15話 ボッチ 試し切りをする
俺は宙をカウンター移動しながら、『呪毒の大鎌<死月>』を振り回し道中のモンスターを蹴散らしていた。
――ああ、気持ち良すぎる。
どれもこれも一振りすれば何の抵抗もなく切り裂かれ、光に包まれ消えていく。
そして、この大鎌の射程は初心者のナイフと比べ物にならないほど長いため、複数のモンスターを巻き込みながら攻撃できる。
ただ、大鎌は俺の身長ぐらいの大きさもあるためナイフほど小回りが利かない。
そのため俺の防御手段【パリィ】の精度が初心者のナイフほど器用にはできなくなってしまう。
そのため素早い連続攻撃をしてくる相手などにはナイフで対応し、こちらから攻撃に転じる瞬間に武器を大鎌に切り替えて戦うという戦法をとっている。
重くて遅い大振りな攻撃などは大鎌による【パリィ】で弾き、そのまま攻撃に転じて切り裂いている。
しかし、大鎌で【パリィ】をする時は緊張してしまう……もし一度でも失敗すれば、せっかく手に入れたユニーク武器が壊れるかと思うと僅かに躊躇いができてしまうからだ。
いつか、その僅かな躊躇いがミスに繋がってしまってはマズイので大鎌を何度も振るい、自分の体の一部になるような感覚を意識して馴染ませる。
それからもボスに続く道中、すれ違いざまにモンスターを切り裂いていきながら意識を尖らせる。
やがて大鎌が自分の手足の延長に感じられたところで、ついにボスエリアに到着した。
このボスエリアは辺りを透明な膜が覆っており、進入するまでは中の様子が見れないようになっている。
テンション高めでボスエリアまできたけど、実はこのボスを倒さなくても次の拠点に行くことはできるんだよな。
ボスがプレイヤーに一度も倒されていない場合は、次の拠点が解放されず全プレイヤーが進めないらしい。
が、このボスは他の人達がすでに倒しているから第二の拠点は開放されている。
だからこのボスエリア手前にあるゲートを通れば、ボスと戦わなくても第二拠点に転送されるのだ。
ちなみに第一の拠点『はじまりの町』のフィールド『はじまりの草原』が適性レベル1~10。
第二拠点のフィールドが適性レベル10~20という感じでモンスターが強くなっていく。
掲示板によると今現在の最前線組は、第三拠点に固まっていてボス攻略に向けて備えているらしい。
ということは、そろそろ第四拠点が開放されるかもしれないな。
俺も早く第三拠点まで行きたい。
まあ逸る心は抑えて目の前のことに集中していこう。
ボスモンスターは通常モンスターよりも種族特性によってステータスの能力値が高い。
雑魚モンスターと例えレベルは同じでも比較すると、その能力値の差はかなり開いている。
ちなみにこの『はじまりの草原』の適性レベルは1~10だがボスのレベルは15とかなり高めだ。
ボスモンスター系はパーティーを組む前提で倒せる強さと言われているらしい。
パーティーはイベントなどを除けば最大5人まで組むことができる。
俺はどうかって? パーティーを組めるような仲が良い友達はいないんだよ!
それに野良のパーティーだって人見知りの俺ができるわけもない。
――くそ、こうなったら友達がいないボッチだってボスを倒せるって証明してやる!
このままボスと戦わずに第二の拠点にいくのは俺的にはモヤモヤしてしまうし、何よりも今の素晴らしい攻撃力がボスに対してどこまで効くのか試したくて仕様がない。
俺は決意を固めるとボスエリアを覆っていた膜に触れて中へ侵入する。
そして入った瞬間に獰猛な咆哮が辺りに響きわたる。
豚に似た鼻、大きな口には鋭い牙が見え、皮膚は緑色。
体長3メートルを超える筋肉質な巨体で手には大きな棍棒を携えている。
そんなモンスターが俺の目の前に現れた。
そのモンスターの頭上には『将軍オーク』LV15と表示されている。
うお、近くで見ると迫力あるな。
あんなに大きい棍棒で潰されたら一溜まりもなさそうだ。
まあ、俺の場合はそんなの関係なく攻撃がかすっただけでも即死亡なわけだけどな。
この『将軍オーク』は生命力と防御力が高く、その反面魔法攻撃による耐性は低いのが特徴らしい。
なので前衛は防御力が高い盾職がボスの攻撃を防ぎ、後衛組は治癒士が前衛を回復し、攻撃は魔法使いが行うのがセオリーらしい。
生命力と防御力が高いとか俺の試し切りの相手には丁度良いな。
ふっふふふ……さあ俺の攻撃力の前に跪いて貰うとしようか。
『呪毒の大鎌<死月>』を手に持つと能力が発動しジワジワと俺のHPを吸いとり減っていく。
火力は凄まじいことになるが、HPが1になるまで時間が掛かるのがネックだな。
それまでは相手の攻撃を防ぎながら時間を稼がなくてはならない。
後でそのあたりはスキル等を確認して何か良い方法がないか考えてみよう。
まずは様子見で相手の動きを観察する。
俺とボスとの距離は結構開いていたがその巨体を一歩踏み出すだけで大分縮まった気がする。
まだ、HPは1になってないし時間を稼がないとな。
うん? まてよ、良い方法があるじゃないか――空に逃げればいい!
「【エクスプロージョン】【カウンター<瞬空歩>】はっはは、ここまで攻撃できるならやってみろよ!」
俺は地上から離れた高い位置までくると、ボスに向かって声を張り上げ盛大に煽る。
こちらの言葉を理解しているかは分からないが巨体をプルプル震わせるとその場で地団駄を踏む。
いやー、空から高みの見物は楽しいよな!
「卑怯だってか? いやいや、勝負は勝ったものが正義なのだよ豚さん」
声を掛ける度にリアクションが大きいから煽るの楽しすぎる。
ステータスを開きHPを確認するともう1になっていた。
よし、そろそろ地上に降りるとしますか。
俺が地上に向かおうとしたときボスが自身の巨体を独楽のように大きく回転し始めた。
そして、十分に勢いをつけたボスは手に持っている棍棒を俺に向かって投げ飛ばした。
「うぉおおおおおお、パリィ――ッ! あっぶねぇ! この距離で攻撃が届くのかよ、どんな馬鹿力してんだよ!!」
咄嗟に体が動いて飛んできた棍棒を弾くことができたが冷や汗が止まらない。
弾いた棍棒は地上に向かって落下し始める。
俺はとりあえず気持ちを落ち着かせようとしたがボスがそれを許さなかった。
ボスの顔には血管が浮き上がっており凶悪な顔がさらに恐ろしいことになっている。
ちょっと煽っただけでどんだけ怒ってるんだよ?!
今度は地面に埋まっている大きな岩を引っこ抜くと俺に向かって勢いよく投げてくる。
今度はカウンター移動を使って上手く回避する。
だが、それだけではボスの攻撃は終わらない。
次々と地面にある大岩や折り曲げてねじ切った木を力任せに投げつけてくるので対処するのに大変だ。
俺はそれらを大鎌で【パリィ】とカウンター移動を駆使してなんとか地上に降りることができた。
ボスは俺が地面に降りたのを確認すると地上に弾き落とされた棍棒を手に持ち、こちらに向かって走ってくる。
いいぜ……今度は真剣勝負といこうじゃないか。
俺は『呪毒の大鎌<死月>』を水平に構えると息を止め精神を集中させる。
勝負は一瞬だ、この一撃で決める!
ボスが俺の目前に迫り、自身の巨体に力を込め棍棒を両手で上に掲げると垂直に叩き落とした。
きた! 無防備で大振りな一撃。
「パリィ――ッッ!!」
その渾身の一撃を俺が弾くとボスは体が硬直し動けなくなる。
この隙に――
「【エクスプロージョン】【カウンター<瞬空歩>】」
俺は、宙に浮きボスに向かって加速する。
そしてすれ違い様に水平に構えた大鎌が、ボスの頭と胴体を繋ぐ首を通過し――二つに分かれた。
次の瞬間ボスの体は光に包まれると消えた。
よっしああああああ! 見た? 一撃ですよ、一撃!! ああ、この火力はたまらない……病みつきになりそうだ。
「だいぶ、こいつの扱いにも慣れてきたな」
俺は自分の持つ大鎌を見上げると思わず呟いた。
もう自分の手足のように馴染んだ大鎌を愛おしく感じ頬ずりしたい気分である。
レベルも上がっているようだが後で確認しよう。
それよりも、早く第二拠点に向かおう。
今日は疲れたし町についたらログアウトするか。
俺はボスを倒したプレイヤーのみが使えるボスエリアの向こう側にある、もう一つのゲートを通過すると第二拠点へ転移した。
だが、俺は忘れてしまっていたのだ……。
俺の今の格好がいったいどんな姿をしているのかということを。