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30話 ボッチ VS PK

 さて、相手は5人か……。

 対人戦は現実で嫌になるほど修行させられたし、多対一でもまったく問題はない。

 むしろ【鷹の目】を使って複数人相手に実戦できるから丁度良い……まあ贅沢を言えば、修行相手にはもう少し人数が欲しかったかな。


 あっちでは数十人相手に組手とかあたりまえだった。もし、5人相手に負けたとか知られたら親父に殺される……。

 現実にない魔法というファンタジー要素があれば話は変ってくるが、5人とも手に大斧を持っているし、それはないだろう。


「てめぇーら、あいつのHPバーをよく見ろっ! くっくく、死にかけじゃねぇか! なんでか知らねえが弱ってやがる。この人数差だ……囲んじまって攻撃がカスりさえすれば倒せるぞ!」


「ビビらしやがって、俺達に喧嘩を売ったことを後悔させてやるぜ!」


「兄貴! 回復されるまえに一気に畳みかけやしょう!」


 赤モヒカンが嬉々として叫ぶと、その取り巻き達が追随する。さっきまでの暗い表情が嘘のように明るくなっていた。


 ふむ、どうやら俺が弱っていると勘違いしているようだ。武器の能力でHPを犠牲に攻撃力が阿呆みたいな火力になっているのは気づかれていない。

 その事実を知ったときどういう反応をするのか、少し楽しみでもある。


 俺の正面へと5人のモヒカン達が並び立つ。

 そして、モンスターの敵であるプレイヤーが一カ所に集まったことによって、修行相手に連れてきた師匠(スライム)達がぽよんと跳ねながら近寄ってくる。


 さてと、まずはどの程度できるか様子見といきますか。俺はPK達に向かって堂々とゆっくり歩いて近づいてく。


「くそっ、なんなんだあの余裕そうな態度は……なめやがって! さっきは、なんのスキルを使ったかわからねえが、一瞬でガキを背負って遠くまで移動しやがった。また使われると厄介だ! おまえらは散開した後にあの死神との距離を詰めて動きを封じろ。囲んじまえば誰かの攻撃が当たる!」


「へい、兄貴!」


 赤モヒカンが指示を出すと、それぞれが俺の左右と後ろに回り込むように動き始める。見た目の姿から脳筋のごとく攻めてくるかと思ったら意外と頭を使って行動しているようだ。


「おら、死ねやっ!」


 正面から赤モヒカンが大斧を構えて縦に振りかざす。その攻撃から相手の力量を推察する。視線、重心の軸、筋肉の動きを見抜くと素人だと判断した。


 俺は武器を仕舞うと自身の右足が左足のつま先にくるように構える。

 わざと赤モヒカンの攻撃が当たりそうなギリギリの状態まで己の上体を維持して、瞬時に構えていた足を捌きながら内側から外側へと回転させる。


 すると攻撃を躱しながら赤モヒカンの側面へと移動し、ここで体勢を戻すときに体全体で相手を巻き込みながら足を引っかけて上体を軽く押してやる。


「なっ!? どこにいきやがっ――ぐぇっ」


 次の瞬間、赤モヒカンが地面へと後頭部を叩き付けられ、潰れたカエルような声が漏れた。


 俺がおこなったのはスキルでもなんでもない、ただの武術だ。

 攻撃を躱すための八卦掌の歩法の1つで、扣歩・擺歩<こうほ・はいほ>と呼ばれている。


 上体をギリギリまで残し、独特な足捌きで一気に側面に滑り込むことで相手の視界からは消えたかのように錯覚させる。

 これを応用してやれば先ほどのように力を使わなくても相手を簡単に転ばしてやることができる。


 今まではモンスター相手には身体的構造によって使えなかった武術だが人間相手なら使える。

 装備の呪いで走るという行為が封じられている俺にとっては、回避と同時に攻撃ができるこの歩法は相性がいい。

 現実世界で会得した武術が、ゲーム世界でも役に立つのは感慨深いものがあるな。


「むぐっ、やめっ、ろ…………くそっ邪魔だっ!」


 声がする方向に視線を向けると、倒れた赤モヒカンの顔に師匠(スライム)達が容赦なく群がって、攻撃を仕掛けていた。俺が【鷹の目】で師匠(スライム)達が後方から迫っているを確認して、わざと丁度良い場所に転がしてやったのだ。


 顔に群がっているのは、スライムの貧弱な攻撃力では体を攻撃してもたいしたダメージにならないが、顔への攻撃はクリティカルが発生するためだろう。


 ちなみに俺の場合は一撃でも攻撃を受けたら死んでしまうから面積の広い体へと攻撃してくる場合が多い。

 あのとき戦ったカマキリのボス戦でも、囮からの奇襲を仕掛けてきたりと……このゲームは、わりとAIが賢いみたいだ。


 師匠(スライム)の様子を観察していたが、きちんと周りの様子も【鷹の目】を使って確認している。

 左右から挟撃してくる青モヒカンと緑モヒカンを視界に捉えていた。

 俺は師匠(スライム)を引き剥がして起き上がろうとしていた赤モヒカンの腹筋を両手で押さえつけると、その上で逆立ちをする。

 

 逆立ちしたまま上体を捻ると左右から振り抜かれた攻撃に合わせて両足を開いて対応する。右から、左から迫ってくる攻撃に、武器を持つ手首目掛けて左右に蹴りを放つ。

 すると軌道がズレて明後日の方向に向かった。


 更に今度は前方と後方から黄モヒカンと紫モヒカンが大斧を横振りにして襲ってくる。

 これを攻撃が当たるギリギリの瞬間に、赤モヒカンの腹筋の上で逆立ち状態から腕立て伏せの要領で、自身の上体を沈ませることで回避。


 そこから手首のスナップを利かせて反動で跳ね上がると、攻撃を振り抜いて無防備な体勢の2人の顎目掛けて、両足で下から蹴り飛ばす。

 黄モヒカンと紫モヒカンの体が、数メートル宙に浮かんで重力に従うと地面にぶつかり跳ねた。


 俺は宙で体勢を整え、再び起き上がろうしていた赤モヒカンの上に両手をついて着地。すると下から「ぐふっ」と潰れた声が聞こえた。

 ……さすがに、そろそろ上から退いてやるか。


 俺がバク転して立ち上がると、青モヒカンが後ろから大斧を横に振るって襲ってくる。その攻撃を振り向きもせず、しゃがんで回避し、相手の懐に踏み込む。

 潜り込むように体を沈めて青モヒカンを背負うと、自分の釣り手の肘を相手の脇の下に入れ、引き手を引きながら投げ飛ばす。


 青モヒカンは背中から地面に叩きつけられて仰向けに倒れる。一般人にも有名な柔術で、背負い投げと言われる技だ。


 今度は正面から緑モヒカンが襲ってくる。縦振りの大斧を半歩横にズレて回避し、相手の首根っこを掴んで、前方へと引っ張りながら足を払う。

 すると緑モヒカンはバランスを崩して、俺の方へと前のみりに倒れ込む。瞬時に懐に潜り込み、自分の足を相手の下腹部に当てて蹴り上げると、真後ろに放り投げた。


 緑モヒカンは宙で一回転すると背中から地面に強打して仰向けに倒れる。こちらも結構有名な柔術で巴投げという技だ。


 現在の状況は5人のモヒカン男達が仰向けで地面に倒れ伏し、全員の顔面に師匠(スライム)達が容赦なく群がっている。


 ………なんというかシュールな光景。


 見かたによっては、人間が顔面をスライムに捕食さているホラー映画みたいだな。このゲームは18禁ではないので悲惨な光景にはなることがないのが救いかな。


 師匠(スライム)単体では貧弱な攻撃力でたいしたダメージは与えられないが、現状は顔面を集団で袋叩きにすることによって常にクリティカルダメージを発生させている。

 その結果、かなり地味なスピードだけど少しずつHPバーを削っているようだ。


 俺の脳裏にある考えが浮かぶ。

 いっそのこと師匠(スライム)達に是非とも勝利を捧げるのはどうだろうか?

 モヒカン達が起き上がろうとするのを俺が妨害して、師匠(スライム)達による袋叩きを全力サポートするのだ。

 師匠(スライム)達の貧弱な攻撃力では時間が掛かるかもしれないが、その過程を観察するのもなかなか面白そうだな。

 

 いつのまにか、修行から師匠(スライム)達の観察へと興味が移り変わろうとしていたとき――【探知】のスキルに反応が。

 数は5つ。どうやらこちらの方向に近づいてきているようなので、【鷹の目】を使用して視界を飛ばすと、その姿を捉えた。


 赤い色をした(サソリ)型のモンスターか? いや、二足歩行だし、手の形をした部位には槍を携えているから恐らくプレイヤーだろう。

 くそっ、こいつらもパーティーでロールプレイを楽しんでいやがるのか! ボッチの俺に喧嘩を売っているのかな…………妬ましい。


 そんな阿呆なことを考えていると、いつのまにか噂の人物達が目の前にやってきた。

 死神の姿をした俺と倒れ伏す5人のモヒカン達を見つけると、顔は兜に覆われているので表情は分からないが、どこか驚いた反応をしていた。


 プレイヤーネームは全員真っ赤に染まっている。こいつら5人もPK(プレイヤーキラー)ってわけか。

 ……どうやら増援に来たようだ。


  俺が(サソリ)の姿を模した赤鎧達を観察していると、その隙に師匠(スライム)達を払い退けた後ろのモヒカン達が起き上がってきた。

 前門の赤鎧、後門のモヒカン。

 

 ――――面白くなってきたな!

   



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