その1 いきなりのガン疑い?!
2016年6月4日、虫歯の日。その日はまた、私の久々の健康診断の日でもあった。予約してあった婦人科に向かい、一渡りの成人健康と各種婦人科検診を受ける。なぜ婦人科か?
一般検診と婦人科検診が別の日だと面倒だからだ。各種()神経症があるというのもあるが、本来が出不精なのです。ええ。
血液検査身長体重測定に尿検査、そこまで順調だった検診だが、婦人科検診のオプションである腹部の超音波をかけた瞬間、医師の声音が変わった。
「あ。これは……卵巣かな……かなり腫れていますね」
最近の施設のいい婦人科では、医師側とカーテンで仕切られた患者側にも、超音波画像を表示するモニターが設置されている。
顔をひねって診察台の横のモニターを見ると、素人目にもはっきりと大きな灰白色の塊が不鮮明なノイズの中心に鎮座しているのが見えた。しばらくいろんな角度から観察をしたのち、医師が言った。
「子宮も腫れているように見えますね。
ちょっとこのあと腫瘍マーカー検査と女性ホルモンの数値検査を追加しましょう」
「……腫瘍、ですか?」
「そうですね、この画像で確認できるだけでも7センチ以上と大きいですし」
卵巣は肝臓、すい臓と並ぶ沈黙の臓器だ。そこにがんや腫瘍、各種嚢腫等が発生しても相当長い間、つまり悪性なら転移などを起こしたり臓器自体の機能が相当損なわれてくるまで症状は外に出てこない。
ことに卵巣の場合、良性であっても悪性であっても無症状であることが大半であり、本来1-2センチの器官が5-10センチと巨大化し、茎捻転(卵巣はひものついた風船のようになっており、その紐部分が卵巣の栄養などをまかなっているが、その紐部分が捻じれて卵巣に壊死を起こし腹部の激痛を引き起こす)や破裂を起こすまで、相当大きくなっていてもおなか周りが少し太った? 程度なため、検査以外で発覚することはまずほとんどといってない。
また厄介なことに卵巣腫瘍の場合、外部穿刺(皮膚から針を刺して内臓の組織の一部を取り出す)を行えない。
穿刺すると悪性だった場合、そこからがん細胞が腹腔内に散ってしまうためだ。また、画像診断と腫瘍マーカーではおおむねあたりを付ける程度。確実に良性なのか悪性なのかどうかは、開腹か内視鏡手術をして摘出、組織検査(その場の簡易検査もあるがきちんとした検査にはおおむね一か月程度かかる)を行わないと、確定診断をする方法がないのである。
「このサイズですと……いずれにせよ摘出手術対象になりますね?」
「そうですね 画像のちょっとこのあたりが……」
医師は塊画像の薄黒いにじみをポインターで指し、言葉をつづけた。
「悪性かなという疑いがある感じですし。
良性だとしてもこの大きさでは茎捻転の危険がありますから手術になります。
まず別の病院になりますが、MRI検査をしましょう」
健康診断と、そのほかの検査結果がすべて出そろうのが7月頭になるので、そのころもう一度来院してください」
「悪性の疑いが強いけれど、緊急性はない、ということになりましょうか?」
私の問いかけに医師は頷いた。
「そうですね。7月14日にK病院にMRIの検査予約を入れますので、受けてください。
マンモグラフィも同じ日に受けられますが、受けられますか?」
「はい、ではお願いします」
「では提携先病院に連絡をしておきましょう。
腫瘍マーカー検査と女性ホルモンの数値検査用の血液採取をしてから待合室でお待ちください」
各種検査のための採血はまた別。試験管に5本ほど採取されるサンプル。
(ガンかもしれない……ツイてない人生に追い打ちかい)
かくて波乱への幕は切って落とされた。