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マーくんの冒険~攫われたおっさんを探して~

地球とかいう星があまりに熱いので異世界転生するところだった。

ところで物語は少し時が戻って、マーくん視点でしばらくいきます。

「彼が消えてから、もう三日たちますね」


 冒険者ギルドのテーブルで、地図を睨んでいる我に、眼鏡の男が話しかけてきた。


「…あいつが何も言わず自らいなくなるとは思えん」

「ですよねぇ、ボクもそう思います、となるとやっぱり…攫われたんでしょうね」


 攫われた、と聞いてもいまいち納得はできないがもはやそれしか可能性は残されていない。

我らと共にタイラントバジリスクを倒した男、ヴォルガーは何者かに攫われたということだ。


 あの時、馬車ごと消えたと聞いてまず我らは全員、なぜヴォルガーは馬車を動かしたんだ?と思った。

もしかしたら生き残りのバジリスクがいて、それに馬車が襲われたため、急遽馬を逃がすため動かしたのではないか、という意見が我らの中でもっとも可能性が高いものとして考えられた。


 そのためもう一台の馬車の護衛としてジグルド、ロイ、モモ…それになんと言ったか、おまけで付いてきた4級冒険者の二人をその場に残し、我とエルフの母娘で周囲を偵察に行った。


 だがいくら探しても生き残りのバジリスクはいなかった。

そしてヴォルガーの乗った馬車も。

念のため車輪の跡を調べ、それを追跡もしたのだが…

鉱山のあたりは乾燥していて、風に運ばれて来た砂がすぐに地面の痕跡を消してしまう。

さらに常日頃から鉱石を運ぶために荷馬車が通っていたせいで、距離が離れるほどどれがヴォルガーの動かした馬車のものか判別が難しかった。


 つまり…東西南北、どちらの方角へ行ったのかもわからなかったのだ。


 我らはヴォルガーが戻ってくることに期待するしかなかった。

日が暮れて探索も難しくなったため、皆、鉱山で一夜を明かした。

何も変わらないまま翌日を迎え、一旦コムラードに報告に行くべきだと意見が出た。


 バジリスクのことは報告せねばならない、倒したことを告げて素材を引き取りに荷馬車をよこしてもらわねばならんだろう、既に鉱山で一泊するという予定外のことをしてしまっているためコムラードへの報告は急がねばならなかった。


 そして我と、調和の牙からはロイが共にコムラードに一度帰ることになった。

ついでに4級の二人もだ、その二人は残しておいても邪魔なだけだったからな。


 馬車でコムラードまで戻ると、冒険者ギルドへの面倒な報告は全てロイに任せた。

やつが選ばれた理由がよくわかる、そういう面倒なことは他の面子に向いてないからだ。

我はロイとラルフォイの話が終わるまでギルドのテーブル席で座って待っているつもりだったのだが


「あっ、マーくん!!やっと帰ってきた!」


 相変わらず妙な服を着た女…ディーナに捕まってしまった。

ディーナはギルドで我らが戻るのを今朝からずっと待っていたようだ。


「ねえ他の人は?ヴォルるんはどこ?」


 まぁこいつの目的は当然それだろうな。

だから朝からギルドにいたんだろう、しかし…我が言わねばならんのか、と思うとため息が出た。


「他の奴はまだ鉱山だ。ヴォルガーは…わからん」

「えっえっ?一緒に行ったでしょ?なんでわからないの?」

「ええい、わからんものはわからん、やつは現在行方不明だ」


 我がそう言うとディーナは間の抜けた顔…いつも大体そうだが、口を開けて固まっていた。

それからすぐ「行方不明ってなに?なんでそうなるの?」とか何度も聞いてきてうっとおしかったので、我は相手をするのを諦めて、ギルドの二階、ラルフォイのいる部屋へ向かった。


………………


………


 ロイから報告を受けたラルフォイは、翌日、4級冒険者を何名か鉱山へ向かわせた、例の二人に加え十人以上を五台の荷馬車と共にだ。


「やだやだー私も行くーー!!」


 ディーナは鉱山に行ってはいけないとラルフォイに言われている。

だが出発直前までそう言ってごねた。

昨日、ラルフォイの部屋に我と共におしかけて一通り事情を聞いてしまったからだ。


「えーと…すいませんが彼女のことは頼みました」


 冒険者を引き連れて鉱山に戻るロイに、ディーナの相手を頼まれた、最悪だ。

こんなことなら我も鉱山に残ればよかったと思った。


 走って馬車について行こうとするディーナを転ばして、ひとまず縄で縛りあげた。

通行人が変な目で見てきていらいらした。

我がひと睨みすると大抵はそそくさとその場を逃げるように去って行ったがな。


 人目に付くのが嫌だった我はギルドの中でディーナを椅子に縛り付けて座らせ、うるさいのでさるぐつわをした後、この後どうすべきかを考えていた。


「いやあ、それはさすがにどうかと思いますよ、見てて僕も心が痛みますし」


 ギルドマスターのラルフォイが我に話しかけてきた。

心が痛むとか言っているがどうせ内心はそんなことは微塵も思っていないだろう。

顔が笑っていた。


「こうしないと勝手に鉱山へ行く、なんならこれをお前が預かっておいてくれ」

「ちょっと無理ですねえ、だって周りの人に変な目で見られちゃうじゃないですか?」

「むーーーっ!むぐーーーっ!」


 縛っていてもガタガタと椅子を揺らしてとにかくディーナはうるさかった。


「マグナさんはこれから街でヴォルガーさん、もしくはヴォルガーさんを見た者がいないか探すんですよね?彼女も一緒に連れてってくれません?」

「邪魔なんだが?」

「ですがロイさんにも頼まれたでしょう、この状態でギルドに置いていかれても困りますよ、それに街中でヴォルガーさんの手掛かりを探すための手伝いなら彼女も納得して街にいてくれるんじゃないですか?」

「む!むむむ!むん!」


 何を言ってるかわからないのでとりあえずディーナのさるぐつわだけは外してやった。


「ぷはあっ!私もマーくんと一緒に街でヴォルるんのこと探す!」

「ね?ほら、ではそういうことでお願いしますよ」


 我がしばらくこの女の面倒をみなくてはならんのか…

気が重かったが他に道はないようだったので仕方なくディーナの縄をほどいて同行させることにした。


 にこにこと笑顔で見送るラルフォイに腹が立ったが、我はディーナを連れて街を探索した。

ヴォルガーは銭湯が好き、というので我とディーナはまず銭湯に行ったが何も手がかりはなかった。

それから普段買い物をするという場所を巡ったり、スラムにいって情報屋もあたってみたが…

成果は何も得られなかった。

ごろつきにディーナが絡まれて余計な手間が増えただけだった。


 念のためにやつの家にも行ってみた。

何かあいつが黙って消えなくてはならない理由…それの手掛かりがあるかと思ったが…

まあそんなものがあればこのひぃひぃ言いながらも必死についてくる女が気づかないはずはない。

商人のタックスにもあたったがやはり何もわからないようだ。


「先生いなくなったって本当っすか…」


 タックスの息子が店を出る我に話しかけてきた。


「お前は何か心当たりがあるか」

「いえ、すいません、何もないっす」

「そうか…」

「あ、でも…話を聞く限り変だと思うことが一つあるっす」


 なんだ?と思ってふと足を止め、次の言葉を待った。


「前にオレっちがウチの馬の世話をしてるときに先生が様子を見に来たことがあって、その時に妙に珍しそうに馬を眺めてたっすよ」

「それがなんだと言うんだ?」

「先生は馬どころか馬車にもあんまり乗ったことがないって言ってて…そんな人が馬車を操れるっすかね?」


 そういうことか…そういうことだったか!


「なるほど、お前の意見、参考になった」


 我はそう言って急いで店を出た。


「ああっ、マーくん待って!!」


 店の前であちこち走り回ってへばっていたディーナが立ち上がり、我の後を追いかけてきた。

我は「ギルドに戻る」とだけ声をかけ、先に走ってギルドへ向かった。


 走りながら我は考えた。

ヴォルガーは自分で馬車を動かしたのではない。

別の誰かがヴォルガーを馬車ごと連れて行った…攫っていったのではないか。

普通に考えたらそれが真っ先に思いつく。

なぜこんな簡単なことを見落としていたのだ!


 自らの間抜けさに呆れながらも、あの場にいた誰もが我と同じ勘違いをしていたのだと気づく。

バジリスクの群れに単身つっこんで傷一つ負わないような者をどこの誰が攫っていけると言うのだ。

力づくでヴォルガーをどうにかできる者などどこにもいないだろう。

勘違いしていても仕方ない。


「あっ、マグナさ…」

「ミーナ、この辺の地図をくれ、最新版だ」


 ギルドに着くと受付のミーナから地図を貰った。

我が持っているものは一年前のものだったので念のために新しいものに変えておいたほうがいいと思ったのだ。


「ラルフォイは上にいるな?悪いが勝手に通るぞ」

「は、はい、あの地図の代金は銀貨5枚ですが…」

「ああ、そうだったな、ほら」


 我は代金をミーナに渡した。

地図を少し見たが紙に書かれたものでよく出来ている。

確かここの地図はミーナが作っていたはずだったか…


「いい地図だな」

「えっ、あ、いえ、どうもありがとうございますっ、こんなものでよければいくらでもっ」


 同じ地図は何枚もいらん。

たまにミーナは訳の分からないことを言う。 

ともかく我は地図を受け取るとラルフォイの部屋へ向かった。


「ノックもなしに突然来られるとさすがに驚くんですが」


 部屋にはラルフォイがいた、落ち着いて椅子に座っていて驚いた様子はない。


「ヴォルガーは攫われたのかもしれん」

「…ああ、なるほど、それもそうですね」


 ラルフォイもどうやら間違いに気づいたようだ。

こいつの察しのよさは普段うっとおしいがこういうときは話が短くて済むから便利だ。


 我はラルフォイと共にヴォルガーがなぜ攫われたのか、攫った相手がいるとしてそいつの目的は何なのか話し合った。

なぜ簡単に攫われたのかについてはたぶん…あいつは馬車で寝ていたのだ。

魔法を使いすぎてかなり疲労していたからな、なのに魔力ポーションをろくに飲まなかったのだろう。

魔力切れを起こすと激しい睡魔に襲われるのは常識だ。

普通は戦闘中に寝ないために魔力ポーションを飲んでその状態を回復させる。


 ただあいつは少し常識外れだからな…不味いからって飲まなかったに違いない。

目を覚ますためにあんなクソ不味い味をしてるというのを知らないのかもしれない。


 寝てるところであれば攫うのはたやすいだろう。

問題は誰がやったかというところだが。


「マグナさん、今日はもう遅いですしこれくらいにしましょう、僕は明日、アイシャ教と…別の街のギルドに話を聞いてみますから」


 気が付くとすっかり夜になっていた。

随分ラルフォイと話し込んでしまったようだった。

宿に戻るのが面倒だったのでその日はギルドの1階の空き部屋を貸してもらうことにした。

…1階に降りると力尽きたディーナも床に転がって寝ていたしな。

ディーナは別の部屋に放り込んでおくことにした。


………


 翌日、我はギルドの1階、いつも座る隅の席で地図を広げて鉱山から一日以内の馬車で行ける範囲を調べていた。

さすがにヴォルガーも丸一日以上寝てはいないだろう。

攫われたと気づけば抵抗して逃亡するか、相手に従うにしてもどこかに手がかりを残しているかもしれない。


 腹が減ったな、と思った頃にミーナが来て食事を持ってきてくれた。

最近のギルドは随分世話を焼いてくれるんだな、便利になったものだ。

礼を言って、ついでに部屋に放り込んでおいたディーナはどうしてるか聞いたらまだ寝ていると言っていた。


「あの…彼女って最近冒険者登録した新人ですよね、なぜマグナさんと共に行動してるんですか…?」

「仕方なくだ、我とて好きでそうしているわけではない、さっさと保護者に引き取りに来てもらいたい」

「あ、なんだ、そうなんですか、そうですよね!マグナさんとは釣り合いませんし!」


 やはり変な女だな、何で嬉しそうに言うのだ?

ミーナは機嫌を良くして受付の方へ歩いて行った。


 そうしてしばらく席について地図を眺め、考え事をしているところにロイが来た。

どうやら鉱山から無事に皆を連れて戻ってきたようだ。

ただしそこにヴォルガーは含まれていなかったがな。


 ロイもあちらに行ってる間に我と同じく、ヴォルガーは攫われたのではないかという結論に達したようだ。

我の言葉に対し、「やっぱり攫われた」と返して来たからな。


「誰がそんなことをするのかわかりませんが…ボクはこっちには行ってないと思いますよ」

 

 地図のある地点を指さしながらロイは言う。

鉱山から北東、王都に向かう街道が続いているほうだ。


「なぜそう思う?」

「こっちは草原で視界が開けてますし、コムラードに向かう馬車があれば誰かすれ違ってるはずです、それにヴォルガーさんならもし攫われても街道沿いであれば自力でなんとかして戻ってきそうな気がしませんか?」

「確かにそうだな」


 昨日そういう情報はなかった、もし変わったことがあれば情報屋が馬車のことを言うはずだ。


「南はコムラードを迂回して行こうとするとグレイトリザードの沼地を通らねばならんな」

「ええ、馬車では厳しいですからそれも無いでしょう、あと東もサイプラス共和国のベイルリバーがありますし、そこに行ったとしても人族のヴォルガーさんは街に入れません、可能性は低いでしょう」

「そうなると後は北、北西、西…」


 北はゼーレ山というでかい山がある。

あそこはガルガロという狂暴な鳥の魔物が巣を作っていて危険な場所だ。

北西はかなり先に行けばザミールというドワーフ族の国オーキッドと獣人族の国マグノリアの国境に近い街がある。

ザミール付近は獣人族の野盗が出没していると聞いたことがある。

まさかその野盗がこの辺まで来たとは思えないが…わざわざヴォルガーを連れて行く理由もないしな。


 後は西、ここらへんは…何か変な噂があったが、なんだったか思い出せん。

我は地図の鉱山から西辺りを指でなぞりつつ考えた。


「マーくんマーくんマーくん!!」


 我の名前を連呼しながら駆け寄ってくるのはディーナだ。

ようやく目が覚めたようだな、朝からなんてうるさいやつだ。

ヴォルガーはよくこんなのと毎日一緒にいて平気だな。


「うるさいぞ」

「あっ、ごめん!でも聞いて!ヴォルるん見たの!」


 何だと?


「いや、お前はずっとギルドの部屋で寝てただろうが」

「だから夢で見たの!」


 本格的に我には手に負える気がしない、ここまで馬鹿だったか?

今日からロイたち調和の牙にこいつのことを任せてやろうか。


「ヴォルるんコムラードにはいないよ!どこか森、山かな?山にある…大きな館にいるの!」


 夢の話はもういいんだが、我の指はちょうど地図でとある森の上で止まっていた。


「そこは確か、通称『神隠しの森』ですね」


 鉱山から西、我の指を眺めながらロイはそう言った。

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