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魔導録 ─グリモア・ログ─  作者: リリエル
ケカルトの町
3/16

3. その道中

 ここは考え方を変えよう。

 そうだ。あのまま洞窟に隠っていれば生き埋めになっていたかもしれない。

 偶然シフォンがアルムだという事を忘れていたお陰で助かったのだ。うん。

 尚、もし生き埋めになっても魔術で何とかなるのではないか?という疑問はこの考えを論破するに足りるので考えないように。


「さぁて、どこに行こうか。」

 突然過ぎる出来事に、勿論行き先など決めてあるはずもなく。また、百十年引きこもっていたルクスが地形情報など知っているはずもなく。

 仕方のない事ではあるが、早速その疑問が涌いた。


「ここから西に行ったところにケカルトっていうアルム領の町があるはず。そこに行ってみる?」

 ルクスの状態を察してか、シフォンが提案する。

 さらに、

「私、そこに住んd───」

「よし行こう。行って居候させて貰おう。」

 シフォンの話を遮って即答。ちゃっかり腹の中を晒すが気にしない。

 話を最後まで聞かなかった事を後に後悔することとなるが……(゜⊿゜)シラネ。


┣■┫


「歩くの、って、こんなに、大変だった、っけ?」

 歩き始めて約十分。早くも息を切らしたルクス。

 しかし振り返ると、まだ町は直ぐそこに見える。

 引きこもりも百十年続けば土竜のように成り下がってしまうようだ。

「ほら頑張って。まだ一割も進んでないんだからね?」

「はぁ、努力するよ…」


 それから更に三十分が経った。

 信じられないかもしれないが、なんとルクスが四十分間も歩き続けたのだ。

 あの引きこもりがやったのだ。

 という事で、彼らに一つ、プレゼントを与えるとしよう。

 そうだな。では山賊を、と。←


 そして二人の前に三人の影が現れる。

 その三人は、如何にも我らが山賊でございというような格好をしていた。

「持ち物全部置いてったら命までは取らねぇ。」

 感心する程如何にもな台詞を吐いて武器を構える。

 だがルクスは歩くことに集中しすぎて、目の前の賊など見えていないらしい。


 そのまま素通りしかけたところで、山賊に無視すんなと止められて漸く気付いた。

「アァ?誰だテメェ」

 そう言いながら顔を上げたルクスの目の奥には、殺意のようなものが感じられた。

 いつもなら賊は、んだとゴラ調子乗んな!と返すところだが、その目力に圧倒され言うことを躊躇っていた。


「キャッ!?」

「い、いいのかァ、お嬢ちゃん助けなくて。」

 賊の中の一人が隠れていたらしいシフォンを捕らえ、人質に取るが

 ルクスはそれをどうでもいいとばかりに鼻で笑って振り返り再び歩き出した。


 ルクスの常識外れな行動に、残された四人は呆気に取られ時間が止まったようになるが、

「ちょ、待てコラ!」と賊の一人が剣を片手に斬りかかる。

 ルクスはそれを片手で受け流し、顔面に一発拳を叩き込む。

「テメェら本当(うるさ)いんだよ。」

 そして残る三人(何故かシフォンも)を睨んで何やら詠唱を始める。


「『全てを浄化する大海の精よ、古き契約に従い、我がイクアリアの名の下、我が望む様にその力を顕現せよ、 第一章第二連 《タイダル》』!」

 瞬間、彼らの上には大量の水が生成され、そのまま水が三人を飲み込む。


「なんで、私まで、巻き添え?」

 水が引き、ルクスに助けられたシフォンが訊いた。

「コントロールが上手く出来ないんだ。端に居れば何とかなったが、真ん中にいたら無理だ。そんなところにいたお前が悪い。」

 と返ってきた。

 別の魔術を使えばよかったじゃんという抗議の声がシフォンから挙がったがルクスは無視した。


「でさ、なんであの時無視して行こうとしたの?」

 過ぎたことだからいいけど、と。

 そういえば山賊に襲われたとき、人質に取られたシフォンを見て、鼻で笑って歩こうとした。

 あれはどう言った意図があったのか、と。

「だってお前、別に平気だろ?」

「……?」


 その後暫く会話は無かった。


┣■┫#3 その道中┣□┫


「お、湖だ。」

 暮れ泥む西の空の下、二人は湖を見つけた。


 シフォンのお腹が鳴る。同時に頬が赤らむ。

 思えばルクスは朝から何も食べていなかった。シフォンは知らないが、ルクスと一日中一緒に行動していたので、昼は何も食べていないことは明らかだ。


 ルクスは広い湖を見て、よしと何やら覚悟を決め飛び込んだ。

 幸い水深はあり、湖の底で頭を強打するとかはなかったらしい。


 少しして、ルクスが湖から上がってきた。

 手には二匹の魚があった。


「『此の木に炎を 《ライト》』」

 夕食はその魚だった。

 しかし魔術とはとても便利なものだ。

 普通焚き火を起こそうと思うと、火打ち石でちまちま頑張るしかないが、魔術なら一瞬だ。


「(昼間の大量の水といい、今の炎といい、魔術って本当にすごいな。)ねえ、魔術ってさ、私でも使えるの?」

 今日一日で魔術に魅せられたシフォンは、興味本意でそんなことを訊いてみた。

「いや、無理だ。」

 返ってきた言葉は、果たしてそうだった。

「因みになんで?」

「エルフは魔導具を作れて、アルムは錬金術を使える。逆に言えば、それしか出来ない。それは何でだと思う?」

「それは……そういうものだからじゃないの?」

 シフォンの回答に、ルクスは少し笑ってこう返す。

「それが愚者と凡人の違い。そういうものだからという結論で終了してしまうのが凡人だ。もっと常識に疑問を持った方が世界は広がるよ?」


「何で魔導具か錬金術のどちらかしか使えないのかっていうと、(そもそも)力を使うときにやり取りしてる精霊が違うんだ。エルフはエリュート、アルムはアリューナっていう精霊としかやり取り出来ない。魔術はエリュートとやり取りすることで初めて出来る事だから、アルムには出来ないんだ。」


┣■┫


「着いたよ。」

 翌朝、二人はケカルトに着くことが出来た。

「来る前に、居候させて貰うって言ってたけどさ、残念だけど(・・・・・)無理。」

 何故残念だけどなのかは訊かないでおこうか。

「何で?」

「あのとき途中で遮って即答してたでしょ? 遮られた先を言うと、そこに住んで()、なんだ。」

 ルクスが頑張って歩いて来た意味w

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