68話 ボッチ もう何も恐くない!
驚くほどに晴れやかな心地良い目覚めを迎えた。
身体が軽い。心も温かい。今なら何だってできそうな気さえする。
ふと小さな息遣いと体温を至近距離で感じ、俺の意識が覚醒する。
その正体は、こはるちゃんだ。
彼女の顔が俺の顔に後数センチで触れ合うくらいの距離にあった。
俺は慌てて離れようとしたところで、彼女の寝息が聞こえ、身じろぎするのをやめる。
そこでようやく、寝る前に膝枕をされていたことを思い出す。
どうやら彼女も俺が寝入った後に、そのまま膝枕した状態で寝てしまったようだ。
睡眠とは生き物にとって一番無防備な隙を晒している瞬間である。
そのため親父に嫌というほど隙を無くすように叩き込まれた。
俺が寝入った隙を狙って親父が攻撃を仕掛けてくるという日常の背景から、今では睡眠時でも周囲の気配を察知して起きられるようになった。
そんな俺が、これほどまでに無防備な隙を晒して彼女に身を委ねていたという事実に驚く。
だが悪くない気分だ。むしろ心地良さすら感じる。
誰かを信用し、信頼し、身を委ねて寄り添う。
ぼっちだった俺が、欲してやまなかったものがここにある。それが嬉しくて堪らないのだ。
安らかに眠る彼女を起こすのも忍びないので、その寝顔を眺めていると、ふと俺の視線が彼女の柔らかそうな頬に移る。
俺はごく自然な動作で彼女の髪をかき上げる。サラッとした金色のカーテンが開け放たれ、そこには一面の雪景色。
軽くさすってみると、彼女が「ん……」と悩ましげな声をあげる。そろりと指で軽く押す、どこまでも沈んでいきそうなほど柔らかくて温かい。
いつまでも楽しんでいられそうだが……そこで彼女の瞳が開かれる。
はっ!? 俺は一体何をやっていたんだ?
あまりにも自然に彼女の頬を触っていた俺自身の行動に驚く。
……これが禁断症状か。
以前、彼女は師匠に対抗して俺に頬を触らしたことがあるのだが、あの時の感触を身体が覚えていて本能的に動いてしまったとでも言うのか?
なんて恐ろしい頬なんだ。
それは人を駄目にする悪魔めいた魅力が詰まっていて、手を離そうと意識を巡らせるが梃子でも動かない。
そうこうしているうちに彼女の緩みきった寝ぼけ眼と視線が合う。
「ふぁー。おはよう、お兄ちゃん」
そう言って彼女は、へにゃりと天使のような微笑みを俺に向ける。
「おはよう、こはるちゃん。お陰様でグッスリ眠れたよ、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして!」
普通に会話を交わしているが、俺の右手は彼女の頬を掴んだままだ。
呪いの装備品かな?
「あれ? お兄ちゃん、ほっぺさわってどうしたの? 何かついてたの?」
寝ぼけ意識から醒めてきた彼女が、可愛らしく首を傾げて問いかけてくる。
「い、いや……そういう訳ではないよ。ごめんね、あまりにも触り心地がいいから手が離れなくて。こはるちゃんが不快でなければ、もう少しだけ触っていてもいいかな?」
「しょうがないにゃあ……いいよ!」
彼女から、世話好きのお姉さんが慈愛に満ちた笑みを弟に向けるような視線を感じる。
「……ありがとう。じゃあ遠慮無く触らしてもらうね」
許可は得た……もう我慢する必要は無いのだ!
頬から手を離そうとしていた俺の理性が、いとも容易く崩壊し、剥き出しの本能が解放される。
全神経を彼女の頬に触ることに集中。
あまりの集中力に感覚が引き伸ばされる。スロー再生の映像でも見ているような感覚の中、彼女の頬を俺の手が弄くり回す。
「ひゃっ!? お兄ひゃん、くしゅぐったいよ」
くすぐったいのか彼女は身を捩って抗議してくるが、俺が頬を弄り回していることもあり、呂律の回らない舌足らずな言葉が口から零れる。
それでも俺の手は止まってくれはしなかった。
撫でて、押して、掴んで、揉んで、弄って、こねくり回す。
初めはくすぐったがっていたのだが、だんだんと俺の指捌きが成長していくごとに彼女の反応に変化が訪れる。
「んっ…………ひゃっ……はにぁ……」
彼女の頬が上気して朱に染まっていき、桜色の小さな唇から押し殺された艶のある声が、ときおり漏れる。
俺は彼女の反応を観察しながら、つぶさに指使いを調整していく。
時には優しく、時には激しく、円を描くように撫で、弱い刺激を与えながら感覚に慣れてきた瞬間を見計らって一気に強い刺激を与える。
「んんっー!? お兄ひゃん、もうやめ――」
素晴らしい触り心地だ。
身体が軽い。こんな幸せな気持ちを味わうなんて……もう何も恐くない!
「お兄ちゃん! そこに正座して!」
「…………はい」
仁王立ちした彼女の前に、俺は力なく素直に従う。
「こはるは、おこっています! なぜだかわかりますか?」
「…………はい。この度は誠に申し訳ありませんでしたッ!」
俺は小学生相手にガチの土下座を行う。
非常に情けない状況だけに、他の人に見られていなくて心底良かったと思う。
やり過ぎてしまった。
普段なら師匠で禁断症状を抑えていたのだが、あまりの触り心地に時間を忘れて弄くり回してしまった。
「もう二度といたしません! だから機嫌を直して頂けないでしょうか?」
友達に嫌われるなんて耐えられない。ここは誠心誠意、謝罪を示す。
「えっ!? もう二度と、ほっぺさわらないの? えっとね、べつにいやってわけじゃなくてね、もうすこしやさしくしてくれるなら――」
彼女はもじもじしながら、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
どこか残念そうでありながら、期待が入り交じったような視線に見えるのは気のせいだろうか?
いや、優しい彼女のことだ。相手のことを想って嫌だと言えないに違いない。
ここはキッパリと宣言して安心させてあげよう!
「――こはるちゃん無理しなくていいよ? もう二度と絶対にしないから! 絶対にッ!」
「ふぇ!? だからね……お兄ちゃん、あのね――」
俺は彼女の言葉を遮って、更に安心させるように畳みかける。
「――心配しなくていいよ、だって俺には師匠が居るからね!」
そう言って、俺は師匠を召喚してプルプルボディーを揉みしだく。
彼女の頬の温かくて柔らかな触り心地も素晴らしかったけど、師匠のヒンヤリした柔らかな触り心地もやはり素晴らしい。
「あー、癒やされる」
彼女を安心させてあげるためにも、目の前で師匠を弄り回す様を存分に見せつける。
ふふふ、師匠は相変わらずラブリーだな。
「だーめ! お兄ちゃんのいじわる! めっ!」
俺が夢中で師匠と戯れていると、彼女が間に割り込んできた。
いじわる? 俺は何かしてしまったのだろうか?
俺が困惑して動きを止めていると、彼女が俺の腕を掴んで自身の頬へとくっつける。
そして上目遣いで、こちらを覗き込み――。
「お兄ちゃん……やさしくしてね?」
この後、滅茶苦茶ほっぺプニプニした!
◆
とある人物が、死神風の格好をした男と天使のような少女を遠くから眺めていた。
混じり気の無い綺麗な白髪を風に靡かせ、血のような紅い瞳の奥には羨望の眼差しが見受けられた。
そして、自身の頬へと手を伸ばして……揉む。
「私の頬も、充分に柔らかいわよね?」
お巡りさん、コイツ(死神)です!
あれ、おかしいな?
天使ちゃんの頬をプニプニしているだけで1ページ丸々使っただと!?
そんな作品、他にあるだろうか?
作者のプロット(笑)が全く仕事していない件について。
頬をプニプニと言えば、働く細胞のあのキャラを思い出しますね。
二期はよ!やくめでしょ!
あ、この小説はとても健全でピュアな作品なので家族と安心して見れられます!
是非是非、ご家族にも安心してお勧めして下さいませ。
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え?嫌だ!?
しょうがないにゃー
ここに天使ちゃんの頬に落書きして「評価ボタン」と書いたものがあります。
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