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勢いが肝心

あれっ、会議書くつもりだったのに全然違う話になってる!

「ハンバーグはどこだ?出せ」

「あの、来るなりそんなことを言われても僕にはさっぱりわからないんですが」


 冒険者ギルドに入ると、中でラルフォイがマーくんに絡まれていた。

珍しく部屋から出て、外で俺たちを待っていてくれたのだろうか。

普段やらないことを気まぐれでやるとロクな目にあわないという見本かな。


「二人はどうする?まだ俺たちしか来てないみたいだけど、掲示板でも見てくるか?」


 ディーナとアイラの二人に本日のご予定をお伺いする。

彼女らは俺と一緒に来たものの別にナインスたちに顔を合わせる必要は特にない。


「うーんまだいいよぉ、眠いからあっちで休んでる」

「私も…ふぁ…失礼、そうします、皆が集まったら呼んでください」


 二人とも眠いんだなぁ、アイラは我慢してただけか。

本来ならまだギルドは開いてる時間じゃないもんな。

他の冒険者が来る前に集まろうという意図のもと、今日は特別に早く開けてもらっている。


 俺はテーブル席につっぷして寝る体勢になった二人をそっとしておくことにした。

それにご一緒するほどの眠気は感じてないので一人で受付の方へ行く。


「おはよう、いやー早く来すぎちゃったかな」

「おはようございます、時間通りだと思いますよ」

「おはよー…ふぁー、今朝はミーナに叩き起こされて大変だったよー」


 受付の二人と挨拶を交わす。

ん、ニーアが起こされたってことは二人は一緒に住んでるのか。

プライベートでも仲いいんだな。


「ヴォルガーさん、すいませんがこっち側に来てもらえます?見てもらいたいものがあるので」

「あ、ちゃんと作ってきてくれたんだ?いや楽しみだな」


 俺は受付をぐるっと回って横からカウンターの中に入る。

ニーアがちょいちょいと手招きして、カウンターで身を隠すようにその場にしゃがむ。

…なんか隠れる必要があるのか?と思ったがミーナもしゃがんでるので俺も合わせることにした。


「こっ、これなんですけど、どうでしょうか!」


 ミーナは皮袋から何かの木の葉で包まれた物体を取り出した。

それを受け取って、葉っぱを剥がして中身を見てみる。


「おおーいいねえ、こういう丸いパンも売ってるんだな」

「それは、私たちがよく行くパン屋さんに朝早く行き、頼んで特別に焼いてもらいました」

「私それ朝ごはんに二つも味見させられたのよー、うっ、見たら胃がムカムカしてきた」


 俺から教わって、ミーナが作ってきたものは何か。

それは、ハンバーグをパンで挟んだもの、ハンバーガーである。


 ミーナがなんでハンバーグに執着するのか、昨日教えてる最中にすぐわかった。

「これがマグナさんの好きな食べ物なんだー」とニーアがポロっといったから。

直後ミーナにぶたれていたが、いやあ隠してるつもりだったんですかねえ、大抵の人は気づいてると思いますけど。

ミーナはマーくんのことが好きだということは。


 まあそんなことをあえて本人に確認して聞いたりはしなかったが、仮に、ミーナがハンバーグをマーくんに振舞うとなるとそれはもう家に呼ぶことになる。

「誰か家に呼んで料理を振舞う予定があるんですか」とさりげなくミーナに言ってみると、彼女はこねていたハンバーグを握りつぶしてフリーズしてしまっていた。

どうやら考えてなかったようだ。


 このままだとせっかく覚えたハンバーグを、マーくんに食べてもらうのは相当先になりそうだな…と切なさを感じたので俺は一計を案じた。


 それがハンバーガー。

このスタイルであれば家に呼ばずとも完成品を手渡すだけでどこでも食べてもらえる。

こういう料理もあるんですよと説明するとミーナはあからさまに歓喜していた。

昨日は俺の家に適したパンがなかったので完成品を見せることができなかった。

それでミーナは、明日試しに家で作って完成品を持っていくので見て欲しいと俺に言ったのだ。


「どれどれ、具はハンバーグは当然として、おっ、トマトは言った通り厚めに切ってあるな、あとはレタス…じゃないな、なんだこの葉っぱ」

「あっそれはネロロの葉っぱです、レタスという野菜がわからなかったので…代用してみたんですけどどうでしょうか」


 ネロロというとレモンみたいな酸っぱい果実だよな。

あれって実しか買ったことないけどこんなサニーレタスみたいな葉っぱしてるのか。

匂いを少し嗅いでみると酸味がありそうな、爽やかな匂いだ。


「これって酸っぱい?」

「実ほどじゃないですけど少し」

「ニーアは食べてどう思った?」

「んー私は悪くないと思ったけどなー」

「じゃ大丈夫だよ、俺も今度この葉っぱ買ってみよう」


 意外な発見をしたな、ついてる。


「あの、それで味見をしてほしいんですが」

「うむ、そうだな」


 俺はハンバーガーを持ってその場を立ちあがる。


「おーいマーくん!こっち来てー!食べて欲しいものがあるんだけど!」

「ぶふうっ!?」


 ミーナが足元で吹き出していたが気にしない。


「なんだ、そっちにあったのか」


 マーくんはラルフォイを突き放して即座にこっちに来た。

絡まれ損の男は、ふぅやっと解放されたといった感じで近くの椅子に腰かけていた。


「これどうぞ」

「なんだ、ただのパンではないか」

「フッ、それはどうかな、上からではなく横から見てみるんだ」


 俺の差し出したハンバーガーをぐぐぐっと体を横に傾けて眺めるマーくん。

なんか面白いな、なぜそんな無理な体勢になる、しゃがめばいいだろ。

あ、いや俺が顔の高さに持っていけばよかったのか。


「ハンバーグが挟んであるぞ!」

「お気づきになられましたか、これはハンバーガーというのです、ご一緒にポテトはいかが?」

「ポテト?」

「いやごめん、それは気にするな、つい言ってしまっただけだ、それより食べてくれるか」

「ああ勿論だ!」


 マーくんは俺からハンバーガーを受け取るとかぶりついてもっしゃもっしゃ食べ始めた。


「なんでマグナさんに渡すんですか!!」


 小声で足元から抗議の声が聞こえてくる。

だって仕方ないんや、マーくんにハンバーグあるかもって言っちゃったし。

あとなんか、もう、君のやり方でいくといろいろステップが多くて面倒な気がしたので。


「大丈夫だって、嬉しそうに食べてるから」

「いやぁーなんでいきなり渡すのよ!そんなの嘘でしょ!」

「ミーナ、本当よほんと!だってマグナさん笑ってるよー!」


 ニーアはとっくに立って俺と共にマーくんの様子を見ていた。


「どこ!?」


 マーくんの笑顔、というものに対する興味が勝ったのか、ミーナも立ち上がる。


「あっ…」


 ミーナは完全に雌の顔…いや失礼、恋する乙女の顔でマーくんを見ていた。


「もぐもぐ、ごっくん…これは美味い!」


 完全に食べ終えてからマーくんは感想を口にした。

やはりあの具だけでも問題ないようだな。

マヨネーズとかケチャップ的なソースが必要かとも考えたが、厚めのトマトスライスだけで十分だと最終的に俺は判断した。


 この世界、食材そのものの味は、かなり良い。

ナクト村で食事をしたときから感じていたが、普通にそこら辺の畑で作ってる野菜が日本でブランド名がついてるような品質の野菜と比べても、まったく劣らない、もしくはそれ以上。

そのせいで料理という技術が完成されていないのかもしれない。

だって適当に焼いたり煮たりして食っても美味いんだから。


「また腕を上げたなヴォルガー」

「なんかグルメ界の巨匠みたいな雰囲気出しながら言ってるところ申し訳ないんだが、それ作ったのはミーナさんだ」

「ミーナ…?む、なんだいたのか、食うのに夢中で気づかなかった、すまんな」

「い、いえ…あのその…」

「見事だったぞ、しかしあれはお前の食事だったのではないのか、我はてっきりヴォルガーが…」

「いいんです!どうぞお構いなく!元々マグナさんに食べてもらえればいいなって思って…あっ」

「ぬ、そうなのか?それは…」

「………」

「………」


 二人は黙ってしまった、なんだこの空気、まさかマーくんもとうとうミーナを意識しはじめたのか?

コーヒー飲みたくなってきた。


「…ミーナ」

「は、はいっ!」


 え、言っちゃう?マーくんから言っちゃう?

 

「もうハンバーガーは無いのか?」

「…あ、はい…一つだけしか作ってきてなくて…」


 腹が減っているだけか…所詮はマーくんか…


「ならば仕方ない、諦めよう」

「あの、また作ったら、食べてくれますか?」

「ん、勿論だ、またミーナのハンバーガーが食べたいぞ」


 マーくんはニカっと笑った。

うおっ、なんだそのイケメンスマイル!

やべえよやべえよ、これがマーくんの真の力か。

こんなの見せられた日には…


「はぁぁぁぁぁぁ~明日も作ってきますぅ~~!!」

 

 ミーナ!轟沈!確認!


「んーまあうまく収まったみたいねー」

「ああここは若い二人に任せて我々は退散しよう」

「ほほほ、そうねー後は若い二人に…」


 俺とニーアはそっとその場を離れた。

離れた後「って私だってまだ若いわよー!」とニーアに言われ、ぶたれた。


 いやしかし、いいもん見たな。

俺も料理したくなってきたな、市場でなんか買って帰ろう。

俄然創作意欲が湧いてきた。


「あの、ずっと見てましたけど、ギルド内に妙な空気作り出しておいて、一人でどこに行く気なんですか、今日なんでここきたのか忘れてません?」


 ギルド出ようとしたらラルフォイに止められた。


「ほら、馬鹿なことしてないで…ああ、ちょうど来ましたよ」

「おっ、なんだなんだぁ!ひょっとしてアタシが来るってことで待っててくれたのか!」


 扉を開けて女が一人ギルド内に入ってきた。


「………そうだよ、久しぶりだな、ナインス」


 うん、そうだな、今日はナインスと会う予定だったな。

勿論、忘れてなんかいないさ。


「フリスクもいるな、後はジグルドたちだけだが…よし、まあ先に我々だけで会議室のほうへ行こうじゃないか、さ、俺についてきて」

「僕のギルドですよ?勝手に仕切らないでもらえますか?」

「ラルフォイ君、俺たちは遊びに来たわけじゃないんだ、早くあっちで寝てるやつらも起こしてきてくれたまえ」

「あれは貴方の連れですよね?あとなんで偉そうなんです?」

「早くしろっ!間に合わなくなっても知らんぞー!」

「なんにですか!?まったくマグナさんといいヴォルガーさんといい…僕にひどくないですか…」


 ぶつくさ文句言いながらもラルフォイはディーナたちを起こしに行った。

ふう…なんとかなるものだな…ディーナを見習って勢いだけで押し通ってみたが…


「お前、結構えらいやつだったんだな」


 フリスクが感心したような顔で俺を見ていた。


「なんせ3級冒険者様だからな」


 たぶん3級て別に偉くないが、他に言うことも思いつかなかったのでそう言っておいた。

案の定ナインスに「それ別に偉くはないだろ」と言われた。


 フフフ…まあもうどうでもいいじゃん、早く行こうぜ?

俺とてこれ以上、勢いだけでどう乗り切ればいいのか、判断しかねるのだから。

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