62話 番外編 変態紳士ギルド3
……あれから数時間、僕は変態達が織りなす欲望に塗れたカオスなストーリーを聞く羽目になった。
そのときの忌々しい記憶を消したいけれど、耳にこびりつき、脳裏に焼き付いて決して離れない有り様だ。
「やあやあ、タナカ君! ヘニスギルド長との会談はどうだったかね?」
僕が脳内を汚染してくる記憶と格闘していると、オナーヌが話しかけてきた。
ちなみに、タナカは僕のゲーム内でのプレイヤーネームだ。漢字をカタカナにしただけの捻りのないもの。ありふれた名前だけに身バレの心配もないだろう。
「…………俄には信じられないですけど、僕には才能があるとか言っていました。それと、ここで見学すれば僕の悩みが解決するとも」
正直、今すぐにでもオナーヌの横っ面を叩きたい衝動を抑え、なんとか応対する。
だって、目の前の男は二メートルを超える身長に筋肉質な体躯をしているのだ。
ここがゲームの世界とはいえ、自分よりも一回りも大きい相手に喧嘩を売る勇気は僕には無かった。
それに考えられる最も恐ろしい展開がある。
僕がもし逃走するような場面になれば、あの変態的な高速匍匐前進で追いかけてくることを想像するだけで反抗する意志なんて抱きようもない。
「そうかそうか! やはり私の目に狂いはなかったようだな。ヘニスギルド長の紳士眼なら疑いようもない。見学したいのならば、私が案内をしようではないか!」
「……ありがとうございます」
もうすでに変態を見過ぎてお腹一杯なんだけど、ここは大人しく従うのが吉だと思う。逃げるにしても逃走経路を調べておく必要があるし。
それにしても僕の才能って何だろうか? 本当に僕みたいな凡人に備わっているか不思議でたまらない。
「うむ、では我々ドM組ともっとも交流が深い場所へと案内しようではないか! とても素晴らしいところだから君もきっと気に入るだろう。私に付いてきたまえ!」
それからオナーヌの案内の元、ギルド内を観察する。
まず初めに思ったのはギルドの規模に驚いたことだ。とにかく広くて大きい。さっきのドMな変態達が居たグラウンドは、ほんの一部分に過ぎなかった。
この変態紳士ギルドは学園をテーマにして造られているようで、体育館、プール、図書室、音楽室、美術室、保健室、放送室、他にも様々な校舎があった。
これだけのものを造りあげるのに一体どれだけのお金が吹き飛んでいったのだろうか?
とてもゲーム内通貨だけでは賄える規模では無いことから、リアルマネーも相当なものを注ぎ込んだに違いない。
天才と馬鹿は紙一重とは言うが、この変態どもはリアル世界で何かしらの才能を活かし、お金を上手いこと稼いでいるのだろうか?
もしくは暇を持て余した資産家が戯れで遊んでいる可能性も有り得る。
色々と気になることも多々あるが、それよりも僕の目の前にいる奇妙な生き物について考察することが先決かもしれない。
その奇妙な生き物――オナーヌが、現在進行形で匍匐前進しながら僕に道案内をしているのだ。
なぜ? という疑問を抑え、ここまで素直に付いてきたのだが、そろそろ限界だ。
きっと碌でもない理由だと思うから質問することを避けていたのだが、勇気を出して訊くことにしよう。
「……あの、どうしてさっきから匍匐前進しているのでしょうか?」
「うん? そんなに疑問なことかね? 匍匐前進とは、大地と密接に触れ合いながら移動できる体勢だ。そして大地とは全ての生き物の母のようなもの……それすなわち、私は今、母の胸に飛び込んで身を委ねているといっても過言ではないだろう! ……ああ、興奮してきたッ!」
……え? この人、大地を相手に興奮しているの? ……業が深すぎる。
やっぱり、碌でもない理由だったよ。もう家に帰りたい。いや、帰っても僕の居場所なんて無いんだけどね。つくづく世知辛い人生だと思うよ、本当に。
……それからオナーヌが大地に欲情している様を見せられ続け、辿り着いたのは体育館だった。
「今、あそこでは我々ドM組とドS組が交流を深めている。我々の交流は些か激しい故に、広いスペースを必要とする。それと色々な『道具』があることから、刺激を求める意味でも体育館は打って付けという訳だよ」
そんな説明を聞きながら体育館の入り口まで向かう。
内容から察するに嫌な予感しかしないのだが、進まないことには僕の悩みを解決できないし、諦めて未知なる世界が待つであろう扉を開いた。
◆
そこには――――銀髪の幼女が、成人男性に向かって鞭を叩き付けている光景があった。
あまりにも衝撃的な場面を目撃してしまい、僕の思考回路が一時停止してしまう。
混乱で麻痺しかけている脳内を整理するためにも、現在の状況を詳しく確認することに努める。
僕は、銀髪の幼女に視線を向けた。
やはり第一印象で目を引くのは彼女の髪型だろう。腰まである長い髪の毛が掘削機のように螺旋を描いている様は圧巻の一言である。
そして彼女は、ゴシック&ロリータ、通称――ゴスロリと呼ばれる服を着ていた。
全体的に黒をベースにした生地、袖やスカートの裾には白のフリル、腰には大きな白いリボンが可愛らしく装飾されて揺れている。
視線を足下に向ければ、少しでも小さな背丈を大きく見せるためなのか、黒色のハイヒールを履いている様は彼女のプライドが見え隠れしていた。
それと、やけに踵部分が普通のハイヒールと違って異様に尖っている点には目を瞑ることにする。
服装と彼女の整った容姿も相まって、どこか人形めいた雰囲気を感じさせられた。
だがしかし、生憎と彼女は金色の瞳を爛々と輝かせ、嗜虐的な笑みを浮かべて鞭を振り下ろしていることから人形というのは否定せざるを得ない。
つまり集めた情報を整理すると……銀髪ツインドリルなゴスロリ幼女が成人男性に向かって嬉々として暴行を働いてるということだな!
――え!? どういう状況だよコレ!
何回も目を擦ってみたけど眼前の光景は少しも変わりはしないのだ。現実逃避を辞めて現実と向き合うことにした。
「この私の視界に入るなんて、いい度胸しているわね? お仕置きが必要かしら、この豚がッ!」
「……っ。ありがとうございます! ありがとうございますッ!! もっと、もっとッ! この薄汚い豚を罵って下さいまし!」
鞭に打たれている成人男性は、何故か感謝の言葉を何度も口にして、その行為を求めていた。
「――あらあら、誰が人間様が使う言葉を口にしていいなんて言ったのかしら? 豚は豚らしく、ちゃんと鳴きなさいよッ!」
――瞬間、鋭い鞭の一撃が何度も男の尻に叩き付けられる。
「ぶひぃっ! ブヒィッーーーーーーーーーー!!」
成人男性は、喉が枯れ果てることさえ厭わないという気概で声を張り上げて応えてみせる。
その様はセミが一週間という短い命を懸命に燃やし、世界に自身の存在を刻みつけるかのような凄みがあった。
「あら、やればできるじゃない。そのあまりにも情けなくて無様な表情、人間としての尊厳を捨てて獣に堕ちた鳴き声。……ああ、なんて醜くて、憐れで――愛おしいのかしら。従順な豚には、ご褒美をあげないとね」
そう言って彼女は、鋭く尖ったハイヒールの踵部分で成人男性の頭をグリグリと踏みつけた。
踏みつけられている彼は、恍惚の表情を浮かべて歓喜に打ち震えながら豚のように鳴く。
……僕は一体全体、何を見せられているのだろうか?
僕が茫然自失となっている横でオナーヌが語りだす。
「紹介しよう! 彼女はドS組のリーダーを務めているクリリス君だ。ちなみに私はドM組のリーダーである。ああ見えて、彼女は成人しているから子供扱いしないでくれたまえよ。彼女の機嫌が悪くなると後始末が大変になるから留意しておくことだ。それと彼女はヘニスギルド長の親戚で、リアルお嬢様でもあるのだよ」
――う、嘘でしょ……あの幼女みたいな容姿で成人しているだとッ!?
「今、彼女は取り込み中でもあるし、挨拶は後にしてドSとドMが奏でるハーモニーでも見学してみるといい。私達の奏でるメロディーは十人十色で決して色褪せはしない。中には大勢の紳士淑女が交流を深めている。それらを観察することは君にとっても良い経験となるだろう」
「――ま、待って下さい! ちょっと疲れてしまったので、少し外の空気を吸ってきます!」
僕は逃げるように体育館の扉を開いて踵を返す。
こんな変態達が跋扈する場所に居られるか! 僕は逃げるぞ!
「おやおや、君は見ない顔だけど新人さんかな?」
僕が逃げようとしていると、唐突に男性の声に呼び止められる。そちらに視線を向ければ、青いツナギを着用している男が居た。
彼は腰掛けているベンチから徐ろに立ち上がって、僕の直ぐ近くまで寄ってくる。
やけに距離が近いな、パーソナルスペースの侵害だ。それにしても僕に何の用なのだろうか?
彼は僕の両肩に手を置いて、息のかかるほどの距離で耳元に囁きかける。
「俺の名前は阿倍乃という。ところで君、良いお尻をしているね――――やらないか」
そして肩に乗せていた手が下へと下がっていき、そのまま僕のお尻を揉み始めた。
「なななな、何をするんですかッ!? は、離して下さいッ!!」
身の危険を感じた僕は、阿倍乃とかいう危険人物を必死に振りほどいて逃げ出した。
前門の変態と後門のホモ。
クソッ! 忌々しいが背に腹は変えられない。僕は苦渋の判断の末、再び体育館の中へと駆けだしたのだ。
悪いがノンケは帰ってもらえないかな?(ウホッ)
猫又「ヒャハッー!シャバの空気は上手いぜ!更新サボってエンジョイしてやるぜよ」
警察「待てぇええええ! クソッ逃げられたか!」
警察「そこにいる読者さんよ、聞いてくれ。実は小説更新部屋に牢獄されていた猫又寝子という凶悪犯が逃げ出してしまったのだ」
警察「このままでは奴は小説の更新をサボるという悪辣な行為をしでかすに違いない!そこで読者さんに協力して欲しいのだ。この猫又探索レーダーは評価ボタンをエネルギーに変換して動くのだが、現在エネルギー不足で使えない有り様なのさ」
警察「だからどうか、そこにある評価ボタンをポッチとしてエネルギーを充電してくれないだろうか!奴は命に代えても必ず私が捕まえて見せる!私に力を貸してくれ!」