15. 解消へ
長らくお待たせ致しました。
「……っていう方法なんだけど。」
「うん。普通にいい案だと思う……けど」
所詮シフォンだろうと思って聞いていたルクスは、予想外な名案に戸惑いつつもそう答える。
「けどなによ。」
微妙そうな顔で逆接の接続詞を言葉の後に付けたルクスをニヤニヤしながらシフォンはその先を促す。
「なんか釈然としないなって。」
「……一応訊くわ。どういう意味よそれ。」
思っていた以上に過少な評価をされていたと気づいたシフォンは、少しの間を開けてそう返す。
「いや、お前のくせにやるなと「は?」いえ、何でもありませんッ!」
さすがにバカにし過ぎたようだ。
軽くキレられた。
「……腹減ったな。」
なんか気まずくなったので話題を変えることにした。
「いや、別に?」
が、儚くも一瞬で空気は元通り。
思えばシフォンは昼食を多めに食べていたし、当然と言えば当然だ。
「……」
「……」
気まずい。
「そうだ、その方法をカールに伝えて見よう。」
耐えきれなくなったルクスが提案した。だがなかなかいい案だ。が、
「うん。そうしたいけど、どこにいるか知ってるの?」
「あ」
そして再び静かになる。
「じゃあいつもの居酒屋行ってみない? もしかしたらいるかもしれないし、いなくてもあの店主の人脈からそれを広めることができるだろうし。」
「そうね。そうしよう。」
少し考え、ルクスは最適だと思った案を言ってみると、すんなりと通った。
┣■┫
「――――っていう方法をこいつが思い付いたんだけど、どうだ?」
「面白いですね。」
幸いにも店にはカールとアクトがいた。
シフォンの考えた方法を伝えた結果は、手応えありといったところだ。
だがそれ以上に
「……えっと、なんと言いますか、ルクスさんって喋れたんですね。」
という反応をされた。余計なお世話です。
「確かにその方法ならできないこともなさそうですね。メリットやデメリットについて詳しく考えておきますので、また明日のこの時間に皆さん集まれますか?」
「問題ない。」
ルクスに続いてシフォン、アクトも同様に言った。
一応ルクスもリスク等について考えるつもりだが、カールの方がフィツァルリに詳しいだろうから出る幕はないだろう。
「じゃあ俺は仲間にそういう話があるって伝えておくよ。」
と、ここまでほぼ空気だったアクトがやることを見つけたようだ。
「ああ、そうしてくれると助かる。」
予告してくれていた方が協力を得やすいからな。
こうしてフィツァルリの問題は解消へと向かって行くのだった。
┣■┫#15 解消へ┣□┫
話は纏まったが、もう少し会話と食事を楽しみたいのでまだ店に残っている。
アクトは明日が早いそうで帰った。
「気になったんだけどさ、ルクスのコミュ障ってどういう条件で発動するの?」
シフォンが訊いた。
確かに気になることではある。
初対面で話せる人と話せない人の違いはなんだろう。
シフォンやこの店の店主、宿屋のマスターは初対面で話せていたが、カールやアクト、水族館の受付嬢とはそうでなかった。
何か共通点はあるだろうか。
「人の数。例えばここの店主と最初に会話したとき、その場には俺とお前と三人しかいなかっただろ?」
「言われてみればそうだね。」
と興味深そうにシフォン。
「じゃあなに、コミュ障の度合いは周囲の人の数に反比例するの?」
「まあ、つまるところはそうだな。」
ルクスの不思議な生態をまた一つ知ったシフォンだった。
┣□┫
「ところで、お二方はどうして旅に出ているのですか?」
カールからも二人に訊きたいことがあるみたい。
端から見ればなんの共通点もないエルフとアルムの男女がなぜに旅を始めたのか。
「もしかして、駆け落ちですか?」とニヤニヤしながら訊ねるカール。
彼はそういう類いの話が好きなのだろうか?
さておき、ルクスは微妙そうな顔で「成り行きで、だな。」と答えた。
「あとそれと、俺らは別にまだ恋人じゃないんで。」とも付け足して。
シフォンはルクスがまだと言ったことを少し寂しく感じつつも嬉しく思ったが、ルクスはどうやらそれに気づいていない様子。
「あ、そうなんですね。残念です。で、何があったんです?」
「何が残念なのかは気になるところだけど、えっと……」
髪の都合上正直に過去を話せないため、ルクスはシフォンに話を合わせるよう目配せする。
「穴に落ちた私を彼が受け止めてくれて、でそしたら彼の家が雪崩れてて、仕方なく旅を、ね。」
概ね合っていてそれっぽい。シフォン、なかなかいい仕事するジャマイカ。
しかしカールは意図しない解釈をしたようだ。
「恋の穴に落ちたシフォンさんを受け止めたら家では反対が雪崩れてて仕方なく旅を……?」
……カールはどうしても駆け落ち設定にしたいらしい。
ルクスが風に聞いた学者は変人が多いという噂は、本当だったかもしれない。