20話 ボッチ VS2対の大鎌
俺はログインすると、フィールド『大樹の森』に行き、蟲毒の壺で入手したスキルを早速確認していた。
『蠱毒の覇者』
蠱毒の壺で生存し、多くの生命を蹂躙した者に授けられるスキル。
スキル発動には条件を2つクリアする必要がある。
1つ、パーティーを組まずに一人であること。
2つ、複数の敵に囲まれ孤立無援状態であること。
条件を満たし、スキル発動時に攻撃力と魔攻のステータスが50%上昇する。
おう……ぼっち専用スキルかな?
これでは『蠱毒の覇者』って言うよりも孤独の覇者って感じだよ!
いつかパーティー組めたら、こんなスキル使えないとか冗談でも言ってみたいものだな……いつかそんな日も来るよね?
後、レベルアップしてるからステータスを更新しておくか。
蠱毒の壺で無限増殖モンスターを薙ぎ払っている時に、レベルアップのシステム音が、うるさかったから途中で切っていたんだけど、どこまで上がっているか楽しみだ。
職業<影法師>LV21
HP:0001/1150
MP:1050/1150
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攻撃:1590(220×2+1150)
防御:0(呪)致死の一撃
魔攻:0(呪)下降補正(大)
魔防:0(呪)致死の一撃
速さ:0(呪)行動制限
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e:『悪神の呪縛黒衣』
(呪い、状態異常無効、攻撃倍加)
(耐久:無<ユニーク>)
e:『呪毒の大鎌<死月>』
(攻撃+1→+1150)
(耐久60%)<ユニーク>
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FP<フリーポイント>80P→0p
SP<スキルポイント>170P
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『スキル』:
【パリィ】
【カウンター<瞬空歩>】
【エクスプロージョン】
【致死の一撃(呪)】
【マジカルチェイン】NEW
【投擲】NEW
【蠱毒の覇者】NEW
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いつもどおりFPは攻撃に極振りした。
いいね、苦労しただけあって8レベルも上がっていた。
現状、問題なく戦えているのでSPの使い道については悩み中、行き詰まったら必要に応じてスキルを習得しよう。
このフィールドの適性レベルは超えてしまったので、ここで戦闘するのは経験値効率も悪いし、『大樹の森』のボスモンスターに挑戦して次の第三拠点に向かうとするか……。
それからカウンター移動で『大樹の森』の最奥に向かっている途中に、蜘蛛型モンスターが上から奇襲してきたり、大樹の木々に張り巡らせてある蜘蛛の巣に捕らわれそうになったが、ひたすら無視してボスエリアまでたどり着いた。
このエリアも他のプレイヤーが、すでに攻略しているので第三拠点に向かうゲートは開放されている。
けれど、俺はゲームなどでは、こういう強敵との戦闘は楽しみたいタイプなので挑戦するつもりだ。
透明な白い膜に覆われたボスエリアに入る前に体力とMPを回復しておこう。
体力を回復するのは中に入らなければ安全エリアなので、呪毒の大鎌<死月>の攻撃力変換が発動しないためだ。
今回も、ボスの様子を見ながら体力が攻撃力に変換されるまで時間稼ぎしないといけない。
第二拠点からは攻略サイトも見ていないので、どんなモンスターがでるのか分らなくてワクワクしていた。
おそらく今までの様子からすると蟲や昆虫タイプと予想している。
人型だと親父に仕込まれてるから戦いやすいけど、体のつくりが違うモンスターは動きが独特だから、よく観察しないとな。
俺は白い透明な膜に触れると中に侵入した。
辺りに鬱蒼と大樹が沢山、聳えたっているのは変わらなかったが、よく観察すると枝や葉に粘液が泡立ち形成された黄色みのある塊が、くっついていた。
あれは現実世界でも見たことがある。
現実とは比べものにならないほど大きいけど……あれは卵だろう。
いきなり孵化とかしないよな? どうにも嫌な予感がする。
とりあえず、ボスモンスターを探して中央に向かって歩いていると――ソイツはいた。
3メートルは超える体躯に大樹に擬態するような色。
頭部が逆三角形で、2つの複眼と大顎が発達し、6本の脚のうち、前脚の二つの先端部分が鎌状になっている姿は――カマキリだった。
「お、お食事中でしたか…………」
――目の前の光景に俺は戦慄した。
巨大なカマキリが、一回り小さい仲間のカマキリを美味しく頂いていたのだ。
鎌状の前脚で獲物を捕えて抑えつけ、大顎でかじって、頭から食すと前脚を念入りに舐めて掃除していた。
そういえば、カマキリって交尾をする時にメスがオスを……食べるんだよな。
メスは自分より小さくて動くものを餌とする習性があって、オスはメスに不用意に近づくと、交尾前に食べられてしまうからオスは慎重にメスに近づいて交尾まで持ち込むらしい。
俺は、もしも生まれ変わることがあっても、カマキリのオスだけにはなりたくない。
人間で言うと――性行為の代償は貴方の命です! とか怖すぎる……。
俺だったら、一生童貞でいいので命だけは勘弁して下さいって土下座するね。
そんなくだらない妄想をしていると、そのカマキリと目があった。
好戦的に強い眼光を感じる……どうやら次の獲物は俺らしい。
カマキリの頭上には『クイーンマンティスLV25<ボス>』とあった。
いいぜ! そっちの大鎌とこっちの大鎌で、どっちが真の大鎌使いか決着をつけようじゃないか……。
――速い!
ボスはかなりの速度で、こちらに向かって真っ直ぐ飛んできた。
咄嗟に右から迫ってきた攻撃を【パリィ】で弾きながら上からきた攻撃を左に一歩ズレてやり過ごす。
次は上から両方の鎌を振り下ろしてきたので、大鎌を持ちかえて柄の部分が上にくるように両腕で掴み【パリィ】で弾く。
息をつく暇もなく、今度は両側から迫ってきたボスの攻撃に【エクスプロ―ジョン】を足下に放ち、上に飛んで回避した。
――キツい、速い上に手数が多い。
考えてみれば、あっちは大鎌二つなのに、こっちは一つしかないからな。
時間を稼ぎたかったのでカウンター移動でボスから距離を離す。
よし、ここまで離れれば休憩でき――って、そんなのありかよ。
ボスは鎌に青白い光を纏わり付かせると、こちらに向かって薙ぎ払う……それは風の刃だった。
咄嗟にカウンター移動で上に逃げて躱す。
ボスさんや、遠距離攻撃の魔法まで使えるとかズルくないですか?
こっちも遠距離で対応したいが、あれだけ素早い相手に投擲で外した時のリスクがでかすぎる。
ボスの風の刃での連擊は止まることなく、上空にいる俺に向けて薙ぎ払ってくる。
その攻撃をカウンター移動で上下左右に飛び回り必死に命を繋ぐ。
自分のステータスを確認すると体力は1になり攻撃力に変換されていた。
このままでは、じり貧になってしまう……なら距離を詰めて一気に攻める!
しかし、行動に移ろうとした時に恐れていた事態が起きた。
――大樹の木々に、くっついてた卵が孵化してしまった。