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スイーツ系中毒患者

さらなる暗黒面

「甘いものですか?嫌いではないと思いますけど」


 俺の質問に対し曖昧な答えを返すアイラ。

とりあえず嫌いじゃないなら作っても大丈夫だろう。


 俺は卵、小麦粉、牛乳…それから砂糖を調理台の上に並べた。

砂糖は地球でおなじみの真っ白な上白糖とかグラニュー糖ではない。

黒砂糖のような色をしている、これがこの世界では一般的な砂糖だ。

まあおそらく製法がそこまで発展してないからこれが普通なんだろう。

それでも塩に比べたらかなり高価なようでコムラードでも砂糖のほうが値段が高かった。


「あれ、今日の料理はこれだけしか使わないの?」

「まずはこれだけな、他のものは後で使う」


 フフフそう焦るなシンタロウよ、最初にやるべきことがあるのだ。


 俺はまず卵黄と砂糖を木の器にいれて混ぜ合わせる。

そこに鍋にいれて少し温めた牛乳と小麦粉を少しずつ足しながらさらに一生懸命混ぜる。

全体的になめらかになってきたらそれをまた鍋に戻して加熱しつつまたしつこく混ぜる。


「凄く混ぜるんだね、大変そうだ」

「混ぜすぎて茶色のドロドロしたものになってますが…これが料理ですか?」


 シンタロウとアイラが興味深そうに俺の作業を見ている。

黒砂糖だからちょっと思ったような色とは違う物体になったけど味はおんなじだろ、たぶん。


「これはカスタードと言ってこれ自体で食べることはあまりないな、ソースみたいなものだ」


 俺は茶色いカスタードクリームを鍋から木の器に取り出し、それを青鉄庫にいれた。


「さて、あれを冷やしてる間に別に物を作る」


 再び次に作るものの材料をテーブルに並べる。


「あれ、さっきと同じ材料だよ」

「ちょっと違うって!今度は塩とバターも少し使うから!」


 今度は別の木の器に小麦粉と卵、砂糖を入れて混ぜ合わせる。


「結局また混ぜるだけじゃないですか?」


 アイラの不満げな声はひとまずおいといて、フライパンでバターを溶かす。

それを器にいれて…塩をひとつまみ、それから牛乳を少しづつ入れながら混ぜ…ちょっと疲れたな。

ハンドミキサーが欲しい。


 腕がだるいなと思いつつも頑張って木べらで混ぜた。

うん、ダマもないしこれでいいかな。


「さっきのよりは白っぽいね、これも青鉄庫で冷やすの?」

「いやこれはこうするんだよ」


 フライパンにバターを溶かして、そこに今かき混ぜて作り上げた生地を入れる。

うすーく平たく伸ばして焼く。


「すぐ焦げちゃうからな、気を付けて焼いて…こうして端をもって、ちょっと熱いな、だがしかし我慢して持ってこう、ひっくり返す」


 無事に破けることなくひっくり返せた、塩ちょっといれたら生地が丈夫になるんだよな。


「はい出来上がり」


 ひっくり返して30秒ほど焼いたものをフライパンから取り出して皿に置いた。


「え、なんですかこの…薄い…薄いパン?」

「パンではないな、クレープという」

「クレープ…でも一人分がこれじゃきっとみんな怒るんじゃないかな…」


 まあ良く食べる盗賊どもには相応しくないだろう。


「いや勿論これはそのまま出さないよ?とにかくこれと同じものをたくさん焼くんだ」


 俺は同じ調子で二枚目、三枚目とクレープを次々に焼いていく。

シンタロウがじーっと見るので、交代してやらせてみることにした。


「ああっ、や、破けちゃった…ごめんなさい…」

「はは、なに気にするなまだたくさん材料はある、アイラが練習する分くらいもあるぞ?」

「わ、私は遠慮しておきます」


 アイラは一応自分の不器用さを自覚しているので無理なことはしない。

ただそれだと一生上達することはないが…まあクレープが作れなくても人は生きていける。


「ああっ、だめだ、焦げそう!アイラちゃんそっちの端をもって!」

「何言ってるんですか!熱いのに持てるわけありません!」

「じゃあこの木の棒で…ほらぼくが持ち上げてる間にひっくり返すの手伝って!」

「えええ、あつっ、ああもう、あつい!」


 何か子供たち二人で楽しそうなので俺はその間に果物でも切っておこう。

ヘイルが持ってきた物からバナナと…これバナナじゃないわ中身がメロンみたいなやつだ。

確かバナロアとかいう異世界果物だ、でもこれでいいか、これ使おう。

あとはイチゴっぽいものがあるからこれにしよう、限りなくイチゴに見えるがサイズが俺の知ってるものより3倍はでかい。


 バナロアはやっぱりメロンみたいな味がしてでかいイチゴは酸っぱくない、甘いイチゴの味がした。

それらを食べやすいサイズにスライスして切り分ける。


 果物を切った後、青鉄庫に入れていたカスタードを取り出してまた混ぜておいた。

よく冷えてる、これで問題ないな。


「どれくらい焼けた?」


 四苦八苦しているシンタロウとアイラの様子を見るとそれなりの数のクレープが皿に積み上げられていた。

同じくらい失敗作と思われる物体も別の皿に積み上げられていたが。


「まだこれだけしか…」

「ああこれくらいあればとりあえずいいよ、料理を仕上げるから一旦焼くのをやめて」

「この薄いパン…クレープですか、なかなか美味しいですね」


 アイラは失敗作をもぐもぐと食べていた。

おいおい、そんなもんで腹いっぱいになって後悔してもしらんぞ。


 俺はクレープ生地を一枚、別の皿に乗せるとそこにカスタードクリームを塗る。

そしてスライスした果物をのせてまたクレープ生地をのせ、カスタードを塗って…繰り返し。


「こうして何枚も重ねていって…このくらいの大きさになれば完成だ」


 そして完成したものを二人に見せた。


「大きいパンみたいになった!」

「手間がかかりますね、時間の無駄じゃないですか?」

「時間の無駄かどうかは、このミルクレープを食べてから判断してくれたまえ」


 俺はアイラとシンタロウにナイフでミルクレープを一人分ずつ切り分けて差し出した。

どうやって食べていいのか迷っていたのでフォークも渡してやる。


 二人はそれぞれフォークを使ってミルクレープを切り分け、口に運んだ。


「んん!?なにこれ…甘い!美味しい!本当にすごいよ…いつも凄いと思うけど今日のは特に凄いよおじさん!どうすればこんな料理が思いつくの!?」

「いやあははは、シンタロウは甘いものも意外といけるようだな」


 あとすまんがこれは別に俺が考え出した料理ではない、言わないけど。


「アイラはどう…」


 かな、と感想を聞こうと様子を見ると目を見開いて固まっていた。

口元にはカスタードクリームがべったりついている。

…あれ、もう全部食ったのか!?手元に何もないんですけど!?


「あのアイラ…アイラさん」

「え、ああ…なんですか」

「味のほうはどう?」

「味…えっ、無い、無いです私のミルクレープが!どこに行ったんです!」

「食べたんじゃないんですかね…ほら口拭いて…」


 アイラは自分の口元をぬぐうと、手についたカスタードをなんの躊躇もなく舐めた。


「こんな…こんなものが世の中にあったのですか」

「どうやら大変お気に召していただけたようで」

「…そうですね、我を失うほど美味しかったです、認めます」


 なんともまあ素直になったもんだ。


「認めるので残りを食べてもいいですね?」

「いいですね?じゃないよ?そろそろナインスが来る時間だから」

「だったらなんだと言うのです!私にそれをよこしなさい!」


 アイラは全く正気に戻っていなかった。

なんてことだ、甘いものを食って狂暴性が増すとは。

俺が高く持ち上げたミルクレープの皿に向かってうううと唸りながら手を伸ばしてくる。


「し、シンタロウ、アイラをちょっと抑えておいてくれ…これもう向こうにもってくから」

「怖いよ…ぼくには無理だよ…」

「男の子だろ!頑張れ!おいもうアイラ!そんなに食べたいならまたクレープ焼いておけ!そしたら作るから!」


 俺の言葉で一瞬アイラが動きを止めた。

これはきっとシンタロウを使ってどれくらいミルクレープを作るか頭で計算しているのだ。

俺が持った皿とフライパンのほうをチラチラ見比べているからな。


 その隙にすかさず俺はミルクレープをもって厨房を逃げ出した。


「さあ早く!次を焼くんです!」

「ひいい、そ、そんなに急かさないで!また失敗しちゃうよ!」


 背後でシンタロウの悲鳴が聞こえた。

まあなんだその…強く生きろ。

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