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マーくんの冒険4~一人で行動してはいけない者たち~

なぜこの二人で行かせたんだろうと自分で思う

「マーくんはここに来たことあるの?」

「ある、何年前かは忘れたな」


 我はザミールの街中をディーナと共に歩いている。

魔動車は街に入る前に、林の中に偽装して隠して来た。

あれに乗ったまま街に入ると死ぬほど目立つ、まあそれ以前に門番が入れてくれないだろうが。

ここはコムラードほど色々とゆるくはない。


 ディーナの問いには適当に返しておいた。

15の時にこの街にいたので本当は忘れていないが説明するのも面倒だ。

その時は冒険者ではなく傭兵として仕事をしていたしな。


「…それでまずどうしたらいいと思う?」


 やはりこの女は特に考えなしにここまで来たようだ。

わかってはいたがアホだな、ここは我がなんとかせねばならんだろう。


「ここの冒険者ギルドに行く、とりあえずこっちの誘拐事件がどうなっているか調べるぞ」


 さて、ここにヴォルガーの手掛かりはあるだろうか。


………


 ザミールの冒険者ギルドまで行き、中に入ると結構な人数がいた。

なかなかにぎわっているようだ、仕事を終え、報告に来ているやつらとかち合ってしまったか。

受付にも人が並んで列を作っている、あれの後ろにつかねばならんのか、嫌だな。

先にそこら辺の冒険者に尋ねてみた方が早いかもしれん。


 建物の中をざっと見回すと、暇そうにしている二人組の冒険者がひとつのテーブルにいた。

両方共に女だ、女か…他に男で暇そうなやつはいないのか、いないな…チッ。


「…おいディーナ、あそこに二人組の冒険者がいるだろ、話しかけてこい」

「私が!?なんで!?」

「女同士のほうが話やすいだろう」

「待って、そもそも何の話をすればいいの!?」

「えーいここに何しに来た?誘拐事件のことを聞けと言ってるんだ」

「あっ、そ、そうか、そうね、わかった、頑張ってみるわっ」


 ディーナは意気込んでずんずんと歩いていった。

少々不安なので我も後ろから着いて行く。


「あのう、ねえねえ、ちょっといい?」

「んん?なーに?わたしらに用?」


 短い茶髪の女がこちらに返事をした。


「ええっと、この街で誘拐事件があったって聞いて来たんだけど…」

「あなたもそれ目当て?なら残念、あの依頼ならもうとっくに終わったわよ」

「え、終わった?」


 終わった、というのはもう解決しているということだろうな。

ラルフォイの予想は当たっていたのだな。


「昨晩に攫われていた女の子二人が無事に帰ってきて、捜索依頼は取り下げられたんです」


 もう一人の長く青い髪の女がそう言った。

茶髪のほうは装備を見る限り軽戦士といった感じだがこの女は魔法使いか。


「くーっ、こんなことならわたしらも依頼を受けておけばよかった!」

「え、なんで?他の人が見つけたんでしょ?」

「捜索依頼を受けてくれた人全員にも少しですが報酬が配られたんですよ、依頼人の方がそれなりに身分のある人でしたので」

「ザミールのお人好し隊長さんが依頼人だったからねえ」

「へえーそんな人がいるんだね」


 いるんだね、ではない、そいつについて聞け!!


「ところであなた、ここで見かけたことないんだけど新人?」

「まあ新人ねっ、でもここじゃなくて」

「おい」


 ディーナがどうでもいい話に入りそうだったので仕方なく我も話に割って入った。


「お人好し隊長とは誰のことだ?」

「何よあんた?」

「あっ、ええと、私の仲間のマーくん」

「マークンさんですか」


 違うがまあなんでもいい。


「あ、そうじゃなくてね、マー…マーくんの本名なんだったっけ?」

「マグナクライゼスだ!!」

「そうだったわ、マグナ…マグナでいいわ」


 お前が言うのか。


「ふーん、マグナはこのでかい姉ちゃんと違って結構強そうだな」

「うっ…でかいって言わないで…」

「それよりさっきの話の隊長とは誰だ?」

「レックス・リディオン、ザミール防衛隊の隊長さんですよ」


 青い髪の女のほうが話が早いな。

レックス・リディオンだな、家名があるということは貴族か。


「そうか、助かった、ではな」

「ちょっとちょっとマーくん!?どこ行くのよ!」


 用が済んだのでその場を立ち去り、ギルドを出ようとしたらディーナが追いかけてきた。


「リディオン家で直接話を聞けるかどうか調べて来る」

「私を置いて行かないでよ!」

「お前は迷子になりそうだから置いて行く、さっきの二人と話でもしていろ、ついでに今晩泊まれそうな宿でも聞いておけ」

「えぇー…もう!ちゃんと戻ってきてよ!?」

「今日は家の場所を見て来るだけだ、すぐ戻る」


 そう言って我はギルドにディーナを残し、街に出た。

リディオン家の場所についてはすぐわかった、それなりに有名人のようで街の門番に聞いたら簡単に教えてくれた。

要人の家を簡単に教えるのはどうかと思うが、どうやら街の住人ならば当然知っている情報らしく、今更特に秘密にするようなことでもないらしい。


 家の場所付近まで行くと兵士がそこらでうろうろと巡回していた。

誘拐騒ぎがあったので警備を強化している最中だろう。


「待て、そこの怪しいやつ」


 家の全体が見えるギリギリまで近づくと、兵士の一人に声をかけられた。

だが問題ない、これはあえて見つかったのだ。

途中で見つかって問答されても面倒なのでここまでは姿を隠しながら来たが、この辺のやつとなら話せば家のほうにもすぐ伝えてくれるだろう。


「我のことか?」

「そうだ、この辺りは一般人は立ち入り禁止だ、何しに来た」

「リディオン家の者に用がある」

「貴様!性懲りもなくまた隊長の家族を狙って来た賊か!許さんぞ!」


 兵士は持っていた槍を構えた。

おかしなやつだな、用があると伝えただけなのに。


「何を言っている?我はただ話を聞きたいだけだ」

「ええい黙れ黙れ!そもそもどうやってここまで来た!途中の巡回は何をしている!」

「歩いてきた、巡回は真面目に仕事をしていたぞ」

「真面目に仕事をしていたらこんなところに貴様のようなやつがいるか!」


 我は正直に答えたのに兵士は構えた槍を我に向けて振り回して来た。


「何の真似だ?」

「ぐっ…こ、こいつ…片手で槍を受け止めただと…!」

「死ぬぞ?」


 当たり所が悪ければ死んでるところだぞ?我だからよかったものの。


「ひっ、ひいっ!!」


 兵士は槍から手を放して我から離れた。

だらしないやつだな、大事な武器を簡単に手放すな。


「大事にしろよ」


 槍を突き返してやった。

槍の柄が兵士の胸にドン、と当たって兵士は尻もちをついて転んだ。

何をやっているんだこいつは、ちゃんと受け取れ。


「わ…わかった、用件を聞こう、だから殺さないでくれ」

「ああ?」


 殺す気など最初からない、特に殺す理由もないではないか。


「わかったぁあぁ!見逃す!お前のことは誰にも言わないから俺のことも見逃してくれ!」

「だめだ」


 我の要件をリディオン家のものに伝えて貰わねば困る。

我は相手の顔も見たこと無いのだから向こうは簡単には会ってくれないだろう。


「ひぎいいい!俺はどうしたらいいんだああああ!」


 ん、ようやく我の話を聞く気になったか。


「誘拐事件のことで話があるとリディオン家の者に伝えておけ」

「い、いや無理だ…今は誰も通すなと言われている」

「通せとは言っていない」

「え、じゃあ、それを伝えるだけ…?本当に…?」

「ああ、今日はもう帰る」


 日も暮れてしまった、こんな時間に押し掛けるのは迷惑だろう。


「明日の朝にまた来るからな」

「か、必ず伝えておきますっ!」


 兵士は立ち上がって見事な敬礼をした、訳がわからんがこの様子なら話は伝わりそうだな。

無駄に時間を食ってしまったな、さっさとギルドに戻るか。

我はその場から急いで離れた。


………


「マーくん遅いよおおお!」


 ギルドまで戻ると、建物の前でディーナが座り込んで待っていた。


「あの二人はどうした?」

「もう夜だよ!とっくに帰ったよ!」

「そうか、ところで何を食っている?」


 ベソをかきながら口をもごもごさせているのが気になったのでディーナに聞いてみた。


「あの二人が、帰る前に奢ってくれた…」


 ディーナが指さす先には屋台があった、何かの肉の串焼きのようだな。


「お前、金を持っていないのか?」

「ううん、一応少しはあるけど、ほっとかれてかわいそうだからって奢ってくれた…」

「そうか、それで宿の場所は?」

「この先にあるって…あのねえマーくん、ちょっと思ってたんだけど私の扱いひどくない!?」

「我もあれを買って宿に行くか、おい立て、もう行くぞ」

「全然聞いてない!?」


 ごちゃごちゃうるさいディーナを適当にあしらって宿に向かった。

ギルドのすぐ近くにあった、幸い部屋は二つ空いていたのでちょうどよかった。


「もう!明日は私もヴォルるんのこと探すんだから!朝になったら起こしに来て!」

「わかったわかっ…おい、我が起こしにいかなきゃならんのか」

「一人じゃなかなか起きられないから!じゃあおやすみ!」


 バタン、ディーナはドアを閉めて部屋に入った。

一人じゃ起きられないって面倒な女だ、図体はでかいくせに子供か。


 その日は起こしにいくの嫌だな、と思いつつ寝た。


 翌日、幸い我が起こしに行く必要はなかった。

なぜなら朝早く兵士が大勢で我の部屋に押し掛けてきたからだ。


「レックス隊長!い、いました!こいつです!」


 昨夜あった兵士の顔を見て、わざわざ迎えに来てくれたのか、と思ったがもしかしたら違うかもしれない。


「ぎゃーっ!何!?たすっ、助けてマーくん!!知らない人が起こしに来た!!」


 宿の通路からディーナのわめく声が聞こえてきたからだ。

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