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43話 ボッチ 友達と戯れる3

 善は急げということで、こはるちゃんと一緒に『はじまりの草原』に来ていた。

 町中では周りが騒がしかったから外は落ち着くな……。


 俺はシステム画面を表示してタッチパネルを操作する。モンスター図鑑の項目を選ぶと、今まで俺が倒してきたモンスターの映像が浮かび上がる。


 俺はすでに仲間にするモンスターを決めているが、こはるちゃんは『はじまりの草原』にどんなモンスターがいるのか分かっていないので映像を使って確認して貰っている。

 こはるちゃんが見やすいように、姿勢を低くして座り込む。


 こはるちゃんは、俺の背中に寄りかかるようにしながら両肩に手を置いて肩越しから画面を覗いている状態だ。うーん、本人の正面にしか画面を表示ができないのは不便だよな。

 今後のアップデートに期待しよう。


 結構密着しているのもあり、こはるちゃんの金色の髪の毛が俺の顔に接触して少しくすぐったい。

 こはるちゃんが身じろぎすると、さらさらした髪の毛が俺の鼻を掠めてしまって、くしゃみをしてしまう。

 そんなことが何度もあったので仕方なくお互いの体勢を変えることにした。


 結果、こはるちゃんの提案でこのようになった。俺が胡座を組んで、こはるちゃんがその上に乗っかって座り、背中を俺の胸に預けるという形だ。

 子供特有の高い体温を胸に感じながら、こうしていると仲が良い本当の兄弟みたいに思えた。

 

「どう? こはるちゃん。どのモンスターを仲間にするのか決まった?」


「うーん。あのね、あのね、この子をなかまにしたいの!」


「どれどれ」


『ホーンラビット』

 全身が真っ白い毛並みに真っ赤な目。頭頂部から、ぴょこんと跳ねている2つの長い耳はどう見てもウサギに見えた。ただ現実と異なるのは額に大きな角を生やしているところだ。


 あー、こいつか。こはるちゃん1人では少し難しいんじゃないかな。

 別名――「初心者殺し」と呼ばれ、素早い動きで飛び跳ね移動をしながらプレイヤーを翻弄し、序盤にしてはかなり高い攻撃力で一突きされるのだ。


 まだレベルも低くてVR内での動きに慣れてない初心者には最初の壁ともいっていいだろう。

 たしかに序盤に仲間に出来れば、高い攻撃力と素早さを持つこのモンスターは育てやすいし良い選択といえる。

 

 ただモンスターを仲間にするには、『魔物従属化』スキルを所持した上で、自身が攻撃を対象モンスターに当てて倒さないといけない。

 こはるちゃんが素早いモンスター相手に攻撃を当てるのはキツいのではないだろうか?


 こはるちゃんが猫の真似をして俺の指にタッチして遊んでいたときは、なかなか良い反射神経だったし、柔軟な動きをしているように感じた。

 けれど、慣れない武器を使ってでの戦いでは難しいものがあるだろう。


「こはるちゃんは、なんでこのモンスターを選んだの?」


「あのね! この子は、しっぽがすごくフサフサしているからモフモフしたいのッ!」


 こはるちゃんは、両手の指を小刻みに動かして全力でモフモフしたいという感情を俺に訴えかける。やる気に満ちあふれ、和やかな顔つきから獲物を狙う狩人のような目つきに変貌していた。


 モフモフすることに凄い情熱を感じる。

 これはもう他のモンスターをオススメするなんてことはできないな。

 俺が全力をもってサポートするしかない!


 俺がモンスターのHPを残り1まで削った上で押さえつけるという強引な方法もあったりもする。

 だけど今後のためにも、こはるちゃんには<魔物使い>としての力を身につけてほしいと思う。そのためにも俺ができることをしてあげよう。


 こはるちゃんには<魔物使い>基本武器であるムチの扱い方について教えるべきかな。最低限、動きが止まった相手に正確に当てれるようにするのが目標だ。


 ということで、こはるちゃんに俺の考えを話すと快く了承してくれた。

 では始めるとしよう……。



 ◆



 その辺りに生えていた全長2メートルくらいの手頃な木を見つけた。


「こはるちゃん。この木に向かって鞭を振ってくれるかな?」


「うん、わかった! ――えいッ!」


 威勢の良いかけ声とともに、こはるちゃんの振るった鞭は目標物から大きく逸れて的外れの方向に向かった。


「うーん、むずかしいねお兄ちゃん」


「まあ、誰だって最初はそんなものだよ。焦らなくていいからゆっくり覚えていこう」


 とりあえず悪い箇所を少しつづ改善していくしかないか。俺の家みたいに武術が生活の中に組み込まれている家庭なんて珍しい存在だからな。


「まずは鞭を振るう瞬間に目を閉じてしまっていたよね。必ず対象を視界内に入れること。後、腕だけの力で振るっていたからスピードが全然でていない。身体の重心移動と腕の動きを同期させて手首の捻りを加えることで何倍にも威力が膨らむし、細かな軌道調整だってできるようになるんだよ」


「えっと、うーん、目をとじないことと……」


 やっぱり子供は口で教えるよりも実際に身体で動かした方が覚えやすいか。幼少期はコツさえ掴むと驚くほどの早さで学習して成長をとげるからな。


「こはるちゃん、鞭を貸してくれるかな? 実際にやってみせるからよく見ててね」


「うん! どーぞ、先生」


「はははは、先生っていうほど大したことはできないけどね」


 俺は、こはるちゃんから鞭を受け取ると適切な長さに調整して構えをとる。

 目標は数メートル先に転がっている拳サイズの石ころだ。


「――はッ!」


 身体と腕の流れを無駄なく滑らかに動かして、力が最大限に乗るタイミングで手首のスナップを利かせて解き放つ。鋭い風切り音とともに向かって伸び、命中すると同時に石ころが真上に弾け飛んだ。


 その石ころを二度目の鞭を放って交差する瞬間、軌道を変化させて絡め取る。そのまま自分の方に引き寄せつつ、俺の顔面に当たるスレスレで軌道を変えて頭上に石ころを解き放つ。


 そこから宙を舞う石ころ目掛けて、様々な角度から縦横無尽に鞭を操って打ち続ける。

 石ころは母なる大地に戻ることは叶わず、その様はプロ格闘ゲーマーの操るキャラクターが空中コンボを相手に叩きつけ、決して地上に逃がさないような執着っぷりだ。


 きっかり100回目のコンボを決めたところで、再び鞭で石ころを絡めると思いっきり地面へと叩き付ける。すると、蓄積されつづけたダメージに限界を迎えたのか真ん中からぱっくりと割れてしまった。


「おぉー!? すごい、すごいよお兄ちゃん!!」


 こはるちゃんが、ぴょんぴょんと跳ねて身体全体を使って驚愕と喜びを表現する。金色のツインテールが大きく上下に揺れる様は犬の尻尾のようだ。瞳をキラキラと輝かせて、尊敬の眼差しを俺に向けてきた。


「そ、そうかな?」


 なにこれ……すごく照れる。

 今まで人にあまり褒められた経験がないから、こうまで純粋な反応に少し困ってしまう。そんなに大したことをしたつもりはないのだが。


「お兄ちゃん、じゃなくて先生……でもなくて師匠! あのね? こはるにもいつかできるようになるかな?」


 いつのまにやら先生から師匠へとクラスチェンジを果たしたようだ。


「ああ! 諦めずに練習すればこのくらいできるようになるさ! よし、やる気は十分みたいだし、練習に移ろうか」


「はい、師匠ッ!」


 こはるちゃんは瞳に闘志を燃やして、気合いのこもった声で返事する。

 弟子か……悪くない響きだ。


 ん? 何か忘れているような。

 あ、そういえばモンスターを捕まえにきたんだったよな? あぶねー、つい青春漫画みたいなノリに流されて目的を忘れるとこだったよ。


 そういえば、この世界には俺にも指導者と呼べる存在がいる。

 もうすぐ会えます。

 待ってて下さいね――――師匠スライム


  

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