31話 ボッチ VS PK(2)
俺は咄嗟に、その辺りにぽよんと跳ねていた一匹の師匠を捕まえて、小脇に抱えるとカウンター移動でPK達から距離をとる。
安全を確保すると抱えていた師匠を降ろしてあげて、【手加減】を発動して大鎌で切り裂く。
身体をプルプルさせて二匹に分裂したのを確認すると、アイテムボックスから回復ポーションを取り出し、フタを開けて師匠に振りかける。
HPが回復しているのを確認すると【手加減】を発動して2匹を切り裂くと4匹に増やす。
後はこれの繰り返しで16匹まで数を増加させる。回復ポーションを使ったのは、一匹づつ増やしていたら時間効率が悪いからだ。
PK達が近づいてくるまえになんとか作業を終えることができた。
ふはは、師匠の恐ろしさをその体に教えてやろう!
俺に飛び跳ねてくる師匠達の攻撃を避けながら、こちらへと走って迫ってくるモヒカン達を視認する。
先頭にいた赤モヒカンの顔面へと狙いを定めると、【手加減】を発動して大鎌の側面で、一匹の師匠を弾き飛ばす。
――師匠砲、発射!
師匠砲弾は錐揉みしながら弧を描いて宙を翔ると、赤モヒカンの顔面へと吸込まれるように着弾した。
――ビューティフォー。
後方へと倒れた赤モヒカンが、後ろから追随していたモヒカン達を巻き込む。なんとか赤モヒカンを起き上がらせようと立ち止まっていた。
お、そんなところで足を止めててもいいのかな?
師匠砲、構え! 撃てぇーー!
今度は、ひと塊になっていた四匹の師匠砲弾をまとめて大鎌の側面で弾き飛ばす。
師匠砲弾は固まっていたモヒカン達の胴部分に着弾すると、くの字に折れ曲がらさせてボーリングのピンのように弾け飛んだ。
――ストライク!
これは……楽しすぎるっ!
まだ立っているピンは赤鎧達の五人。さっきのモヒカン達の状況を見て馬鹿正直に突っ込んでくることはないだろう。さて、どう動いてくるかな?
◆ ◆ ◆ ◆
「お姉様、どうしましょうか? 近づかないと、いつものように連携を取りながら囲んで仕留められないですし、かといって馬鹿正直に近づけば、あそこの阿呆どもみたいになってしまいますわ」
「姉たま、ここは全員がバラバラに散開しながら、的を絞らせないように近づくのはどうです?」
「はい、はい! お姉たん、私は煙幕玉を撒いてアイツの視界を塞ぐのがいいと思うよ!」
「うむ、皆の意見に答えていこう。まずは真正面から作戦もなしにアレ近づくのはNGだ。それとバラバラに散開して近づくのは、やめたほうがいい。あの距離から正確に頭を打ち抜く精密さは異常だ、正直……人間離れしすぎている。スライムを飛ばすとかいう馬鹿げた戦法だが、あの威力は馬鹿にならないしバラけたところで正確に各個撃破されるのが落ちだろう」
「ねえねえ……がここまで慎重になるのは……珍しいね。……こんなにも、危機感を抱かせるなんて……何者なのかな?」
「で、次に――」
◆ ◆ ◆ ◆
なんだか円を組んで作戦会議をしているみたいだ。ここからは遠くて内容は聞きとれない。俺も、ああやってチーム内で相談とかやってみたいです!
いいな……羨ましくて妬ましい。
いっそあの場所へ師匠砲弾を叩きこんで、ぶち壊してやろうかとボッチゆえの仄暗い感情が湧いてきたが、なんとか理性を総動員させて押さえつける。
師匠砲弾は、威力はあるけど火力がないので、たいしたダメージにはならないだろうし、それに、いったいどんな作戦を練って挑んでくるのか興味がある。
動かないなら、こっちはこっちで準備しておこう。
俺に襲い掛かってくる師匠達の攻撃を躱しながら、砲弾として消費した計五匹を大鎌で切り裂いて補充しておく。
はあ…………俺も友達が欲しいな。
◆ ◆ ◆ ◆
「で、次に煙幕を撒いて視界を塞ぐという作戦だが、これもやめたほうがいい。煙幕を撒くということは、こちらからもアレの姿が視認できなくなるということだ。さっきも高速で宙を移動していたが、格好といいスキルといい、やることが不気味すぎて、アレがどういった動きをするのか予想かつけられない……。だったら視認できるようにしておいて、いざ何かあれば、いつでも五人でカバーしあう方がマシだ。……そこで私に考えある、どうか聞いてくれないだろうか?」
「もちろんですわ、姉さま!」
「はい、姉たま!」
「わかったよ、お姉たん!」
「……了解した、ねえねえ……」
「うむ、皆ありがとう。では今から言う作戦なのだが――――」
◆ ◆ ◆ ◆
お、やっと動き始めたみたいだ。
さてさて、どんな行動をしてくるのか見物だな。
うん? ……いったい縦一列に並んで何をするつもりだ?
俺が訝しんでいると、先頭に立つ赤鎧が両拳と両肘をくっつけてガードのポーズの構えをとる。後ろの赤鎧達は全員前の人の背中を両手で押すようにして、そのまま真っ直ぐに突進してきた。
列車かなにかだろうか?
……悩んでもしかたないし、試してみるか。
俺は、先頭の赤鎧の顔面目掛けて、師匠砲弾を大鎌の側面で弾き飛ばす。
弧を描いて、見事に着弾。
ガードの上から衝撃が突き抜けて上半身が後ろへと傾くかと思ったとき、後ろの赤鎧達が背中を後ろから強く押すと、先頭にいる赤鎧の崩れた姿勢が元に戻る。
……なるほど、考えたな。
縦一列に並ぶことによって後列にいる人間を守りながら、先頭が砲弾を受けて倒れそうになったら後ろから人が支えてやるのか。
ボッチの俺には真似できないチームプレイを見せつけてくれるじゃないか?
俺は再度、師匠砲弾を連続で先頭の赤鎧の顔面へと叩き付けるが、さきほどと同様に防がれる。
こちらとの距離は百メートル近くまで縮まっていた。
見事だ……けど、その方法には――――致命的な弱点がある。
一発目の師匠砲弾を先頭の赤鎧の顔面へとスピードを調整して、いつもより緩く弾きとばす。先頭の赤鎧が咄嗟に顔面をガードするように構えたのを確認すると、二発目の師匠砲弾を高速で弾き飛ばした。
そして一発目の師匠砲弾に二発目の高速師匠砲弾が追いつくと――ぶつかる。その結果、突然に一発目の師匠砲弾が軌道を変化させて顔面ではなく、足膝の方へと飛んでいって着弾した。
――おっと、足下がお留守ですよ。
一度は漫画で見たような、この台詞を思わず小声で呟いていた。
突然に軌道が変化したことに対応できなかった先頭の赤鎧は「あっ……」っと声を漏らすと、前のめりに姿勢が傾く。なんとか体勢を整えようとするが、後ろの赤鎧達が後押しするように背中を押してしまった。
それはまるで……あっと一歩でギネス記録に載るであろう最後のドミノが、アクシデントによって崩れるような残酷な一撃だった。
先頭の赤鎧が地面とキスをすると、後ろの赤鎧達も追随して前方へと倒れ、その背中へと積み重なっていく。
決まった! ――なんて気持ちが良い光景なんだろう……。
俺は心の中でガッツポーズをとると、次の行動に移る。
目の前には、ひと塊になった小山がある。……やることは一つしかないよなっ!
師匠砲、構え! 撃てぇーー!
5匹の師匠を大鎌の側面で、まとめて弾き飛ばして小山に着弾。5匹分の威力は相当なもので、ぶつかると四方にボーリングのピンのように豪快に弾け飛んだ。
俺はその光景を眺めると、一仕事終えた大工さんのように爽やかな笑みを浮かべて、袖で額の汗をぐっと拭った。
……また、良い仕事をしてしまったな。
風が優しく吹くと、草木を揺らして俺の火照った体もそっと冷やしてくれる。
心地よい疲労感を感じるとともに、頭の中は次のことを考えていた。
――次はどんな方法で楽しもうかっ!