63話 番外編 変態紳士ギルド(終)
警察「やっと捕まえたぞ、猫又寝子!小説更新部屋にぶち込んでやるからな!読者の諸君、協力ありがとう!」
猫又「(´・ω・`)そんなー」
体育館に戻る。
そこで僕は愕然として口をポカンと開き、眼前の光景を眺めていた。
「んほぉおおおおおおおおおおおおおッ! しゅごいのうううううううううううううううッ! もっとだ! もっと俺をぶってくれえええええええええええッ!」
筋骨隆々とした浅黒い肌の大男が跳び箱の上に覆い被さり、縄跳びで身体を拘束されて喘ぎ声を上げていた。
汚い。夢に出てきそうだ。
「汚い声で鳴くしか能がないゴミクズの分際で、ご主人様に要求するとは仕置きが必要ねッ!」
その大男のお尻にメイスを叩き付け、吊り目のお姉さんが嗜虐的な笑みを浮かべている。
「私がゴールよッ!」
上の方から聞こえた声に視線を向けると、バスケットゴールに顔を突っ込んだジャージを着た女性が居た。
胴体には『どうぞご自由にお使い下さい』と書いてある紙が貼ってある。
そこへバスケットボールをドリブルしながら爽やかな笑みを浮かべた青年が駆けてくる。
そのままボールを掴むと、一歩、二歩と進み、大きく跳躍。
バスケットゴールに顔を突っ込んでいる女性へと鮮やかにダンクシュートを決めた!
「ぐはッ……んきもぢぃいいいいいいいいいいいいい!」
嬌声とともに女性がバスケットゴールから地面に叩き付けられ。
「……ふっ、またつまらぬものを叩き付けてしまったか」
爽やかな笑みのまま青年が冷めた声で呟く。
「オラオラッ! スパイクッ! 更にスパイクッ! 止めにスパイクだッ! くくくっ、ちゃんと避けろや芋虫野郎が!」
威勢の良い野性的な男性の声に僕は振り向く。
その男はバレーボールを上に高く放り投げると、綺麗なフォームを決めつつバレーコート内にある何かに目掛けて一心不乱にスパイクを叩き付けていた。
「んっー……あっ……ふー、ふー…………っ!」
何かのくぐもった声が聞こえる。
バレーコート内を見る。
ネットを身体中に巻き付けられ、目隠し、猿轡を噛まさせられた男が芋虫のように身を捩っていた。
ボールがヒットする度に身体をビクンビクンと震わせていて気持ち悪い。
「えーと確か、ドッチボールって顔面はセーフだよね? えいっ、やーっ! もっといくよ、せーのっ、ファイファイ! アイスノー! ダイアキュンキュン!」
「――ぶへぇ……ぐはっ……あっふん……もごご…………ふへへ、アニメ声で容赦なく顔面ドッチボールとは我々の業界ではご褒美ですぞ!」
アニメ声の女性が何かの呪文? みたいな掛け声で、三つ編みメガネの女性の顔面に寸分違わずボールを投げ続けていた。凄い精度だ。
対して三つ編みメガネの女性は、掛けているメガネが歪んでズレさがっていることも気にせず、悦に浸っていた。気持ち悪い。
怒涛の展開に僕の心臓が保たないよ、少しは自重して!
他にも様々な道具を使って愉しんでいる変態達が多々いるが、精神的疲労から割愛することにする。
それから体育館を後にして、オナーヌの案内で色々と校舎を見て回った。
その道中で様々な変態達と出遭ったので紹介する。
『らん豚』という変わったプレイヤーネームをしていて、「らんらん」「やんやん」「そんなー」など変わった口調で喋っていたのが印象的な付与術士。
なんでも彼は女性の胸が大好きなオッパイ魔神であり、三百メートル先であっても胸が揺れる音を正確に聞き当てることができるヤバい人だ。
名は体を表すように、見た目は豚みたいな太った体型をしているが、見た目に反して俊敏な動きをしていたことには驚いた。
連続バク転を決めてバク宙返りしながら三回転捻りを加えて華麗に着地する様は唖然としたもんだ。
オナーヌから聞いた話だけど、彼はオッパイが揺れる瞬間を見逃さないために修行を積んだらしい。
オッパイを敬い、オッパイを愛し、オッパイを想うことで動体視力と運動神経を死ぬ気で鍛えたとか。
その副産物としてジョブの『付与術士』としてのセンスも磨かれ、コンマ数秒の判定すら容易に合わせられる才能を持つそうだ。
他にも『くるみぽんち』というプレイヤーネームで、シスター服を着た残念美少女が居たはず。
彼女のジョブは『聖職者』であり、その腕は確かなものらしい。
それはもはや未来予知と見紛うほどの完璧なタイミングで回復を行うそうだ。
身体中に様々な武器を突き刺し、HPが0になるギリギリの瞬間にHPを回復するとかいう破天荒な修行方法により、絶対のダメージ感覚を身につけたとか。
彼女曰く、生死の境を彷徨うのが大好きで趣味と実益を兼ね備えているらしい。
身体に武器を刺して歩いている光景が、この変態紳士ギルドの日常風景の一つであるとかオナーヌが言っていた。
それと美少女が大の好物であり、見かけた瞬間に踏まれにいく習慣がある残念百合美少女だ。あと、胸が大きい。
スパッツ派VSブルマ派で激しい口論をしていた変な人達。
旧スク水をこよなく愛し、男という性別にも関わらず着用していたヤバい人(白ニーソ着用)。
裸エプロンこそ至高と叫ぶヤバい人(褌裸エプロン男)。
フェティシズム教団。
獣娘大好きクラブ。
……と、他にも山ほど変態が居ることから、語り尽くすことは到底できそうに無い。
そういや天使の守護騎士隊とかいう変な人達が、僕の顔を見るなり凄い形相で睨み付けてきたのだけど、あれは何だったのだろうか?
初めて顔を合わしたはずなのに謎である。
この変態紳士ギルドへと足を踏み入れてからというもの、驚愕と混乱の連続で心臓の疲労が半端ない。
僕が歩んできた人生は、とてつもなく狭い視野でしかなかったことが思い知らされた気分だ。
……彼ら彼女らは変態で、どうしようもないやつらばかりだ。
けれども、少しだけ羨ましいという気持ちが芽生えた。
あいつらは、自分に正直で心の底から人生を楽しんでいるように見えるから。
それに対して僕の人生はどうだろうか?
親が敷いたレールを歩き、失敗して、見捨てられて、現実から逃れるためにゲームを続けるばかりの日常。
……僕も変わりたい。
自分で選択して、自分がやりたいと思うことに全力で挑み、人生を謳歌してやるんだ。
でも、僕に人生を変えるほどの「夢中」になれるものが見つけることができるのだろうか?
もう少しだけ、あいつらを観察していれば「答え」を見つけられそうな気がする。
だが、懸念もある。あの頭がおかしい変態どもを観察するということは、僕にどんな悪影響がでるか分からない。
深淵を覗き込むとき深淵もまた覗いているという言葉があるが、闇が深すぎて覗き込むのが怖すぎる。
――――僕は絶対に、変態になんてならないんだからな!
「――あふっん、ありがとうございます! ありがとうございますッ!! ああ、ご主人様……僕のことをもっと激しく罵って下さい」
僕は、銀髪ツインドリル合法ロリことクリリス様から、ご褒美をもらっていた。
もう、最高だ! こんなに素晴らしいことを今まで知らなかったなんて信じられない気持ちだ。
プレイを楽しんで感謝の言葉を告げると、その場を後にする。
僕は学校の屋上に足を運ぶ。
これまでのことを回想しながら黄昏れていた。
あれから一ヶ月。
今では僕も立派な変態紳士ギルドの一員になった。
僕の才能は開花され、変態紳士技術も二つほど修得した。
これは異例の早さらしく、変態紳士ギルドのメンバーから僕は一目置かれているらしい。
阿部乃君とも友達になり、今では親友と呼べる仲だ。
あの僕に、友達ができたのだ。こんなに嬉しいことはない。
そういえば【被虐の二刀流】なんていう称号をもらったよ。
まあ、ゲームシステムとかじゃなくて、変態紳士ギルド内の勲章みたいなものなんだけどね。
変態紳士ギルドのメンバーは、とても良い人達ばかりで毎日が幸せで充実している。
こんなに幸せで本当にいいのだろうか?
たまに不安になるんだ。これは幻で、僕はまだ夢を見ているんじゃないかってね。
突然、屋上の扉が開いた音がしたので振り返る。
そこには、紳士服を着たモノクルメガネを掛けた老人――ヘニスギルド長が居た。
「タナカ君、奇遇じゃのう。どうじゃ、ここでの生活は慣れたかのう?」
「はい! 皆、とても良い人ばかりで色々と助けてもらえました。今では僕の家族のようなものです」
「それはよかった。ところで、タナカ君……また、悩みを抱えておるようじゃのう?」
「…………ははは、さすがはヘニスギルド長。その紳士眼には隠し事は出来ないですね」
「どれ、この年寄りに話してみなされ。伊達に長生きはしておらぬ、相談に乗れることもあるじゃろうて」
「…………ありがとうございます」
それから僕は、ヘニスギルド長にこれまでの人生について話をした。
親の敷いたレールに乗って過ごした無意味な時間。
親子の愛なんてものは無く、家では居場所が無いこと。
いつかこのゲームも終わり、独りになったときに現実と向き合うことが怖いこと。
不思議とヘニスギルド長に相談していると、安堵の気持ちが広がって、堰を切ったように話し出す。
「そうだのう……どんなものとて、いつかは終わりが訪れるものじゃ。なれば、今度は現実で己が誇れるものを見つけてみるのはどうじゃ? 人間、夢や目標といったものを持てば人生に潤いが満ち満ちて頑張れるものじゃ」
「……夢、ですか」
「……人生とはオナニーと同じじゃ。使うオカズ、体位、手段……それらが混然一体となって十人十色、一回ごとのそれぞれが一期一会である。不安になることもあろうて、けれどタナカ君は、もう独りではないじゃろう? 我ら変態紳士ギルドは、いつでも同士の味方じゃ。存分に頼るといい」
人生はオナニーで、一期一会か……。
そうだ、どうせ夢を持つなら楽しいことが良いに決まっている。
たとえ挫けそうになったって、今の僕には頼もしい仲間がいるのだから。
「……ヘニスギルド長、決めました! 僕の夢は――――」
語る。僕が好きなこと、全力で夢中になって叶えたい大きな夢を。
「…………ほう、それは良い夢じゃのう」
憑きものが取れたように晴れた笑みを浮かべる僕を、ヘニスギルド長が優しく微笑むのであった。
……やがて、ある一人の男性がSMクラブの会長になったのは、また別の話である。
これにて、変態紳士ギルド編を終了致します。
思ったより長くなってしまいましたね。
本当は、もっと登場させたいキャラが居たのですが、さすがにこれ以上本編の方を空けるのはマズイので何とか終わらせました。
平成最後を変態紳士ギルドで終えて、令和の最初も変態紳士ギルドで迎えるとは思ってもいなかったです。
注意、作者は変態ではありません!
このピュアな内容を見て読者さんも納得したのではないでしょうか!