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魔導録 ─グリモア・ログ─  作者: リリエル
フィツァルリの町
16/16

16. 養殖

 簡単に言うと、シフォンが思いついた方法というのは《養殖》だ。

 育てたい海産物を囲って飼育する、それだけのことだ。悪くない方法だろう。

 だがどんなものにも必ず妥協点は存在する。

 養殖における妥協点はずばり、飼料代と手間だ。


 大量の魚を囲って育て、さらにそれを商品として提供するとなると餌は言うまでもなく大量に必要になる。

 港のブランドに賭けて質を落とすことはあり得ないので、手を抜くことは出来ない。

 そんなわけで飼料代、並びに手間が掛かってしまうのだ。


 ┣■┫


 翌日、同時刻。

 昨日と同じ席に、カールとアクトとルクスとシフォン―—つまり昨日と同じメンバーだ―—が集まっていた。


 軽い挨拶の後、最初に口を開いたのはカールだった。

「まず、シフォンさんの方法は可能です。」

 可能、という言葉に、一同は緊張を解く。


「ですが、その方法では難しいかもしれません。」

「「え?」」

 直後、予想外の言葉にアクトとシフォンは驚く。

 ルクスはまあ、そうであることを知っていたので。


「どういうことなの?」

「端的に言って、シフォンさんのオリジナルの方法ではコストが掛かり過ぎるのです。」

 カールの答えの意味が分からない様子のシフォンはルクスに「どういうことなの?」と訊く。


「えっとな、例えば一口大に切られたリンゴが大量に空から降ってきたとする。全部食べられるか?」

「うん。」

 即答だった。

「できるのかよ」と顔を軽く引き攣らせつつ、「お前は出来ても常人には無理だ。」と返す。

「私も常人だもん!」と頬を膨らませるシフォンを無視し、違う例を探す。


「……じゃあお前一日何食とる?」

「えっと、前は五食くらい?」

「よく食べるな」と思うが、ルクスはまあいいと流す。


「まあ生きている以上食事は必須だよな?」

「うん。」

「なら例えば一匹300エア(エアはお金の単位)の魚を育てるとして、一回につき5エアする餌をあげていたら餌代は最終的にいくらになると思う?」

 少しの沈黙の後、シフォンは納得したように「あー」と呟く。


「お前の例に従って、一日五回餌をあげるとしよう。すると一日で既に25エア儲けがなくなる。二週間もすれば餌代は350エアにもなる。二週間未満で稚魚から成魚まで成長できるような魚はそうそうないから、育てるだけ損するというわけだ。」

「そうだね。損するのに育てるわけないもんね。」

「その通りです。」


 難しいということがわかり、落ち込む空気。


「ま、実は簡単に解決できたりするんだけどな。」

「「「へ?」」」

 予想外のルクスの言葉にカールまでもが間抜けな声を出す。


「それは……どうするんだ?」

 アクトからの質問に、ルクスはよくぞ訊いてくれたという顔をする。

「シフォン、水族館に餌が魚じゃない魚いただろ?」

「いたね。そういえば。」

 ルクスがそこまで言ったとき、カールも何かに気づいたように「ああ!」と呟く。


 そして最終的にルクスが言いたいことを引き継ぎ、端的に言う。

「全てを育てるのですね!」

「そう。」と反応するルクスと、さらに混乱した様子のアクトとシフォン。


「へ? 全てを育てる?」

「餌も育てるとか言ったら、もっとお金が掛かるんじゃ?」

 という声が二人から上がるがルクスはきっぱりと否定して、

「寧ろ儲けが出る。それに特産物も増える。」

 と言い切った。


 頭に(クエスチョンマーク)が大量に浮かんでいる二人に、ルクスは丁寧に説明していく。


 ┣■┫#16 養殖┣□┫


「先ず、水族館で見た魚を食べない海の生き物が何を食べているかから教えよう。あいつらはプランクトンを食べている。」

「ぷ、ぷらんくとん?」

 ここまでは水族館の説明にもあったものだが、シフォンはそれを読んでいなかったらしく、未知の単語に戸惑う。

「プランクトンは、簡単に言えば海中の微小な生物の総称です。そんなのがいるんだー程度のとらえ方で問題ありませんよ。」


 カールがフォロー入れてくれたので続きを話す。

「そんでプランクトンは光と水と栄養さえあれば勝手に増殖する。」

「でもその栄養は……」

「そこで植物を植える。」

 言いかけたシフォンを遮ってルクスが言った。


「植物の葉が落ちると、それを微生物が分解して栄養に変えてくれる。」

 ただ、植物を植えると言ったルクスにカールからも疑問がかかる。

「ですが植物は塩害で海辺では育ちませんよね。」

「大丈夫だ。そこの海辺にはヤシが生えているだろう?」

「! それを使うのですね!」


 だがルクスはそのカールの気づきも否定する。

「いいや。それだとさっき特産物を増やす、って言ったことに反する。確かにヤシもいいが、特産物とするなら別の植物を生やす。接ぎ木をするのさ。」

「!」「「?」」

 この時点で話についてこれるカールは完全に理解し、そうでないシフォンとアクトは完全に置いて行かれた。


 頭の中がこんがらがってきた二人を見かねたルクスは、苦笑いして

「ま、話すよりやってみる方が分かりやすい。アクト、人を集めてくれ。三日後に実行する。カール、明日と明後日の二日間で施設の設計をするぞ。」


 とまあこのようにして問題は解決していくのだった。

 接ぎ木による塩害対策は伊東 繁という方によって既に特許が取得されているみたいです。

 ktkrと思ったのですが、先駆者がおられました……

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