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それちょっと待って

敵とは一体…

 敵襲って言ったよなあの…名前なんだっけ、忘れた、いやおっさんの名前はどうでもいいか。


「相手はなんだ?またその辺にいるゴブリンか?それともオーガか?」


 ナインスが食堂に駆けこんできた男に問う、魔物がやっぱ来るのかここ。


「いえ、それが相手は人族…恐らく傭兵だと思います」

「チッ、傭兵ってことはアタシもとうとう懸賞金をかけられたか…」


 傭兵…ラルフォイに一度、傭兵と冒険者の違いについて聞いたことがあるが、冒険者が魔物を相手にするのに対して傭兵は人を相手にするのがメインらしい、ギルドも別に傭兵ギルドというのがあるそうだ。


 人メインってことは躊躇なく殺しに来る可能性があるってことだよな、え、むっちゃ怖いんですけど。


「なんでここがバレたのか気になるが、まあいい、それでどこの傭兵団かわかるか」

「わかりません、というかその…相手は傭兵団ではないかもしれません」

「はぁ?お前が今傭兵だと言ったじゃねえか」

 

 フリスクが横から口を挟むが俺も同じことを思ったのでちょうどいい。


「そ、それが…相手の数は一人、凄まじい強さの剣士が一人でここを目指して来てるんだ!」


 おっさんの叫びにフリスクとヘイルはノーリアクション。


「一人でだと?なんだそのイカれた野郎は、数で囲んでも倒せねえのか」

「すいません、10人がかりでも無理でした、ただ相手も一旦引いたようで…この山のどこかに姿をくらましているようです」

「えっ、ちょ、ちょいその戦った人たちどうなったの?」


 気になって俺も口を挟んでしまった、だって10人も殺されたってこと?冗談っすよね?


「…生きてはいる、ただ全員かなりの怪我でもう戦えない、無事なものが山中でそいつらの手当てをしているところだ」


 そうか…とりあえずよかった。

つい昨日までここでわいわい食事をしてたやつらが急に死んだとか言われたらいささかショックを受けるところだった。


「ならここに連れてこい、あの木の傍にいればなんとかなるだろ、それでも無理ならこいつに治療させる」


 ナインスが俺を指さして言う、何か俺が治すのが当然みたくなってんな、いやまあ治すけどさ。


「いいんですか?もしかしたらやつは…」

「構わん、早く連れてこい、ああお前らも手伝いに行け」


 何か言おうとしたおっさんの言葉をさえぎってナインスは命令した。

そしておっさんはフリスクとヘイルを連れて食堂を出て行った。

後の二人はナインスをここで一人にすることを躊躇していたが…


「お頭のこと頼んだぞ」


 ヘイルが去り際に小声でそう言った。

あれ、もうなんか完全に仲間の一員みたいな扱いされてない?

ぶっちゃけこの機に乗じて逃げようかとすら考えはじめてたのに信頼が重いな。


「ヴォルガー、ぼんやりするな、行くぞ」

「えっ、どこへ」


 俺の疑問をよそにナインスは厨房のほうへ行った。

俺も後をついて行く、中ではシンタロウが果物を切ってるとこだった、アイラはそれを見ている。


「おじさ…あっ…」


 シンタロウは足音に気が付いて顔をあげたが俺の他にナインスがいると気づくと言葉を止めた。


「なんです?おかわりですか?残念ですが今から作る分は私が…」

「フッ、お前もやっぱりあれが好きになったか」


 次のミルクレープは私が食べると主張するアイラにナインスは笑みをこぼした。


「悪いが次の分は諦めな、おいヴォルガー、ガキ共を連れて裏へ出ろ」

「なんだ?湧き水のある池のところか?」


 俺が聞くと「そうだ」と言われた。

よくわからんがナインスがかなりマジっぽいんで大人しく従うことにした。

俺はシンタロウとアイラを連れ、厨房の勝手口から湧き水のある池の前に行く。


「これに水を汲んでおけ、あとこれは食料だ」


 後から来たナインスが空っぽの皮の袋と食料の入った袋を俺に渡して来た。


「この池から流れてる川を下っていくと途中ででかい川にぶちあたる、そこからは少し川から離れて下流を目指せ、川沿いにいると水を飲みにくる魔物に見つかるからな」

「いやおい何言って」

「万が一見つかったら荷物の肉を投げてその間に逃げろ、まあ…こいつがいるから大抵のことはなんとかなるとは思うがな」

「急に何を言いだしたんですかこの人は」


 俺が聞きたい、が、これはきっと…ナインスは俺たちを逃がそうとしている。


「…今まで世話になったな、ミルクレープに免じてお前らは解放してやる、じゃあな」


 それだけ言ってナインスは厨房に戻って…あっ、あいつ中から扉に鍵かけやがった!


「おじさん、一体どういうこと?」

「私も説明してもらわないとわけがわかりませんよ」


 俺はシンタロウとアイラに事情を説明した。

今ここに、ナインスを捕まえようとする何者かが向かって来ていること。

恐ろしく強い相手のようでナインスはきっと俺たちを巻き添えにしないよう逃がしたということ。


「まさか、あっちから逃がしてくれることになるとは、予想外でしたね」

「え、アイラちゃん、本当にここから川を下って行くの?」

「そうですよ、もたもたしてたらどうなるかわかりませんからね、ほら二人とも、行きますよ」


 うわーアイラは気持ちの切り替え早いなあ…


「あのーどうだろう、ここはちょっと待ってみるというのは」

「…は?」


 お、おう、この「は?」という一文字にこめられた威圧感のなんたることよ。


「いや道中魔物も出るかもしれないし」

「ここにいたって魔物より危ないやつが来るだけでしょう?」

「俺たちはナインスの一味ではないわけだし、助けてくれるかも」

「それを相手が信じてくれますか?それにもしナインスたち盗賊が勝ったら私たちは結局このままですよ?都合のいい想像をしてる場合ではないと思いますが」


 うっ…少女にガチ正論で言いくるめられるとか…つらい…


「で、でも逃げるにしてもせめて何か…武器がないと不味いんじゃないかな」

「あったって私たちじゃ意味ないですよ、ヴォルさんが光魔法を使えるので非常時はそれでなんとかしてもらいましょう」


 シンタロウの意見をばっさり切り捨てるアイラ。

ああそうか、アイラの逃げることに関する自信は俺の魔法あってのことか。


「ここで残念なお知らせ、俺はウサギ一匹殺せません」

「何を馬鹿なことを…あれだけ色々光魔法が使えてそれはないでしょう、<ライトボール>くらいはできますよね?」

「できるが俺の<ライトボール>の威力はゴミカス、アイラのパンチよりたぶん弱い」

「あの…今この状況でそういう嘘はさすがにイラっとしますよ?」


 やべっ怒られる、ここはもう実際見てもらうしかない。


「いやこれ見てほら!<ライトボール>!」


 俺は光の玉を手のひらから出現させて宙に浮かせる。


「すまんと思うが威力は体感してくれ!」

「ちょ!?嘘ですよね!?」


 アイラに向かって<ライトボール>を発射、命中。

しゅぽ、って感じの情けない音がして<ライトボール>は消えた。


「全然痛くないだろ?」

「…ふん!」


 アイラに思い切り足を踏まれた、やや痛い。


「ぐっ…い、今踏んだ私の足の方が痛いです…」

「急になんなの」

「それはこっちの台詞です!攻撃魔法をいきなり撃たれたら誰だってビックリしますよ!」

「さすがに今のはおじさんが悪いと思うよ…」


 シンタロウにも冷ややかな目で見られた。


「えーとそのごめん、でもこうしないと分かってもらえないと思ったので」

「確かに…痛くも痒くもありませんでした。他の攻撃魔法はないんですか?」

「残念ながらありません」

「…ああああ、もう!」


 アイラは頭を抱えてその場にうずくまった。

シンタロウはそれを見ておろおろしている。


「あの女はなんで武器のひとつもよこさず放りだすんですか!」

「ナインスもたぶんアイラと同じ勘違いをしているので…」

「こうなったら中で何か武器を探すしかありません」

「えっ、でもさっきぼくらが持っても意味ないって…」

「何もないよりはマシです!!」


 アイラは厨房に戻ろうとして扉に鍵がかかっていることに気づき、怒って扉を蹴った。

うーん俺なら魔法で強化して蹴破れる気がしなくもないがそうすると素手で戦えとか言われそう。

素手でも結局ダメなことを説明するのも面倒だし…ここは素直に館の表に回ろう。


「これでまたナインスと会ったら結構恥ずかしいな」

「いいからもう黙って誰にも見つからないように静かにして下さい!」


 そう言うアイラが一番うるさい気もするが俺は黙って館の玄関を目指した。

館の壁沿いにそーっと三人並んで歩く。


「あっ、なんかやばそう、止まって」


 館の表がいよいよ見えるところまで来たんだが、顔を出して覗いてみると…


「ナインスが誰かと戦ってる」

「もう敵が来たんですか!?」

「あわわ、ど、どうしよう…」


 遠目に見るナインスは手に青く輝く剣を持っていた。

あんな剣もってたのか、はじめてみるな。

対する相手は真っ黒な剣を持って…うわ、魔法使ってる!


「敵やばいわ、闇魔法使ってる」


 謎の剣士から放たれるいくつもの<ダークボール>。

それをなんとか避け、または切り払って防ぐナインス。

なんてこった、黒い剣に闇魔法…あれ…なんだろ、気のせいかな、知り合いに似てない?


「二人ともここで待ってて」

「おじさんはどうするの?」

「あれ止めて来る」

「え、馬鹿なんですか?」


 アイラの言葉にグサッと来たが俺は大人なので泣かない。

とりあえずこのままじゃナインスがやばい気がするので俺は建物の影から飛び出し、二人に向かって走った。


「くそっ…アタシの氷の剣が通用しないなんて…」

「ククク、我が闇の剣は最強!貴様程度の魔法剣で破れはしない!さあこれで終わりだ!」

「あ、すいませんそれちょっと待って<ライト・エンチャント>」


 俺は倒れたナインスに今にも振り下ろされんとしようとしていた闇の剣に向かって光属性を付与する。

そうするとどうなるかは知っている、残念ながら光と闇の融合は起こらないのだ。


 手に持った剣が突然跡形もなく消えた襲撃者は呆然としていた。


「ヴォルガー…て、めえ…何しに戻って…」

「ああーナインス結構やられてんなあ、ちょっと待ってな?」


 まず<ヒール>より先に言うべきことがあると思って俺は目の前の男に向かって言った。


「マーくん!久しぶり!」

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