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51話 ボッチ イベントに挑む

 俺は、あれから『はじまりの町』に帰還した。

 今まで何度もお世話になったゲートに触れる。すると、文字の羅列と各エリア(そのプレイヤーが条件を満たしている)の景色が絵画のように宙に浮かび上がって形を成していく。


『はじまりの草原』『精霊と大樹の町』『精霊と大樹の大森林』と、いつも見なれている選択肢の中、新たにイベント限定と表示された『地下迷宮墓地』の絵画が出現する。


 その宙に映る絵画に触れると身体が光りに包まれて転送が行なわれた。



 目を開くと、紫色に変色して荒廃した土地が広がっている。そこには疎らに散らばった鉄製の十字架の数々が乱雑に突き刺さっていた。


 一つ一つに文字で名前のようなものが刻まれていることから、かつて戦場で散った兵士の墓なのだろうと推測する。どれも劣化が激しく、所々が欠損して錆びついていた。


 そんなどこか寂しげな光景の中央に、ぽっかりと空いた大きな穴がある。

 穴は地下へと伸びた罅割れている石階段が僅かに覗いていて、下からは紫色の瘴気が漂っていた。


 地下に下っていくこと数分。奥には六芒星に似た魔法陣が暗闇の中を照らしていた。その中央へと俺が足を踏み入れると一瞬で景色が映り替わり、イベントが開始された。


 イベント内容は大体こんな感じだ。


 『地下迷宮墓地』

 名前の通り、今回のイベントは地下に出現しているダンジョンで最下層を目指して攻略するのが目的だ。

 全部で六階層あって、奇数の階層が罠&迷宮、偶数の階層がボスとなっており下層へと続く階層を守護しているというわけだ。


 迷宮というだけのこともあり、枝葉のように伸び広がった空間は地形が複雑に入り組んでいる。

 初見で挑んだプレイヤーなんかは同じところをグルグルと回ってしまい、設置された罠や、徘徊するモンスターとの不毛な争いで消耗してリタイアしてしまったなんてよくあることだ。


 設定としては、とある国の偉大なる王の墓が長き時を経てダンジョンと成り果てたらしい。

 そして、偉大なる王の遺体はモンスターへと変貌してしまった。それを鎮めるために冒険者プレイヤーに依頼が回ってきたというのが概要だ。


 あと、罠が設置されているのは墓荒しから王の遺体を守るためであり、その名残りらしい。



 移動された場所は、不気味な紫色に変色した土壁の空間。

 俺はゲームが開始されると同時に【エクプロージョン】と【カウンター<瞬空歩>】のスキルを発動して宙へと踊り出て加速する。


 こんな狭くて入り組んだ洞窟内を高速で飛翔するは馬鹿げていてリスキーな行為だと思うだろう。でも、俺は躊躇なんてするつもりは一切ない。


 証明がしたい。 

 一人ぼっちだって、やればできるって――ここに俺という人間ボッチが存在して居たということをッ!


 悪夢のような素敵なイベントを用意してくれた運営、楽しそうにチームを組んで攻略するプレイヤー達全員に、俺の生き様を刻みつけてやるんだッ!

 

 そのためにはただクリアするだけではインパクトが弱い。狙うのは一位だ。

 だからこそ、リスクを踏む。例え、それが絶望的に困難な茨の道だとしても、踏み抜いたその先にある勝利を掴むために。


 高速で映り替わる景色の中、【探知】のスキルを発動して数百メートル先の地形情報とモンスターの出現箇所を認識する。


 この馬鹿げた速度なら数百メートルなんて一瞬で辿り着いてしまう。そんな中を逐一情報を更新しながら頭の中で鮮明にイメージを描く。


 ほんの僅かでも気を抜けば激突しそうになる障害の数々。

 直角や急斜面の通路、ゆるやかなカーブを描く捻れた空間、天井や地面から突起している障害物を、【エクプロージョン】の爆風を利用して軌道を変化させながら上手く躱していく。


 特に狭い空間は接触スレスレの飛行を余儀なくされ、地面、天井、壁、障害物などにローブの端が僅かに掠りながら紙一重で進行するもんだから、衣擦れする音を聞く度にヒヤヒヤしたもんだ。


 それと障害はなにも地形だけではなく、モンスターがそこら辺りに徘徊していて邪魔をしてくる。このイベントで出現するモンスターは『スケルトン』と『ゾンビ』の二通り。


 ゾンビは腐った人間の死体に包帯としてのていを成していない乱雑な巻き方をされていて、その隙間から青白い肌が覗いている。

 スケルトンの姿は理科室とかに飾られている人骨模型を思い浮かべれば容易に想像できると思う。

 

 基本、モンスターに遭遇したときは頭上か横を通り過ぎるように行動している。

 なぜならカウンター移動の阿呆みたいな速度だと、例えモンスターと遭遇しても、あちらが俺を認識する前に置きざりにできてしまうから無駄な戦闘を避けられる。


 ただ問題は、避けられる空間のない狭い場所にモンスターが居る場合だ。この場合はどうしようもないから無理矢理にでも活路を開いて突破するしかない。


 ちょうど目の前に、おあつらえ向きともいえる場所に辿りついてしまった。


 人一人がギリギリ通れる高さと横幅の狭い一本道に出現するモンスター達だ。その数、五匹。しかも厄介なことに隊列を組んでいる。


 正面から見て、縦一列に大楯を両手に構えて重装備を纏ったスケルトンが三体。

 その後ろには杖を構え、いかにも魔女が頭に着けていそうな三角帽子を乗せ、黒いマントを羽織っているスケルトンが二匹居る。


 大楯重装備の奴が『スケルトン・ウォーリア』で、杖持ちの奴が『スケルトン・メイガス』。

 前者は、大楯と重装備による高い防御力でプレイヤーの攻撃を耐え忍んで時間を稼ぐ。後者は、その間に詠唱を唱えて魔法による攻撃を行うという戦法をとるのだ。


 まるで人間のような知恵ある戦術を行なってくるのは、王国の兵士の亡骸がダンジョン化したことでモンスターにこそなってしまったが、かつて生前での戦場で培った経験や記憶が僅かに残っているからという設定だ。


 だけど、じつは馬鹿正直に戦う必要はないのだ。

 今回のイベントのテーマが「協力プレイ」と運営が謳っているだけあって、ギミックを上手く利用すれば簡単に突破できる。


 この狭い一本道に入る前に三角形を描くように並び建つ三つのレバーがあって、それをプレイヤーが同時に引くことで、突起物の付いた鉄製の大玉が転がり落ちてくる。

 それがそのまま直進してモンスター達をペシャンコにしていくというわけだ。


 とはいっても、そのギミックを俺は使えないし、元から使うつもりなどない。だってレバーを引いて大玉が転がり落ちてくるまで三分も掛かってしまうのだ。


 クリアするまでのタイムを競うこのイベントにおいて、一位を目指す俺には三分は大きすぎる。

 一般プレイヤーの視点から考えれば、隊列を組んだモンスター達と戦闘したとき、それ以上の時間が掛かってしまうということ計算すれば十分に時間短縮になるだろう。


 でも、な? 俺は三分も掛からずにあの隊列を制圧できてしまうんですよ! うん? どんな作戦があるのかって知りたい? ならば答えよう!


 その名も――「火力でゴリ押せ大作戦」だッ!!


 あ、はい、調子に乗ってすみません。作戦の「さ」の字もないのに勿体ぶったことを深く反省致します。……という茶番はさておき、行っちゃいますか!


 俺は宙で【手加減】のスキル発動して、大鎌で自身を切り裂く。HPが1まで削られ、生命力を吸い取った大鎌が心臓のように脈打って赤黒いオーラを纏う。


 そのまま狭くて細長い一本道へ侵入すれば、ここで条件を満たした【蟲毒の覇者】のスキルが発動する。

 発動条件は二つ。

 パーティを組まずに一人ぼっちであること。その状況下化で多体一の戦闘に突入したときだ。


 ただでさえ、大鎌の阿呆みたいな攻撃力に、追加で【蟲毒の覇者】による火力補正が更に加わる。


 大鎌を宙で持ち替え、槍投げを行なう体勢に組み替えると、身体を捻り上げて【投擲とうてき】のスキルを発動した。


 放たれた大鎌は、鋭い風切り音とともに縦一列に立ち並ぶモンスターに接触。――瞬間、先頭から後列にかけて悠々と貫通。五つの光が宙に舞い上がると淡く消えていった。


 ――き、気持ち良いッ! これだからロマン火力は辞められないぜッ!!

 

 制圧までに掛かった時間は四秒にも満たない。お陰で、大幅な時間短縮を果たすことができた。よし、このまま一気に突き進むぞ。


 ……それにしてもモンスターでさえチームを組んでいたのに、俺なんて、俺なんてッ!! あれ、おかしいな? 少し前が霞んで見えづらいや。


 ――べ、別に悲しくなんてないんだからねッ!   

あれ?RPGのはずが、ボッチ君だけ別ゲーをしている件について(笑)



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