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魔導録 ─グリモア・ログ─  作者: リリエル
フィツァルリの町
10/16

10. フィツァルリ

 エルフ領、フィツァルリ。

 港町であるそこは、今日も大いに賑わっている。


 賑やかな声の向こうからは波の音が聞こえ、大きく息を吸えば磯の香りが鼻いっぱいに広がる。

 水面が旭をキラキラと反射し、美しい青い町並みをより引き立たせる。


 そんな町で今、ある問題が起こっていた。


┣■┫


「ここ最近ずっとだな。どうしたんだ?」

 フィツァルリで居酒屋を経営しているサイノという男は、仕入れた魚を見て呟く。


 ここ最近、町全体の漁獲高が減っている。

 その影響で店で出す分が少なくなってしまっている。

 売り上げも少しずつだが落ちてきている。


 その事実にサイノは溜め息を吐いた。

 そんなとき、店のドアの方から客の入店を知らせるベルがなる。


 サイノは頬を叩き無理矢理気合いを入れ、客を迎える。

「らっしゃい!」


┣■┫


「へえ、ここがフィツァルリか。」

 車から降り、町の門の前に来てルクスが呟いた。


 町の青色が瞳孔に映る。悪くない光景だ。

 隣でシフォンが「綺麗な町……」なんて零す。異議はない。


 そんな感動的なところだが、シフォンの腹は飯を所望しているようで、可愛らしい音が鳴る。

「とりあえず何か食べるか。」

「うん……」

 若干顔を赤くしながらそう答えたのを確認し、二人は歩き始めた。


 近くにあった居酒屋のカウンター席に座る。昼間だと人が少なくていい。


 不意に店主が声を掛けてくる。

「あんたらここらじゃ見ない顔だねぇ。」

「この町には初めて来たものでして。」

「そうかい。それじゃあ、これはおまけだ。食べてくれ。」

 と、二人の前にサラダ小鉢を置く。

 ごつい見た目に反してやさしいところがあるみたいだ。


 と思ったら、壁に書いてあるメニューの一番端に《お通しサラダ 期間限定一杯無料》とある。

「(おまけっていうか、元々そういうサービスじゃん……)」

 ルクスは苦笑いして隣を見ると、だがシフォンはとても喜んでいた。

「(知らない方が良いこともある、か。)」

 純粋なその感情をそのままにしておくために、敢えてそのことは言わないでおくことにした。


┣■┫#10 フィツァルリ┣□┫


「んまっ。」

 あら汁という、店で一番安かったメニューを食べた感想。

 魚のよい部分を取った残りの骨や頭などを葱などの細かく切った野菜と一緒に煮込み、味噌で味付けしたものらしい。

 あらからでた出汁と味噌がよく合い、葱もいいアクセントになっている。

 最安値でこのクオリティとはなかなかだ。


 あっという間にそれを平らげる。満足。

 そしてまだ食べ終わっていないらしいシフォンを待つ。

 暇潰しに店内を見渡していると、ふと店主の笑顔に違和感を覚える。


 それは単なるお人好しか、将又ただの知識慾故か、ルクスは事情を知らずにはいられない。

「……あの、差し出がましいようですが、何か悩み事ってありますか?」

 店主の眉が一瞬上がり、また不思議そうに言う。

「確かに悩んでいる事はあるが、どうしてわかったんだ?」

「表情ですよ。あなた、表面上は笑顔に見えますが、目の奥が笑ってないです。」

 そう答えると、店主は自虐的な笑みを浮かべて語りだす。


「暗い話ですまんが実は最近、漁獲高が減ってきてるみたいでな。知り合いの漁師によれば、どうも竿に《エンチャント》しても駄目だったらしい。うちの店はメニューの八割が魚料理だからそれの影響がもろにな。値段を上げずに済むように頑張ってはいるんだが、そろそろ苦しくなってきてて、もう値段を上げようかどうか悩んでるんだ。強がってみたが初対面にばれるとはな。」

 言い終わると同時、ルクスの顔が珍しくやる気に満ちていることをシフォンは知る。

「なら大本を何とかしたらいいわけだ。」ボソッ

 呆気にとられる二人にルクスは、シフォンが食べ終わっていることを確認すると、ごちそうさまとだけ言って店を後にした。※料金は先払いですのでご安心を。


「ねえどこ行くの?」

 人混みを縫うように進むルクスと、それに続くシフォン。

 まるで家にでも帰るように一切の迷いなく進むので、置いていかれまいと駆け足になる。

「ねえって。」

 再度訊ねるがやはりルクスは目的地を教えてくれない。


 暫くして細い路地に入り立ち止まる。

「ここを目指して歩いてたの?」

「結果的にはな。」

「結果的には?」

 ルクスの曖昧な回答を追求する。


「あの店主の言っていたことの裏を取るために一度商店街を通った。それで情報を整理するためにここへ来た。丁度人気がない場所だったから。」

「それで、何かわかったの?」

「確かに漁獲高は減ってきてるようだということ。港町にしては明らかに値段が高い。それと《エンチャント》された竿がしょぼいわけでもないということ。」

「で、なんなの?」

 相変わらずの理解力に溜め息を吐き、続ける。


「考えられる原因が二つに絞られる。」

 一つ目、と人差し指を立てて

「単純に海の魚が減ったか、」

 二つ目、と中指も立てて

「漁夫のやる気がないか。」


 だが後者はないだろう、と左手を使って丁寧に中指を折り、続ける。

「後者ならここまで町が活気あるわけないし、漁船の設備が整っているのがおかしい。仮に偽装だとして、そこまでするくらいなら普通に漁師やめるだろって話だし、得られるものが休みって、どう考えても割りに合わない。」

 なら、とシフォンは漸く理解が追い付いて、しかし続くセリフはルクスが言う。

「原因は前者だ。」


 そしてルクスはヘラヘラと続ける。

「しっかしどうすっかなぁ? 相手が生物じゃあどうしようもないからなぁ。」

 よし、と名案を思い付いたように

「ひとまず寝るか。おやすみ!」

 そう言ってすやすやと寝始めた。

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