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9話 ボッチ 観察される3

 私は朝早くから『はじまりの町』の入り口で、彼が来るのを待っていた。


 待っている間、昨日の出来事を思い出し、思わず口角が少しだけ吊り上がってしまう。

 彼と出遭ってからの観察は楽しくて日々が充実していた。今も、次はどんな予想外なことを見せてくれるのかと期待に胸を膨らませている。


 そんな風に彼のことを考えていると、身体の奥から熱くなってくるのは――なんでだろう?

 しばらく思案してみたが、考えは上手く纏まらなかった。


 ……わからないことを考えていても仕方がないし、私が自分自身に興味を抱いてないこともあって、思考を中断する。

 

 それから数時間くらいたった頃に彼はやってきた。

 彼はシステム画面を何やら操作し、確認を終えてから『はじまりの草原』へと歩を進める。

 私も、彼に気付かれないように【隠密】のスキルを使って、静かに後を追って行く。


 彼は昨日までの停滞が嘘であるかのように、『はじまりの草原』に生息しているモンスターを次々と倒していた。

 スライム、ゴブリン、ニードルラット、デビルバット、ホーンラビットなど様々なモンスター相手にだ。

 スライムとしか練習をしていなかったはずだけど、挙動がそれぞれ違うモンスターの攻撃を【パリィ】のスキルで綺麗に弾き、硬直時間が発生する僅かな隙を上手く突いていた。


 凄いわね、彼の適応能力には驚かされてばかりだわ。

 このまま成長していけば、どんな風に育っていくのか今から楽しみで仕方がない。


 レベルが4まで上がったところで、彼はシステム画面を宙に開いて操作し始めた。そろそろ新しいスキルでも習得するのかな? さて、どんな選択をするのかしら。


 彼が移動を始めた。

 そのまま歩くこと数分、見晴らしの良い広い場所で足を止めて、唇を開いて言葉を紡ぐ。


『【エクスプロージョン】』


 すると、幾何学模様の魔法陣が宙に現れ、赤い光が1メートルくらい膨れあがると爆発した。


 魔法!? 私としては、てっきり物理の方面で育てていくのかと思っていただけに驚いてしまう。

 影法師ドッペルゲンガーは職業ボーナスが無い分、器用貧乏に育ててもメリットは感じられないのだけど、何かしらの考えがあるのかしら?


 彼は同様のスキルを何度も宙に放っては何をするのでもなく、ひたすら観察を続けていた。やがて満足したのか、頭を僅かに頷かせる。


『【エクスプロージョン】』


 次の行動に私は驚いた。

 それもそのはず、魔法陣が溢れ出す赤い光の矛先は――彼自身に向って放たれたのだ。

 動揺する私の耳に、彼が新たなスキルを呟くのが聞こえた。


『【カウンター<瞬空歩>】』


 え? カウンタースキルですって!?

 彼は持っているナイフを自分自身に放った爆発の中心箇所に向かって攻撃を仕掛け――硬直していた。


 ……スキルの発動に失敗したようね。

 けれども、まさか自分自身に魔法を放ってカウンタースキルの発動を狙うなんて……彼の発想に脱帽させられる。

 私の身体の奥から歓喜の感情が湧きだすと同時に背筋が震えていることに気がついた。


 それにしても、【カウンター<瞬空歩>】のスキルを選ぶなんてね。失敗時のデメリットのリスクを考えると信じられない気持ちだった。

 でも、それをモノにすることができたなら、一体どんな面白い光景が見られるのだろうか?

 そんな想像を膨らませて、自然と私の口角は持ち上がっていた。


 このスキルの組み合わせは職業制限が無い影法師ドッペルゲンガーだからこそできる裏技みたいなもの。彼が伊達や酔狂で不遇扱いされている職業を選択したわけじゃないってことを理解させられた。

 本当に観察していて面白いわね、彼。


 それから彼は【エクスプロージョン】から【カウンター<瞬空歩>】の流れを何度も繰り返して感覚を研ぎ澄ませていた。

 私はその姿をじっと観察する。成功の瞬間を見逃さないために目を見開いたまま、ずっと。

 そして、ついにスキル発動に成功した。

 

『【カウンター<瞬空歩>】』


 彼の身体が宙に浮いて、そのまま凄まじいスピードで前方へと加速した。それを見届けて思わず私は、よしっと、声を僅かに漏らして握り拳をつくる。

 その数秒後に、スキルの効果が切れて彼は地面に着地した――顔面からのスライディングによって。


 彼は悲痛な声を上げて、口の中に入った土を吐出していた。

 まるでコメディー漫画に出てきそうな見事な着地だったから、私は自身の口元を両手で押さえて笑い声が外に漏れるのを必死に堪えるために精神力を費やされた。


 悲劇の後、すぐに立ち直った彼は訓練を再開する。何度も地面に顔面からスライディングを決めて、土を吐出し、必死に足掻いていた。

 彼ならきっとモノにすることができる、そんな確信が私の中にあった。


 しばらくの間、嬉々として観察していたのだけど唐突に邪魔が入る。

 私が所持しているスキル――【探知】に反応があったのだ。

 

 どうやら5人のプレイヤーが範囲内に引っ掛かったみたい。

 【鷹の目】のスキルを使用して、そいつらを視界に捉えると5人ともプレイヤーネームが赤く染まっていた。


 何でこのタイミングで来るのよッ! 今とてもいいところなのにッ!

 私は、本来の目的も綺麗に忘れて激怒していた。

 このまま奴らが進んでくると、彼とぶつかってしまう。そうすれば、この楽しい楽しい観察の時間が終わってしまうことになる。

 

 ――つまり、奴らは私の観察を邪魔するってことよね? 

 そんなの絶対に許さないッ! この私の観察を妨げるってことが、どういう意味なのかその身体に教えてあげる……。


 私は、すぐさまレッドネーム持ちのプレイヤーがいる場所へ向う。丁度近くにあった岩の影に身を潜めて奴らの様子を盗み見た。


 全員男で、色とりどりの赤、青、黄、緑、紫色のモヒカン頭が視界に映り込む。

 ロールプレイでもしているのか、どこぞの世紀末を彷彿とさせる漫画の世界から飛び出してきたような装備を全身に纏っている。

 ライダースーツ似の黒をベースにした皮鎧は胸元がV字に開いてファーが揺れ動き、肩には棘付きパッドが添えられていた。

 

 平均レベルは20ってとこか……。


 奴らに仕掛ける前に自分のステータスの確認、戦闘用の装備への切り替えを行なう。


 職業<盗賊>

 LV28

 PN:御影ミカゲ


 HP:2900

 MP:1450


 攻撃:430

 防御:140

 魔攻:140

 魔防:140

 速さ:810


 e:風神のローブ(速さ+100)

 装備ユニークスキル:二段ジャンプ

 (耐久:100%)(ユニーク)


 e:隼の短刀(攻撃+150)

 装備ユニークスキル:二回攻撃

 (耐久:88%)(ユニーク)


 FPフリーポイント0P

 SPスキルポイント40P


『スキル』

【探知】【鷹の目】【隠密】【看破】【罠解除】【急所クリティカル強化】【脚力強化】【疾風迅雷】【疾風突き】【疾風脚】【疾走空歩】


 ちなみにFPは全て速さに振っているの。だって……どんな観察対象でも地の果てまで追いかけて決して逃がさないようにするためには当然のことだよね?



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