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魔導録 ─グリモア・ログ─  作者: リリエル
フィツァルリの町
12/16

12. アモルファの秘密

 部屋の南の窓から、赤い光が東に射す。

 その所為か部屋は橙に塗られ、また窓から望む夕陽に照る海も非常に趣がある。


「おはよう。」

 シフォンが目覚めると、隣には赤く照らされたルクスがいた。

「お、おはよう。」

 眠そうに返し、一度欠伸をして目を擦る。


 そしてただの昼寝の積もりが、思いっきり寝てしまっていたことを思い出す。

 隣のルクスの笑顔を見ていると何だか顔が赤くなってきて「顔赤いぞ? どうかしたか?」「な、なんでもない。」

 口の端に涎を感じ、顔が赤くなった原因が好きな人にだらしない寝顔を見られ恥ずかしく思っているからとは気付かないようにシフォンから話を振る。


「そ、そういえばさ、この旅の目的ってなに?」

「そうだな。当分の目的は、俺が安心して暮らせる環境の確保だな。」

「それにはどれくらい掛かりそう?」

「微妙かな。最低でも一年は掛かるだろうけど。」

 最低でも一年、と聞いてシフォンは少しほっとする。

「(まだあと一年ある……って何考えてるんだ私?!)」


「何か策はあるの?」

「ああ。ちゃんとある。教えてはやらないが。」

 と言われ、少しむすっとするシフォン。

「教えてくれたっていいじゃん。」ぶつぶつ


 そのシフォンの台詞はスルーして、昼に何も食べていないことを思い出したルクスは、シフォンを誘って昼食兼夕食をとりに部屋を出た。


┣■┫


「朝より賑わってる……というより、やっと開店したって感じだな。」

 二人は、取り敢えず朝に来たこの店にもう一度やって来た。

「席も埋まってるね。」

 どうする?なんて言っていると、店主が奥から話し掛けてくる。

「お、今朝のぶりだな。相席でいいなら右側の席に、嫌ならちょっと待っててくれ。」


「ふむ。興味深いシステムだな。」

 店を入り口で半分に分け、右側は相席可のテーブル席、左側は相席不可のテーブル席とカウンター席。

 他人が苦手なら左側に座ればいいし、誰とでも仲良く出来るとか知らない人とでもワイワイ飲みたいなら右側に座る。

 店が混んできてもいちいち相席の確認をとらずに客同士で何とかしてもらうことで、忙しくても客を逃すことがない。

 ルクスは町の情報収集という目的の下、右側に座ることにした。


 意外とフレンドリーな連中だ。積極的に席に呼んでくる。

 二人は、一番近かった席に座った。


 既に男二人と女一人の三人が座っていた。三人とも今日初めて知り合ったみたいだ。

「初めまして。」

 シフォンが挨拶すると、三人も同じように返す。


 そして三人は自己紹介を始める。

「俺はアクト。この町で漁師やってるんだ。」

 漁師という仕事に似合ったゴツい体つきの、だがとても優しそうなエルフの青年が先ず。

「あたしはリア。釣具を売ってるわ。」

 ショートヘアのエルフの女性が次に。

「僕はカール。こう見えて学者です。」

 最後に体の細いアルムの少年が言った。


 漁師に釣り道具屋に学者、情報収集にはなかなかの当たり席を引いたかもしれない。


┣■┫#12 気分転換┣□┫


 アクトに振られ、二人は簡単に自己紹介した。

「え、あ、えっ、えっと、」

 スムーズに、スマートに自己紹介したいところだが、長年のヒキコモリ生活の弊害からコミュ障を患ったルクスにそれを求めるのは可哀想だ。

 ルクスは変な汗をびっしり掻いている。それに心做しか顔色も悪く見える。


 一方で、社交的な性格のシフォンは、何ら問題なく自己紹介ができる。

「えーと、私はシフォン。で、こっちのコミュ障はルクス。私達は訳あって旅をしているの。」

 シフォンが話せる人で良かった。


「おお、旅をしているのですね! よろしければ今までに訪れたことのある場所を教えて頂けませんか?」

 旅をしているというワードにカールは目を輝かせる。

 さすがは学者。知識に貪欲だ。

「あ、でもつい数日前に始まったばっかりで、アモルファしか。」

 予想外の食い付きに、シフォンは苦笑いしつつそう答える。


 が、カールはさらに目を輝かせ、続ける。

「アモルファですか! 最近急に治安が良くなったという! どんな町でしたか?」

 今度はアモルファに反応したらしい。

 どうやらアモルファの噂はここまで届いているらしいく、アクトもリアも聴きたそうにシフォンに注目する。


「なんというか、変な町だったよ。でも……そこまでしか覚えてないな。」

 しかしシフォンはアモルファのことをあまり思い出せなかった。


 それもそのはず。ルクスが結界に込めた魔法が発動しているのだ。

 実はあのとき、ルクスは結界に常識改編魔術以外の魔術も書いていた。

 それがこれ。町の記憶の一部を思い出せなくする魔術。

 一歩町の外へ出れば恰もアモルファは普通の町だったかのように記憶される。


 そうした理由の一つは、急激に治安が改善した理由を探られないため。

 この世界に魔術という技術はまだ早いとルクスは思うのだ。

 一応結界の陣は魔術で隠蔽してはいるが、万が一見つけられたときに悪用されると困る。


 カール達には申し訳ないが、アモルファの秘密はまだ隠させてもらう。

「そうですか……残念です。」

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