11. 考察
「ちょ、こんなところで寝ないでよ!」
路地に座って壁に寄りかかりうとうとしているルクスを起こそうとシフォンは呼び掛けるが、
「……」
態とらしく鼻提灯を作って寝ていて起きようとしない。
「あーもう!」
起こすのが面倒になったシフォンは寝ているルクスを負ぶり宿屋を目指して歩いていった。
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そう言えば、
「(そう言えば何で旅を始めたんだっけ?)」
二人で旅を始めたきっかけは何だったろうと今更ながら思い出していた。
──────ほんの半月程前。
森を歩いていると誰かが仕掛けた落とし穴に嵌まってしまった。
それは子どもの悪戯では片付けられない程深く、死を覚悟した。
そこをルクスが魔術という不思議な技術で救ってくれた。
受け止めてくれた時のあの腕の感触は、今でも覚えてる。
柔らかで優しくて、でもしっかりしてた。
この頃のルクスは好印象だった。
格好良くて頭が良くて、って感じで。
精霊なんていう知らない概念を発見しているし、魔導具や錬金術も原理を完全に理解しているし。とにかく凄いんだなって思った。
その後だったっか。それが崩れていったのは。
自分のミスを言い訳言って正当化して、人をまるで実験台のように扱って遊んで。確かに頭はいいけど、性格は最低。
じゃあ、なんでそんな奴と一緒に旅なんかしてるんだろ。─────
ふとシフォンは背負っているルクスを見ると、相変わらずすやすやと寝ている。
よく見ると、目の下には隈がある。
きっと急な環境の変化に体が慣れていないのだろう。
「(まあ、今は寝かしておいてあげるか。)」
シフォンがそう思っていると、
「宿屋は5メートル先。財布は上着の右のポケットに入ってる。適当な部屋を取ってくれ。」
と、はっきりルクスが言った。
「起きてるなら自分で歩いてくれない。」
半目でルクスを見遣るが、そこには先程と同じ寝顔があるのみ。
「(こ、こいつ……ッ)」
ルクスの言っていた通り、5メートル先には宿屋があった。
ちょっとした腹いせに、少しいい部屋に泊まってやった。
┣■┫#11 考察┣□┫
ちゃんとルクスをベッドに寝かせ、序でに自分も昼寝をしようと横になる。
思えば昨夜はルクスのせいで寝れていない。
ドッキリだったと知っても、念のため警戒しながら寝ていた。
思い出したらなんか腹が立ってきたので、布団を半分奪っておいた。
そしてシフォンの意識は落ちた。
「やっと寝たか。」
それと入れ替わるようにルクスは起き上がる。
魔術で偽装していた隈を解除し、エリュートを呼ぶ。
「『見つかったか?』」
『いえ。』
エリュートに何か探し物をしてもらっていたらしいルクスは、何とも微妙な顔をする。
「(もしかしたらと思ったが、そう上手くいくわけないか。)」
ルクスには一つ気になることがあった。
それはシフォンにドッキリを仕掛けたとき。
あのときルクスは、幽霊擬きを一体しか召喚していなかったのだ。
なのに途中で二体に増えた。
考えられる原因は三つ。
一つはただの錯覚。
一つは話が本当であるため。
そして一つはルクスと同じく魔術を使えるものが存在するため。
だが二番目は九割九分ないだろう。
何故ならあの話はルクスが流れで作ったものだから。
実際にあんな伝説は存在しない。
そして一番目も可能性は低いだろう。
あれはそういう類いのものではなかったし、二人が違う角度から見て同じことが起こるとは考えにくい。
となると三番目ということになるが、それだといくつか奇妙な点がある。
抑誰も知らない技術、概念のはずだし、これはルクスにしかわからないことだが、魔術を発動するとき、僅かに術者の痕跡が残る。これを指令痕と呼んでいるのだが、もう一体の幽霊擬きの指令痕がルクスのものと同じだった。
指令痕が存在することの確認はシフォンで取れているので、そんな概念はないということはありえない。
指令痕はある程度弄ることは出来るが、ルクスは態と複雑にして、同じ指令痕を作られないようにしている。
それを再現出来るとなると……
「(ああ、やめだやめだ!)」
考えすぎてわからなくなってきたルクスは、そこから先は後で考えることにした。