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 今日も今日とて、こはるちゃんがスケルトン達と戯れる様(修行)を眺めていた。


 すると唐突にゲーム内メールの着信音が鳴り響いたので、システムウィンドを起動してメールボックスを開き内容を確認してみる。


 ◆


『イベントのお知らせ』


 これより【ムービーコンテスト】のイベントを開催いたします。


 プレイヤーの皆様には期間内に動画を自由に作成して頂きます。

 イベント期間中はプレイヤーの皆様に【メイキングルーム】のスキルが付与されます。


 イベント限定【メイキングルーム】のスキルは、動画作成用の空間にプレイヤーをワープできるようになっております。


【メイキングルーム】の空間内では、撮影用の機材が設備されており、プレイヤーの任意で設定されている環境や服装に自由に変更できます。


 またサポートAIが存在しており、プレイヤーの皆様の動画作成をお手伝いをさせて頂きますので撮影に関する技術や知識が無くても問題ありません。是非ともお気軽にご参加ください。


 作成して頂いた動画は、イベント限定ステージ『ムービーコンテスト会場』に送信してください。


『ムービーコンテスト会場』ではプレイヤーの皆様が作成した動画を自由に閲覧することができます。

 閲覧した動画は評価することができ、プレイヤーの皆様のポイント数に応じてランキングが決定されます。


 ランキングに応じて豪華景品もございますので奮ってご参加くださいませ。


 ランキング報酬一覧。

 http://■ ■ ■ ■ ■ ■


 開催期間。


 動画作成期間:××月××日~××月××日 7日間。

 評価期間  :××月××日~××月××日 3日間。


 評価期間終了後に運営が集計を行いランキングに応じて報酬をお送りします。

 また上位3位までの動画を公式ホームページに記載させて頂きますのでよろしくお願いいたします。


 より詳しいイベントの流れを知りたい方は下記のURLをご参照ください。動画を交えた内容でご説明させていただきます。


 http://■ ■ ■ ■ ■ ■



 ◆


 イベントきたああああああああああああああああああッ!!


 ふむふむ。今回は制作系のイベントなのか。

 前回はダンジョン攻略RTAだったから戦闘職がメインって感じだったけど、逆に今回は生産職が輝きそうなイベントだな。


 前回のイベントは、楽しそうにパーティーを組んでダンジョン攻略するプレイヤー達に嫉妬して、俺は独りぼっちで攻略するという暴挙を犯してしまったんだよな……。


 ランキング1位になれたのは嬉しかったが……正直いうと反省もしているし後悔もしている。


 だが、今回は違う!

 なんたって、俺には友達がいるんだ! 友達がいるんだよね(大事なことなので2回)。


 友達と初めての共同作業。想像すると歓喜で胸が震える。

 イベントに誘っても断れないよね? 大丈夫だよね?(震え声)。


 俺は興奮と不安で綯い交ぜになった気持ちを声に乗せ、こはるちゃんへと呼びかける。


「こはるちゃん、ちょっと話があるんだけど来てくれるかな?」


「はーいっ!」


 こはるちゃんはスケルトンを殲滅し終えると、まるで子犬がご主人様を見つけて喜び勇むように駆け寄ってくる。


「なーに? どうしたの?」


「えーとさ、実は――――」


 小首を傾げて上目遣いで問いかけてくる姿に癒されながら、ついつい頭を撫でたくる気持ちを抑えてイベントの件を伝える。


「こはるも、お兄ちゃんといっしょにやってみたい! えへへ、楽しみだね」


 まさに望んでいた返事をもらえて歓喜に打ち震えた。

 俺は嬉しさの余り、こはるちゃんの両脇に手を差し込んで頭上に持ち上げるとメリゴーランドのように回転させる。


 こはるちゃんは俺の突然の奇行に目をぱちくりとさせていたが、こちらの嬉しさが伝わったのか、やがて柔らかな笑みを浮かべて受け入れる。

 

 それから数十分もの間、お互いに笑顔で回りつづけるという謎の行動を終えると、イベントと修行のスケジュールを立てて話し合う。


 それからおおよその日程をざっくりと決め、イベント告知メールの内容にあった【メイキングルーム】をさっそく試してみるとにした。


「【メイキングルーム】」


 スキルを発動した瞬間、目の前に白いドアが現れた。壁などなく空間にドアだけがある不思議な状態だ。

 どこぞのネコ型ロボットの秘密道具みたいだなーと思いながらドアノブを握りしめて扉を開いた。


 ドアの外から中を覗くと、万華鏡のような空間そのものが捻じ曲げられたような光景がそこにあった。


「こはるちゃん、さすがに運営が用意したものだから大丈夫だと思うけど、念のため離れ離れにならないように手を繋いで入ろう」


「……うん。ぜったいにはなさないでね、お兄ちゃん」


 こはるちゃんはドアの向こう側の空間を不気味に感じたのか、俺が差し出した手を繋ぐのではなく腕そのものに両手で絡めるように抱き着いてきた。


 おばけ屋敷を怖がるようなその姿に、抱き着かれた腕とは反対側の手をこはるちゃんの頭の上に置いて安心させるように撫でる。


 こうなんていうか……父性に目覚めそう。自分の子供を持つってこんな気持ちなんだろうか。


 そうしてひと段落したところで、こはるちゃんに拘束された腕を優しく引いて扉の中へと歩を進めた。


 扉の中は、ただただ真っ白な空間が広がっていた。


「あれ? 何もないんだけど、どうなってんだ?」


「うん、なーにもないね?」


 2人で疑問に首を傾げたところで、何もない空間から人の形をした何かが突如として現れた。


「ようこそいらっしゃいました。わたくしはプレイヤーの皆様をサポートさせていただきますアイというものでございます。わからないことなどございましたら、なんなりとお申し付けくださいませ」


 ああ、たしか運営のイベント告知メールに、サポートAIがいるって内容があったなと思い出し、よくよくと姿を観察してみる。

 

 まず胸部に膨らみがあることから女性型であることが窺える。


 青色の髪が肩まで伸び、顔は道化師のような仮面を着けていて確認は出来ない。人見知りの俺としては視線が合わなくていいから非常に助かる。


 そしてなぜかフリルがたくさん装飾されたメイド服を着ていた。やたらとスカートの丈が短く、足は膝上まで黒のハイニーソクスに覆われている。


 落ち着いた物腰や丁寧な言葉遣いから抱くイメージは純正当派メイドなのに、身に着けているのはメイド喫茶のメイドが着ているような服だ。


 そのアンバランスなギャップがミステリアスな雰囲気を醸し出しているようにも感じる。


 こはるちゃんの目の前だし、年上の威厳をアピールしようと先に挨拶を返す。


「ええと…………よろしく、おねがい、します……」


 ぼそぼそと、どもりながらしゃべる俺。


「わたしは、こはるっていいます。よろしくね、アイさん!」


 はきはきと自分の名前を告げ、愛想の良い笑顔で挨拶するこはるちゃん。


 ……負けたっ! 完璧に圧倒的に無様に絶望的に。


「こはるちゃん……負けたよ。君がナンバーワンだ……」


 小学生相手に圧倒的コミュニケーション能力差を見せつけられ、俺は膝から崩れ落ちた。


「お兄ちゃんっ!?」


 それから豆腐メンタルを破壊され倒れ伏した俺を、こはるちゃんが頭を抱きしめてきて健気に撫でつづけた……。


******** ここまでで区切り ボッチ 小学生に負ける。******


 こはるちゃん慈愛によって復活した俺に、サポートAIのアイが話しかけてきた。


「それでは【メイキングルーム】の仕様について説明させていただきます。まず、こちらに3つの部屋が存在いたします」


 そう言って、アイが親指と中指を擦り合わせてパチンッと音を鳴らす。すると、俺の眼前に3つの扉が突如として現れた。


 赤。青。黄。


 と、左から順に3色の色に分かれたドアだ。


「赤色の扉が『衣装部屋』。青色の扉が『編集部屋』。黄色の扉が『撮影部屋』に繋がっております。そうですね……口頭でご説明するよりも実際に見た方が理解しやすいかと存じますので、まずは『衣装部屋』からご案内させていただきますね」


 前を歩き手招きしているアイの後ろを俺たちは素直についていき、開け放たれた赤い扉へと足を踏み入れた。


「おおっ!」


「すごーい!」


 それは圧巻の光景だった。


 東京ドーム並の広い空間に、色とりどり様々の衣装が所狭しと並べられている。

 帽子や装飾品などのアクセサリーも充実しており、その煌びやかな様はお洒落好きの女の子たちからしたら垂涎ものの光景だろう。


「お兄ちゃん、いっしょに見てまわろうよ!」


 こはるちゃんが目をキラキラとさせて俺の腕を引っ張るように歩き始めた。

 やはり幼いとはいえ女の子だなー、と俺は感じつつ興奮した彼女の後を付いていく。


 様々な衣装がマネキン人形に被せられている。ショッピングモールのガラスケース内に展示されている服のようだ。

 

「かわいいー」


 時おり可愛らしい声で呟くこはるちゃんに俺は相好を崩しながら辺りを見回す。


 それにしても本当に色んな種類の服があるな。


 今時の若者が好むようなお洒落な服から、ナース服、スクール水着、アイが着ているメイド服などのようなマニアックな服まで幅広く完備されている。


「これだけ多いと目的に沿った服を探すのも大変そうだな……」


「それについてはご心配ございません、ボッチ様」


 俺のなにげない呟きにアイが反応し、親指と中指を擦り合わせてパチッンと音を鳴らす。眼前に突如としてウィンドウが出現した。


「そちらの画面をご確認くださいませ。ジャンルごとに衣装が管理されており、タッチパネルで取捨選択できるようになっています」


 言われるまま俺がウィンドウに手を伸ばしかけたところでアイさんが静止する。


「わたくしのオススメはメイド服でございます。いやむしろメイド服を選ぶしかありえないでしょう。見た目の愛らしさと奉仕による健気さを両立したメイド服こそ至高であり頂点に相応しいのでございます。さあさあメイド服をご選択くださいませ。あれれ、手が止まっていますよ。まさかメイド服以外を選んだりしないですよね…………」


 饒舌にメイド服を推しからの無言になり、こちらをじっと見つめるアイ。仮面越しから圧を感じる。


 これは『はい』『いいえ』の選択画面で『いいえ』を選んでも強制的に『はい』になるパターンですね、わかります。


 コミュ力最弱の俺に逆らう気概はなく、メイド服を素直に選択した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おいおい、まだまだやれるっしょ。 [一言] 再開頼むわ!
[良い点] よかった!よかった!あなたが生きててよかった! [一言] お久しぶりです。お仕事大変だと思いますので、自分のペースで無理せず投稿してくださるとありがたいです。。゜(゜´Д`゜)゜。
[一言] 気づいたら更新が来てた、ブックマークしなきゃ(使命感)
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