18話 ボッチ トラップに引っ掛かる
いつもどおりカウンター移動をしていたのだが、速度が速く視界が悪い上に幹や枝などの障害物を躱すことに集中してしまって探索が疎かになってしまっていた。
そこで俺は別の移動手段をとることにした。
【マジカルチェイン】で魔法の鎖を具現化し、高所に伸びている大樹の枝に絡ませる。
そして魔法の鎖を掴むとブランコのように勢いをつけて飛ぶ。
勢いがなくなる前に別の枝に魔法の鎖を絡ませて飛び、同じように繰り返すことで移動していた。
これが意外にも楽しくて子供の時にターザンの真似をして遊んでいたことを思い出した。
まあ、遊ぶ友達がいないから一人で遊んでいたんだけどな……あれ、視界が少し霞んで見えないのは気のせいだ、そうに違いない。
それから探索していると1メートルは超えるほどの大きさに、短い手足が生えた茸が集団で固まっているのを見つけた。
傘より下の部分に大きな一つ目に口が裂けて吊り上がっている姿は、どう見てもモンスターだ。
傘部分は赤色に染まっていて紫色の小さな円が疎ら模様に散らばっている……いかにも毒持っていますって見た目しているな。
気になって群れから離れている一匹にカウンター移動で近づいて切り裂くと爆発音が鳴り響き紫色の霧が広範囲に広がった。
うお、びっくりさせんなよ! バッドスキル【致死の一撃】が発動していないってことはダメージは受けてないみたいだ……よかった。
おそらくダメージがないのは見た目から察するに攻撃を加えると毒を辺りに撒き散らし状態異常にするモンスターなのだろう。
俺は悪神の呪いで状態異常は効かなかったけど、他のプレイヤーの近接職には厄介な相手だと思う。
とりあえず毒霧で視界が悪い中を集団の茸型モンスターと戦いたくないので遠距離攻撃に切り替えた方がいいな。
そこで魔法の鎖を大鎌の柄に絡ませると茸の集団に向かって槍投げのごとく投擲する。
直線上にいる茸型モンスターを複数匹を貫通させて毒霧を撒き散らすと光に包まれ消えた。
そして大鎌の魔法の鎖を収縮させて回収すると毒霧に紛れて俺は大樹の陰に身を潜める。
茸型モンスターは、いきなりの襲撃に大きな一つ目をキョロキョロと動かして原因を探るが毒の霧が視界を覆い困難な状況になっていた。
よし、こっちには気付いてないみたいだな、毒の霧が晴れたら死角から投擲してやろう。
やっぱり遠距離から一方的に攻撃できるのは強いな。
それから同じことを繰り返して20匹は超える茸の集団を全滅させた。
攻撃が当たると面白いように、ぽんぽん爆発するから楽しかったな。
とりあえず大量のドロップアイテムを回収しておく。
回復ポーション<小>、MP回復ポーション<小>、毒胞子袋の3種類を無事回収。
それで毒胞子袋っていうのが気になってアイテムの説明内容を読んでみる。
『毒胞子袋』
毒霧茸の胞子が詰まった袋、衝撃を与えると爆発して辺りに毒の霧を撒き散らす。
毒の霧を吸込んだものは毒状態(小)になり一定時間のみ体力が減少しづづける。
このアイテムは結構使えそうだな。
複数のモンスターに纏めて毒を与えられそうだし、視覚を頼りにしている生き物には煙幕として代用し死角をつくることもできそうだ。
■
茸退治の後、あれから探索を開始していたら洞窟の入り口を見つけた。
その洞窟は壺の様な変わった形をしていて色んな蟲の姿を象った彫りが刻まれている。
……いかにも怪しいが、放置すると後で気になって寝れなくなりそうだ。
冒険心が疼いた俺は意気揚々と中へ入った。
すると20メートルはある空間の中央にポツンと台座があり、その上には黄金色の美麗な模様が刻まれた宝箱が置かれていた。
――怪しすぎるだろ! いかにも開けて下さいって思惑がぷんぷん臭ってきやがる。
しかし他には見た感じ何もないし、開けて中身を確認しないことには気になって仕様ない。
俺は宝箱に近づくと周りを確認する、罠がないって方がおかしいくらいに不自然な配置だしある程度予測をしておこう。
某ゲームみたいに実は宝箱に擬態したモンスターってパターンか? それとも壁から槍が飛んでくるパターンか? いや壁からは距離が離れているから、それはないか……。
上から檻が落ちてきて閉じ込められたり、殺傷力が高いものが降ってくる可能性も考えられるな。
よし、ならば宝箱モンスターが攻撃してくるのと上空からの襲撃に備え注意して開けてみよう。
俺は鍵も掛かっていない宝箱を慎重に開けて、すぐに行動に移れるように構えた……が、特になにも起きなかった。
なんだ、警戒して損したなと思いつつ宝箱の中身を覗きこもうとしたとき俺の足下で歪な音が鳴り響いた。
――あっ
声をあげたときには遅く、突然に穴が出現すると俺の体は重力に従い下へ落ちていった。
「上じゃなくて下のパターンだったかぁあああああああああ!!」
とりあえず落下スピードを殺すため大鎌を壁に突き刺してみる。
漫画などでこういったシーンは見たことあるな、上手くいってくれ……。
しかし、大鎌を突き刺した壁の抵抗を全く感じることなくそのまま重力に従って下へと切り裂いてく。
嘘だろ!? 大鎌の切れ味が良すぎて全然引っ掛からないぞ。
やがて、周りの壁はなくなり広い空間に切り替わった。
落ち着け! よく考えればいつもやっているように【エクスプロージョン】を使って上手く着地すればいいじゃないか。
「【エクスプロージョン】」
高所から落ちスピードもあるので爆風の威力を多めに調整して放つ。
地面にぶつかる瞬間ギリギリ体が浮かび上がって衝突を免れ、後は爆風の威力を少なくしていき着地に成功した。
ふぅー、ヒヤヒヤしたが普段から落下慣れしていて助かった、調子に乗って上空へカウンター移動で事故死という経験があったから今回は冷静に対処できたな。
だが、落ち着く暇もなく唐突にシステム音声が警戒音を鳴り響かせた。
『トラップエリアに侵入しました。これより、<蠱毒の壺>が開始されます。プレイヤーは発生するモンスターを殲滅して生き残って下さい。なお、生存し且つ一番撃破数が多いプレイヤーに宝箱の中身が贈呈されます。このエリア内では相手プレイヤーをキルした場合でも特にデメリットは発生しません。協力して生き残るか、相手を殺して宝を得るかはプレイヤーの自由です。開始まで残り10秒――』
なるほど、宝箱を餌にプレイヤー同士で殺し合わせるのが目的か、嫌らしい手口だ。
デメリットが発生しないってことは、PKみたいにネームが赤く染まることもないし、NPCの好感度も下がらないって訳だ。
これは人間性が試されるな、パーティーで参加してたら宝箱関係なく恨みを買ってるやつは刺されそうだ。
まあ、ぼっちの俺には隙がなかったな!! ……言っていて悲しくなってきた。
話を聞く限りでは、このトラップエリアは複数人前提な感じがするな。
さて、俺一人でクリアできるのだろうか?
そんな風に考えているとシステム音声のカウントダウンが終わった。
『――0秒。モンスター<インクリィースバグ>が発生しました。戦闘を開始します』
目の前に黒く光る粒子が集まり徐々に形を成していく――さあ、掛かってこい! 大鎌の餌食にしてやる。