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マーくんの冒険2~保護者代理~

実は特に何もしてない一日

 コムラードの西に位置する神隠しの森と呼ばれる場所は、サウザンドという名の貴族が納めていた領地のひとつだった。

貴族の名は正確にはオウス・サウザンド=アバランシュ侯爵。

彼は隣国オーキッドに最も近いアバランシュという大都市を任されていた。


 だがその名の貴族はもういない。

数年前にアバランシュで領民の反乱が起こり、その際に討たれて死んだとの噂だ。

その失態が原因でサウザンド家は取り潰し、今現在はサウザンド家とは関係ない家のものがアバランシュを統治している。


「それで神隠しの森というのはサウザンド家の時代から謎の多い場所でして、何も知らないものがアバランシュとコムラードを行き来するために通り抜けて近道しようとすると、迷って二度と帰ってこれなくなると言われてるんですよ」


 こんな感じでロイが先ほどからペラペラと勝手に説明してくれたおかげで我も色々と思い出した。


「この辺じゃ見ないような狂暴な魔物がいるとか、ずっと昔から住んでいる人食い部族がいるとか色々噂はありますけど実際は…どうなんでしょうね」

「他にもオーキッドが東に領地を伸ばしてこないようにエルフが森に呪いをかけたとか、あとはサウザンド家が秘密裏に禁じられた魔法の実験をしていたとか、馬鹿げた噂もあるぞ」

「とにかく怖い場所ということはわかったわ」


 我とロイの話を聞いてディーナは少々静かになった。


「あ、そうそう、マグナさんは何でそこが『神隠し』って言われてるか知ってます?」

「知らん、どうせ何かわからんことがあると神の仕業と決めつけるような馬鹿が名付けたんだろ」

「ははははは!大体あってますよ、なんでも見目麗しい男の冒険者がそこを通ろうとした際に迷ってしまい、途方にくれて神に祈りを捧げたら、とある女神が助ける条件として恋人になるように命じ、承諾すると天界に連れ去さられてしまった、などと吟遊詩人が歌っていたのが元凶らしいです」


 くだらん、いかにも吟遊詩人が言いそうなあり得ん話だ。

大体神が人族に恋をするという発想が馬鹿げている。


「ヴォルるんは女神様には連れていかれてないよ、だってどこかの館にいるもん」

「またその話か…」

「何ですか?ボクにも教えてくださいよ、ヴォルガーさんについて何か情報が?」


 ロイが話に食いついたせいでディーナは夢で見たという話をはじめてしまった。

それによるとヴォルガーはどこか木々に囲まれた館の一室にいて、フードを被った黒髪の少女と会話していたという。


「は、はぁ…夢の話ですか…」


 それを聞いたロイは微妙な顔をしていた。


「前にも何度か見たのよ!その時はヴォルるんはいなくて…女の子だけが見えたけど」

「ええと、その女の子は誰なんです?」


 律儀なやつだな、一応その話を続けてやるのか。

我は面倒だから口を挟まんぞ。


「わからない、ただその部屋は他にも誰かいるみたいなんだけどぼんやりしていてよく見えないの、今日はじめて女の子以外にヴォルるんがハッキリ見えたのよ!」

「そうですか、それで何を話していたんです?」

「声は聞こえなくて…声だけじゃなくて音が全部聞こえない状態なの」

「まあ夢だからそういうものなのかもしれないですねぇ」


 今日は我はどうするか…ラルフォイが動いて情報を得てから何かすべきか。


「地図でその館はどのあたりかわかりますか?」

「そ、それもわからない…うう…」


 一番関係ありそうなのはアイシャ教だが、ヴォルガーの能力を知れば何かしら接触はしてきてもおかしくはない、なんせアイツ一人でこの街の教会に属する神官全員より力が上だろうからな。

連中からしたらそういう人物が出てきたら面白くはないだろう。

黒髪ゆえにアイシャ教にも入れるわけにいかんから扱いにくい。


「ところでなんでフードを被ってるのに少女が黒髪だってわかるんですか?」

「それは前に見たときはフード脱いでたからよ」


 後は別ギルドに連絡をするとラルフォイは言っていたか、そうなるとザミールだろうな、近くで通信クリスタルが置いてある街はザミールくらいだろう。

しかしザミールは距離的にまだ何か情報が入ってるとは思えん。

 

「ちょっとマーくん!ちゃんと聞いてる!?」

「聞いていない」

「ひどいっ!?」


 夢の話に付き合ってる暇はない。

む、そうだ、これはこのままロイにディーナを預けて行けば我は自由に動けるか。


「あ、ボクはそろそろ仲間のところに戻ります」

「なに?まてっ、行くならディーナを一緒に」

「はーこれからコムラードの領主に会わなきゃいけないんですよ、バジリスク討伐の件で屋敷に招かれちゃって、面倒だけど断るわけにもいかないし…あ、マグナさんも一緒に行きます?一応代表でボクとジグルド、モモが行く予定ですけどマグナさんも当事者ですし。ミュセとプラムさんはベイルリバー方面にヴォルガーさんが行ってないかどうか探してみるとか言って上手く逃げたんですよねぇ」

「…い、いや我はいい。ヴォルガーの情報を探しておく」

「すいませんねぇ、ボクらもずっと気になりっぱなしなんですが…」


 ディーナと共にいることと領主に会うことを天秤にかけて、ディーナのほうがまだマシな気がしたので我はそれ以上何も言わず、ロイがギルドを出ていくのを見送った。

悪いがこれ以上の面倒事はごめんだ。


「マーくん…やっぱりなんだかんだでヴォルるんのことを優先してくれるのね!」

「あ、ああ、まあな」


 それから我とディーナは乗合馬車の集まるところに行って誰かヴォルガーの乗った馬車を見ていないか聞いて回ったが、今日も昨日と変わらず、成果はなしだった。


 昼を過ぎて、腹ごしらえをした後、我らは一旦別れお互いの家…我は宿だが、そこに戻り身支度を整えて再度ギルドに集まることにした。


………


「ああいたいた、遅くなってすいませんね」


 ギルドで暇をつぶしているとようやくラルフォイがやってきた。

遅い、今までどこで何をしていたんだ。

貴様が来るまでディーナの相手が…そこまで面倒ではなかったな。

途中、ギルドの受付二人が暇だったのかディーナを呼んで女三人で何やら話し込んでいた。

きゃあきゃあとやかましかったが我の関与するところではないので放置しておいた。


「何をしていた?もう夕刻だぞ」

「あれ、聞いてません?僕も領主のところに行ってたんですよ」

「聞いてない」


 だがこいつの立場なら当然行ってるか。

ギルドマスターだからな、ヴォルガーのせいで楽な仕事だったように感じたが本来バジリスク討伐はかなり危険で街に関わる大きな案件だった。


「まあいい、それより何かヴォルガーに関する情報は?」

「アイシャ教のほうは特に変わりありませんね、ヴォルガーさんのこと自体はなんとなく知ってるようですが、そこそこ回復魔法に長けた新人の冒険者くらいに思っています。バジリスク討伐について行ったのも後方支援として用意したと思ってるのでしょう。それに石化病を治した人物がヴォルガーさんだとはまだ気づいていませんでした」

「…貴様何かしたな?」

「はは、まあ僕としてもまだヴォルガーさんのことを大々的にアイシャ教に知られたくはないんですよ」


 こいつもこいつで結構ヴォルガーのことを買ってるのだな。


「そうか…それで他の情報は?」

「ザミールの冒険者ギルドに連絡してみたんですが…向こうは結構ドタバタしてるみたいですね」

「何かあったのか?」

「これヴォルガーさんと関係あるかわかりませんが、数日前に向こうでも誘拐事件があったみたいなんですよ」

「ほう、詳しく知りたい」

「そうですね、まず朝に僕が聞いた時点では、向こうの街で防衛隊の隊長を務める人物の娘が二人、突然いなくなって騒ぎになったとのことでした」

「隊長の娘…?」

「その隊長というのがかなりの手練れで優れた人物らしいです、街近辺にいた獣人族の野盗をかなり壊滅させたのでそれが原因で獣人族の恨みを買って家族を攫われたんじゃないかというのが向こうのギルドマスターの予想ですね」

「筋は通ってるな」


 筋は通っているがそれがヴォルガーと関係あるかどうか…今のところは特に関係ないな。


「事件解決のために冒険者ギルドと傭兵ギルド、その二つに隊長から依頼があったそうですよ」

「それでまだ解決はしてないのか?」

「いやあそれがちょうど僕が連絡したころに、娘が見つかったって知らせがあったらしくてドタバタしてたんですよ、ひょっとしたらもう解決してるかもしれないですね」


 …向こうはなかなか優秀なヤツがそろってるようだな。

チッ、我とて本気を出せばヴォルガーの一人や二人すぐに…


「見つけたのはどっちだ?冒険者か?傭兵か?」

「あーそこがよくわからないんですよ、どっちでもないとか言ってて」

「なんだそれは」

「僕ももう少し詳しく知りたいんですが通信クリスタルが今朝使ったんでまた連絡するには三日経たないと魔力が無くて使えないんですよねえ…」

「相変わらず便利なのか不便なのかよくわからん代物だな」


 遠くの相手と話せるのは便利だと思うが一度使うと三日使えなくなる。

通信クリスタルの欠点だ。


「あー!もうラルフォイさん戻ってきてたなら私も呼んで話に混ぜてよ!!」


 ディーナがこっちに気づいて受付から戻ってきた。


「ヴォルガーとは関係あるかわからん話だぞ」

「え?そうなの?」

「ええまあ、ザミールで誘拐事件があった、という話が主ですね」

「ザミール?じゃあヴォルるんもそこで誘拐事件に巻き込まれて!?」

「いやヴォルガーが消えたのは鉱山だ」


 ディーナは根本的なことを忘れかけていたようだ。


「むむぅ…ねぇマーくん、一応明日ザミールに行ってみない?」

「そんな気軽に行ける距離にはない場所ですよ」

「ラルフォイが言う通りだ、ザミールは馬車で三日はかかる。途中に立ち寄れる村もない」

「そんなぁ…」


 そもそもザミールに手がかりがあるかどうかはわからんのだが…他にそれらしい手がかりが無いのも事実だ。


「あ!そうだ!タックスさんに頼もう!」


 ディーナは何を思いついたのか急に顔をあげて叫んだ。

商人の馬車を借りるのか?結局三日かかるのは同じだぞ。

それなら通信クリスタルの回復を待ったほうがいい。


「今日中に練習しておくから!マーくん明日の朝はウチに来て!!」


 一体何を練習しておくのか。

ディーナは意味不明なことを言いつつ、ギルドから走り去っていった。

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