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4話 ボッチ スライム師匠と邂逅する


 ――俺が選んだのは【パリィ】という名のスキルだ。


 このスキルの特徴は【パリィ】が成功した時、相手からの攻撃を受け流したり弾くことができ、ダメージを0にする。

 また隙が大きい攻撃――大振りな一撃や溜めのある攻撃などを【パリィ】が成功した時、僅かだが相手に硬直時間を発生させることができる。


 強すぎるだろ、チートスキルじゃない? ……と思うだろう?

 世の中そんなに甘くない、もちろんこれにもデメリットがある。【パリィ】が成功した時とあるが、この()()というのが難しい。


 まず、【パリィ】発動時に受付け時間が発生する。で、その受付け時間内に相手の攻撃に合わせて自分の攻撃を上手く当ててやればいいのだが……。

 その受付け時間は一秒以下、コンマ数秒の世界なのだ。


 これはVRゲームだ。画面越しのキャラクターを操作してボタンを押すのではなく、自分自身が実際に戦闘をしながら人間の反射速度ギリギリのタイミングを見極めて、【パリィ】を成功させなければならない。

 相手の攻撃、思考や行動を予測できる慧眼と戦闘センス――プレイヤースキルが要求される。


 そして、最大のデメリットが【パリィ】失敗時には装備している武器の耐久度が0になり強制的に破壊されてしまうというクソ仕様だ。

 失敗したら相手からの攻撃を無防備に受けてしまうリスクもあるし、高い金払って心血注ぎ込んで作った武器が壊れる様はプレイヤーの心を折るだろう。


 あと、【パリィ】の発動条件は相手から受けるダメージと自身のステータスから計算され、プレイヤーのHPが50%以下になるような時ではないと発動しない。

 つまり格上などの強い相手でもないと使う機会はあまりないし、仮に意図的に使用するならばワザと自分のHPを半分以下にして調整するなどのリスクを冒さないといけない。

 

 とはいえ、成功すればどんな強力な攻撃もダメージ0にできるのは魅力的。まさにハイリスク、ハイリターンってわけだ。

 攻略サイトでは、そこまでのリスクを冒してまで使うものではないとクソスキルとして名を馳せているけどな。


 俺の場合は、このスキルと相性が良いと考えている。

 影法師ドッペルゲンガーは、いくらレベルアップしても職業ボーナスが無く、防御や魔防にも数値がプラスされないから紙装甲である。

 なので常時、【パリィ】の発動条件を満たしているようなものだ。


 それに俺の職業はリスクの塊のようなものだから、これ以上増えても気にしないさ。まあ失敗して武器が破壊されるのは嫌だけどね。

 そのためにも完璧に使いこなせるように頑張って練習しないとな。


 スキル習得画面の決定キーを押すと、脳内に音声が聞こえた。


『【パリィ】のスキルを習得しました。影法師ドッペルゲンガーの特性によりSP消費が5Pから10Pになりました』

 

 さっそく影法師ドッペルゲンガーさんのデメリットが発動したよ! 消費SP倍増はやっぱり厳しいものがあるな……。


 さて、そろそろ練習に移るか。

 

 ◆


 草原を歩きながら、そこかしこに落ちている『木の枝』を集める。なぜなら、この『木の枝』というのは武器として使用できるのだ。

 普通の武器なんかで練習していたら【パリィ】失敗時に武器が壊れるという性質上、いちいち購入していたらお金が先に枯渇してしまうからな。


 そうやって地道にコツコツ集めること1時間、木の枝は100本ほどになっていた。

 これぐらい集まれば十分だな。そろそろモンスターとの実戦に行こうか。


 辺りを見回していると、水滴状の身体にくりくりとした目と半開きの口というとぼけた風貌をした愛嬌のあるモンスターがそこに居た。

 そのモンスターの頭上には『レベル1 スライム』と表記されている。


 あれは序盤に出てくる雑魚モンスターだ。これなら安心して練習できるな。

 こちらから近づいていくと、スライムもこっちに気がついたようで粘着性と弾力のあるボディーを弾ませながら突撃してきた。


「さあ、いくぞ――パリィッ!」

 

 スライムの攻撃が当たるその瞬間に、木の枝を振るいながらスキル名を叫ぶが――武器(木の枝)が破壊される。

 無防備になった俺の身体にスライムの攻撃が当たり吹き飛ばされた。


 クソ、失敗したか……。

 やはりそう簡単に成功できるものではないな。どうにかして成功のタイミングを脳内に刷り込まないといけない。そのためにも試行回数を増やすのみ。

 

 すぐさまHPを確認すると、『50/100』と表記されている。やばい、早く回復しないと次の攻撃で死ぬ。

 慌てて、初回限定のアイテムボックスを開くと回復ポーション<小>を使用。光のエフェクトが俺の身体を包みHPが回復した。

 

 さあ――あと木の枝は99本もあるんだ。俺の練習に付き合って貰うぜスライムさんよぉ!


 ◆


 あれから何度も【パリィ】を試していると、10回に1回は成功するようになってきた。よしよし、この調子で成功した時の感覚を忘れないように脳と身体に刻みつける。


 それから試行回数は続き、木の枝は残り50本までに消化していた。

 何度目かの攻撃で【パリィ】に失敗すると、急いでアイテムボックスを開き、回復薬を取りだそうとして……みつからない。


 あ……。 


「ま、待ってくれスライムさんッ! ……落ち着こう。ここは冷静に話し合いをッ――!」


 俺の必死の説得も虚しく、情け容赦ないスライムさんは身体をプルプルと震わせて飛び跳ねてくる。

 冷静さを失っていた俺は抵抗できずに吹き飛ばされ、HPが0になると光のエフェクトが煌めいて消えた。


 目を覚ますとそこは『はじまりの町』だった。どうやら死に戻りしてゲートに運ばれたらしい。

 ああ……スライムにやられたのか。

 この世界で最弱と呼ばれているスライムに負けたのは俺が初めてなのでは? 全然嬉しくない。

 

 もう、回復ポーションは手持ちに無い! そして失うものは何もない!

 ということで、これから【パリィ】をマスターするまで死に戻り祭りを始めたいと思います!

 ――ふははは、待っていろよスライムさんよ!


 結局、残りの木の枝を50本を全て消費、何度もゲートに死に戻ることを繰り返してその日を終えた。

 次の日も、そのまた次の日も、朝から晩まで馬鹿みたいに【パリィ】のことだけを考え続けて木の枝を振るい続ける。


 そして、ついに完璧な【パリィ】のタイミングをマスターしたのだった。


 四日目の朝。

 今日は【パリィ】の最終調整を行なう。もちろんお相手はあのお方だ。


 武器を『木の枝』から『初心者のナイフ』に切り替え、辺りをぐるりと見渡していると、お目当てのお方がプルプル震えながら飛び跳ねてきた。

 

「師匠! 今日もご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します」


 俺は、姿勢を正すと目の前にいる()()()()に頭を下げた。

 何度も【パリィ】の練習に付き合ってもらう内にスライムさんに愛着や尊敬の念を抱き、師匠と呼ぶようになったのだ。


「今日こそ、弟子が師匠スライムを超えるときがきたようですね!」


 師匠スライムは俺の言葉に応えるかのように跳びかかってくる。


「パリィ!」


 スキルを発動しながら師匠スライムの攻撃を初心者のナイフで弾く。師匠スライムは弾かれた身体を地面に叩きつけ、勢いよく飛び跳ねると再び俺に急襲してくる。

 

「パリィ! パリィ! パリィ! パリィ! パリィ! パリィ……」

 

 もはや最初の頃の面影はどこにもない。絶妙なタイミングで師匠スライムの度重なる攻撃をことごとく弾き返して完璧に成功させられている。


 何度もその攻防が続き、焦れた師匠スライムが地面に身体を深く沈み込ませるように力を溜め、大きく跳ねる。

 師匠スライムの渾身の一撃――このときを待っていた!


「パリィッ――ッ!」


 その瞬間、師匠スライムの身体はよろめき、僅かながら硬直時間が発生する。俺はその隙を突くと腰を低く沈めて力強く地面を蹴って初心者のナイフで師匠スライムを切り裂く。

 師匠スライムは淡い光のエフェクトを煌めかせて虚空に消えていった。


『レベルが1上がりまし――』


師匠スライム! ……ありがとうございました!」


 なにかシステム音声のようなものが聞こえたが、そんなことよりも今は師匠スライムへの感謝の念でいっぱいだ。後で確認をしよう。


 俺は師匠スライムが消えた場所に頭を下げ、心地よい疲労感とともにログアウトボタンを押すとその場から去った。 

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