序章 少し未来のお話
この話は三人称ですが、次の話からは一人称視点になります。
暖かな光が広大な草原を照らし、風がそっと優しく撫でている。揺れる植物の合間には小動物が集まり平和な光景がそこにはあった。
しかし、次の瞬間に平和は唐突に失われる。
突如、獰猛な咆哮が辺りに響きわたり、危険を察知した小動物は蜘蛛の子を散らすようにその場を去ってしまったのだ。
その獰猛な咆哮の中心に元凶がいた。顔は豚に似た鼻、大きな口には鋭い牙が見える。四メートルはある体躯は筋骨隆々で緑色の肌をしていた。
逞しい腕に握られているのは二メートル程ある大きな棍棒。下半身には汚れた腰みのを身につけている。
そんな化け物に相対する人物がいる。その体格から見て取れる様子からどうやら男のようだ。
男が纏っている黒衣のローブからは禍々しい瘴気が漏れ、手には身の丈程の大きな鎌があった。
一触即発の雰囲気の中、先に動いたのは緑色の化け物だ。巨大な身体に全力で力を込めると、両手で握っている棍棒を男に振り下ろした。
だが、男は避けようともせずに自身に当たるギリギリを見極めると呟いた。
「パリィッ!」
自身に振り下ろされた棍棒に向け、水平に構えていた大鎌を振り上げる。次の瞬間、二つの武器が大きな音をたててぶつかり合った。
体格の差を考えると男が不利かと思われたが、弾かれよろめいたのは緑色の化け物の方だった。男はその隙を見逃さない。すぐさま行動に移ると、また呟いた。
「エクスプロージョン」
幾何学模様の魔法陣が現れ、赤く光るとそれは爆発した。
そして驚くことに、それを緑の化け物ではなく――自分に放ったのだ。
男は爆発に巻き込まれる瞬間に大鎌を振るうと、また呟く。
「カウンター<瞬空歩>」
大鎌で爆発するそれを切り裂くと、男の身体が宙を飛び、急加速した。
そして、男と緑色の化け物が交差した刹那――首が飛ぶ。
緑色の化け物は自身の首から上が無い胴体を宙で見つめ、疑問の表情を浮かべる。次の瞬間、光のエフェクトが煌めいてその姿は消えていった……。
「……だいぶこいつの扱いにも慣れてきたな」
男は自身が掲げる大鎌を見上げ、そう呟くと風が撫でる草原をゆっくりと歩いて去っていった。