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ドゥン ドゥン

前を向いて歩こう

 昨夜、家で夕飯の支度をしていると珍しい来客があった。

いつもは冒険者ギルドで会うだけのニーアとミーナの二人だ。

一瞬クレームかと思った、ここ数日は俺はギルドにあまり行かずディーナとアイラだけが行っていたのであの二人がとうとう依頼で何かやらかして家まで文句つけにきたのかと、そんな心配をしてしまった。


 が、そんなのは杞憂だった。

俺の心配とは裏腹に二人は割と真面目に仕事してるらしい。

一応俺も二人から普段どんな仕事をしてるのか聞いてはいる。

この日は街中にある水路の点検、及び整備とか言ってたが要約するとドブさらいになる。


 まあ街の中でやると言えばそういう仕事になるよな。

街の外に行くときは俺もついて行くけど、街中でやる分には二人に任せることにした。


 なぜなら、この前、農場の手伝いで牛を飼ってる農家のところへ行ったときに、そこのおっさんに「お父さんも一緒に来たのかい」と言われたからだ。


 誰がお父さんやねん。

確かにアイラと髪の色も目の色も同じだから間違われるのは仕方ないかもしれない。

しかしその後の「奥さんとは全然似てない子供だな」は許容できない。

ディーナの「この子は預かってる子だからっ、私の子供はまだこれから」というさりげなく奥さん扱いを否定しない発言にイラつかされた。

よって街中の依頼を受けて仕事に行く場合、二人についていかないことにした。


 悲しい思い出はともかく、クレームではないならニーアとミーナの二人は何しにきたのか聞いたら俺に伝言を伝えに来たと言った。

内容は「明日、フリッグス商会の人が来るので早めにギルドに来て下さい」だったかな。


 伝言に関してはそれだけだったのだが、二人は帰らずにチラチラと家の中をのぞき「何作ってるんですかー?」となぜか我が家の晩御飯について詳細を求めてきた。


 夕飯はハンバーグとスープにカルボナーラ…生クリームは無いので卵黄と牛乳で作るタイプ。

牛乳は牛乳でちゃんとあったんだよな、今までココナの実で代用してたけど。

農場の手伝いに行ったときにはじめて牛を飼ってるところがあると知った。

ていうか牛がこの世界にもちゃんといるんだってことを。


 俺がその献立を二人に告げると、ミーナから執拗にハンバーグの作り方を教えてくれと頼まれた。

夕飯の支度を手伝うからと必死だったのでまあいいけど…と、とりあえず一緒に作った。

そしてハンバーグ、スープ、カルボナーラを無事作り終えると、ニーアから「これパスタじゃないですかー!」と怒られた、意味不明だった。


 ニーアはどうもカルボナーラのことをなんらかのデザートだと思い込んでいたらしい。

しかも「これでデザートが付いたら豪華すぎるでしょー!?どうかしてる!!」とさらに怒られた。

なんでデザートがあること知ってんだという疑問と理不尽さを感じた。


 デザートは冷やす時間が必要だったから二人が来る前に先に作ったのだ。

俺は青鉄庫から、カルボナーラで余った卵白で作ったメレンゲと、農場のおっさんがくれたチーズを合わせて作った…なんだろ、チーズのシャーベットとでもよぶべき物体を取り出してニーアに見せた。


 ちなみに青鉄庫はタックスさんが取り扱っていたのでバジリスクの報酬をもらったときに買ったのだ。

凍らせるレベルの冷却ができる高性能なやつを買った。

サイズもまさに冷蔵庫といった感じ、金貨10枚もしたが非常に満足している。

ラルフォイの部屋にあったようなチンケなものとは違うのだよ、ふははは。


 食卓に並んだ料理を前に、ニーアとミーナが無言になってしまったので、まあこれは、そういう事だよな、と思って「二人が良ければ夕食をいっ」「食べます」全部言う前に返事がきたので夕食を共に食べることとなった。


 俺は寝室で眠るディーナとアイラを起こし、椅子が一つ足りなかったので俺の部屋から一つ椅子を持っていき食卓に加えた。

ディーナとアイラがなんで寝てたかってのは、二人はドブ攫いをして、あまりに臭いんで銭湯に行かせると、すっきりして疲れが出たのか家に戻ってくるなり爆睡してしまったから。

目覚めて食卓にいるニーアとミーナを見て「何でこの人たちいるの?」と顔に出てたんで、何か知らんけどウチに来て料理を作るのを手伝ってくれたんでこれから一緒に食べることにしたと説明した。


 皆、夕食は全部平らげた。

アイラはちょっと苦しいかな?と思ってハンバーグ小さめにしてたけどたぶんそんな心配必要なかった。

デザートを配ると即座に食べてお代わりを要求してきたくらいなので。

お代わりは予想して多めに作っていたんだがニーアとミーナという予想外の来客があったので、お代わりは無かった。


 「こいつらさえ来なければ…」と俺の隣の席で暗黒面のフォースに満ちてきたので俺は自分のデザートをアイラに上げて鎮静化をはかった。

ただそれは「アイラちゃんだけずるい!!」という別の暗黒を生み出す結果となったが。

お前ら大人なのに…子供に譲ろうという気持ちはないのか…


………………


………


「というようなことが昨日あったんだよ」


 俺は隣を歩くマーくんに昨夜の出来事を話した。

マーくんとはつい先ほど、街を冒険者ギルドに向けて歩いていると偶然出会った。


「そうか、それでは同じ件で呼び出されたということだな」

「マーくんも昨日ミーナさんたちと会ったのか?」

「いや、我は傭兵ギルドから宿に帰るところでラルフォイに会い、伝えられた」

「ああ、そうなんだ」


 マーくんがここ数日、冒険者ギルドにも俺の家にも姿を見せなかったのは傭兵ギルドに行っていたのが原因だった。

マーくんは二つのギルドに登録しているんだってさ。

俺の件が片付いた後、傭兵ギルドの知り合いから何か仕事の手伝いを頼まれて、それで数日そっちに行ってたらしい。

今日暇があったら闇魔法のことアイラのために教えてもらえればいいんだけどなぁ。


「念のために聞くが、フリッグス商会というのは例の連中のことで間違いないな?」


 俺がぼんやり考えてると、馴染みのない商会名についてマーくんから質問された。


「そうだよ、これから彼らが街で活動するときは基本その名前を名乗ることになる、パーティーの時にラルフォイからはそう聞いてる」


 フリッグス商会、これはナインスたちのことだ。

ナインスたちが俺たちにコンタクトを取る場合、そう名乗って冒険者ギルドを訪れる。

このことを知るのは俺がパーティーに呼んだ人たちだけ。

あ、違う、嘘ついたわ、トニーには教えてないんだった。

まああまり関係ないというか、できれば関わらないほうがいい案件だからな。


「なんでフリッグス商会なのだ?」

「んーさあ?代表が一応ナインスじゃなくて、表向きはフリスクっていう男のほうだからじゃないか?それで名前を適当にもじって」

「そうではない、商会を名乗る理由だ」

「ああそっち、それは魔物の素材なんかをコムラードで売るためだよ、もう盗賊業は完全に廃止したんで代わりにあの森の魔物を狩ってコムラードで売ることで収入を得るらしい。ついでにコムラードで大量に買い物するためにも商会としたほうが都合がいいんだと思うよ」

「そういうことか、ラルフォイが仲介するんで街で堂々と取引できるようになったからだな」


 ま、それ以外にも俺が残して来た<ヒーリング・ツリー>のせいもある。

あれがある限りは、魔物との戦闘で少々怪我をしても治療できる。

死んだらどうにもならんが、ナインスたちなら魔物相手に遅れはとらないだろう。

あの森にそれなりに長い事、住んでいるのだから。


「二人とも、のんびり話ながら歩く余裕があるなら、あれ運んでおいて下さい」


 後ろからアイラに服を引っ張られた。

あれってなんだ?と背後を見ると、ディーナがどこかの民家の壁に頭をくっつけて、前に進もうと足を動かしていた。

古いRPGのゲームならドゥン、ドゥン、といちいち効果音が鳴りそうだな、壁に頭をぶつけ続けて。


「あれは何をしている?」

「寝ながら歩いてるんです」


 マーくんの疑問にアイラが答える、俺は予想がついていた。


「器用なやつだな」

「運ぶのが面倒ならほおっておいて先にギルドに行きましょう」

「いやいや、まあ俺が起こしてくるよ」


 朝早かったからかなー。

でもアイラはちゃんと起きてるのに…おおディーナよ、寝てしまうとはなさけない。

寝るのは別にいいか、それを歩行中にやるのが常軌を逸しているだけであって。


 俺はとりあえずディーナの体の向きを変えてみた。

なんてこった、ちゃんと前に向かって歩き出した、目は閉じてるのに。

いや、これもう夢遊病じゃねえかおい。


「危ないから目を開けて歩けよ」

「………」


 返事がない、マジで意識飛んでるんだろうか。

顔をぺちぺちやってみたが反応なし、腕をだらんと垂らして歩く姿はゾンビのよう…あっ。


「あいったー!!」 


 コケた、でもおかげでディーナは目を覚ましたようだ。


「なーほら目を開けて歩かないと危ないだろ」

「え!?なにこれ、どこ!?」

「その若さでそんなマジな反応されることが俺にとっては怖いわ」

「なになに!?あっ、待って!おいてかないで!」


 ディーナも無事合流して俺たち四人は冒険者ギルドに向かってまた歩く。

そろそろだな、あの角を曲がれば建物が見える。


「おい、ところでヴォルガー」

「なにマーくん?まだなんか質問?もうラルフォイに直接聞いた方が早いと思うぞ」

「いや、ハンバーグは、今日は作らんのか?」

「…さすがに二日続けては作らないな…」

「…そうか」


 マーくんは無表情だがわかる、これは悲しみに満ちたときの顔だ。

意味もなく前髪をいじくっているからだ。

以前、「朝飯にハンバーグというのはどうだ?」と提案されて、朝からそんな重たいものはちょっとどうだろうとお断りしたときもそういう仕草をしていた。

OKしたら朝から食べにくるつもりだったのは間違いない。


「あ、でも、もしかしたらハンバーグ食べられるかもよ」

「なにっ!どういうことだ!」

「あー確実ではないから!わかんないけど!まあギルドについてのお楽しみということで」

「冒険者ギルドにあるのかっ!」


 マーくんは駆け足でギルドに走って行った。

これで無かったら怒るかなー。


 俺は早まったことを言ったかな?と不安になった。

こうなるともう彼女次第だな。


 信じているぞ、ミーナ。

昨日教えて、話をした通りなら、練習して試作品を作ってきているはず。

ハンバーグを使った、新たな料理を。

ブックマークが100件超えてるのに気づいて、結構続けて読んでくれる人いるんだなあと感動しました。

これからも引き続き見てくれるよう頑張ります。

あ、感想とか評価もお待ちしています。

作者は自分で書いててなんだこの話って良く思うことがあります。

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