表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/73

67話 ボッチ 究極の枕

 メールの返信をして話し合った結果、次の日にはお互いに遊べるということになった。


 家に帰っても、明日は何をして一緒に遊ぼうかと頭の中で思考が渦巻き、結局、寝ることができずに朝日を迎えた。


 まるで、遠足に行く前の子供染みた自分の行動を顧みて、苦笑する。

 でも、こうやって友達と何して遊ぶのかを考えられること自体がとても嬉しかったのだ。


 今まで友達が居ない人生を送ってきただけに、こんな俺にも手を差し伸べてくれた彼女には心の底から感謝しているし、この関係を大切にしていきたい。


 どうしたら喜んでくれるだろうか。

 どうしたら恩返しできるだろうか。

 どうしたらもっと仲良くなれるだろうか。


 そんなことを時間が許す限り考えてみたけど、答えはでなかった。いや、一人で結論を出す必要はないのかもしれない。


 わからないなら……友達と一緒に考えればいい。一緒に悩めばいい。

 ――もう、俺は……一人じゃないんだから。



 ◆



 俺は『はじまりの町』にある噴水広場で、こはるちゃんの到着を待っていた。

 前回は女神像の前で待ち合わせして、トラブルがあったので場所を変えたのだ。


 俺は友達と遊べるのが嬉しくて、待ち合わせの一時間前には着いてしまっていた。

 そして、早く来すぎたことを激しく後悔していた。


 なぜなら、たくさんの視線が俺に向いているのだ。それらの多くには好奇の色が見て取れた。

 俺の周囲をプレイヤー達が遠巻きに集まり、観察されているのが現状だ。


 俺を見ていて何が楽しいのだろうか?


 俺は生粋のぼっちで、人見知りだ。この状況下は拷問以外の何物でもない。

 表情こそ出していないが、ストレスで胃がキリキリと締め付けられ、今にも内容物が飛び出しそうだ。


 俺は周囲のプレイヤーなど全く気にしていない体を装いつつ、耳を澄ました。

 傍から見れば、空を見上げて黄昏れているように見えるだろう。 


「やべぇ、こうして生で見るとマジで迫力あるな。中身は本当に人間か?」


 100パーセント純粋な人間です。


「おい、誰か話しかけてみろって! 俺は絶対に無理だけどな」


 いや、話しかけられても困るけど、絶対無理なんて断言しなくてもいいじゃないか!


「兄貴、これは絶好の見せ場じゃないですか! ここは兄貴の勇敢なところを、他のプレイヤー達に存分に見せつけてやりましょう!」


「……お、おう」


「あれ、兄貴? 身体震えて顔色が悪いっすけど、どうかしましたか? まさかビビッ――」


「――馬鹿野郎! 俺達の偉大なる兄貴がビビるわけないだろうがッ! きっと武者震いに違いねえよ。ですよね、兄貴!」


「……あ、ああ当たり前だろッ! 少し、吐き気と目眩と寒気と頭痛が止まらないくらいで、大したことはねえよ。まあ安心して俺の勇姿を見守ってな!」


 それって重症じゃないですかね?

 お互いに傷つくだけだと思うから、やめた方がいいよ?


「さすが兄貴だぜ! 俺達にできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」


 そうして兄貴と呼ばれていた人物が、重い足取りで、こちらに向かって来る気配を感じた。


 俺は空を見上げて気づかない振りをしつつ、横目で姿を盗み見る。


 見た目はスキンヘッドの筋肉質な大男で、厳つい顔つきだ。ただその表情は、これから死地へと向かう絶望した兵士のようであった。


 ついに恐れていた事態が起きてしまった。

 どうすればいい?

 どうやってこの状況を切り抜ける?


 俺の極限の集中力により、時間の感覚が引き延ばされる。

 ああ、胃が痛い。喉が異様に渇き、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。


 思い出せ。

 こんな時……うちのクラスにいるコミュ力の権化、カースト上位のイケメン君ならどう対応する?


 そうだ!

 確か爽やかな笑顔を浮かべ、優しい声色で人と話していた気がする。

 ぶっつけ本番だ。やれるかボッチ!


 そうこうしているうちに、スキンヘッドの大男が俺の元へとやって来てしまった。


「なあ、おい。そこのアンタ!」


 声から震えが感じ取れる。

 それを誤魔化すように、スキンヘッドの大男は声を張り上げて俺に話しかけてきた。


 お、落ち着け。人の印象は第一印象で決まる。

 ここで華麗に俺の人畜無害っぷりをアピールし、周囲の誤解を解くんだ。


「……俺に、何か用か?」


 俺の口から、底冷えするドスの利いた低い声が漏れた。


 しまった!

 緊張しすぎて優しい声色どころか、舌を噛まないようにするだけで精一杯だった。

 何やってんだ俺!


 まだだ、まだ挽回できるはずだ!

 ここで爽やかな笑みを浮かべて相手の警戒心を解くんだ!


 俺は相手の目を見据えて、ニヤリと笑う。

 

「ヒィッ!?」


 ――瞬間。

 まるで化け物でも目撃したような悲鳴をスキンヘッドの大男が上げ、震える足取りで踵を返した。


 その様は、生まれたての子鹿のようだ。

 何度も足をもつれさせて転けてを繰り返し、必死に逃げていった。


 俺は笑顔を浮かべたまま固まり、呆然とその姿を見送る。


 え? 一体、何があったんだ?

 俺は慌てて大鎌を取り出し、反射する刃を鏡に見立てて自分の顔を見た。


 そこには半分に欠けた不気味な髑髏の仮面を被り、もう半分の生身の部分は口角を限界まで吊り上がらせ、瞳孔が大きく見開いた俺がいる。


 ……おう、これは酷い。


 仮面は被りっぱなしで外し忘れていた。

 更には緊張しすぎて爽やかな笑みどころか、凶悪なまでのスマイル0円。


 穴があったら今すぐ潜って埋まりたい気分だ。


「あ、兄貴ーッ! どこに行くんですか! 置いていかないで下さいよ!」


「あの野郎、兄貴に何をしやがった!」


 あのスキンヘッドの大男を、兄貴と呼んでいた子分と思しき二人が口々に叫び始めた。


「大男が裸足で尻尾巻いて逃げやがった! 今の短い間に何があったんだ?」


「おいおい、死神さん激おこだぞ! 武器を取り出して何するつもりなんだ? ……まさか止めを刺しに?」


「ヒェッ! おまえらもっと離れろッ! そして絶対に目を合わせるんじゃないぞッ!」


 俺が自分の表情を確認するために取り出した大鎌も、周囲への更なる誤解に拍車をかける。


 周囲のプレイヤー達は、客寄せパンダを見に来たつもりが、いつのまにか猛獣が居る檻の中へと閉じ込められてしまったような面持ちをしていた。


 これ……どうやって収拾つければいいの?

 胃が痛い。ふえぇーおうち帰りたいよ。


 そんな時。

 俺の豆腐メンタルがブレイクする寸前に――救いの手が差し伸べられた。


「お兄ちゃんー!」


 その場の殺伐とした雰囲気に似合わしくない元気で明るい声が、俺の耳に届いた。


 この声はッ!

 ばっと勢い良く、俺は声の方向へと振り返る。


 その人物は、金色の二つ結びされた髪を揺らしながら、右手を大きく左右に振り、柔和な笑みを浮かべて俺の元へと駆け寄ってくる。


 ――こはるちゃん!


 いつだって俺を救ってくれるのは、この小さな天使だ。


 子供が迷子になってしまい、やっとの思いで母親を見つけて安堵した時のような心境で、俺は彼女に手を振り返す。


 そんな俺を見て、周囲のプレイヤー達は驚きのあまり口をぽかんと開けていた。


「お兄ちゃん、おひさしぶりだね! 今日は何してあそぼうかな?」


 俺の側へと辿り着いた彼女は、満面の笑顔を咲かせて問いかけてきた。

 癒やされる。


「……久しぶりだね。うーん、とりあえず静かな場所に行かないかな? 積もる話も一杯あるだろうし、人が居ない落ち着けるところでお喋りしようか?」


「うん、わかった!」


 快く意見を聞き入れてくれた彼女は、俺の手を握って引っ張ると歩き出す。

 まるで散歩に行きたくてたまらない子犬が、飼い主の持つリードを引っ張るように見えて微笑ましい。


「あの少女は何者だ!? 大の男さえ逃げ出したのに、笑み一つ崩さねえ。天使かな?」


「ぅゎょぅι゛ょっょぃ!」


「静かで人が居ない場所に幼女を連れて行く死神さん……事案かな? お巡りさーん、コイツです!」


「それは人間の法律だから、人外生命体の死神さんには適用され無いんじゃないかな?」


 俺は全力で聞かなかったことにして、その場を後にした。



 ◆



 俺達は『はじまりの草原』へと足を運んだ。

 さすがにこの格好は人目を引きすぎることもあって、落ち着けるには建物内では無理だと判断した。


「それでね、お兄ちゃんみたいなすごい人がいたんだよ! えっとね――」


 俺は彼女の海外旅行での話を相槌して聞いていた。


「へえー、そのハイジャック連中を同乗していた夫婦が鎮圧したんだね。それに、こはるちゃんに怪我が無くて本当に良かったよ」


 それにしても、一瞬でハイジャック連中を黙らした夫婦って何者だろうか?

 話を聞く限り素手で行ったことから、武術経験者と見て間違い無いな。


 ……うちの両親も結婚記念日で海外旅行だったはずだけど、気のせいだよな?


「ふぁー」


 友達と遊ぶのを楽しみにしすぎて昨日から寝ていなかったこともあり、つい欠伸が漏れた。

 戦闘中なら三日三晩寝なくても平気だが、彼女と一緒に居ると心が安らいで眠気が襲ってくる。


「お兄ちゃん、眠たいの?」


「うん、昨日から寝てないからね。ごめんけど10分だけ寝てもいいかな?」


「うん、いいよ! お兄ちゃん、ムリしないでね?」


 そう言って彼女は、なぜか正座になると膝をポンポンと叩く。

 俺が意図に気づけずに困惑していると、焦れた彼女が声をかけてくる。


「お兄ちゃん、こはるのおひざを使ってもいいよ!」


 どうやら彼女は膝枕をしてくれると言っているようだ。


「いや、さすがに悪いよ。それに枕は師匠スライムがあるから大丈夫だよ」


 師匠スライムの名前を出すと、こはるちゃんが頬を膨らまして拗ね始めた。

 なぜかは知らないけど、彼女は師匠スライムに対してライバル心を抱いてる節があるのだ。


「だーめ! お兄ちゃん、はやくきて! こはるのおひざもやわらかいんだよ?」


 そんな誘惑を持ちかけて、彼女は膝をポンポンと叩き、可愛らしい笑みと共に無言の圧力を飛ばしてくる。


「イエスマム! 僭越ながら、こはる様のお膝をお借りさせて頂きます!」


 つい彼女の有無を言わせぬプレッシャーに、よくわからない口調で返事をしてしまった。


「うむ。くるしゅうない、ちこうよれ!」


 そんな俺に対して彼女は冗談めかしに答えてみせる。


 いやー、こういう会話って良いね。

 友達と悪ふざけしているみたいで青春ポイントが高い!


 俺は彼女の言葉に甘え、その膝へと自身の頭を乗せる。


 あ、本当に柔らかくて気持ちいい。

 これは人間を駄目にするほどの破壊力!


 あまりの心地良さに意識が遠のいていくのを感じる。


「――――♪」


 薄れゆく意識の中、綺麗で温かくて優しい歌声が頭上から聞こえる。


 そして俺の頭が何かにそっと優しく撫でられ、ついには心地よい夢の中へと意識が落ちていった。


「お休みなさい……お兄ちゃん」

       


バブみが高い!


ぅゎょぅι゛ょっょぃ

いやー、ほのぼの回でしたね!

誰が何と言おうと、ほのぼの回でしたね!(念押し)


この作品もう20万文字も超えるのに、まとも話したことある人間が天使ちゃんだけというね。

ボッチ君、ぼっちしすぎ!


今、「評価ボタン」を押すと、天使ちゃんに膝枕されて頭をナデナデ子守歌してもうことができるチケットが当たるかも!

当選票

一位:天使の膝枕

二位:ボッチの膝枕

三位:兄貴の膝枕

四位:スケルトンの膝枕

百位:作者の膝枕


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一回、ポチッとしてくれると嬉しいな
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ