45話 ボッチ 沼ガチャ
彼女の才能は天才といっても差し支えないだろう。
優秀な師匠がつけば相当化けるかもしれない。
俺の親父とかどうだろうか?
いやだめだ。あいつは常識ってものを知らない。
あの死よりも恐ろしい修行という名の拷問を耐えられる人間がこの世界に何人いるだろうか?
いや、でも門下生も一応いるんだよな。そんな彼らは俺の修行は特別おかしいとは呟いていたが。
それでも、あの親父が常識的な修行を人に施しているとは思えない。
門下生達は相当のドMなのか、もしくは家族でも人質にとられていると言われても納得できてしまいそうなのが怖いところ。
あんな魔境に友達を紹介するなんてあり得ない話しだ!
こはるちゃんには、のびのびと健やかに純粋なまま育って欲しい。
俺は武術の才能よりも、人々を笑顔にすることができる彼女の才能の方が、よっぽど凄いと感じてるのだから。
◆
さっそく捕まえにいくか。
……っとそのまえに【魔物従属化】のスキルを習得しておかないといけない。忘れるとこだった。
すぐさまシステム画面を開いて操作する。
お? レベルが上がっているな。
最悪、溜めていたSPスクロールを消費して習得しようと考えていたが、丁度いい。
よし、取得っと。
『【魔物従属化】を習得しました。影法師の特性によりSP消費が15Pから30Pになりました。』
相変わらずSP消費倍加のデメリットは辛いぜ。
後はFPも全部振っておくか。
職業<影法師>
LV:24
HP:0001/1300
MP:1300/1300
攻撃:1800(250×2+1300)
防御:0(呪)致死の一撃
魔攻:0(呪)下降補正(大)
魔防:0(呪)致死の一撃
速さ:0(呪)行動制限
e:『悪神の呪縛黒衣』
(呪い、状態異常無効、攻撃倍加)
(耐久:無<ユニーク>)
e:『呪毒の大鎌<死月>』
(攻撃+1→+1300)
(耐久44%<ユニーク>)
FP30P→0p
SP30P→0p
『スキル』
【パリィ】
【カウンター<瞬空歩>】
【エクスプロージョン】
【致死の一撃(呪)】
【マジカルチェイン】
【投擲】
【蠱毒の覇者】
【クイックチェンジ】
【鷹の目】
【探知】
【両手装備】
【手加減】
【マジックプロテクト】
【魔物従属化】NEW
FPはいつもどおり、攻撃に全振りしておいた。
それにしても3レベルも上がっているとは思わなかった。ログを確認してみると、どうやらPK達を倒した時に入った経験値が要因らしい。
えっと、レベル25が5人と、レベル28の5人で計10人分か。
相手が俺よりも高レベルだったのもあるが、それでもモンスターをチマチマ狩るよりもプレイヤーを倒した方が遥かに経験値効率がいいよな。
まあPK側にも、それなりにリスクがあるから妥当なのかもしれないが。
いっそのこと俺の方からPK達を狩りにいくか? 後50人くらい狩れば、レベル30のカンストができるかもしれない。
あーでも、探しにいく時間が勿体ないか。この広いフィールドでそうそう簡単に会えるものでもないし、どこかにPK達の溜まり場とかあれば嬉しいのだけどな。
おっと思考が逸れてしまっていたようだ。
目的を忘れてはいけない。
俺の捕まえるモンスターはすでに決まっている。
それは――――師匠だ!
俺にとってはまさにベストパートナーといえるだろう。
投擲物に使ってもいいし、スキルの練習台にもなってくれる。これからは、いつでもどこでも修行ができるぞ。
そして、圧倒的に可愛い。貴重な癒やしだ。
友達はできたけど、こはるちゃんといつまでも一緒に居られるわけじゃない。彼女にもリアルの都合があるし、俺もそろそろ攻略を進めないといけない。
一度、友達の素晴らしさを知ってしまった俺は、その温もりを簡単には忘れることができない。きっと攻略中も思いだして寂しい思いをするだろう。
そんな旅路に師匠が側に居てくれれば癒やしを貰えて元気がでるはずだ。俺のメンタル面も管理してくれるとか、さすがは師匠といったところだな。
もちろん、癒やしのためだけに貴重なSPを消費してスキルを習得したわけでない。今後に備えて、スキルと師匠を組み合わせた新たな戦法だって考えている最中なのだ。
師匠の可能性は無限大なのさ!
……ふう。師匠の素晴らしを熱く語りすぎてしまったようだな。ワクワクがとまらない。
さっそく【探知】使って、周囲を調べる。
お、いたいた。こっから3キロ先に1匹いるようだな。
俺のカウンター移動ならすぐにいけるけど、こはるちゃんは無理だな。この後、彼女のモンスターも仲間にする予定だから、時間効率を考えて俺1人でいったほうがいいだろう。
「こはるちゃん、この近くに俺の捕まえたいモンスターがいるみたいだから仲間にしてくるよ。悪いけど、その間さっき教えた修行方法を反復して覚えておいてね。すぐ戻ってくるから!」
「はーい! こはるがんばるからね! お兄ちゃん、いってらっしゃい!」
こちらに両手を振りながら、こはるちゃんが元気一杯に声援を送ってくれるを確認して、俺は移動を開始した。
◆
師匠発見!
さっそく、倒してすぐに仲間にしたいが、ここで焦らずにしっかりと準備をするべきだ。
スキル【魔物従属化】は所持しているだけで効果を発揮し、倒したモンスターを一部の例外を除いて仲間にすることができる。
けれどそれは100%ではない。モンスターの強さ、プレイヤーのレベル、従属化を補う専用スキル、などなどよって仲間にできる確率は変動する。
今回の目的のモンスターは序盤の低レベルということもあり、捕獲率はそこまで高すぎるということはないだろう。
けれどな、確率は偏るからな……。
例えばソーシャルゲームのガチャとか、ボゲモンの技命中率80%、90%とかも外すときは、とことん外しつづけてしまうものだ。逆に相手が命中率30%の一撃必殺を3回連続当ててきたときなんかは発狂しそうになった。
――そう、確率とは恐ろしいものなのだ。
だからこそ、俺は入念に準備する。それも裏技を使ってな!
俺は師匠に近づくと、【手加減】を発動して大鎌で切り裂く。すると師匠が身体をぷるりと震わせて2匹に分裂した。
スライムはHPが一割以下で生存している場合、種族特性の効果で増殖する。
名付けて、数打てば当たるだろう大作戦!
そのまま、回復ポーションを師匠に振りまいてHPを回復させ、大鎌で切り裂いて増殖する作業の繰り返しだ。
念のため20匹以上まで増やした。
最弱と言われるスライムはかなり捕獲率高いし、俺も高レベルなこともあるからここまですれば大丈夫なはずだ。
さあ、始めよう。従属化ガチャ開始!
20匹以上いる師匠達に向って毒胞子袋というアイテムを投げつける。
たちまち、師匠達は毒に犯されてHPが0になり、辺り一面に光りの粒子が舞ってエフェクトが煌めく。
さあ、どうなる?
……。
…………。
………………えっ?
嘘、だろ?
……もしかして失敗したのか?!
――ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!
爆死!
……これだから確率ってやつは大っ嫌いなんだよ。俺、運悪いし。
絶望に顔を歪めそうになった、その瞬間。俺の視界に一匹の野生スライムがリポップするのを捉えた。
まだだ、まだ望みはあるぞ!
こいつさえ居れば、まだ従属化ガチャができる。なんせ、こっちには無限に数を増やせる錬金術があるのだからな!
――でるまで回せば100%なんだよ!