして真ん中上のザミールから下の空間は南にずっと神隠しの森が続いている。

これがほとんど海のほうまで続くせいでコムラードから時計周りでアバランシュには行けないのだ。


 ザミールの北には山脈が東西にわたって広がっている、これがマグノリアとの国境になる。

西はその山脈から流れて来る川が南に向けて流れており、こっちはこの川がオーキッドとの国境になっている。


「この街を狙う獣人族の野盗はこの山脈を超えてやってくるのです、ですからザミールの北側はかなりの警戒網が敷かれています」

「というかそれは国際問題なんじゃないんですか?リンデン王国とマグノリアは停戦したんですよね?」

「そうなんですがマグノリア、というより獣人族はあまり国という意識を持ってないんですよ、人族と違って様々な部族が各地にいて、好き勝手に生きているのです。戦争の際はその部族らの代表が一応集まって話し合いには応じたのですが…」


 話を聞くと国家形成しているのは他国と戦争の際に一時的に団結するためだけっぽいな…

戦争が終われば後は知らん、皆解散ー、好きな場所で好きなことして生きてね、という感じらしい。

そんな感じだからザミールとの国境付近にいる部族は平然と略奪に来る。

それを何やってんだふざけんな!ってクレームいれても、いやあの部族はウチとは違う部族だから知らんよと、国としての話し合い自体にならないのだ。


「その獣人族の野盗ですが、基本的には北から来ます、川を船で下ったりはしません、水が苦手な部族のようなのです、だから我々も北の守りを一番厚くしているのですが、私の娘を攫った獣人族の野盗は南から来たようなのです」

「アバランシュのほうから来たということだな」

「しかも、攫った後はアバランシュのほうへと逃げているのです、それを偶然ナインスさんたちが見つけて襲ったので娘たちはなんとか助かりましたが…」


 それからレックスさんはアバランシュの西を指さした、そこはまだ北から流れてきている川がある。


「ここに唯一、西側にあるオーキッドへ続く橋があります、南から獣人族がザミールへ来るにはここを通ってくるしかありません、オーキッドは国内に獣人族の居住を認めていますが、リンデン王国はこの橋を渡って獣人族がこちらへ来ることは許可していません」

「ああ、アバランシュはその決まりを無視して獣人族をこちらに通しているということですね」

「そうです、まずその件についてアバランシュに抗議するようネッツィ子爵と検討してみます」


 話は大体こんな感じでまとまった。

俺はこれを報告しなきゃいけないなあと思いつつ、ラルフォイに渡された通信クリスタルのことを考えた。


 あれはこういう時のために渡されたのだ。

俺とディーナが街を離れるための保険というか条件みたいな役目と、リディオン男爵とアバランシュの件で話し合った場合、すぐに報告をする、二つの意味を持っている。


 まあ今使えないんですけど、不幸なアクシンデントによってバッテリー切れです。

三日に一回とか言ってたからまあ明日『これから帰ります』と連絡するついでに言えいいだろ。


「ときにヴォルガーさん、ひとつよろしいですか」

「え?ああはい、なんですか」


 まだなんかあんのかな、もう話すべきことは大体話したはずだけど。


「私は浮気性がある男性の元に、ラライアは絶対に嫁には行かせません!」

「は、はあ…まあ、それがいいんじゃないですかね…普通に考えて…」


 なんのこっちゃ。


 よくわからんがそれからラライアのいいところみたいな親バカの話をレックスさんから延々聞かされた。


 俺はそんなことより風呂まだかなと思いつつ、その話を聞き流していた。

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