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27話 彼ら彼女らは知らない

 風が吹き草木が左右になびく草原を荒々しく踏み荒らすよう歩く影がそこにあった。

 影は5つあり、歩くたびに身に纏っている鎧が擦れて金属音を辺りに響かせている。


 空を覆っていた雲が風に流されて、隠れていた太陽が露わになると辺りに暖かな日差しを届けて、影達を捉えた。

 その姿はとても奇抜な格好をしており、街で歩こうものなら注目の的になるに違いない。


 全体的に黒をベースとした鎧で胸元はVの形で開いており、首元にはふわふわのファーが生え揃い、肩パットや膝部分には金属の棘が威嚇するように存在し、腹部は素肌が露出して防具としてのていを成していなかった。

 

 筋肉質な体型をみるに全員男のようで、それぞれが厳つい顔つきをしていた。

 顔から上に視線を向けると、中央部分にだけ生える髪の毛が逆立ちし風に抵抗して揺れている。

 それぞれが違った色をしており、赤、青、緑、黄色、紫とカラフルなモヒカンヘアーが並んでいた。


 さらに視線を上に向けると、頭上にはレッドネーム……赤い文字で名前がそれぞれ表示されていた。

 他のプレイヤーを殺す行為、いわゆるPK<プレイヤーキル>した際に現われる特徴だ。

 そして全員、手には大きな戦斧を携えている。


 リーダー格であろう赤いモヒカンの男が声を上げる。


「おい、てめぇーら、今回は気合いをいれていくぞ。このまえみたいなヘマはするんじゃねぇぞ。」


「兄貴ー、この前のは事故みたいなもんですよ。なんでこんな初心者エリアに『閃光の観察者』がいたのか分かりやせんが相手が悪かったっす。」


「五人がかり相手に一人で返り討ちとか、やべぇーよあいつ」


「動きが、一般人のソレとはかけ離れていたよな。もう、あんなやつに喧嘩を売りたくないぜ。まあ、あれから数日空いているし、大丈夫だろ」


「兄貴、俺はそのときいなかったはずなんだけど?」


 順に、青、緑、黄色モヒカンがそれぞれ答えて、紫色のモヒカンが疑問の声を上げる。


「はあ? 何言ってんだ、全員であのとき狩り(PK)にいっただろ! ボケてんのか。 それともなにか、実はお前とそっくりな奴が紛れこんでいたっていうのか?」


「い、いやー、兄貴を疑うわけじゃないんですけど、その白髪赤目の女っていうやつの記憶が全くないですし、俺そのときログインした覚えがないんですよ」


 その後、赤モヒカンが他のモヒカンにも確認したが、確かにその場に居た筈だと答えた。

 結局、紫モヒカンがボケていたという形で納得されて、紫モヒカンはわけがわからず首を傾げるのだった。

 

 それから数分後、モヒカン達が獲物を探して歩いていると目前に現われた人影に足を止め、向こうもモヒカン達に気づいたのかその場で足を止めた。

 その人影の数は五つで、これまた奇抜な格好で変った形状をした真っ赤な鎧で頭から足まで覆い全員手には槍を携えていた。


 それは全体的に甲殻類を彷彿ほうふつさせるつくり。

 手首の部位から先は鋏状になっており中央部には細くて綺麗な人の手を覗かせ、臀部でんぶからは曲がった形をした尾が伸びて先端部分は膨らみ針が見える。

 まさしくその姿は――さそりであった。


 赤モヒカンはその姿を視認すると、親しげな様子で語りかけた。


「よお、あんたら『紅蠍ベニサソリ』のチームが、こんな狩り場にくるなんて珍しいな。複数人で囲い強者を狩るのが趣味なあんたらが初心者エリアに何の用だ? 第三拠点のエリアで狩りをしていたんじゃないのか?」


 すると先頭に立っていた赤い鎧の人物がそれに答えた。


「ああ、確か……貴様らはチーム『世紀末セイキマツ』だったか? まだPKギルドから情報が来ていないのか? 今、このエリアにPKK<プレイヤーキルキル>ギルドのメンバーが単独で行動しているらしい。私らはそれを狩りに来たわけだ」


 赤い鎧の奥から聞こえてきた声はトーンが男性に比べて少し高く、予想に反して女性のものだった。


「おい、まじかよ。なんだってこう狩りの邪魔が入るんだよー、俺らは可愛い可愛い初心者ルーキーちゃんを楽しく虐めたいだけなのに、前回からついてないぜ」


「そういえば、貴様らは『閃光の観察者』に返り討ちにあったらしいな。情けない、我ら『紅蠍ベニサソリ』ならばおくれをとらなかっただろうに」


 世紀末に対して、紅蠍がやや挑発的な返しをする。


「けっけけ、吠えるじゃねぇか。アレはそんなに簡単には狩れねぇぞ……やるなら十人は欲しい。もし現われたら譲ってやんよ。危なくなっておまえらが助けを求める姿が目に浮かぶぜ。」


「はっ、上等だよ。誰が貴様らなんぞに助けを求めるか。目の前でPKする瞬間を指を咥えてみているがいい」


 PKプレイヤーは基本我が強く、喧嘩腰の会話は日常茶飯事だ。

 その後も皮肉めいた会話が続き、緊迫した雰囲気であったが殺し合いには発展しなかった。

 なぜなら彼ら彼女らには、それぞれ狩る対象がこのエリアにいて無駄な消費をしたくなかったからだ。


 PKギルドにも複数のチームがあり、現状その数は12ほどある。

 チーム『世紀末セイキマツ』は男性五人の集まりで主に初心者をターゲットにして狩りを行う。

 チーム『紅蠍ベニサソリ』は女性五人の集まりで、主に単独でいる強者を複数人で囲んで狩りを行っている。

 お互いに、自分らが狩る側であって逆に狩られるとは微塵も考えていなかった。

 だが、彼ら彼女らは知らない……すぐそこに恐ろしい脅威が存在することに。



 PKKギルドメンバーや、『閃光の観察者』よりももっと危険な人物が――この『はじまりの草原』にいることを……。

 

今までボッチくんがボッチしすぎて、他キャラと会話がないせいか、地の文が九割で一割が独り言だったので、今回はキャラ同士が会話しているのを書いている時にものすごく新鮮に感じたよ。

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