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ガールズトーク?

ってこんなだろうかという想像 冒険者ギルドの受付二人の話

「考えたんだけどさー、私が依頼を出せばいいんじゃないかなー?だってギルド職員が依頼を出しちゃだめって決まりはないんだしー」


 そろそろ今日の仕事も終わろうかという頃に、隣で受付をしているニーアがそんなことを言い出した。


「依頼って何を誰に頼むつもりなのよ?ここ最近は緊急の用件は無かったと思うんだけど」


 ついこの前までは鉱山に現れたバジリスクに、それを討伐した冒険者の行方不明騒ぎと立て続けに厄介な事件があったけど、それも解決してからはいたって平和な日々だ。

小さな女の子が冒険者になって、依頼を受けて行くくらい平和だ。


「頼む相手はヴォルガーさん、内容はもちろんー『カスタードプリンを作って私に届けること』これしかないわー」

「まだ諦めてなかったんだ…ヴォルガーさんの料理…」


 私は頭が痛くなるのを感じた。

ニーアが最近珍しく真剣な顔をして考え事をしているから、悩みでもあるのかと思えば、食べ物のことをずっと考えていただけなんて。


「お菓子が食べたいなら街にある店に行きなさいよ」

「ふう、一緒に食べたのにもう忘れてしまったのミーナ、街にあるどの店にあんなお菓子が売ってるというの?私はパン屋が売ってるパイとかクッキーの話をしてるんじゃないのよー?」


 ニーアはおおげさに、やれやれといった感じで頭を振りながら席を立ち、私に近づいてくる。


「確かに、あれを売ってるお店を見たことはないわ、ギルマスがお土産として持って帰ってくれたときは何コレ?黄色いスライム?なんて思ったしね」

「ところがいざ口にいれてみたらあら不思議!とろけるような舌ざわりに滑らかで上品な甘さ…あれに比べたら砂糖をまぶしただけのパンなんか二度と口にできないわー」


 ニーアは昨日の帰りも、砂糖をまぶしたパンを食べていたと思うけど。

太るから毎日買うのはやめなさいって私の忠告も無視して。


 でも、ギルドマスターがヴォルガーさんのパーティーから持って帰ってくれた料理の中であのカスタードプリンって物が一番美味しかったのは確かだわ。

私だってもう一度食べる機会があるとしたら、食べたいに決まってるわよ。


「だからって、お菓子を作って持ってきてなんて、冒険者に出す依頼としておかしいでしょ?絶対ギルマスは認めてくれないわよ」

「なんでよー、報酬だってきちんと払うわー?…一つ5コル…いやっ、10コルまでならなんとかー!」

「お金の問題じゃなくって、その依頼を認めちゃったら他の雑用みたいな依頼も認めなくちゃいけなくなるわよ?例えば、私らが住んでるアパートで隣の部屋に住んでる奥さん、飼ってる犬の散歩をギルドに依頼しようとしてくるでしょ、あんなのも断れなくなるのよ?」

「…それは困るわねー、大体あのアパートってペット禁止じゃなかったー?」

「そこまでは知らないけど、あの奥さんなら絶対文句つけてくるわよ」

「んまー!お菓子の配達はよくてペットの面倒を見るのはダメってどういうことですの!わたくしのワンちゃんはお菓子以下って言いたいのね!?それともわたくしには愛する夫と二人きりでデートをする権利もないということかしら!!」

「そうそう、そんな感じ、凄く似てるわ、わかってるじゃないの」


 ニーアの物真似が意外なほど似てるせいで隣のおばさんのことを鮮明に思い出してしまう。

余計イライラするのでもう二度とあのおばさんの真似はやらせないほうがいいわね。


「犬の散歩なんて依頼受けたって誰もやらないでしょ?最悪私らが責任とってやらされるわよ」

「ああああ、じゃあ一体どうしたらいいのー!?」


 ガックリ肩を落として、その場に膝をつくニーア。

そこまで絶望することなのね…


「‥んーじゃあさ、もう付き合っちゃえば?」

「それは、私がヴォルガーさんと、ってこと?」

「他に何があるのよ、恋人になればお菓子くらいいくらでも作ってくれるでしょ、ニーアは顔はいいんだから黙ってれば案外うまくいくわよ」

「黙ってればってところが引っかかるけど…それは無理よー」

「どうして?」

「だって好きなタイプじゃないものー、私はもっとこう、筋肉ムキムキな人が」


 そういえばそうだったわ、私には理解できないけどそういう趣味だったわね。


「それにさー、あの人メンディーナさんと一緒に住んでるじゃないのよー」

「あ、あれやっぱり本当なんだ?メンディーナさんが見栄はってるだけだと思ってた」

「えっ、私とヴォルるんの関係?やだーそれ聞いちゃう?もーここだけの秘密よ?…おほん、将来を誓い合った関係でーす!だから私が探しに行くのは当たり前!!」

「もう物真似しなくていいから、普通にうざいわよ」


 メンディーナさんがザミールにヴォルガーさんを探しに行く前、そんなやり取りをここでした。

あの時は、好きな人が行方不明なのに精一杯前向きになって虚勢をはって頑張ってるのかなって思ったけど、あれがあの人の素なのね。

そう思うと独り身の私らに対するあてつけのような気がしてうざいだけだったわと思えてきた。


「で、おまけにコブ付きになったしー」

「コブ…ああ、アイラちゃんね、保護者って言って…あれ、じゃああの人、三人で一緒に住んでるわけ?」

「らしいわよー?そんな人と付き合えるー?」

「うーん…無理ね!」


 美女と美少女と三人暮らしって…どういうこと?

女ならなんでもありなのかしら。


「くうう、でもあの二人は毎日ヴォルガーさんの料理を食べてるってことよねー」

「そう、なるわね…二人とも餌付けされたのかしら」

「そして夜になったら二人は食べられる側に…」

「下品な話はやめてよ!アイラちゃんはまだ子供でしょ!」

「冗談だってばー、まあヴォルガーさんってあの二人を見るときなんていうか…女を見るというより父親の目で見てないー?」

「あーわかるー!アイラちゃんだけじゃなくてメンディーナさんも同じような感じで見てるわよね」

「うんうん、ちょっと意味はわかんないけどねー」


 私もわからないわ、むしろ最近じゃアイラちゃんより下に見てる感じさえするわね。


「メンディーナさんて馬鹿っぽいからかなー」


 ずばり言ってしまったわね、ニーア。

同意はするわ、昨日なんか朝イチで来たのに掲示板の前で立ったまま寝てたもんね。

その後アイラちゃんに引きずられていったけど。


「二人とも、ギルドに人がいなくなったからって言いたい放題なのはどうかと思いますよ」

「「うひゃあ!?」」


 私とニーアは揃って飛び上がって悲鳴を上げた。

ギルドマスター…ラルフォイさんがいつの間にか私たちの背後に立っていたから。


「脅かさないで下さいよ!」


 この人は気配なく人の背後に立ったりする。

毎回驚かされる身にもなってほしい。


「脅かしたつもりはないんですが、お二人が僕に気づかないほど話に夢中だっただけでは?」


 絶対違う、ギルマスじゃなくて他の人が近づいてきたなら気づいてた自信はある。

これでも毎日いろんな冒険者を見てるおかげで、ギルドに誰か入ってくればどんなに眠くてもいち早く気づいて笑顔で対応できる、そんな技術を身に着けているのよ!

でも話に夢中だったのは事実なので何も言い返せない。


 私とニーアは「すいませんでした」と謝るほかなかった。

余計なことを言うとネチネチお小言が続くだけなのを知ってるから。


「じゃあ私たちはそろそろ帰りまーす、ギルマス鍵をよろしくお願いしますねー」


 ニーアは帰り支度をはじめていた、いち早く退散するのが正解と判断したみたい。

私もその作戦に乗り遅れるわけにはいかないわっ。


 ギルマスは「お疲れ様です」とだけ言ってにこにこしていた。

定時は過ぎてるから正しい反応ではあるんだけど…妙に物分かりがいい、いつもなら


「あれっ?この書類まだ残ってますけど、ああパン屋さんが閉まる前に帰りたいんでしたっけ、そうですよね、甘くて砂糖でギトギトのパンが買えないと困りますもんね、どうぞどうぞここは僕に任せて…おや、ニーアさんの椅子だいぶギシギシいってますねえ、これは壊れる前に変えたほうがいいかもしれません」


 くらいの嫌がらせはしてくる。

そしてニーアは腹いせにまた砂糖まみれのパンを食べてしまう。

それが今日はない、おかしいわ。


「ミーナっ、なにぐずぐずしてるのっ、早く帰るわよっ」


 いつもの間延びした口調ではない、珍しい早口のニーア。

小声で私に帰宅を急かしてくる。


「待って、ギルマスの様子が変だわ、今日は何も嫌味を言ってこないもの」

「それがどうしたのっ、いいことじゃない!」

「じゃあ今日はパン屋は行かないでおく?」

「いいえっ、行くわ」


 結局行くのね。


「あっ、そうそう」


 帰り支度を終えていざギルドを脱出せん、という時にギルマスがわざとらしく声を上げた。


「…大丈夫よ落ち着いてニーア、離れてて聞こえなかったフリをしてこのまま行きましょう」

「そう、そうねミーナ、私たちは何も聞こえなかったわね」

「先ほど、銭湯から出て来るヴォルガーさんに会ったんですけど」

「えっ、ヴォルガーさん?」


 もう馬鹿ニーアっ!なんでそこで聞き返しちゃうの!

返事をしてしまった以上、聞こえなかった作戦は失敗だわ。


「これから夕飯の買い物をして帰る、ところみたいでして」


 あの人はもう冒険者というか主婦なんじゃないの?

普通冒険者っていったら酒場で飲み食いして帰る連中がほとんどでしょ。

なんで毎日のように自炊してるのよ、私たちでもしてないのに。


「今日はいい肉があったとかあっちの店にはまだ卵があったとか教えてくれたんですけど、いやあ僕は料理なんかしないんでさっぱりわからなくて」

「…あのー、それがどうかしたんですかー?」


 どうでもいい話にニーアは耐えきれなかった。

これもわかっててやってるんだわ、ニーアは話の先を急かすように誘導されてることに気が付いていない。

ここから面倒な話をされるに違いないわね。


 こうなったら私だけでも無反応を貫こう、ニーアには悪いけど。

今日という今日はこの人の弱いところをついてくる口車に乗らないわ!

絶対ギルマスなんかに負けたりしない!

 

「いえ、そこで世間話をして別れたのはいいんですけど、僕すっかり忘れてたんですよね、ヴォルガーさんに伝言があったのを」


 ほら来た!どうせそれを今から伝えに行けって言うんでしょ?


「明日どうしてもヴォルガーさんには朝早く、ギルドに来て欲しいんですよねえ」

「帰っていいですかー?」

「今日の夕飯に新しいデザート試すそうですよ、今頃作ってるかもしれません、これから行けば…」

「行けば…?」


 だめだわ、デザート、と聞いてニーアは完全に呑まれてしまった。

ごくり、と唾をならしてギルマスがいう事の続きを待っている。


「失敗するかもしれないと多めに材料買ってましたから、ひょっとしたら余りが」

「はいっ、私が行きまーす!」


 ああ…やっぱりこうなるのね…


 でも、伝言くらいならニーア一人でも別に構わないわよね?

悪いけど私は先に帰らせてもらおーっと!


「いやあ助かりますニーアさん、すぐ行けばきっとまだメインの料理を作っててデザートには十分間に合うでしょう」

「いえ別にデザートのことは気にしてませんよー?ただギルド職員として困っているギルマスを助けたいだけですしー」


 私はもうこれ以上聞かずに帰ろう、とギルドの玄関扉に手をかけた。


「おや、じゃあメインの方を気にしてます?メインは確か肉料理、ハンバーグって言ってましたね」


 はいはいそうですか、じゃあお疲れ様でした。


「なんでもマグナさんの大好物だそうで」


 ………。


「普段は不愛想なマグナさんもハンバーグを食べる時だけは嬉しそうに笑うらしいですよ、凄いですね」

「で、私たちは何を伝えに行けばいいんです?」

「え、ミーナも行くんだー?」

「何言ってるの、当たり前じゃない、夜道も女一人よりは二人のほうが安全でしょ?」

 

 結局、私たちはヴォルガーさんの家に行くことになった。


 ええ、ええ、どうせギルマスの口車には勝てなかったわよ…

だってしょうがないじゃない、私にはハンバーグという料理をヴォルガーさんに教えてもらう使命ができたんだもの。

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