60話 番外編 変態紳士ギルド
僕の名前は田中。
どこにでも居る平凡な人間だ。
けれど、僕を除いた家族は違う。みんな才能があって優秀な人間だ。両親は医者をやっていて名医と呼ばれるほどに多くの人間に必要とされている存在。
僕も、そんな優秀な両親から生まれてきたこともあって周りから期待されていた。だけど現実は残酷で、僕は驚くほどに凡人だった。
黒髪黒目の平凡な容姿。運動神経も普通。一番力を入れている勉学でさえも優秀とは言えない。
両親からの期待。周りからの期待。そんなプレッシャーに押し潰されそうになりながら医者になるために努力をした。友達、思い出、恋愛といった青春の全てを投げ捨てて毎日勉強漬けの毎日を送ったのだ。
だけどそれも無駄なことだった。昨日、受験した医学校の結果が出て――そこに僕の受験番号は無かった。
もう、無理だ。もう頑張れない。僕の心がポキリと音を立てて崩れさる。
結果が出てからは、今までよりも肩身の狭い日常を送っている。両親からは、まるで僕が存在しないような扱いを受けた。
嫌ってくれた方がどれだけマシだろうか? 無関心の方がより深く堪えた。まだ僕のことを罵倒してでもいいから存在だけは認めて欲しい。
後継ぎなどの懸念もあったが、幸いなことに年齢が十は離れている我が弟は僕と違って才能ある人間だったようで、両親の関心もそちらに向いてる。
僕の居場所は完全に無くなってしまった。
僕は「孤独」だった。
青春を勉学に捧げて放り投げてきたこともあり、友達は居ないし友達の作り方もわからない。唯一、血の繋がっている家族すら愛情はこれぽっちも感じられ無い。
このまま静かに消えてしまいたいと、何度も願う日々。そんな鬱屈した日常を過ごしているときに出遭ったのが――ゲームだった。
それは今まで遊ぶ暇も無く、趣味と呼べるようなものが無かった僕が初めて夢中になれたもの。
無料で遊べるインターネットのフリーゲームをダウンロードしては貪るように遊び尽くした。夢中になっている間は、胸の内を支配する「孤独」が薄らいでいるような気がして誤魔化せるからだ。
そして世界初のVRオンラインゲームが発明されたというのを耳にして、僕は人生で一番興奮していたかもしれない。
すぐさま今まで一切手をつけて無かったお年玉と小遣い、バイトで稼いだ貯金を全て叩いて購入を決意。
こうして僕は現実というクソゲーから逃げるように異世界へと足を踏み入れた。
◆
「すごい、すごいよ! 本当にゲームの中に居るの!?」
僕はゲームを起動してすぐに現実と見紛うほどの感覚に、思わず驚嘆の声を上げて子供のようにはしゃぎながら駆けずり回る。
楽しかった。本当に心の底から楽しんでいた。目に映る色々なものが新鮮で世界が光輝いているようにさえ感じられた。
だけど、人間というのは慣れてしまう生き物だ。
最初こそ僕の胸に宿る「孤独」は興奮によって薄められていたのだが、この世界に慣れていくごとに色濃く膨らんでいく。
たまにパーティーを組んで楽しそうに笑っている人達を見ると、黒い感情が湧いてくるのがひしひしと感じられた。殺意にも似たその感情に危機感を覚える。
いつかこの感情が爆発したとき、何かとんでもない間違いを犯しそうで……。
僕の懸念通り、その機会は予想よりも早くに訪れてしまった。
僕の眼前には、金髪ツインテールの少女が居た。見る者を幸せにするような天使の笑みを浮かべて、猫に似た生き物と遊んでいる。
少女は通りすがりの人間にすら祝福され、その存在そのものが愛されているように感じられた。
僕はその光景を見て――嫉妬という黒い感情が爆発する。
僕と違う、真逆の存在。何故か無性に許せなかった。一度決壊した心のダムは理性を容易く押し流して遠くに追いやってしまう。
僕は黒い感情に呑まれ、何かに突き動かされるように少女へ――手を伸ばした。
そして、一瞬で後悔することになる。
それは――死の権化。
そいつと視線が合ったとき僕は本当の恐怖というものを味わった。本能なのか、精神を守るために意識が深く沈んで消えていく。
薄れゆく意識の中、見間違いでなければ、彼も僕と同じ「孤独」を抱えているように見えたのは幻覚なのだろうか……。
◆
僕の意識が醒めたときには何故か身体中に靴痕のようなものがあり、特に股間辺りはくっきりと形が残るほどにあったので恐怖した。
そして、オナーヌとかいうプレイヤーに連れられて今に至る。
「ようこそ、変態紳士ギルドへ。儂は、ここのギルドマスターを務めているヘニスというものじゃ。オナーヌ君から話は聞いておるよ、お主を立派な紳士に導いて欲しいとな」
そう言って柔和な笑みを浮かべて話しかけてきたのは、七十代くらいの老人。黒い紳士服を着こなし、片目しかレンズのないモノクルメガネを掛けている。
将来歳を重ねたら、こんな老人になってみたいと思わせるような渋みのある紳士だ。
「どれどれ……お主、才能があるようじゃのう」
何言ってんだ、この老人は? 僕に才能なんてあるわけないだろ。才能があれば両親から見捨てられることも無く、平和な日常を謳歌できていたはずなのに……。
その目玉は節穴か何かでできているのだろうか?
「あの、僕は帰りま――」
僕は、こんな訳の分からない場所に止まっている理由もないので、帰ることを伝えようとした。
「お主……闇を抱えているようだのう、それも独りでは解決できない心の病じゃ」
「……ッ」
僕は、ドキリとした。あの老人は僕の胸の内を支配する「孤独」を見抜いたのか?!
さっきまで好々爺とした様相だったのだが、今は全てを見透かすような凄みを纏っていた。
「ここに居る人間は皆、自分に正直なものばかりじゃ。よかったら見学してみると良い。さすれば、お主の悩みを解決できるじゃろう。儂は少し用事(性癖)を済まさないといけないから行くぞい」
そう言って、老人は去っていった。
半信半疑ながらも、僕はこのギルドを見学してみることを決めた。
「我らは、無敵の変態さー!」
迷彩色の軍服を身に纏った三十代くらいのおっさんが、集団の先頭を走りながら声を張り上げている。金髪碧眼で精悍な顔立ち。筋肉質で二メートルはありそうな体躯が人目を引く。
こいつが僕を連れてきた張本人だ。
「我らは、無敵の変態さー!」
おっさんの後ろに縦一列綺麗に並んでいた軍服を着た数十名の人間が、復唱して声を張り上げる。隊員か何かだろうか? というか掛け声がおかしすぎるだろ!?
「美少女の、おみ足に踏まれたいー!」
「美少女の、おみ足に踏まれたいー!」
再び、同じような流れで掛け声が成される。
僕の耳は正常に働いていないのだろうか? さっきから幻聴が聞こえる。
「オナーヌ教官! 自分は美少女も捨てがたいのですが、男の娘に踏まれたいでありますッ!」
「ふむ、男の娘か…………それもまたオツなものだな!」
「私は、サド気味のショタっ子に踏まれたいわッ!」
「僕は、未亡人のグラマラスな女性が良いですッ!」
「俺は、純真無垢な幼女にされたいッ!」
「……うむうむ。各自、自身が踏まれたいと考える最高のパートナーを思い描き、妄想力を高めるのだッ!」
オナーヌは皆の意見に深々と理解を示すように鷹揚に頷き、止めるどころか更なる妄想を促す。
「サーイエッサ!」
隊員達は清々しい声で応対し、自身の中から何かを捻り出すように気合いを入れていた。
しばらくの間、ギルドメンバーと思しき変態達が妄想を描いて「グヘヘ」と気色悪い笑みを浮かべ、グラウンドを走り回っている光景はシュールそのものだった。
――何だこの変態どもはッ!? とても同じ人間とは思えない。
……僕はどうやら異次元に迷い込んでしまったようだ。
という訳で、次回は変態紳士ギルドの日常に迫りたいと思います!
番外編、運営視点の一つで終わらすつもりだったけど、ネタが降ってきたからには書くしかない!本編を待っている方には申し訳ないが、もう少し付合って下さいませ。
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