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53話 ボッチ 宝箱ドナドナ

 あの地獄のような状況から抜けだせたことに安堵し、ほっと息を深く吐いた。

 眼前には厳かな造りをしている祭壇があり、その中央に今回の戦利品――華美な装飾が施された宝箱が鎮座していた。


 さっそく中身を頂戴しようと思ったが、今はカウンター移動中であることを思い出した。立ち止まって中身を開けようものならタイムを大幅にロスしてしまう。


 そして考えた結果――そのまま宝箱ごと持ち去ることにした。


 わざわざ立ち止まって解錠に時間をかけるよりも、宝箱の耐久度をゼロにしてから破壊し、その中身を頂いた方が早いという脳筋的思考に至ったからだ。


 それに、よくよく考えれば……この宝箱は次のボスエリアで役に立つんじゃないかな?!

 瞬時に閃きが脳内に舞いおり、もともと次のボスに向けて考えていた作戦案に僅かな修正を加えることにした。


 そうと決まれば行動に移るのも早い。【マジカルチェイン】のスキルを発動、魔法の鎖を顕現させると宝箱に向かって投げつけ捕らえる


 捕らえた宝箱に魔法の鎖を巻きつけ、犬の散歩で首輪付きリードを引っ張るのように移動を開始した。引き摺るように俺が扱うものだから、ガツンッと色々な障害物にぶつかる音を響かせて宝箱君が宙を舞っていたりした。


 粗雑に扱うのは、ボスエリアに辿り着く前に耐久度をある程度削っておくためでもある。だから、遊んでいるわけでは無い。……ちょっと楽しいけど、ね。


 数十秒後にボスエリアに到着。

 荘厳な佇まいをした石門が開け放たれて中へと誘われる。

 

 中の様子は、床も天井も壁も全面鏡張りになっていた。多角的に反射されて描きだされる光景は幻想的で美しい。その中央に奴が居た――今回のボスである。


 全長は五メートルくらいはあるだろうか。赤、青、緑、紫、黄色と様々な鉱石が入り交じっいる大岩が人型を形成していると想像してもらえばいい。


 奴の頭上には『ガーディアンゴーレム』と表示されていた。


 このボスは、厄介なことにギミックを利用しないと弱点部位であるコアを露出させてくれないのだ。コア以外に攻撃を当ててもダメージが一切入らないという仕様。


 奴の体内に収められたコアを表面に露出させるには、三つのボタンを「同時」に押す必要がある。これが厄介で、ボタンを押しにいくためにプレイヤー三人分の戦力が散らばってしまうことになる。


 それと面倒臭いことに三つのボタンが出現する位置は毎回ランダムになっている。規則性としては、ボタンの近くにもう一つのボタンが出現することは無い。

 必ず離れた位置に出現されることになっているのだ。


 で、そのボタンを探すのも大変。それはこの空間に秘密がある。

 見ての通りこの空間は全面鏡張り。あらゆるものが鏡面反射を起こしてしまい、プレイヤーを惑わすのだ。


 ボタンが出現、そのボタンが反射して映り、反射して映ったボタンがさらに反射して……と、本物のボタンを探しだすのも一苦労。


 さらに『ガーディアンゴーレム』も、ただ突っ立っているわけでは無い。開始十秒後にレーザービームが飛んでくるのだ。


 そのレーザービームは――反射する。

 この鏡しか無い場所で、レーザービームは壁や床や天井に乱反射してプレイヤーに襲い掛かってくるのだ。その中からボタンを探さないといけないのだから、面倒にもほどがある。


 三つのボタンを「同時」に押している間にコアが胸部から露出させられる時間は三分間。その間に倒せなかったらコアは再び閉じられ、ボタンの位置もランダムに移動して振りだしに戻ってしまう。


 それでインターバルを終えた『ガーディアンゴーレム』が十秒後に再びレーザービームは放ってくる。時間が経てば経つほどプレイヤー側が不利になっていくのだ。




 ……長い説明になってしまったが、これを聞いて疑問点が湧いていることだろう。


 ――一人ぼっちである俺が、どうやって三つのボタンを「同時」に押すかっていうことだろ?


 もちろん、考えはある。まあ、見てろって。


 俺がボスエリアに入るやいなや『ガーディアンゴーレム』が宝石のルビーにも似た色合いの瞳を光り輝せる。十秒後に放たれるレーザービームの準備だ。


 準備をしているところ悪いが、十秒も掛けるつもりはない……一瞬で終わらしてやるッ!


 まずは、ボタンの位置を確認する必要がある。

 ボタンは二十センチほどで、楕円状の青い水晶石だ。それが反射に反射を重ねたこの空間を彩り、ボタンだらけの気持ち悪い世界に変貌を遂げていた。 


 ……どこを見渡してもボタンしか映っていない。ボタンがゲシュタルト崩壊しそうだ。


 だからどうした? 俺が歩んできた十七年は、この程度のことを見極められないほど生温い経験をしていない。


 ある一定の実力を積んだ武術家同士の闘いにおいて必要になってくるのは情報戦だ。相手の息づかい、表情、筋肉の付き方、重心の置き位置などから少しでも相手より多くの情報を盗み取った方が勝つ。


 あの……命を、魂を、削り合って磨り減らすような闘いで培った経験が、この程度の虚実フェイントに惑わされるわけが無い。


 本物は――アレと、コレと、ソレだッ!


 俺を中心に右側面壁の位置に一つ。

 斜め左側面壁の位置に一つ。

 正面から見て奥の床に一つ。


 位置が分かれば行動あるのみ。


 まずは一番遠い位置、奥の床にあるボタンを狙う。

 俺は、ここまで引き摺ってきた宝箱を引っ張りあげる。宙で身体を捻りあげ、加速と遠心力を加えて魔法の鎖が絡みついた宝箱ごとボタン目掛けて放り投げた。


 そこで、次の行動に移る。


召喚コール


 呼び出しに応じて師匠スライムが魔法陣からこんにちは。

 挨拶をする間もなく、俺は師匠スライムに向かって【手加減】のスキルを発動し、大鎌で切り裂く。


 師匠スライムの種族特性によって二匹に分裂したのを確認。

 分裂した片側の師匠スライムを、次に遠い場所にある右側面壁のボタンを狙って大鎌で弾き飛ばす。


 次。振り切った反動を利用しながら回転し、もう片側の師匠スライムも最後のボタン目掛けて大鎌で弾き飛ばした。


 宝箱と師匠スライムを弾く威力はそれぞれ絶妙に調整している。俺が攻撃を仕掛けるタイミングで三つのボタンが「同時」に押されるようにコントロールしたのだ。


 飛んで行った師匠スライム達の結果を見届ける時間はない。コアが露出するタイミングに合わせるためにも即行動に移る。


「【エクスプロージョン】【カウンター<瞬空歩>】」


 高速で飛翔し、あらゆるものを置き去りにしていく世界の中、胸部から紅蓮色のコアを露出させる奴を捉えた。


「――――終わりだッ!」


 レーザービームを放とうする『ガーディアンゴーレム』のコアに、赤黒いオーラを纏った大鎌が深々と突き刺さる。

 パリンッというガラスが割れるような音が、俺の耳に印象深く残った。


 次の瞬間――光の本流が部屋一面に膨れあがって全てを包み込んだ。僅かに閉じた目を開くと『ガーディアンゴーレム』が跡形も無く消えている。


 眼前には次の階層へと続く門が開いていた。


 ――やったっぜ! 見たか、一人ぼっちだってやればできるんだ! これを参考にして俺と同じ境遇の人間ぼっちが少しでも攻略できれば嬉しいな。


  

ほら、皆ボッチ君の真似をすれば簡単に攻略できるよ!(暗黒笑み)




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