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32話 ボッチ VS PK(3)

「クソがッ、クソが、クソがあああああああああ!!」


「あ、兄貴、落ち着いてくだせぇ……」


 赤色のモヒカン髪が上下に激しく揺れる。絞りだすように怒りの咆哮を放った人物の相貌は酷く歪んでいた。目は充血し、皮膚からは血管が濃く浮かんで、息の仕方を忘れたかのように喘ぐ。


「こ、れが……落ち着けるわけないだろうがあああああああああ! 何度も何度も、俺の顔に薄汚いモンスターをぶつけやがって……。それだけじゃねぇ、あいつは俺の腹の上で暴れまくった上に何度も地面に叩きつけやがった! どこまでも嘗めた態度とりやがって! 殺す……絶対に、殺してやるっ!」


「随分と荒れているようだな……」


 我を忘れて怒り狂っている男に話しかけたのは、どこか中性的で凜とした声だった。本来ならば(サソリ)を模した赤色の鎧姿は、それだけ相手に威圧感を与えるはずだが、草や泥に塗れている様はどこか頼りなげない。 


紅蠍(ベニサソリ)…………そのザマってことは、てめーらもこっぴどくやられたようだな」


「ああ……。どうにも嫌な予感がする……アレは危険な存在だ。だが、アレを打倒するための作戦がある。私たちと協力してみる気はないか?」


「ふざけるなっ! あいつは俺の獲物だ! 勝手に手をだすんじゃ――――ぐはっ!? ……モゴモゴ、むぐっ」


 激昂する男の顔面に突如飛来したのは、またしても青い塊。さすがに慣れたのか、数秒ほど仰向けに倒れたまま藻掻くと、赤髪のモヒカン男は起き上がる。


 全員が青い塊の飛んできた方向に思わず視線を向ける。その場所には拳を握りしめて、満足げにガッツポーズしている死神がいた……。

 この場にいた誰もが被害者を見て、こう思った――絶対に、ブチ切れると。


「……さっきの、話を聞かせろ」


 だが男は、叫び狂うことはなかった。小刻みに体をプルプルと震わせながら冷静に話しだしたのだ。ときとして人間は限界以上の怒りを享受してしまうと、一周回って逆に冷静になるらしい。

 

 そんな哀れな状態の男に、どこか同情的な瞳を浮かべながら赤鎧の女は、先ほど死神の横やりで中断された会話を続ける。


「……ああ。あのスライムと死神を同時に始末する方法がある。理由は分からないが、アレはHPが瀕死の状態にも関わらず、回復する素振りすら見せていない。だからこそ、その油断をつくことができる――こいつを使えばな」


「何だ……それは?」


 赤鎧の女が自信ありげにアイテムボックスから取り出したのは、紫色の液体が入った透明なガラス状の球体だった。


「こいつは、大樹の森に生息する様々な毒モンスターの体液と植物の毒を抽出し、混ぜ合わせて作られた毒玉だ。高いお金を支払って錬金術士どもに依頼して作らせたから効果は確かなものだ。毒には段階があるのは知っているよな? 致死毒が一番上で、そこから毒(大)、毒(中)、毒(小)と分けられるが、この毒玉は毒(大)にあたる危険な代物だ」


「くかか、そいつはすげぇや! だが、もしもアイツが毒に対策できる防具やアイテムを持っていたらどうするつもりだぁ?」


「それはないだろう。現在解放されているのが第三拠点までだが、そこですら毒耐性(中)までのアイテムや防具が関の山だった。現時点で、それ以上のアイテムや防具があるという話しは……聞いたことがない」


「……なるほどな。でよう、それはどうやって使えばいいんだ?」


「特に難しい使い方をする必要はない。こいつを投げつけて液体を保護しているガラスを割ってやればいい。そうすれば、中の液体が外の空気に触れた瞬間に、あっという間に気化して周囲を紫色の煙幕が覆う。その範囲内に入れば、HPが瀕死状態のアレは回復をする暇もなく即死するだろう」


「くくく、これで奴に一泡ふかせられるってわけか。数は何個あるんだぁ? 外したときのことも考えて予備が沢山欲しいんだが」


「言っただろ、これは貴重品だから数が少ない。手元には2個しかない。だから、チームリーダーである私とオマエで1個ずつだ。――後で代金は請求するぞ」


「けけけ、金摂るのかよ! まあアイツを痛い目に合わせられるなら、いくらでも金くらい払ってやるよ! で、もう一つの問題はどうやってアイツに近寄るつもり――――がはっ!? ……モゴモゴ、むぐっ」


 またも突如、青い塊が飛来してきて赤髪のモヒカン男に直撃した。後頭部から衝撃を受けたため、うつ伏せに倒れて地面とキスをすると、開いた口の中へと泥が入り込む。


 全員の視線がまたか……と、飛んできた方向へと視線を向ける。そこには、こちらに指を指したかと思うと、両手をお腹に当てて、地面をコロコロと転がっている死神がいた。

 そこへ、近くにいたスライムが死神へと襲い掛かっていたが、そのまま器用に回避しながら笑い転げていた。


 なんとか地面から起き上がった赤髪のモヒカン男が、その光景を目撃してしまう。


「グギギギギギイイイイイイイイイ、グギァアアアアアアアーー!! ……はあ、はあ、はあはあ。……話を戻すぞ」


 怒りのあまり人間とは思えないような擬音を叫ぶと、息を切らして乱れた呼吸を整えた。なんとか理性を総動員させて会話に戻ろうとする。

 赤鎧の女は、先ほどよりも更に同情的な瞳を赤髪のモヒカン男に向けると話しを聞く。


「クソ忌々しいことに、あの変態的な投擲技術を前に二の足を踏んでいるわけだが、どうやって接近するつもりだ? 近づかないと、このアイテムも使い物にならないだろ?」


「それもちゃんと考えている。攻撃を受けても仰け反らなくなるスーパーアーマーがつくスキルを使って、奴に近づけばいい。縦一列に全員で等間隔に並ぶ。前の人間が攻撃がきたときにスーパーアーマーつきのスキルを発動して防ぐ。効果時間の関係で1人当たり数秒しか持たないだろうが、今は全員で10人いるわけだ。前に9人の盾があれば、その間に近づけるだろう。そして最後尾に並んだオマエが毒玉を投げつけてやればいい」


「へー、俺が最後尾でいいのか? 奴をキルするチャンスをわざわざ俺に譲るのか?」


「……ああ、私はオマエみたいに、アレに因縁があるわけではないからな。勝ちさえすればそれでいい」


「はっ、そいつはありがてぇー……。おい、方針が決まったならササッと行くぞ! いまだに地面に転げ回っているアイツを見ていると頭がどうにかなりそうだっ!」



 ◆ ◆ ◆ ◆ 



 お、やっと動き出したみたいだな?

 あまりにも会話が長すぎて暇だったから、暇つぶしも兼ねて赤モヒカンに師匠(スライム)を飛ばして、おちょくってみたのだが、予想外に面白い反応するから腹を抱えて笑い転げてしまっていた。


ローブについた草や砂を払いながら、大きく伸びをすると立ち上がる。大鎌をアイテムボックスから取り出すと、軽く素振りをした。


 ……また縦一列に並んでいるのか?

 前と違うのは密集した状態ではなくて、ある程度隙間を空けて等間隔に並んでいることと、規模が10人と増えていることだ。


 おそらく、等間隔に距離を空けているのは前の人が倒れると後ろの人へと二次被害が起こってしまうのを防ぐためだろう。あれだけやれば、流石に学習するか。


 次の瞬間、そのPKの隊列は動き始めて加速する。

 とりあえず、一番先頭にいるのは黄モヒカンを狙って師匠(スライム)砲弾を弾き飛ばす。黄モヒカンは俺が大鎌を振るった瞬間を確認すると叫んだ。


「ヒャッハー! ――【旋風斧刃】」


 黄モヒカンは大斧を振り回して独楽のように高速で回転しながら真っ直ぐ突進してくる。そこに師匠(スライム)砲弾が黄モヒカンに着弾したが、何事もなかったようにこちらへと近づいてきた。

 ――馬鹿な、師匠(スライム砲弾が効かないだと!?


 ……恐らくあのスキルの効果によるものだろう。さて、どう対処しようか……と考えていると、数秒して黄モヒカンは、その場で硬直する。

 ためしに、もう一発おみましてやると、問題なく吹き飛んで倒れる。


 すると後ろにいた青モヒカンがその上を跨がって乗り越えると、こちらに突っ込んでくる。

 俺が青モヒカンに向けて師匠(スライム)砲弾を弾き飛ばすと、スキルを発動して先ほど同様の結果となった。


 今度は緑モヒカン、つづけて紫モヒカンとスキルを発動して師匠(スライム)砲弾を防ぐと同じやりとりが繰り返された。


 なるほどな、恐らく数秒の間だけ攻撃に対して仰け反りなどを無効にできるが、ほんの数秒だけ硬直が発生するってわけか。それを利用してPKの隊列がこちらへ近づく距離を上手く稼いでいるみたいだな。


「――【ソニックスピア】ですわ!」


 今度は赤鎧の一人がスキルを発動して風を纏いながら槍を前方に突き刺すように突進。こちらも、残念ながら師匠(スライム)砲弾は弾かれた。そして副作用で硬直したところに、ぶちかましてやると後ろから次の奴が乗り越えてやってくる。


 ……まるでリレーでバトンを受け渡して次へと繋いでいるようだ。


 ちょっと、ボッチに対してそういうチームプレイとか目に毒だからやめてくれ! 俺は攻撃を受けていないのに、なんだか精神面へと鋭い一撃を食らったような気がした……。

 

  そして9人目までバトンを繋ぐように、その行為が繰り返されて、気づけば最後尾にいた赤モヒカンとの距離が数十メートルにまで縮まっていた。

  

「さんざん俺を馬鹿にしてくれやがったな! これでも食らいやがれっ! ――ヒャッハー!」


 赤モヒカンが叫びながら自身の腰布から何かを取り出すと、俺の顔面へと放り投げてきた。

 咄嗟に首を傾けて、その何かを回避することができたが、後ろの方でガラスが割れるようなパリンッという音が鳴り響く。


 突如、紫色の煙が辺りを侵食し――俺はそれに覆われてしまった。  

――――やったか!?


赤モヒカンは死神に一矢報いることができたのでしょうか!?気になる次回の展開は――――


↓以下 次回予告


チャッ、ラー~ラー~ラー、チャッ、ラー~ラー~ラー(BGM)


お願い、死なないで赤モヒカン!あんたが今ここで倒れたら、勝利を信じて、ここまで送ってくれたPK達との約束はどうなっちゃうの?HPはまだ残ってる。ここを耐えれば、死神(ボッチ)に勝てるんだから!

次回、「赤モヒカン死す」。デュエルスタンバイ! CV:海馬瀬人


(今回の話しはこのネタをやりたかったためだけに書いたなんて言えない……)

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