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魔導録 ─グリモア・ログ─  作者: リリエル
プロローグ
1/16

1. 全ては此処から

 ──こんなところ、抜け出してやる!──


 ニルヴというエルフ領の都市にある少年は思った。

 少年の名前はルクス・イクアリア。十四歳。

 スラッとした長身で緑眼、白金色の髪を持つ。


 そんな少年が何を嫌がって抜け出そうとしているかと言うと、エルフ種の間では白金色の髪は神聖なものとされ、崇められていることだ。

 神聖なものとされているため行動が制限され、彼は普通の生活というものを送ることができないのだ。

 具体的に制限されるものは、一般人との会話や外出、歩行など、およそ生きていくために必要なことだ。


 白金髪故にほぼ監禁に近い環境で常に生活してきた彼の心は、もう限界だ。


 そして少年は脱走するための綿密な計画を練ることにした。


┣■┫


 実行の日が来た。

 作戦はこうだ。


 トイレで用を足している間はさすがに見張りは付かないのでそのタイミングで実行する。

 窓がないためそこから脱出することは難しい。が、幸いにもエルフ種は物体を、念じるだけで魔導具に変化させることができる特性を持っている。

 そこでルクスは大量の重い装飾品のうち一つを《物体を破壊する魔導具》に変化させておいた。


 これで逃走経路の確保は完了……かと思いきや、実はその外側には二重の壁がある。


 魔導具は一回きりしか使えないので《物体を破壊する魔導具》を量産しておこう。

 重くて面倒だと思っていた装飾品がここに来て役に立つとは。

 ついでに、混乱させるために《爆発する魔導具》も沢山作成しておこう。


 これで下準備は完了。


 やっとここから逃げ出せるかと思うとわくわくしてきた。


┣■┫


 ──ルクス・イクアリア、此より作戦を決行する──


 そう心の中で言い聞かせ、気持ちを切り替える。

 ルクスは左手を小さく振る。これがトイレの合図であり、作戦開始の合図でもある。

 無事中に入ることに成功した。が、難関なのはこの後なのだ。如何に地上へ降りるか。


 ルクスが生活しているところはちょっとした塔になっていて、地上まで凡そ十メートルある。

 飛び降りれないわけでもないが、十四年間歩いて来なかったので、立っているだけでもきつい。

 そんな状態で飛び降りたらどうなるかは目に見えているので却下だ。


 装飾品の大半は既に魔導具に変化させてしまったし、これ以上変化させると着れる服がなくなってしまう。

 どうしようかと悩んでいると、発見した。

 なんだ。ちょうどいいものがあるではないか。


 ルクスは紙を適当な長さに切り、それを《飛行する魔導具》に変化させ、脚に巻いておいた。


 先ず《物体を破壊する魔導具》を起動させる。

 狙い通り壁を破壊することに成功する。


 そして空いた穴から身を投げ、同時に《飛行する魔導具》を発動させる。

 見事に飛行して見せるが、残念ながらもう脱走がバレたらしい。

「(あんな音がすれば当然か。)」


 ルクスは《爆発する魔導具》明後日の方向にいくつか投げておく。

 下を見ると傭兵達は大混乱。

 その光景をクスクス笑いながら村外れの洞窟を目指す。


 幸いにも追っ手はいないようだ。案外ザル警備らしい。

 無事に洞窟へ辿り着くことができた。


┣■┫


 あれから百と十年が経った。


 ルクスは偵察用の鳩を飼い慣らし、外の様子を見ていた。


 昔と比べ、随分と大人しくなったものだ。

 町は、初めの一年間くらいはルクスが居なくなったことで大騒ぎだったが、それっきりだ。


 ルクスはとても平和な日々を送っていた。

 そして、ある力に目覚めていた。


 ─────魔術だ。


 エルフ種及びこの世界の全生物は魔術という概念を知らない。

 魔導具というものもあるが、それとは違う。(根本的な所は大体同じだが)


 百十年間洞窟で過ごすのは、やはり暇だった。

 そこでエルフであるルクスにとって身近な、魔導具の研究をする事にした。

 研究中、偶然発見したのが魔術だ。


「忘れないようにメモしておかないと。」

 ルクスは、今ちょうど終わった実験の結果を記そうと、紙を探す。

 だが残念。紙はもう残り少ししかない。

「……基本的なことだけでもメモしておくか。」

 

 ルクスがメモを書き始めた時、蛋白質確保用に設置していた罠が作動する。


 洞窟内の偶然光が差し込む場所で食用植物の栽培は出来たが、どうしても肉は食べたくなる。

 罠はただの落とし穴で、あまり効率のいい罠ではないが、それでも一週間に一度くらいは肉にありつけた。


 だが、今回は罠の様子が変だ。

「……声が……する?」

 そう。悲鳴が聞こえるのだ。

「立て札は立てて置いたはずだが……一応見に行って見るか。」

 ルクスはメモをとることを中断し、声のする方へ駆けて行った。


┣■┫


「ギャァァァァアアア」

 断末魔をあげて落ちていく。

 穴の深さは凡そ三十メートル。

 このままでは確実に死ねる。


 地面が近づいて来た。

 思い出が走馬灯のように浮かぶ。

 まさか、こんなところで絶命することになるとは…


 だが、地面に落ちることはなく、何か柔らかい物の上に、抱き抱えられるように着地した。


┣■┫#1 全ては此処から┣□┫


 高さ三十メートルからの落下物を受け止めるのは容易ではなかった。

 咄嗟にその辺に落ちていた木の板を魔導具に加工。もしもの時用に保険を作った上で、全力で落ちてきたものを受け止めた。


 落ちてきた物とは美少女だった。

 薄紫の髪から、それがアルム種だということがわかる。

「アルムか。なんでこんなところに。」


 アルム種はこの世界の種族の一つ(といっても、世界に種族はエルフとアルムの二種類しかいないのだが)で、錬金術を得意とする。

 エルフとアルムとでは仲が悪い訳ではないのだが、住む場所はどうしても種族別になってしまう。

 だからルクスはアルムがエルフの街に居ることを不思議に思ったのだ。


 その少女は落下中に恐怖で気を失ってしまったようだが、暫くして意識が戻る。

「ぅ……っ……」

 少女はうっすらと目を開き目の前の人物を捉え軽く体を起こして辺りをゆっくり見て状況を理解する。

 体の感覚はある。どうやら何とか生きていたらしい。


「お、気が付いたか。」

 少女をお姫様抱っこした状態のルクスが話し掛ける。

「(お、お姫様抱っこ?!)」

 少女は顔を赤くして自分で立とうとする。

 ルクスはゆっくりと少女の足を支えている右手を下ろす。

 少女はそのまま地に立ってルクスに対して質問する。


「…えっと…あなたが私を助けてくれたの?」

「まあ…そんなところだ。」

「その…ありがとう。(…ちょっと、カッコいい…かも?)」

 少女はルクスに対してそんなことを考えていた。

 チョロインなのかもしれない。


 そんなやり取りの後、ルクスは作業に戻るために洞窟の奥へ。

 どうして良いかわからない少女は、取り敢えずルクスについて行った。


 戻る途中で、二人は軽く自己紹介を交わした。


┣■━□┫


「ところで、なんでフード被ってるの? 禿げるよ?」

 と、シフォンと名乗った少女が訊ねる。しかも結構心配そうに。

「禿げねえよッ。それとそんなに心配そうに訊くな。結構風通しが良いから頭皮へのダメージはほぼねえよ。」

 ルクスが軽く吠えたところで一息吐いて理由を説明し始める。

「これは髪を隠す為のものだよ。」

「髪を隠す…ってことはやっぱ禿げてるの?!」

 成る程もう既に禿げてるからこれ以上は禿げないってことかと勝手に納得し始めたシフォンに、ルクスはちっがうわ!と吠えてからさっきの説明に補足する。


「〈白金色の髪のエルフ〉って知ってるか?…」

「えっと…………聖域から逃げ出したエルフの少年……の話だっけ?」

 どうやら記憶の奥底にあったようで、頭を抱えて探した末に漸く見つかった。

 何せ百十年も前の話だ。忘れられていてもおかしくはない。


 ちなみに聖域とは、冒頭でルクスが抜け出した場所のことだ。


「そう。で、そのエルフ、俺な。」

 ルクスは当然のように言う。


「……ちょっと何言ってるかわかんない。」

 一拍空けて首を傾げながらシフォンが答える。

「そのままの意味。俺は白金髪のエルフだ。」

 ルクスは丁寧に説明しようとしたが、逆にシフォンの思考を凍結させてしまったらしい。

 なのでルクスは証拠にとそのフードを取り、美しい白金色の髪を露にする。


 シフォンは完全にフリーズしてしまった。

 ただの御伽噺だと思っていたそれが、実話だったことを知って驚いているのだ。


 暫くかけてもとに戻ったシフォンはこう切り出した。

「長い間洞窟に(こも)っていて暇じゃないの?」

 そこ?という感じだが、シフォンはそれが気になるらしい。

 洞窟に隠っていた理由もフードを被っていた理由もその他諸々の不思議な点も、追手のエルフやらに見つからないようにするためで説明が付く。


 しかし、ずっと洞窟に隠っているのも暇だ。

 ルクスはどのようにして退屈を凌いでいたのだろう?


「最初は、な。でも途中で面白いものを見つけたんだ。」

 うっすらと笑みを浮かべてルクスが答えた。

「面白いもの…?」

 不思議そうにルクスを見る。何もなさげな洞窟に何があるのかと。

 シフォンのその様子にルクスは「こっちだ。」と言って更に洞窟の奥へと進んで行った。

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