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50話 ボッチ 決意する

 イベントが開始されてから五日目の朝を迎えていた。

 

 イベント期間は一週間……もう、残り二日間しかないのだ。

 そんな貴重な五日間、俺が何をしていたかというと――「ぼっち」をしていた。


 何を言っているんだコイツ、と思っただろう。でも、それが事実であることは変わらない。

 その原因はイベントの内容によるもの。ソレは俺という存在にとって、とても恐ろしいものだった。


 そのことを説明するには、『イベントのお知らせ』がメールボックスに届いたときまで遡る。

 

 俺はイベント内容を想像して楽しんでいた。それはもう、子供が誕生日プレゼントの中身を想像して興奮と歓喜の感情が入り交じって膨れあがるかのように。


 イベント限定のアイテムを集めて限定装備つくったり?

 はたまた闘技大会を開催してプレイヤー達の熱い闘いを繰り広げたり?

 そ・れ・と・も、超大型モンスター……レイドボスが出現しちゃったり?

 

 なんて、あのときの俺はテンションは上がりまくっていた。なんたって初めてのイベントで、期待に胸を膨らませて心が躍っていたのだ――その内容を確認するまでは。


 そんなこと露知らず、俺は能天気に上機嫌でメールを読み進めてゆくこと数分、気づけば額からは大量の冷汗が流れて顔色は蒼白になっていたことが鮮明に思い出せる。


 メールの一部を抜粋するとこうだ。

 

 @

 イベント限定ダンジョン『地下迷宮墓地』が出現します。


 今回のテーマは「協力プレイ」です。

 複雑に入り組んだ地形、侵入者を阻む襲い掛かる罠の数々、様々なギミックを利用して特殊な条件下でプレイヤーの皆様が協力することで倒すことができるボス達。攻略するには「協力」が鍵となっています。


 今回、プレイヤーの皆様に競って頂くのは、『地下迷宮墓地』をクリアするまでのタイムとなります。

 いかに地形を把握し、チーム内の結束を深め、より効率を突き詰めて勝利を掴んで下さい。


 パーティー最大人数は五名までとなっております。

 ランキング上位「十位」までのチームメンバーはユニーク装備(装飾品)とDPダンジョンポイントが贈呈されます。


 DPはイベント終了後に集計され、様々なアイテム、武器、防具、スキル等と交換することができます。また、DPは例えランキングに入れなくても『地下迷宮墓地』をクリアすることができれば入手できます。何度も周回することで少しずつ貯まっていきますので、楽しんでご参加下さい。


 ランキング上位「十位」までのプレイヤーが攻略する過程を動画として公式サイトにアップさせて頂きます。望んでいない方は拒否することも可能です。

 アップされた動画に一言、コメントを残すことができますので、ギルドの宣伝などにも活用して貰っても構いません。


 詳細は下記のURLをご参照下さい。

 @

 

 おわかり頂けただろうか?

 ――ぼっちの俺に「協力プレイ」だと!?


 内容から察するに協力しないとクリア出来ないような言い回しなんだけど……あれ? 詰んでないですかね、俺。まさかゲームの世界でも「ぼっち」を否定される日がくるとは……心が折れそうだ。


 ああ、昔の古傷(トラウマ)が脳内を駆け巡る。


『誰か、○○君を修学旅行の班メンバーに入れてあげなさいよ』


『はーい、準備体操するから二人一組になって。あれ? クラスは偶数人数のはずなんだけど、○○君、誰とも組めてないの? …………そう、そんな悲しそうな顔しないで! ○○君は、本当は優しい人だって先生知っているんだから! ほら、先生と組みましょう、ね?』  


 いやいや、弱気になってどうするッ! これは逆にチャンスだと考えるんだッ! これを機に他プレイヤーとチームを組んで、そして仲良くなって友達を増やすんだッ!


 以前の俺なら諦めてしまっていただろう。だが、こんな俺にも奇跡的に友達ができたじゃないか……こはるちゃんという名の天使が。

 勇気を出して一歩踏み出せば変われるって、俺は知ったはずだろ!


 けれど、身体は正直なようで他人に話しかける自分を想像すると、手足が震えていたことに気がついた。それでも、こはるちゃんとの楽しい思い出を振り返って、挫けそうになる臆病な自分を叱咤することで冒険者ギルドへと足を進めた。


 なんて、決意をして挑んだ結果は――全敗だった。


 うん、こんな怪しい恰好した奴をパーティーに入れたくないよね、普通。まあ、それだけが原因ではなかった。俺の職業にも問題があった。

 影法師ドッペルゲンガーは、職業ボーナスが無いのでステータスが極端低い。例え同レベルだったとしても、その差は大きく開いてしまっている。

 そんな地雷を抱えてパーティーを組もうなんていう酔狂なプレイヤーが居なかったのだ。


 その時点で俺のメンタルは砕けそうになっていたね。


 それでも諦めずに探せば酔狂なプレイヤーは居た。俺と同じような不遇職を嬉々として選んでいる変わった人達だ。なんていうか「デュフフ」とかいう変わった笑い声や、相手の名前を何氏とか呼んでいたりと、とにかく独特な雰囲気を醸し出していた。


 四人でパーティーを組んでいているから後一人だけ枠があるじゃないかと、俺は勇気を出してその人達に話しかけようと近づいたのだ。

 けれど、俺が話しかける前にその人達はこちらに気がついて、突然大きな声を上げた。


 こちらに指を向けて、「天使とイチャついていた敵」とか、「リア充爆発しろ」とか、「天使ちゃんペロペロ」とか、わけも分からないことを叫んで、四人とも唐突にその辺りにある壁を殴りだす変人達だったので、俺は逃げ出した。


 とまあ、そんな出来事を体験して俺の心はぽっきりと音を立てて折れたのだ。


 ――ああ、こはるちゃんに会いたい。会って癒やしが欲しい。……俺、頑張ってみたけどダメだったよ。


 そんなこんなでイベントが始まって何も進展がないまま五日目の朝を迎えたのだ。

 といっても本当に何もしていなかったわけではない。俺はずっと観察をしていた。イベントを攻略するプレイヤー達を。


 師匠スライムという最高級の弾力性のあるクッションを枕にして、システム画面を宙に浮かべてイベントの様子を五日間、『はじまりの草原』に寝っ転がって、ひたすら眺めていた。ギミック、罠、ボスを狩るための条件、地形の把握。


 さらには最短ルートの構築。


 確かに誰かとパーティーを組むことは諦めた。だが、俺がイベントの攻略を一度だって諦めていない。

 この時の俺は、静かなる黒い炎が胸の内に湧き上がっていたのだ。


 嫉妬という黒い感情だ。


 何が協力プレイだ! そんなのクソくらいだッ! 俺が全てを否定してやるよ、こんなイベント一人ぼっちだけでも攻略できるっていうことをなッ!!


 ――目ん玉見開いて、刮目せよッ!

  

唐突にポエムを思いついたので書きます!(え?)


あなたが居ると

けんかしたって

まいにちが楽しい

しんじていたから

てを伸ばす

おおきな声で

めをみつめて

できることなら

とどけたいこの想い

うんこ


※ヒント:縦読み



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