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41話 ボッチ 友達と戯れる

 こはるちゃんに手を引かれること数十分、目的の『もんすたぁーショップ』に辿り着いた。


 道中あった出来事といえば、こはるちゃんのニコニコ顔を見て蕩けるような笑みを浮かべていた女性プレイヤーが、その手に引かれる俺に視線が移った瞬間、もの凄く引き攣った表情を浮かべられたことに精神的ダメージを受けたことくらいかな。


 うん、俺も友達と遊ぶときにこの装備はオカシイと思うよ?

 でもさ、この装備外したら壊れちゃうんだから仕方ないじゃないですか!

 悪目立ちするけど、火力というロマンを捨てるなんて俺にはできないんだ……。


「お兄ちゃん、見てみてー! すごくかわいいでしょ!」


 こはるちゃんが指さす方向に視線を合わせると、子猫に似た生き物が目の前のガラスケース越しに、ぴょんぴょん跳ねて愛らしさ全開でアピールしていた。


 ただ、それが普通の子猫ではないことはあきらかである。なぜなら、まずお目に掛かれないであろう赤色の体毛、さらには青い炎を身に纏っていたからだ。

 プレートを確認すると『フレイムキャット』という名前が書かれている。


 人懐っこいのか、こはるちゃんが人差し指をガラスケースの前にもっていくと、前足を持ち上げ突き合わせる。

 こはるちゃんが指をその位置から動かすと、それにつられるように前足も追ってくる。その度にフレイムキャットのプニプニした肉球がガラスケースに貼りついていた。


「にゃー」


「にぁっ!」


「にゃー」


「にゃにゃ!」


 こはるちゃんが、「にゃー」と猫の声を真似て人差し指を動かすとフレイムキャットも合の手を入れて可愛く鳴き声を上げる。

 

 なんだこの癒やし空間は!?

 見ていて凄く和む。嫌なこととか全て忘れて消えてしまいそうなほどの破壊力があるぞ。


「ねえ、あの子達……ちょー可愛くない?」


「うん! うんッ! 見ていて胸がキュンキュンしちゃう。妹に欲しいわね」


「ああーッ!俺の腐りきった心が浄化されていく! 身体の憑きものが落ちていくようだ……」


「そうか、これが――――心か……」


 などなど、俺の周りから少し離れた位置にいるプレイヤー達も癒やしの空間に呑まれていた。

 

 それにしても、人集りできすぎだろ!

 死神の恰好をした俺と少女の奇妙な関係が気になったのか、いまや客寄せパンダみたいな状態になっていた。


「ほら、お兄ちゃんもこっちに来て、やってみようよ!」


 こはるちゃんは目の前の愛玩生物に夢中で、周りの様子など気にせず俺に手招きをする。

 

 俺が近づけば、この癒やし空間が壊れてしまいそうで少し躊躇う。けれど、こはるちゃんの期待の眼差しに逆らえず、隣に並ぶと腰を落とす。

 こはるちゃんに倣って、人差し指をガラス越しに近づけると――。


「ふしゃあああああああああッ!!」


 フレイムキャットさん大激怒である。

 いや、正確に言うと俺に怯えて威嚇しているような反応だ。


 そうなのだ。

 昔から俺は動物や生き物になぜか嫌われてしまう。まだずっと小さな子供の時はそうでもなかったけど、親父と行った無人島の武術修行から帰ってきてからこんな感じなのだ。

 何か恐ろしいものでも俺に取り憑いているのだろうか?


 でもさ、これゲームの世界だから大丈夫だと思ったんだよ! 俺だって、可愛い動物とか生き物と仲良く遊びたいのだ。

 期待が裏切られたこともあって、両手と両膝を地面に着けると脱力して落ち込む。


「えっとぉ、えっとぉ……お兄ちゃん! 元気だして?」


 こはるちゃんが俺の落ち込んでいる姿を見て、あたふたしながら慰めてくれる。


「そ、そうだ! お兄ちゃん、人差し指を出してくれる?」


「うん?」


 意図がよくわからないけど、こはるちゃんの一生懸命な姿に促されて人差し指を出す。

 

「にゃあー!」


 こはるちゃんは自身の手を握りしめてから猫の手の形に変え、俺の人差し指に軽くタッチして子猫の声真似をした。

 試しに指を横に動かすと、こはるちゃんが鳴き声を上げて猫の手が追ってくる。


 下に指を動かす

 

「にぁにぁッ!」


 上に指を動かす。


「ふにぁー!」


 こはるちゃんが、ぴょんと跳ねて追ってきた。

 なかなかやりおる……。


 ならば、これならどうだ?

 右に動かすと見せかけてからの左に動かすフェイントだ!


「――うにゃ!? にゃぁー、にゃあーッ!」


 こはるちゃんは見事に引っ掛かって目標のタッチに失敗する。それから頬を膨らませて、俺に抗議の目線を向けながら、何か言いたそうに子猫の声真似で鳴いた。


 つい出来心でやってしまったが後悔はしていない。


 今度は上にいくと見せかけてからの下に指を動かす。

 だが、こはるちゃんは目を光らせてフェイントを見破ると見事にタッチを成功させた。

 こはるちゃんは「にぁはは」と鳴いて、どうだと言わんばかりに自慢げにこちらを見つめる。


 くっ、なかなかやるじゃないか。そっちがそのつもりなら受けて立とう!

 ……だんだん、楽しくなってきた。


 次に指を向けたとき、こはるちゃんは獲物を狙う狩人のような目をしている。まるで猫耳と尻尾が生えたかのように幻視してしまうほどに、その姿は様になっていた。


 …………。

 あれから数十分。

 激しい攻防は続けられ、お互い十分に満足して楽しんだのでやめた。


「よかったー! お兄ちゃんが元気になってくれて、こはるは嬉しいよ! えへへ」


 そう言って、こはるちゃんは優しい笑顔をこちらに向けてくる。

 俺は胸がぽかぽかして温かくなるのを感じられた。

 ……なんて良い子なのだろう。控えめにいって天使かな?


「きゃー、もうあの子が可愛すぎて攫ってしまいたいわ!」


「天使だッ! ――ここに天使がいるぞッ!!」


「なぜ争いは起こるのだろうか? 平和とは……こんなにも尊くて素晴らしいものなのに」


 野次馬をしていたプレイヤー達は、こはるちゃんの一連のやりとりを見てメロメロ状態になっている。中には悟りを開いてるものも見受けられ、辺りは不思議な雰囲気に包まれていた。 

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