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魔導録 ─グリモア・ログ─  作者: リリエル
ケカルトの町
4/16

4. ケカルトにて

「にしても綺麗な町だな。」

 町に来た目的を早速失うも、折角だからと、二人は観光を始めた。

 成る程ルクスが言うこともわかる気がする。

 多く木で作られる自然的なエルフ式建築とは異なる、石や金属を多く使ったアルムのそれは、どこか芸術的な雰囲気である。

 その珍しい町並みを、目を輝かせながら眺めるルクスとは対照的に、見慣れた町並みに何も感じない様子のシフォン。

「そう? 普通じゃない?」

 ルクスにとっては見慣れない珍しいもの。併しシフォンにとっては普通のなんでもないもの。

 そしてルクスは、成る程慣れとは恐ろしいものだと理解した。


┣■┫


「……」

 新しい町で、ルクスは早速問題を発見した。

 今まで必要無かったが、洞窟の外へ出ると、どうしてもこれが必要になってしまう。

 人それぞれ異なる価値観を絶対的に測る為の道具───お金だ。

 白紙の本とペンとインクくらいは買えるだけのお金はあった。が、それももう使いきったところだ。

 さぁて、どぉすっかなぁ。

「主人公補正でなんとか……」

 ……ならないしするつもりもない。

 知らぬ間に零れていた心の声に答える某かの声にルクスは深い溜め息で応じる。

「何言ってんの?」

 まあそれは傍目から見れば一人で何か言って溜め息で完結させたようにしか見えない訳で。

 当然シフォンからそんなことを言われる訳で。

 だがルクスはシフォンの声は聞こえなかったことにしどこかへ歩き始めた。


┣□┫


 暫くして、何やら人だかりが出来ているのが見える。

「何してんだ?あいつら。」

「何かイベントでもあったっけ?」

 集団にゴミを見る目を向けるルクス。一方でシフォンはケカルトの事を思い出していた。

 しかしケカルトにはそんなイベントは無かったことを思いだし、あの人だかりはなんだろうと考え始めた。

「『エリュート』」

 ルクスは唐突に何者かの名前を呼ぶ。

 シフォンは一瞬それが誰だかわからなかったが、直ぐにエルフの精霊だったということを思い出す。

『何か用ですか?』

 呼ばれて虚空から現れた緑色の小さな生物がどうやらエリュートらしい。

「『あれの偵察を頼めるか?』」

『承りました。』

 ああ、なんと従順なことか。ルクスなら文句垂れ流した挙げ句拒否するであろうその命令を、嫌な顔一つせず承るという。

 感心するシフォンを他所に、偵察を終えたらしいエリュートは報告する。

『何でしょうね。あれ。』

 無邪気な笑顔で告げたエリュート。対する反応は苦笑いしか無かった。


┣■┫#4 ケカルトにて┣□┫


 仕方なく見に行くことに決めたルクス。

 人と殆ど会わずに百二十四年。引きこもってた時間は百十年。

 その間に生じた群衆恐怖症。ルクスには耐え難いと見るが……

 意を決したように人だかりへと歩み寄る。

 そしてあと少しのところまで来たとき───


 ───全速力で逃げ出した。

 やはりルクスには不可能だったようだ。


 その様子を側で見守っていたシフォンは、やれやれとばかりに息を吐いて集団に歩み寄る。

 人をかき分け進んで行くと、

「なるほど。」

 漸く人だかりの正体が解った。


「バーゲンセール?」

 シフォンが見てきた限りそうだった。

 成る程。道理で女性が多い訳だ。

 内側は最早戦争状態。騒がしくもなるはずだ。

「ルクスも参加してみる?」

「遠慮しとく。あん中入るなんて自殺行為だ。」

 ちょっとした自虐を込めてルクスが答えた。


 ところで……

「これからどうするの?」

 必死に歩いて、だが目的を失い、でどうするか。

 勿論

「さあな。物価が安いとこでもありゃいいけど。」

 決めてあるはずもない。

 しかしシフォンには、物価が安いとこを知っているようで。

「物価が安いとこ……アモルファとかどう?」

「どこだそこ。」

「ここから更に西に行ったとこ。一応アルム領だけど。」


 斯くして新たなる目的地が定まった訳である。

 そして二人は歩き始め───

 ───て直ぐに足を止めた。

「なあ、何で歩く必要があるんだ?」

 ルクスのこの問いによって。

「……どういう意味?」

 シフォンはルクスの意図を汲みかね、困ったように聞き返した。

「まだ命を助けた礼ってのは有効か?」

「まあ一応は。」

 質問に返した質問に更に質問をされ戸惑いながらもシフォンは答える。

 そして確認を終えたルクスはこう言った。

「じゃあさ…………」

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