23話 ボッチ まさかの誤算!?
まずは、手数を増やすためにとったスキル【両手装備】を発動する。
このスキルは、両手に武器やアイテムを持てるといったシンプルなもの。
ただし、持てるのは中型武器までだ。
俺が装備している『呪毒の大鎌<死月>』は、大型武器であり、このサイズになると両手に別々の武器を持つことができない。
くっ、両手に馬鹿デカい武器を担いで、振り回しながら戦うというロマンができないのが残念だ。
まあ、実際に装備できたとしても小回りが効かないので、一撃でも食らったら即死の俺とは相性は悪いかもしれない。
ああいうのは、ダメージを受けても、よろけたり攻撃ほかモーションが中断されない状態『スーパーアーマー』で高い耐久力を持ったキャラにこそ相応しいからな。
まあ、余計な話はさておき。
これを習得したのは、ボスの大型カマキリに対して近接戦が不利だと思ったからだ。
あっちは大鎌二つを、文字通り手のように扱ってくる。
こちら側は、大鎌一つで手数の差に押し切られそうになっていた。
考えとしては両手に軽量級で且つ小回りが効く武器を装備する。
相手の攻撃に対して、両手で【パリィ】を発動させながら、攻撃のチャンスを窺う。
その時がきたら、超火力の大鎌に切り替えて攻撃に転じる。
ただ、この切り替え時の瞬間には僅かなタイムロスが生まれてしまう。
勝負とは、一瞬の差が大きな結果に繋がってしまうからこそ、その隙を無くしていくことが大事だ。
だからこそ、それを補うために習得したのが【クイックチェンジ】というスキルだ。
これは奇術士という職業が習得できるスキルの一つだ。
簡単に説明するなら両手に持っているモノを、一瞬で別のモノにチェンジできる。
これなら、武器切り替え時の隙を埋めることができる。
そして、このスキルの恩恵はまだある。
それは、両手に持ってさえいれば、その延長上にあるモノも高速でチェンジできるということ。
実際に試してみよう。
「【マジカルチェイン】【投擲】」
俺は【マジカルチェイン】を発動し、魔法の鎖を大鎌に巻き付けると、空中に【投擲】する。
この瞬間に――
「【クイックチェンジ】」
スキルを発動すれば、両手に持っている鎖……その延長上にある大鎌が突然消える。
【クイックチェンジ】を発動したことで、俺の両手には『木の枝』が右手と左手に装備され、消えた大鎌は俺のアイテムボックスの中に収まっている。
これにより、投擲した大鎌を瞬時に回収することが容易になった
これなら、大鎌を投擲した際に、こちらが無防備になり攻撃されてしまうリスクを無くすことができる。
これからは気軽に遠距離攻撃を行えるため戦闘の幅が広がっていくだろう。
次は、複数の敵と相対する際にできる死角の問題についてだ。
これは、【鷹の目】を使うことで対処していく。
このスキルの特徴は、自身の視界を飛ばすことで、見える範囲を操ることができる。
【鷹の目】を発動すると赤い瞳の形をした文様が対象や目的の場所まで飛んでいく。
その赤い瞳から見える範囲が自分の視界となるのだ。
主な使い方は、遠くのモノをより鮮明に認識したい時などに望遠鏡みたいな役割として使われる。
盗賊などがフィールドでモンスターの数やPKプレイヤーの有無を確認したりと偵察役として、情報収集するに役立っている。
だが、俺の使い道は少し違う。
「【鷹の目】」
俺はスキルを発動させると、自身の真上に赤い瞳を展開させる。
こうすることで、上空から全体を見下ろすことが可能になり、360度全てを視界に収めることができる。
だが、あくまでも視界を飛ばすだけなので、障害物があると視界を塞がれて見えなくなってしまう。
そこで活躍するのが、さっき習得した【探知】のスキルだ。
これは、自身を中心として、目に見えないレーダーが飛んで行き、周囲にいる生命の反応や地形情報などの距離や方向を測ることができるのだ。
これにより障害物で視界を阻害されようが、敵の位置を正確に把握することができるようになる。
この両方のスキルを発動することで俺の死角は無くなる!
ただ、【鷹の目】は視界を飛ばすため、見えている視界と自身の体の動きにたいして、感覚にズレが発生する。
この感覚のズレというのは戦いにおいて、大きな影響がでてしまう。
コンマ数秒の差が、勝負において勝敗が決するのは珍しくない。
なので、本来は戦闘用として使われておらず、腰を据え、その場で動かずに偵察用として使われるのが主なのだ。
繊細な技術を要求される【パリィ】やカウンター系のスキルとは相性が悪いかもしれないな。
だが、こんなところで躓いてしまう気はない。
感覚にズレが発生してしまうならば、そのズレすらも自身の支配下においてやる!
それが当たり前になり、日常生活くらいの感覚になるまで修行して克服するのだ。
では、始めるとするか。
しかし、【鷹の目】を発動していると、あることに気がついてしまった……。
それは、大鎌の刃に反射して映っている自身の姿だった。
ただでさえ死神みたいな禍々しい格好をしているのに、【鷹の目】が発動している俺の目は真っ赤に輝いていたのだ。
ローブで隠れている顔、その影から揺らめくように覗く、赤く輝く目は禍々(まがまが)しさを助長させてしまっていた……。
――っておい! これはモンスターと間違えられても文句言えないレベルの見た目だぞ。
ここにきて、まさかの誤算。
マイナス方面での相乗効果が半端ないことになってしまった。
また一歩、パーティーを組むという俺の願いが、遠ざかっていく音が聞こえたきがした……。